学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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第二試合⑧ 戦術家とほのぼの家

 

 一連の流れを見せつけられた種村の内心は、半分の呆れと半分の申し訳なさであった。

 

「梶田、お前、もう本当……ああ、もう……二人とも申し訳ない……まあ、その、こんな感じで、機嫌の上下が激しいけど、実はそこまで有害じゃないから、こいつの言うことは気にしないでね……いや、本当、何と言うか……ごめんね……」

 

 小さく頭を下げる種村に対して、樋口も同じ角度で頭を下げて返答し、有賀は、あははと追従するような笑みで答えた。

 そんな二人の態度に、種村は少し気まずくなりつつも、『まあ、でも二人とも穏やかっぽいし、許してくれるだろう……!』と思い話題を変えようと試みた。

 

「ええっと……そうだ! 有賀君、君は凄く頭がいいと有名だね……知ってるよ……!」

 

 むふんと種村は得意げな表情を浮かべた。情報通を時々自負する種村にとって、この情報で精神的優位に立とうと思ったのだ。

 

「え……? そうかな……? 筆記試験は少し得意だけど、実技は全然だよ……」

 

「いやいや凄く筆記試験順位高かったでしょ。鷲島君の1個上の順位だったよね。あと地味に反町のやつの1個下。こっちの同盟で挟んでるから、オセロなら私たちの勝ちだよ」

 

 ぼんやりとした表情で種村が有賀に事実を告げた。この情報でまた一つ種村は精神的優位に立った。

 

「オセロ……? ええっと、そうだね……確かに、反町や鷲島にオセロで勝てる自信は無いかな。僕、あんまりボードゲーム上手くないしね……」

 

 ぼんやりとした種村に疑問符を浮かべつつも、有賀は適当な言葉を返した。

 

「え、そうなの? 有賀君ってそういうの凄い強いイメージがある。実際、戦術とか得意でしょ。飛山さんタイプだよね? あ、そうだ、折角だから、今日の試合、色々教えてくれると嬉しいな。前、飛山さんと一緒に観戦してたんだけど、色々詳しくて教えてもらったから、有賀君の解説にも期待だね」

 

「ええっと? 試合の解説……どうだろう? 正直、飛山と比べられちゃうと、僕としてはかなり厳しいかな。僕は筆記試験が少し良かっただけで、鷲島や飛山のように現実にそれを応用する力は無いから……ああ、でも、まあ、少しくらいなら解説みたいなこともできるかもしれない、かな……? まあ、解説と言っても僕の主観がだいぶ入っちゃうから、二年生の先輩たちのように上手くはいかないと思うけど……というか、飛山の解説って二年生の先輩たちより分かりやすい感じなの……?」

 

「うーん、どうだったかな。二年生の先輩も……確か、あの時はAランクの人だったかな……? 結構分かりやすいし納得できるところは多かったけど、でもたぶん飛山さんの方が分かりやすいんじゃないかな? なので、同類っぽい有賀君には今日の二年生以上の解説を期待だね……!」

 

 種村の好奇心と期待が有賀へと注がれた。

 

「いや、飛山はちょっと比較対象として厳しすぎるかな……多分だけど、彼女、戦術指揮だと、一年生で勝てる人はいないと思うよ」

 

 有賀は思ったことをそのまま口に出した。これまでの飛山チームの試合結果から、有賀は飛山こそが一年生で最もチーム運用が『上手い』リーダーだと認識していた。

 

「ありゃ? そんなに飛山さんと有賀君って差があるの? なんか前、反町のやつが言ってたんだけど、有賀君は無茶苦茶チーム戦の采配が上手くて、状況次第では舞島さんとか飛山さんと対等以上に戦術が上手い人だって聞いたよ……それに実際、試合でもなかなかの技巧派だよね。昨日の試合だって、神岡君のチームで一番点を取ってたし、それに、あんな状況から3点取るのは凄いよ」

 

 ぼんやりした言葉に眠そうな顔。種村の『ほのぼの感』が何を意味しているのか、その読み取りに有賀は苦戦しつつも、間を置かないように素早く言葉を作る。

 

「……あんな状況って言うと後半戦かな? そこからだと僕の点は2点だけだよ。一応、任務前に網倉を倒せたからその点も入れると3点だけど」

 

 有賀の言葉に、種村は内心で、じわりとしたものを感じた。そう、これは、ぼんやりと失敗が近づいてくる感覚だ。

 種村は、昨日の神岡チームの試合結果はぼんやりとしか覚えていなかったのだ。種村のこの試合に対する記憶は、反町の解説が半分以上を占めており、その情報では、『有賀のは後半戦で3点取った』ということになっていた。

 

(なんだか嫌な予感がする……詰んだか……?)

 

「ん……? あれ、なんか私の知ってる情報と違うな……確か有賀君が3点取ってて……後半戦で3点取ってなかったっけ? あれ? ごめん、反町がいつも変な情報操作私にしてくるから何か勘違いしてるかも……仮に間違っていても、それは反町の責任であって、決して、私が適当に試合を見ているわけではないってことは覚えておいてね……約束だよ……」

 

 とぼけたふりをしながらも種村は損切に走った。ぼんやりしているようで、咄嗟の判断力に優れるのがAランクの猛者たる秘訣だ。

 

「あ、うん……ええっと、一応、説明すると、昨日は僕は任務前に網倉を倒して1点取って、そのあと任務点が1点と、試合終了前にウォズの撃破点を取ってもう1点だったよ。まあ、最後の1点は樋口が助けてくれたから、実質的には樋口の点みたいなものだけどね。まあ、でも樋口が許してくれるなら、僕と樋口の共同で1点ってことにしたいかな?」

 

 種村の損切や『ぼんやりすっとぼけ』には触れずに、有賀は穏やかな口調で、昨日の得点状況に関して説明した。

 

「ほ、ほう……な、なるほどね……だいじょうぶ、だいじょうぶ、ちゃんと私も覚えてるよ。うん、うそじゃないよ……でも、えっとアレだね、やっぱり有賀君は凄いよ。ほぼ完璧状態の天野さんのチームから奇襲で1点取ってたし、頑張れももう1点くらい取れそうな雰囲気だった。反町のやつの言うことは信用できないけど、有賀君の評に関しては信用できそうだね……! 今の説明も分かりやすかったしね……!」

 

 そんな有賀の説明に、種村は『詰んでいたのか、最初から……』と気づきつつも、必死に自分の名誉挽回に努めつつ、ついでに話題を変えた。

 

「えっと、ありがとう? ただ、反町か……それは、何て言うか……光栄って言うべきなのかな……? でもちょっと怖いかな。雲の上の梶田のチームの参謀からそう評価されるほどの自信はないしね」

 

「いやいや、神岡君のチームはみんな頭がいいし、たぶんうちとそんなに変わらないと思うよ。まあ、魔力なら私の方が上だけどね……! で、で、どう、どう? 雲川さんたちは今日の試合は勝てそうかな? 雲川さんは最近頑張ってるみたいだし、金崎君はずっと『ようやっとる』し、鷲島君はスーパーチーターだから、飛山さん相手でも勝てるんじゃないかな? どうかな?」

 

 ぼんやりしつつも、どこか期待を込めるように種村が有賀を見た。

 

「それは……どうだろう……?」

 

 有賀は少し悩まし気に応えた。

 

「ありゃ? ダメかな?」

 

「ええっと、確かに雲川チームは強い。特に鷲島は本当に凄い選手だと思う。対人戦闘力、機動力、生存力、おまけに戦術・戦略にも通じてる。ただ、鷲島は最高の選手だとは思うけど、それだけでチーム戦を制するわけじゃないと思う。おそらくだけど、今回の試合は点の取り合いになる。鷲島は機動力があって、撃破能力も高いけど、彼は一人しかいない。一方で飛山チームは四人。伊舎堂を数に含めないとしても三人。一人一人は鷲島に劣るけど、チーム全体の点を取る速さは飛山チームが速い。だから、点の取り合いなら、飛山が勝つんじゃないかな?」

 

 種村の純粋な問いかけに、有賀は考えていた『比較的ありそうな』予想を口にした。

 

「むむ……そう言われるとそんな気もするけど……でも、鷲島君だって一人じゃないよ……! 雲川さんと金崎君がいるからね……! これで三対三、伊舎堂さんを入れても三対四だよ……!」

 

 『ムムム』と顔に力を込めて、種村は再度お気持ち表明書を提出した。

 その種村の態度がどういう意味なのか有賀は複雑に思考しつつも、とりあえず、『比較的ありそうな』展開を口にすることにした。

 

「……雲川も金崎もAランクの戦場だと単独では厳しいと思う。……金崎は恐らく偵察と陽動に特化していて、雲川は偵察と瞬間的な狙撃、たぶん暗殺的な運用と鷲島を支援する運用になると思う。

 ただ、これは二人とも鷲島ありきの要素が強い。序盤で見つからなければ中盤以降まで生き残れる可能性はあると思うけど……問題は鷲島をサポートしても『一回』が限界ってことだと思う。行動すれば飛山に暗殺されるだろうし……金崎と雲川の『一回』を全部飛山チームに当てれば勝ちの目は作れるとは思うけど、それをするには投入や戦況に左右される。

 『運』の要素で必ず勝てるなんてあり得ないし、戦況コントロール力に関しては飛山には勝てない。だから、相当運が良くないと勝てないと思うよ」

 

「むむむ……いや、でも前回の試合は雲川さん三点も取ったし、『一回』だけしか活躍できないって言うのは言い過ぎじゃないかな……雲川さん最近頑張ってるよ。あと金崎君はいつも『ようやっとる』よ……」

 

 有賀の説明に、種村は『飛山チームの強さ』を理解させられつつも、がんばって勝機を見出そうとした。

 

「雲川も金崎も努力を重ねる生徒っていうのは僕も分かるよ。二人の試合は見ているし、数を重ねる毎に明らかに試合での動きが良くなってる。金崎の成長速度は僕よりもずっと速いだろうし、雲川の狙撃手としてのセンスは僕よりも上だとは思う。

 でも、Aランクの生徒には一撃を当てることも防ぐことも難しいと思うよ。今までが上手く行っていたのは、鷲島の采配が凄く上手いのと、情報の切り方が上手かったからだと思う。二人は伏せ札だった。でも四月の試合で金崎は情報を出し切ってしまったし、雲川も前回の試合で大技を切った。まだ隠しているカードはあるかもしれないけど、今の手札だけなら、僕単独でも二人に勝てる案は出せると思うよ」

 

 落ち着いた穏やかな有賀の声音。そこには特に雲川や金崎を低く見るといった要素は全くと言っていいほどなかった。むしろ、上位ランクの生徒とは思えないほどに二人を高く評価していた。そんな有賀の態度と思考の深さから、種村は反論が難しくなり、もはや唸るのみであった。

 

「むむむむ……」

 

「――さっきから言いたい放題言ってるけど、あんた鷲島に勝てるの?」

 

 唐突に冷たい支配者の声が鋭く有賀に刺さった。

 

「……え、いや、それは普通に無理だけど……」

 

 当然である。有賀の先ほどの言葉は、あくまで、金崎と雲川の二人についてであり、鷲島についてではないのだから。だが、梶田には関係がないのだ。

 

「鷲島に勝てない分際で、随分調子に乗ってるわね? 私は、観戦することは許したけど、私の下僕たちを勝手に評価していいとは言ってないわよ?」

 

 突然の梶田の言葉に、種村は振り向きつつも、その小さい体を盾にし、梶田から有賀への圧力を減らそうと試みる。そして同時に、梶田に対して注意の言葉を投げつけた。

 

「おいお前、本当にやめろ……! なんで急に不機嫌になるんだよ……! 不機嫌になる要素なかっただろ……!」

 

 この種村の推測は間違っていた。梶田は不機嫌になる要素があったのだ。理由は二つ。

 

 一つ目の理由は、梶田が気にかけてやっている金崎が簡単に負けると言われたことが気に食わなかったのだ。特に有賀のような弱小狙撃手が口にしていい言葉ではなかった。

 梶田の教えを受けて、それを懸命に金崎はこなした。どう考えても有賀のような塵芥よりも金崎の方が上である。雲川はどうでもいいが、一応、梶田の同盟相手のリーダーだ。梶田が教えを授けし金崎に、さらにおまけまで来る。金崎が勝つに決まっているのだ。

 

 そして二つ目は、鷲島が今回飛山チームに敗北するという不快な予想だ。鷲島に関しては、梶田も評価している。勿論、全力を出せば、高魔力かつ高火力の梶田が勝つだろうが、しかし、油断すれば鷲島が梶田に勝つ可能性はあるだろう。鷲島の超人染みた技術力を日々見せられている梶田からすると、貧弱な飛山チームごときに負けるなど考えられないのだ。故に、この試合は雲川チームが勝つ。当然である。

 数日前に、鷲島に対して、『もし負けたら今後は下僕として扱う』という言葉も別に鷲島を下僕にしようと思ったわけではない。あれは一種、発破だ。梶田が認める強者として、鷲島には『無様な試合を見せるなよ』と言っただけなのだ。

 

 当然のことを理解せず、さも賢し気に『戦術』を語りだす有賀に梶田は苛立ったのだ。

 

「別に不機嫌じゃないわよ」

 

「いや不機嫌だろ。第一、お前は――」

 

「――金崎君は頑張ってるよ。うん。よく大浴場で会って、話をするから……自分も知ってる」

 

 ゆったりと、樋口の穏やかな声音が、三人に響いた。

 その声は小さいながらも不思議と三人の耳に響き、やや高いながらも、しかし、これといって大きな個性はない声であった。だが、なぜか三人にはよく響いた。

 

 それは、恐らく、樋口が、策略ではなく、純粋に金崎の友人として発言したからだろう。

 

 言葉を遮られた種村は、不快に感じることなどなく、不思議と樋口の方を見た。

 樋口の言葉を耳にした梶田は、『まあ、そこそこ分かっているな』と小さく頷いた。

 そして、チームメイトの有賀は、『自然体でこれが言えるのが樋口の強みだ』と思い、改めて彼をチームに誘ったことによる利益を噛みしめた。

 

「まあ、いいわ。そっちの狙撃手に免じて、さっきの無礼は許してあげる」

 

「――お前は、一体何様なんだよ……!」

 

 急に態度を翻した梶田に対して、種村はぷんぷんと腹を立たせた。

 

「ああ、いや、そのごめん。悪かったよ」

 

 『りっぷく』する種村を視界に入れつつも、有賀が梶田の方へ謝った。

 

「有賀君のせいではない……! 梶田が、梶田が悪い……!」

 

「いや、僕も少し配慮がなかったよ。雲川の同盟チーム相手に対して、良くない言い方だったと思う。ええっと、言い訳になるけど、僕たち四月の第一試合で飛山チームに負けてるから、それがトラウマになってるかもしれないね。いや、あの時は本当にボロボロで、僕も戦闘開始直後に道合に倒されたから、過剰に飛山チームを意識し過ぎたのかも……確かに梶田の言う通り、鷲島は戦闘適性順位が一位だし、十分勝機はありそうだね」

 

「む……まあ有賀君がそこまで言うなら……なんかごめんね……?」

 

 そこまで言うと種村は身を乗り出して、こっそりと小さな体を有賀に寄せた。

 種村の思わぬ行動に有賀は緊張した。

 小声で梶田に聞き取られないように、種村が有賀の耳元で声を発した。

 

「あのさ……思ったんだけどさ……さっきの話、雲川さんと金崎君が序盤で落ちちゃったとしてさ、点取り合戦になっても鷲島君は生き残るよね。最終盤まで残った鷲島君が飛山さんのチーム全員倒せば、逆転するんじゃない?」

 

 言葉が単に純粋な戦術的な質問だったこと、そして、この種村と密着するという特殊な態勢が、『梶田に聞かれないようにする』ことだと気づいた有賀は安心したように小さく息を吐いた。そして、小声で種村に言葉を返す。

 

「そうだね。そうすれば雲川チームの勝ちもありうるよ。でも飛山は戦わないんじゃないかな? 四人で逃げ回って時間切れを待つ。青井にだって効果はあった。鷲島にも同じ手が効くはず。だから、たぶん、その場合は、時間切れで飛山チームが勝つんじゃないかな? まあそこまでの間で鷲島が点取り合戦に勝てば別だけど、難しいと思うよ」

 

「おお……! なるほど……! ありがとう……! やっぱり有賀君は親切だね……! 樋口君も良い人だし、二人とも種ポイントを5点ずつ差し上げよう……!」

 

「た、種ポイント……?」

 

 謎の要素の出現に、有賀は疑問符を浮かべた。種村がその疑問に答えるよりも早く、梶田が動いた。

 

「種村、さっきから何をしてるの? 不敬よ」

 

 厳しく冷たい声が種村へと突き刺さり、同時に彼女の体が強引に後ろに引っ張られた。

 

――いつまで男と密着しているんだ。私の許可なく。

 

「分かった分かったから、引っ張るなって……! お前、今日は何なんだよ? 何でこんなに機嫌が安定しないんだよ?」

 

 腰を引っ張られたせいで乱れてしまった服装を整えつつ、種村はほのぼのとした怒りの声を梶田へ飛ばした。

 

「別に、機嫌は関係ないわ。あと、どうせ、鷲島が負けるとかそんな話をしていたみたいだけど……もし雲川チームがこの試合で負けるようなことがあれば、雲川チームは私の下僕から奴隷に格下げね」

 

 梶田は、『冷酷なリーダーとして厳正に処分する』といったような雰囲気を出しながら宣言した。勿論、内心では、強者と認めた鷲島と、梶田の教えを受けた金崎が勝つと考えているため、これはただ、周囲に『強い支配者』だと分からせるためのアピールでしかなかった。

 

「なわけないだろ……!」

 

 種村は、梶田の考えなど分かるはずもなく、『相変わらず好き勝手適当な事言ってる』と考えて、それを制するための言葉を投げつけておいた。

 

――種村可恋は未だに幼馴染の梶田霰のことを理解していなかった。

 

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