学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
無事、反町と別れた後、一人で観戦会場に入った種村は、うろうろと安全そうな席を探し始めた。
しばらく悩んだ後、種村は自分の端末を手にした。
ぽちぽちと端末に触り、反町からの『匂坂と合流した旨のメッセージ』を目にした種村は、その場所を確認し、そして、彼女たちから視線の通らない場所に移動した。
安全地帯まで来た種村は、さてどこに座るかの考えた時、横から気が強そうな声をかけられた。
「あんた、こんなところで何してんのよ?」
背が低い種村からすると距離が近いと首をぐっと上に向けなければならない相手――チームのリーダーにして、梶田霰であった。
「いや、普通に観戦しに来たんだよ。これから雲川さんたちの試合があるからな」
腐れ縁の梶田に対して、種村は少しそっけなく答えた。
種村の持つ『ほのぼのオーラ』自体はまだ健在であったが、反町と接することで『ほのぼの力』が低下していたこともあり、どこか口調に棘を感じさせた。
「1点」
「は?」
梶田の呟き――呟きにしては、やけにはっきりと鋭く、突き刺すような冷たい声に対して、種村は疑問符で答えた。
「昨日、1点しか取れなかったやつが偉そうね」
土曜日の試合『梶田・蓮・水渕のチーム戦』で、種村は序盤の乱戦でダウンし、得点は1点のみであった。
「いや、いちいち、点数でマウント取ってくるのやめろよ。お前そういことするから友達いないんだぞ」
「私は3点取ったし、あんたを倒した水渕も片づけた。何か言うことがあるんじゃないの?」
種村の指摘には答えず、梶田は昨日の試合の話を続けた。
「ないが? ていうか、お前だって青井さん相手にずっと動けなかったくせに」
威圧する梶田に負けることなく種村が言葉の刃を返した。
種村は言うときはちゃんとガツンと言うと決めているのだ。勿論、内心では、昨日の試合結果には思うところがあった。
というのも種村はダウン率が高い生徒だ。特に任務開始前にダウンすることも多く、ここまでの合計獲得チームポイントは反町の半分であり、梶田の三分の一程度。目に見える成果として、あまり貢献できていないことを種村は気にしていた。
しかし、それはそうと、腐れ縁の梶田を調子に乗らせるわけにはいかないので、厳しい言葉を返したのだ。
「反町が煩かったから動かなかっただけよ。まあ、あの時、あの場所にいなかったあんたには関係のない話ね」
梶田は冷たい眼差しと共に、種村の言葉を切り捨てた。その冷酷な表情は、『使えない』と言いたげなようで、種村は少しだけ言葉に詰まった。
「…………そもそも、お前何しに来たんだよ? 試合見に来たのか?」
「別に、なんとなく来ただけよ」
梶田が観戦会場に来た理由は三つあった。
一つ目は言葉通りなんとなく。
二つ目は最近面倒を見てやっている金崎の様子を見に来てやったのだ。学年でも有数、いや最強に近い自分の教え、それをちゃんと活かしているかのチェックだ。抜き打ちテストと言ってもいい。前回の第一試合では不甲斐ない結果であったが、投入運もある。今度こそ、梶田の教えを受けたものとして、相応しい活躍をするだろうと梶田は考えていた。
そして最後の一つは――
「なんだよ?」
じっと梶田に見られた種村はバツが悪くなって視線を少し逸らした。昨日の試合で序盤でダウンしたこと、それを種村も反省していたのだ。梶田の言われるまでもなく。ただ、そのことを腐れ縁である梶田に指摘されてムキなってしまって話題を変えた。梶田の視線は、そんな種村を咎めるように感じられたのだ。
「別に、気の抜けた間抜けな面だって思っただけよ」
――最後の理由。それは秘密だ。きっと、この後もずっと秘密なのだろう。
「……ま、まあ、お前も応援しに来たんだったらそれでいいよ。どうする? 私と一緒に見るか?」
梶田が何も考えていない挑発なのか、それとも考えた上で違う言葉を言ったのか、種村にはどちらかが分からなかった。ただ、どちらにしても、梶田もきっと梶田なりに同盟相手である雲川チームを気になったのではないかと種村は思った。それゆえの、観戦の誘いであった。
「応援? 私が? そんなことするわけないでしょ。まあ、ちょうど今から下僕たちの試合が始まるみたいだし、ちゃんとやっているかを主人として確認するのもいいわね」
梶田の傲慢な言葉――彼女の見た目のせいか、声音のせいか、態度のせいか、極自然な態度で紡がれる言葉を聞いて、種村は次のように思った。
――あ、違う、こいつ、やっぱり何も考えてない……!
「下僕たちって言い方やめろ……! 同盟相手だぞ……! 仲間だぞ……!」
「私は、下僕が誰かとは言っていないけど、すぐ理解したわね。あんたも本当は、あいつらのことは『下』だって思ってるんでしょ?」
梶田の指摘に、種村は『むっ……』と瞳に力を込めた。しかし生来の性質故か、未だ彼女の表情はほのぼのとしているように見えた。
「違う……! お前、これ誘導尋問だぞ……! 文脈の流れで、雲川チームのことだって分かるだろ……! あー、もう! 何で私のチームは一之瀬さん以外、皆、会話が死んでるんだ……! もっとちゃんと話をしろ……!」
「喚いてないで、座りなさい。私をずっと立たせるつもり?」
「なんでお前はいつもナチュラルに偉そうなんだよ……!」
そんな言葉を口にしつつも種村は空いている席に座った。そして、すぐに梶田がその隣へと座る。種村はふと、自分のさらに隣に二席分の空席があるのが気になった。
(これ、なんか気になるな……匂坂は反町が足止めしてるから大丈夫だと思うけど……私が二席分詰めて、私と梶田の間を荷物で埋めようかな……? 安全のために……)
匂坂に絡まれた苦い思い出からか、種村が対策を考え、そして、梶田に話そうとしたとき、彼女たちに声がかかった。
「ここ、座ってもいいかな?」
やや高い男子生徒の声。種村と梶田は声の元へ視線を向けた。種村は相手の生徒を見て内心で『ほう』と思い、一方で、梶田はすぐに興味を失い視線を外した。
「おお、有賀君だね、ここは空いてるから座っていいよ。二人かな……? …………ええっと、ごめん、後ろの人は神岡君のチームの誰かってことはなんとなくわかるんだけど……」
声をかけた生徒、Bランク14位神岡チームの有賀利道は、特に悪い噂のない穏やかな生徒であり、種村はすぐに頷いた。安全に隣を埋めてくれるならば、種村としては助かるのだから。
そして、同時に、有賀と一緒にいたもう一人の男子生徒も見覚えはあったが、上手く名前が思い出せなかった。恐らく、神岡チームの誰かだろうと見当を付けつつも、もう一人の男子生徒にも声をかける。
「樋口だよ。樋口広介」
神岡チームの樋口は、名前を覚えられていないことを特に気にしたようでもなく、穏やかに種村に名乗った。
種村は、そんな穏やかな二人組を見て、久々のまともそうな相手だと思い、ほのぼのとした気分になった。
「おお、そうだ、そうだ、樋口君だ。うんうん、よろしくね、私は、種村可恋だよ」
「あ、うん、知ってるよ。ええっと、梶田さんのチームの種村さん。あと、そっちの奥にいるのが梶田さん。二人とも重武装高魔力の上、戦闘が得意で、有名だから……」
樋口は、自然に、それでいて特に嫌味もなく、当然とばかりに知っている情報を口にした。
記憶力と思考力に優れ、筆記試験上位の樋口は、試合で当たる可能性のあるチーム――即ち、Dランク以上の全てのチームと女川チーム・流水チームに関しての情報はしっかりと頭に入れていた。
そんな樋口の様子を見て、種村は、圧倒的な戦力差を感じた。
自分は少しだけぼんやりしているかもしれないと種村は思っており、そして相方の梶田はアホだ。
一方で、少し話を聞いただけで、樋口は頭が良さそうな感じがするし、何より、有賀は尋常でない程に頭が良いと種村的に有名だ。
これは圧倒的な戦力差だ。もし議論などという野蛮な行為が始まったら穏便に殴り合いを行うしかないかもしれないと一瞬だけ種村は思ったが、すぐに『ちょっと負けず嫌いが過ぎたかもしれない、梶田と一緒にいるせいだな……』と自分の発想を反省した。
「おお……記憶力がいいね……! さすがは神岡君のチームだ。皆、頭がいいよね……! ちょっと羨ましいけど、最近はこっちも頭脳派を仲間に入れたから負けないよ……!」
そんな言葉を種村が返しながら、ほのぼのとした気分になる一方で、梶田は種村の隣に座る有賀とその奥に座る樋口を鋭く睨んだ。
「私、座っていいって言ったかしら?」
梶田は、冷酷な支配者のような声と圧を二人に飛ばした。二人が何かを言う前に、素早く種村が反応する。
「おい、馬鹿やめろ。まともな人に絡もうとするんじゃない。二人とも気にしないでね。これは梶田の発作だから。ちょっと待ってたら飽きて別のこと始めるから気にしないでね」
前半は梶田に、後半は有賀と樋口に対して、種村は言葉を紡ぐ。
そんな種村を梶田は一度鋭く睨んだ。
「そもそも、種村。あんた、何で勝手に許可を出したの? 私に確認することを怠るなんて、私のチームメイトとしての自覚に欠けるわね」
(さっき一瞬機嫌良いかと思ったけど、普通に不機嫌モードだな。昨日勝てなかったからだな。こんなことなら反町をこっちに連れて来るべきだったか……? いや、だが匂坂のための肉盾として奴を使う必要があった……)
冷酷な視線に晒されながらも種村は思考しつつ、同時に、梶田に言い返す。種村は言うときは「がつん」と言うのだ。
「いや、別に、誰が隣でもいいだろ。いや、まあ私も本当は隣に座られると嫌な奴とかいるけど、でも有賀君と樋口君は全然良いだろ。むしろ、二人ともまともで良い人だから、隣になって欲しいTierだと上位だぞ……! 当たりだぞ……! 喜べ……!」
ほのぼのとした雰囲気を醸しつつも、どこか圧をかけるように種村が梶田を見た。
いや、厳密には圧力をかけていた。種村の気持ちとともに自然と魔力、それも四等級魔力という圧倒的な魔力の圧が壁のように梶田に襲い掛かっていた。
梶田はほぼ同量の魔力でそれを防いだ。二つの壁と壁がぶつかった。
超人級の魔力の衝突を近くにいた有賀は肌で感じつつも思考した。
(やっぱりこの二人の魔力量は規格外だ。反町も合わせれば、おそらく総魔力量では一年生で五指に入るチームだ)
「ええっと、その二人とも落ち着いて……もし、ここがダメなようなら、僕たちは別のところに行くよ。幸い、まだ他にも席があるようだし……悪かったね、急に邪魔しちゃって……」
少し控え目に有賀が答えた。そんな有賀を見て、一瞬だけ樋口は驚くが、それを表情には出さず心のうちに押しとどめた。樋口は、穏やかなチームメイトである有賀には好意的であったが、それ以上に尊敬と、さらに言うならば僅かばかりの恐怖を有賀に感じていた。ゆえに、有賀の足を引っ張るような行動を控えるべきであるし、表情にも出すべきではないと樋口は考えていた。
「いやいや、邪魔じゃないよ。ぜんぜんね。むしろ、個人的には安全な人に席を埋めて欲しいというか……ちょっと待ってて、梶田説得するから……! まってて、まってて、すぐだから……!」
ほのぼのとしつつも、それでいて少しだけ慌てたように種村が有賀に答えた。
「あ、いや、そう言ってくれるのはありがたいけど……ただ、やっぱり梶田の判断が優先されるんじゃないかな……? 梶田は君のチームのリーダーだし、それに戦闘力も尋常じゃない。あの根崎だって梶田には勝てないだろう。そんな人が決めたことを君が破るのはあまり良くないんじゃないかな……いや、その部外者の僕が言うことではないと思うけど……」
「いや、それは誤解が――」
「――よろしい」
種村が有賀の勘違いを正すよりも早く梶田が言葉を紡いだ。
急に偉そうな言葉を聞いた種村は疑問符と共に梶田を見た。梶田は、種村ではなく、その奥の有賀を見て、そして視界の端に樋口を収めた。
「特別に、私の傍でその二人の観戦することを許すわ。感謝しなさい」
梶田の冷たい声を浴びせられた二人は種村が口を挟む前に『正しい答え』をはじき出した。
「あ、うん、ありがとう」
「ど、どうも……?」
相方の曖昧な言葉を聞いて一瞬有賀は悩むが、『いや、樋口ならば……』と思い、続く梶田の反応を予期しつつも沈黙を選んだ。そして、種村が口を挟むと同時に梶田も言葉を紡ぐ。
「いや、お前、結局――」
「――『どうも』?」
じっと鋭い視線が樋口を貫いた。樋口はびくりと蛇に睨まれた蛙のように震えて、慌てて、『ありがとうございます……』と呟いた。
それを見て、梶田は僅かに口元を緩め、再度『よろしい』と言葉をかけた。