学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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第二試合④ かっぱまきの脅威

 

 鷹一は途上にあった建物の内部を抜け、大通りへと向かう。

 ガラス張りのオフィスロビーを駆け、ついには、三人の姿を目撃した。

 

 鷹一の方へ、より正確に言うならば追手から逃げるように向かいの建物から大通りに出る無手の黒井。それを少し後ろから追いかけるブレードを持った西。そして、鷹一と同じように大通りに現れた無手の飛山。

 

(西は、ブレード? 突撃銃(アサルトライフル)ではない? そして飛山は無手か……、……いや、ここは初志貫徹だ)

 

 強者たちを確認した鷹一は、それぞれの生徒名を雲川に告げつつ、戦闘態勢に入った。

 

【挿絵表示】

 

 幸か不幸か、三人が黒井を包囲する形となっていた。黒井の南側に鷹一、北側に西、東側に飛山。三方を囲まれた黒井は一瞬躊躇ったような顔になったが、すぐに覚悟を決めて大通りを渡るために走り出す。

 その動きに応じるように、包囲している三人もそれぞれが動いた。最初は三人とも黒井を狙うかのような動きであった。

 西がブレードを手に持ったまま黒井を追い、飛山も突撃銃(アサルトライフル)を顕現し銃口を大通りを横切る黒井へと向ける。そして同時に、鷹一は走りながらハンドガンを即座に顕現し、黒井に照準を合わせる。鷹一の狙う相手をしっかりと確認した飛山は、突撃銃(アサルトライフル)の照準をずらし、西を狙った。

 

――そんな飛山の意識が僅かに西へ寄った瞬間。鷹一は、一気に飛山との距離を詰めた。

 

 初志貫徹。鷹一の狙いは最初から変わらず飛山であった。

 

(飛山は優秀すぎる。これを残しておくと試合が無茶苦茶になる)

 

 ハンドガンの走り撃ち。

 必殺の凶弾が次々と発射される。飛山は「うわぁっー!」と慌てたような声を上げながら、遮蔽物とシールド、そして自身の回避力を用いて、その身を守った。

 

 黒井を完全に無視するかのように走り去る鷹一であったが、西と黒井の攻防も走り過ぎるまでは視界に収め、また聴覚を使い戦闘の音も拾っていた。

 西は機動力が高く、おまけに接近戦も強い。そして、既に、二人の距離は、西にとって必勝の距離であり、黒井にとっては絶死の距離であった。

 

 だが、まだ黒井の命脈は保たれた。

 マップ西側から放たれる突撃銃(アサルトライフル)の連射。それが次々と西へと殺到したのだ。

 横合いからの射撃。本来であればこれもまた致命傷となる攻撃。

 しかし、西獅子相手には必死とはならなかった。

 

「はっ! 来た! ラーメン! カレー! 牛丼!」

 

 驚きつつも、何かに気付いたような顔をした西は、その場で止まり、謎の言葉とともにシールドを展開した。次々とタイミングよく連続してシールドを三か所に張る技能。

 これは西が雲川紫苑対策として考えた、【対うにうにいくら決戦兵器~ラーメン!カレー!牛丼!~】であった。

 雲川の三連射の狙撃。そのメカニズムに関して西は考察済みであった。『雲川は【おもろパワー】を利用し、それにより【おもろの緩急】を突いて攻撃している』とチーム内で論文発表したほどだ。

 次々と、次々と降り注ぐ連射。三連射どころか十連射以上の攻撃を受けながらも、西はその場で立ち止まり「ラーメン! カレー! 牛丼!」と再度唱えた。そして気づく。

 

「あ、これ違うやつだ。うにうにいくらじゃない! これアレだ! 別のやつだ!」

 

 喚く西を背後に黒井は、仲間が稼いだ時間を無駄にしないように駆ける。もう少しで黒井は大通りを渡り切る。その時、逃げる飛山を追いかける鷹一に通信が入った。

 

『黒井さん!』

 

 次の瞬間。本物の三連射の狙撃が黒井へと襲い掛かった。

 黒井は、なんとか一射目と二射目をシールドで防ぎ、三射目を回避した。

 

(大通りを渡り切るまで、あと1セット――)

 

 雲川の次の狙撃をどう防ぐか考えながら黒井はダウンした。雲川の通信を聞き、三連射の狙撃が防がれた時には既に、鷹一はハンドガンを発砲していたのだ。背後にいる黒井に向けて振り返ることなく。

 黒井は三連射の狙撃に対応力を全て使ってしまった。生き残るにはそれしかなかったが、しかし、怪物の前で、いや怪物の背後であっても、そのような隙を見せてはいけないのだ。

 

 『駆け寄りながらも背後に向けてノールックショットを放つ』という鷹一の曲芸を見せつけられた飛山は、内心で『うげ』と唸った。

 

(ようやく1点……このまま飛山も点にする)

 

「うにそっちだった!?」

 

 無言で飛山に迫る鷹一、逃げる飛山、マップ西側からの射撃を防ぎながらも驚愕する西。

 そこにさらに追い打ちをかけるように変幻自在の刃が西へと襲い掛かった。

 軌道を読ませない五連撃の斬撃を西は持っていたブレードで必死に防ぐが、一撃を浴び、ダメージを負った。そしてその攻防の合間にリロードを挟んだマップ西側の射手が再び西へと射撃を浴びせる。

 新手が来たことを察した鷹一は、一瞬だけ振り返り、背後の様子を確認する。

 シールドで射撃を防ぐ西、マップ西側の射手の位置を頭に入れ、そして変幻自在の近接担当――可愛らしくも嗜虐的な笑みを宿した西山と、僅かな間だけ目が合った。

 

「飛山さんは上げるんで、西くんは下さい!」

 

 そう言うと、再度射撃の切れ目に合わせるように西山が西へと斬撃を伸ばす。

 鷹一はそれには答えず、目標である飛山へと迫った。

 

【挿絵表示】

 

「うぉぉぉ~!? まってまってまって!? 友達! 友達! 飛山龍華友達!」

「え、待って、俺を下さいって、これって告白!? お、俺は青井さん一筋だけど……! ああ! でも! 西山ちゃんなら全然OKってか!」

「撃破点と絶望感くださーい!」

「俺の愛情は!?」

 

 叫びながら逃げる飛山、ふざける西、嗜虐心を飛ばす西山、西山に合わせるようにマップ西側から射撃を繰り返す射手、そして無言で迫る鷹一。

 

 四つのチームの五人の乱戦。

 それぞれがチームの勝利のために邁進する中、大通りの狙撃手、雲川紫苑もまた必死に走っていた。

 

 

 

 

 雲川紫苑は必死に走っていた。

 黒井を狙撃し、鷹一の撃破点をアシストした直後には、雲川は走り出した。

 これは敵に見つかったからではない。純粋に、一度狙撃した後、同じ場所で狙撃するのを避けるためであった。

 鷹一は指示こそしなかったが、この雲川の行動を知ったら納得を示しただろう。なぜなら、飛山という優秀過ぎるリーダーに狙撃地点が露見した可能性があったからだ。

 もちろん、飛山も必死に鷹一から逃げている以上、黒井を狙った三連射の狙撃元を割り出すのは困難ではあるものの、飛山ならばやりかねないという恐ろしさが鷹一にはあった。

 

 なお、雲川は鷹一と同じ考えから狙撃後の移動をしたわけではなかった。

 ただ、そう、言うならば、『うに』が雲川に囁いたのだ。次なる狙撃地点を。

 いや、今回はそれだけではない。『かっぱまき』だ。あのまま同じところから狙撃を繰り返すのは喉が詰まると雲川は感じたのだ。

 

 思えば、『かっぱまき』に悩まされたのは、初めてではなかった。黒井を狙撃するよりも前、飛山を捕捉してから、いやもっと前だ。試合開始前で投入室であった時、いや違う、もっともっと前だ。飛山チームとマッチングが決まったときには、雲川は『かっぱまき』の脅威を感じていた。

 

――飛山チームは『かっぱまき』だ。『かっぱまき』は『うに』ではない。喉に詰まる。お腹が埋まってしまう。『うにの力』を感じられない。どこか遠くへいってしまう。狙撃をしても当たらない。『うにの力』をこの身に宿す雲川であっても、魔力弾を当てることができない相手。それが飛山チームだ。

 

 雲川はこの一週間、修行を重ねた。何度も何度も狙撃練習を繰り返した。お肉をたくさん食べさせられそうになって大変だったりもしたが、たくさん頑張った。

 ただ、それでも、投入室で飛山チームを見た時、『かっぱまき』の軍団だと幻視したのだ。

 

 そして、試合中飛山を見た時も、雲川は同じように感じた。いや、違う。試合中はそれまでの比ではなかった。

 飛山を捕捉したとき、雲川は一方的に飛山を見ているだけのはずなのに、なぜだか、大量のかっぱまきの群れが迫ってきているように感じてしまった。

 恐怖、いや、違和感か。とにかく雲川は飛山に変なものを感じた。なお、この一連の流れにおいて、雲川の『逆認識』――敵のレーダーに自分が捕捉されたときに教えてくれるパッシブ装備は発動していないことは確認済みだ。ちゃんと、幼馴染に言われたことは確認しているのが最近の雲川だ。

 

 その後の大通りの攻防。黒井・西・飛山の三人を見て、雲川は最初は飛山に照準を合わせた。

 しかしすぐに、雲川紫苑は幻視した。大量のかっぱまきの群れが自身の口の中へと侵入し、喉を侵していく姿を。

 よって雲川は目標を変えた。自分が狙撃をする前に、自分よりもさらに西側から射撃音を感じつつも、雲川は黒井に向けて射撃し、そして、それに合わせるように鷹一が黒井を仕留めた。

 

 

 射撃後、猛烈に迫る『かっぱまき』の圧から逃れるように雲川は狙撃ポイントの変更を行った。

 そして、ようやくたどり着いた。先ほどの狙撃ポイントとは、あまり離れていたない。雲川の鈍足では行動範囲に制限があり、そして、この乱戦に素早く二射目を入れる必要があったからだ。

 乱戦がいつまで続くか分からない故の時間的制限、逃げる飛山を鷹一が追っている故に飛山の逃げ方次第では援護が難しくなる、マップ西側の射手の動向など、考慮すべきことは多く、ゆえに早く配置につくことは重要であった。

 しかし、雲川にとっては上記の考慮すべきことは特に考えていない。ただただ、幼馴染を支援するために『次なる一射』を撃たなくてはならないから、鈍足を必死に走らせたのだ。

 

(金崎くんの分も、頑張らないと……!)

 

 チームメイトである金崎。彼が、前回の第一試合で落ち込んでいるのを見て、雲川は、プリンを渡した。夜に食べるプリンが無くなってしまい少し悲しくなったが、それでも渡して良かったと雲川は思った。金崎が大変そうなことは、雲川にも分かっていたからだ。そして、前回と同じように、この試合でも金崎は早期リタイアとなった。

 あの時、雲川は鷹一を支援し最後まで生き残り、そして金崎にプリンを渡した。プリンを渡された金崎は次へと進めた。

 

 だから、今回も雲川は最後まで生き残って鷹一を支援して、プリンを渡すのだ。

 

 『うにの力』を練り上げた雲川は狙撃銃を構えた。

 乱戦はまだ続いている。『西が、さっきまでいなかった西山と戦っている』という新情報に雲川は少し驚くが、すぐに『うに』が雲川を集中させる。狙うべきは誰なのかを。

 

 西、西山、飛山、西、西山、飛山、西、西山、飛山…………

 

(かっぱまき……? うにがない……?)

 

 大通りに映るどの敵に対しても有効打が与えられないと雲川は感じた。

 それ同時に、ふと雲川は気になったことがあって、再度『逆認識』を確認した。

 

――異常なし。

 

 そう、ずっと異常なしだ。雲川紫苑はこの試合、一度たりとも敵のレーダーに映っていない。何度も何度も確認しているが常に異常なしだ。

 最近は鷹一の言葉をしっかり守っている雲川。それゆえに『逆認識』を何度も確認している――わけではなかった。

 なんだか変な気がするのだ。

 だから、また『逆認識』を確認した。

 結果は異常なしだ。

 

(……大丈夫だよね……? でも、どうしよう、誰を撃てば……)

 

 一瞬、自分より西側にいる射手が思い浮かんだが、今の雲川の位置からだと狙撃できなかった。

 ゆえに狙うならばマップ東側の三人。だが、誰を撃っても防がれる、得点にはならないと雲川は思った。でも同時に雲川は次のようにも思った。頼れる幼馴染なら、と。

 

(鷹一くんなら……!)

 

 雲川は決めた。恐る恐る、逃げ回る飛山へと照準を向ける。

 かっぱまきの権化、飛山龍華へと。

 

 今回の試合の対戦相手はかっぱまきが多い。しかし、飛山はその中でも圧倒的なかっぱまきだ。遠くから見ただけでも分かる。飛山は、かっぱまきなのだ。

 

 自分では当てることはできないと雲川は照準を向ける前から分かっていた。ただ、それでも僅かな隙くらいならば作れるかもしれない。先程と同じように幼馴染を支援できる隙を作れるかもしれない。それゆえに照準を向ける。

 しかし飛山の機動力は速く、また小刻みに回避運動を取るため、雲川では照準を定めることすらできない。しかも、驚くことに、この飛山(かっぱまき)は空を飛べるのだ。ただでさえ素早い上に、空を駆ける飛山(かっぱまき)、尋常ならざる脅威相手にも雲川はめけずに狙いつけようとした。

 

 数秒の間、必死に照準を定めようとする雲川であったが、そのとき、ふと大きな違和感を喉元に感じた。

 

(喉がつまる……)

 

 『逆認識』は異常なしであった。つまり雲川は誰にも見つかっていない。

 だが、雲川はその場で振り向いた。

 

 本来なら、するべきでないことだ。

 音がしたわけでも、気配を感じたのでもなければ、自身が移動するのでもない。今は、周囲を確認するのではなく、戦場を駆ける鷹一を援護するために大通りにいる飛山に集中すべきだ。

 ゆえに、本来であれば、失態である。狙撃手としての役目を疎かにする行為だ。 

 しかし、それでも雲川は振り向いた。

 なぜか、振り向きたくなったのだ。いや、違う、理由があった。ぼんやりとだが、理由があるのだ。

 

――そう、かっぱまきが喉につっかえたのだ。

 

 そして、振り向く雲川は見た。

 真っすぐに突き出されたブレードを。

 

「か、かっぱ――」

 

 すべてを言い切ることなく、雲川の喉が貫かれた。喉にブレードが詰まった雲川は口がきけなくなった。

 

(河童?)

 

 突然振り返ったターゲットの意味不明な単語に少しだけ疑問符を浮かべながらも、飛山チームの針谷は淡々と雲川の喉に刺さったブレードを横に引き抜いた。

 ダウンして消える雲川に一瞥だけして、針谷は即座にリーダーに通信を入れた。『最後に姿を見られてしまったかもしれない』と。

 

 

 

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