学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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第二試合⑤ 雲外蒼天の狙撃手

 

――努力の先には『うに』はない。

――だが、『うに』とは別のものがある。

 

 

 

 

 飛山龍華を追い詰めるべく突き進む鷹一。

 互いに機動力が高く旋回性に富む。そして同時に高い射撃精度を持つ二人であり、鷹一はハンドガン、飛山は突撃銃(アサルトライフル)で撃ち合うが、互いの高い防御力と回避力ゆえにダメージを負うことはなかった。

 また、この攻防の最中、飛山は一度大きく空中に逃げるという常人離れしたことをやってみせた。

 そう、『フロート』を活用した、飛山の特殊技能である空中戦であった。

 

 『フロート』は込める魔力量に応じて上昇する板だ。足場の他、エレベーターとして活用できる。そして、この上昇速度は込める魔力によって速くなる。しかし、あまりにも速いと制御が難しく、またエレベーターとしての利便性が損なわれる。そこで、フロートには加速と上昇速度を制限する機能があった。これにより魔力制御が苦手な生徒でも、このフロートを使いこなすことができるのだ。しかし飛山は、このリミッターを外していた。

 これは本来であれば意味のない行為だ。というより危険な行為だ。勢いよく加速する板というのは使いにくいどころか使えない装備だ。また、リミッターを外すと、加速の入った板に触れたものが跳ねてしまうという欠点もあった。

 

 しかし、飛山はこのリミッター解除を自らの技に昇華させた。

 

 それが『空中戦』だ。

 微細な魔力操作により、適切にフロートを足場にすることで、飛山は空を舞うことができるのだ。

 空という戦場にアクセスできることは地上戦がメインであるチーム戦のおいて大きなメリットがあった。

 だが、同時にデメリットも抱え込んでいた。まず、フロートの繊細な制御能力だ。少しでもブレれば思う通りの軌道を描くことができず、墜落する可能性もある。また、まだまだ熟練度に問題があり、軌道を読まれやすく、回避性能に問題があった。さらに大きな問題としては、『空中戦』中アクティブ装備の片方が常に埋まるゆえの戦闘の困難さだ。攻撃か防御のどちらかしか行えない。空からの攻撃という強み活かせば防御がなくなり、敵の対空攻撃に耐えるならば攻撃ができなくなる。

 これらの問題点から鷹一は、『飛山の空中戦は奇策の一つ』と考えていた。勿論、状況次第では十分強力な技でもあるとも認識していた。

 

 ゆえに、飛山は鷹一相手の逃亡に活用しようとしたのだろう。

 だが、鷹一は飛山の逃走など許さなかった。飛山が空へと逃げた瞬間、軌道を読み切り、瞬時にハンドガンを破棄しブレードを顕現し、高速投擲したのだ。

 飛山は咄嗟にシールドを集中して防ぐが、代償として制御を失い墜落しかけた。しかも墜落中に鷹一が再度ハンドガンを生成し追撃しながら墜落地点に接近してくるという地獄の連鎖が待っていた。

 「うぉーー!」と叫び声を上げながら必死に回避と防御に集中した飛山は、なんとかダメージを負うことはなかったが、これは鷹一相手に空中戦が困難であることを示された結果となった。

 

 着地後は、突撃銃(アサルトライフル)に切り替え、鷹一を牽制しつつ、飛山は素早く後退していく。そして、鷹一は無言でそれを追いかける。

 機動力が純粋に高い飛山。しかし、素の速度は鷹一の方が本来速い。それでも追いつけないのは、飛山の高い射撃能力と回避能力、そして何より、未だ姿を現わさない道合の脅威ゆえに、鷹一が全力疾走できないということが大きかった。

 

 段々と、東西に延びる大通りの東側へと飛山を追い詰める鷹一であったが、彼女の妙な仕草――斜めに交わる交差点に差しかかかったとき、北北西の方角に一瞬視線を向けたことを怪しんだ。

 警戒度をそちらに割きつつも鷹一は飛山を追い詰めるべく自身も交差点へと踏み込み、直後北北西から放たれる魔力弾を分散シールドで防いだ。連射される攻撃を淡々と防御しつつ、飛山へと切り込む。

 

(道合にしても星川にしても甘い攻撃だ。だが、射撃精度は高かった。それに位置的に今まで見つけていない駒だ。マップ西側の射手が恐らく姫乃であることから考えると、恐らく中の射撃だな)

 

 射手について考察しつつも、鷹一は飛山へとさらに近づく。

 

「まってまってまって、あっち撃破点たくさんある。オマエあっちで撃破点稼ぐ。私どっかいく……!」

 

 迫りくる殺意からから飛山は片言になりつつも、鷹一の背後を指さした。

 彼らの少し離れたところではでは西獅子と西山瑠香のブレード戦が繰り広げられており、こちらは西山が有利であり、無傷の彼女が一方的に西にダメージを与え続けていた。

 鷹一は飛山の命乞いを無視しつつ彼女に迫るが、直後一瞬の通信が入った。

 

『――針谷さん!』

 

 それが幼馴染の最後の通信であった。

 

【挿絵表示】

 

(状況から考えて針谷の暗殺か。…………紫苑の逆認識は発動しなかったんだろう。だがあまりにも暗殺が速すぎる。最初から紫苑の位置は掴まれていたか。やはり飛山は駄目だ、こいつを残しておくと試合にならない)

 

 状況を察した鷹一は、やはり飛山を倒さなければならないと再認識した。

 

 逃げ惑う飛山がついにマップ東端へと追い詰められたところで、西と西山の勝負もついた。

 無傷の西山による完封勝利であった。近接戦に特化した西山に対して、ブレードで対抗した時点で西の敗北は一種の予定調和であった。西は、突撃銃(アサルトライフル)での戦闘に長け、ブレードも扱え、おまけにアクセルによる機動力と連携能力を持つ、Aランクに恥じぬ選手であったが、変幻自在の西山相手にブレード戦で戦えるほどの技量はなかった。

 そして、勝者である西山が鷹一へ向けて叫ぶ。

 

「飛山さんのチーム全員生きてます! 姫乃さんが道合さんに取られました! 今、こっちに射線通ってないです! 私は針谷さん倒します!」

 

 西山の言葉を聞き、鷹一は僅かに西山へと視線を向ける。少し離れたところにいる西山は既に背を向けており、そのはるか先には『雲川がダウンした建物』から飛び出て来た針谷がこちらに向かって駆けていた。

 

 鷹一は、西山の言葉にはある程度の信憑性があると感じた。

 その理由は、『これまでの行動から推定姫乃と思わしきマップ西側の射手』は、雲川のダウン直後から沈黙していたからだ。雲川とマップ西側の射手は比較的距離が近く、もし片方がダウンすればもう片方も気づく可能性がある。暗殺に長ける針谷ならば格下相手を無音で倒すこともできるだろうが、道合の狙撃は多少は音が出る。ならば針谷が雲川を撃破するのと同時にマップ西側の射手を撃破するのは、隠蔽の駒として納得できる動きだった。

 

「いやいやいや! 通ってる通ってる射線通ってる! 道合さんこっちガンガン狙ってる! 飛山龍華嘘つかない! 飛山龍華嘘つかない!」

 

 必死に言葉を紡ぐ飛山であったが、その命はもはや風前の灯火、いや数秒もなかった。

 なぜなら、背後の西山は針谷の方へと向かい、道合の射線は通っていない可能性が高く、仮に通っていたとしても鷹一には一度きりの防御法があり、北部の中の射撃は鷹一には十分対処可能であり、さらには飛山がアクセルを使って逃走する仕草と隙を見せており、そして何より、鷹一の絶死の技の条件が揃ってしまったからだ。

 

 【超高速ブレード突撃】、その発動条件が揃った鷹一は、飛山の逃走の意識と隙を見逃さなかった。

 

 尋常ではない程の『アクセル』の加速とともに、鷹一が一直線に『アクセルで逃亡を図ろうとする飛山』へと接近する。

 一瞬で距離を詰め、そして一瞬で胸部を切り裂く。

 怪物、鷲島鷹一の究極の技であり、そして一度発動すれば、必ず相手を殺す、まさしく『必殺技』であった。

 

「あ、まってまっ――あちゃー」

 

 その言葉を最後に飛山はダウンした。

 本来ならば、旋回性に問題があり使用後の隙にも問題がある技であったが、これまでの戦況と、また第二試合前には身に着けた『分散シールド』の事前設置により、鷹一は安全を確保していた。

 

 確保していた、はずであった。

 

(今、何か、踏んで――)

 

 飛山のダウンとともに、鷹一は違和感を覚えた。

 

――そして、その違和感が何であるかを、すぐに鷹一の体が教えてくれた。

 

 加速だ。

 尋常ならざる『上』への加速が鷹一へと襲い掛かった。

 

 飛山龍華の置き土産である最大限の魔力が込められた『フロート』と、鷹一が【超高速ブレード突撃】に使用した常識外『アクセル』による加速。

 この二つが複雑にかみ合った結果。鷹一は空中へと射出されたのだ。

 その加速度は尋常ではなく、一瞬の間に、鷹一の体は、10メートル、20メートル、30メートルと上昇する。

 どんどん、どんどん、どんどんと上昇し続ける。

 

(空中、踏んだ、飛山、フロート! 射線、不味い――!)

 

 思考を回しつつも、鷹一は必死に態勢を整えながら、敵の攻撃に備えた。

 この後、なにが起こるかを理解していたからだ。

 まだまだ上昇を続ける鷹一は、地上から一瞬の光を見た。態勢は未だ整っていなかったが、意識を完全に対狙撃に集中していたことが功をなし、『死神の一射』を防いだ。

 予想不可能な空中射出、常識外の高度へと吹き飛ばされた状況への対応に、尋常ならざる狙撃を防ぐ。

 

 まさしく神業であった。

 これが、これこそが怪物、鷲島鷹一の圧倒的な戦闘技術と強さであり、同時に限界でもあった。

 

 次々と、ボルトアクション方式では考えられない程の速さで、二射、三射、四射と、『一撃必殺』の狙撃が鷹一へと殺到した。

 今の鷹一は回避はできない。当然、認識を魔力に頼るような相手でもなければ、魔力が一律に綺麗な持ち主のわけでもないため、攪乱や中和もできない。ゆえにシールドで防ぐしかない。

 そして、この『一撃必殺』の狙撃はただの魔力弾ではない。二等級魔力による威力重視のボルトアクション型狙撃銃の魔力弾だ。一発一発は拡張弾倉を使った秀川の魔力弾より重い。そして、それを超高精度で連射してくるのだ。ゆえに『実質的に体に当たる弾』の威力も発射レートも弾幕型である秀川以上。これに対応するには鷹一は分散シールドを集中する必要がある。だが、この不安定な態勢で上昇を続ける中では、当然シールドの操作精度は悪化する。しかも道合の狙撃は的確に、鷹一がこの状況では展開しにくい部位やシールドの合間を突くように狙うのだ。ゆえに、鷹一は、地上にいるとき以上に大きくシールドの体積を割かなくてはならない。

 

 流れるようにシールドの弱点を突くような精密狙撃――いったいその技は誰の技であったか。この時、鷹一は『この狙撃の源流』を気づくことはなかった。それは当然だ。元となった技に比べて、威力も精度も、連射速度も何もかもが違いすぎるのだから。

 

 三射目の狙撃が、シールドを抜けて鷹一の脇腹を貫いた。

 僅かに軽くなった鷹一は、シールドを貫いた四射目の狙撃で右肩を吹き飛ばされて態勢を乱した。その運動エネルギーを利用することで鷹一は五射目を回避し、分散シールドの僅かな余力を集中させて足場ならぬ肩場を作り、それに体を衝突させることで上昇速度を抑え態勢を取りなおそうと試みるが、それよりも早く六射目の狙撃が鷹一の片脚を吹き飛ばすことで姿勢制御の動きを妨げ、七射目の狙撃が肩場を粉砕した。

 なんとか再度集中に成功した分散シールドが八射目の狙撃を防ぐが、次ぐ九射目の狙撃が胸部を、十射目の狙撃が頭部を潰した。

 

 道合の連続射撃によって、きらきらと粉砕される分散シールドと鷹一の肉体。

 一連の流れは、さながら花火のように試合会場を彩った。

 鷹一は地上へと戻ってくることはなかった。

 

 鷹一のダウンにより、雲川チームは全滅した。

 五月第二試合、雲川チームの獲得得点は僅か2点であった。

 

 

 

 

――雲川の戦闘中にたまたま漏れた言葉。それが、飛山チームの要、一年生最強の狙撃手を停滞へと誘った。

――ほんのわずかな停滞へと。

――その停滞が才能ある努力家、道合の殻をまた一つ破った。

 

 道合杏奈は無言で狙撃を続けた。肉塊となっていく鷹一へと次々と致命傷を負わせるべく狙撃を繰り返す。

 とくに掛け声などはない。敬愛する飛山に掛け声は不要と言われていたからだ。

 いや、言われずとも、別に掛け声など口には出さないかったし頭にも思い浮かべなかった。ただただ無言で無心に撃ち続けたのだ。

 

 『うに』も『いくら』も道合には最後まで分からなかった。ただ、道合は、飛山と伊舎堂が作ってくれた解析データをもとに何度も何度も、訓練を重ね努力してきたのだ。

 才能がある努力家が、才能あるリーダーの指導の下で懸命に修行を重ねた。

 そこから得られた技術は、雲川紫苑の矮小な技などとは比べ物にならない程の『狙撃』であった。

 元々『一撃必殺』である死神道合の狙撃。それを次々とシールドの隙を狙うように発射する恐るべき技術。

 

 その技術に加え、飛山龍華という類稀なるリーダーの策略。

 二つがかみ合うことで、鷹一の防御能力が追いつかないほどの攻撃をすることができたのだ。

 

 心臓と頭を潰されたことで、鷹一はダウンした。

 鷲島鷹一という尊敬すべき生徒を討ち取れたことを噛みしめつつも、道合は動じることなく次なる目標へと走った。

 道合は止まらない。飛山という敬愛すべきリーダーを失った以上、その分まで自分が励み、彼女とチームに勝利を捧げなくてはならないからだ。

 

――雲外蒼天の狙撃手、道合杏奈は止まらない。

 

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