学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
『はい、投入五秒前、よん、さん、にー、いち! 投入っ! 初期配置は、ばらけ気味だけど西側が多い? 逆に南東は少ないけど固まってる! 金崎選手囲まれてます!』
試合開始のカウントダウン、そして各チームの投入を確認した実況の相良が、全体を見て素早く状況を説明する。
『距離が近いですが、恐らく南東の三人は隠蔽装備。西側の戦闘にもよりますが、すれ違う可能性も十分あります』
『初動で瞬時に針谷が南に動いた。鷲島のレーダーに捕捉されたか。だが、重装備で来たのならそれが鷲島の徒となるな』
相良の言葉を捕捉するように、高砂・鎮西がそれぞれ言葉を口にした。
『うるさいぞ! 各チーム、それぞれ動き出しますが、ここで開幕第一声、南選手の砲撃です! 目標は金崎選手ですが、金崎選手は素早く離脱! 報復とばかりに鷲島選手が南選手に迫――おおっと! ここで道合選手の狙撃、すっげぇ弾道!? って、二連射!? 喜多見選手もダウン!? なんということでしょう!? 道合選手開幕速攻で二点獲得です!』
特定の一年生を目の敵にしているような鎮西にヤジを飛ばしつつも、相良は道合の尋常ならざる狙撃に驚きの声を上げた。
『北部では西選手が黒井選手を捕捉、逃げる黒井選手を追います。また西選手を中リーダーが、中リーダーを東選手が追う形で北部の中チームが動きます』
冷静に中チームの残った三人について高砂が言及する一方で、鎮西は驚愕から口を閉ざしてしまった。
『……!? ……なぜ、撃った。この状況、鷲島に見つかるリスク、いやそれ以上に……だが……』
熟練のAランクリーダー故になんとか、思考することができたが、しかし、それでも鎮西は飛山の思考を見抜くことができなかった。そして、僅かに漏れた鎮西の言葉が、相良を刺激した。
『あ!? 本当だ! 撃ってるじゃん! 道合選手! さっき鎮西、道合は撃たないとか調子こいてたのに、撃ってるじゃん!? どういうこと!?』
『星川チームは黒井選手が南東方向に逃亡しつつ、姫乃選手が一旦潜伏の構え、星川リーダーはマップ南部で偵察中、そして西山選手が金崎選手を倒しました』
瞬時に移り変わっていく盤上の実況よりも鎮西を責めることを優先する相良。そんな相良の行動に気付いた高砂は素早く実況の代行を行った。
『黙れ』
次々と言葉を飛ばしてくる相良に対して、鎮西は僅か三音で返した。
『予想外れてるじゃん!』
『試合が終わったら解説する。実況に集中しろ雑魚』
『雲川リーダーは高架鉄道北部の大通りを監視中、そして鷲島選手は南選手のダウン場所付近に到着していますが、潜伏中の道合選手には気づけなかったようです』
相良と鎮西が言い合っている間も、盤上は遷り変わり、それを高砂が一人実況を続けた。
『してみろや! ありがと、高砂、俺も実況する……! えー、これは、三人、三人落ちました! 最序盤の道合選手の連続狙撃で南選手と喜多見選手が、そして、砲撃から逃れた金崎選手ですが、惜しくも西山選手に敗れました』
言い争いを終えた相良が実況へと戻り、素早く盤上を確認した。気づいたら金崎がダウンしていることに僅かに驚きつつも、相良は次に言うべきことを考えた。
『金崎選手の戦い方が少し興味深かったので、後で振り返りたいです』
高砂が他人事のように話しつつも、しかし、僅かに興味を宿したような瞳で手元の端末から金崎と西山のブレード戦のスクリーンショットを確認していた。
『え? 本当? 見てなかった!? 後で振り返ろう! 鷲島選手は一気に東へ進みます。飛山リーダー狙いでしょうか! またそれに平行するように伊舎堂選手も一気に東へ移動! 黒井選手と西選手の追いかけっこも続きます!』
珍しい高砂の態度に驚きつつも、相良が実況を続ける。またそれに合わせて、高砂が実況の補佐とばかりに口を動かす。
『東選手は中リーダーを追いかけますが、中リーダーは西選手を追わず大通りを東側へ移動。また潜伏していた姫乃選手も南側へ移動し始めました。ん? 針谷選手引き返しますね……鎮西リーダー解説をお願いします』
高機動の生徒が多く、テンポが速い試合故に忙しくなった高砂は、猫の手も借りたいとばかりに、Aランク二位のリーダーへと仕事を振った。得意なことは得意な人に任せる、飛山チームのことならば鎮西に任せるべきだと高砂は思っていた。
『俺に仕事を押し付けるな雑魚』
『もしかして、飛山リーダーの初動の作戦解析中ですか?』
『ええっと! 鷲島選手に対抗するように飛山リーダーも動きます。両者ともに接近――って? あれ、飛山リーダー引き返します……!?』
鎮西の冷酷な視線と態度に臆することなく淡々と高砂が問いかけた。煽るわけではなく、純粋な確認だ。鎮西が忙しいのならば別に鎮西に任せなくてよいのだから。一方で、今度は高砂が鎮西の相手をしなくてはいけなくなったため、相良が必死に実況を担当する。
『黙れ』
『了解です……ちょっとここ複雑すぎるので後で説明します。正直、自分もよく分かりません』
針谷の反転移動の謎、また飛山の動きの謎、ある程度『こういうことではないか』という推測は高砂の中にあったが、確信が持てなかった。ゆえに鎮西に聞いたのだ。しかし、鎮西ですら、今この場での明言は避けた。これはどれほどのことだろうか、と高砂は飛山という一年生の恐ろしさの片鱗を感じた。
『弱気になるなっ! あと実況も頼む! って、なんか皆、動きすぎだ! これ隠蔽戦と機動戦が混じってる感じだ! これどこ追えばいい!?』
高砂に活を入れつつ、相良は、実況に集中しようとするが、盤上の生徒の多くが、素早く巧妙に動くため、試合の流れを追いきれなかった。
『飛山チームの動きを見ろ。ここが盤上を支配している。次点で星川チームと鷲島を見ろ。中チームに大した作戦はない。ノイズだから無視しろ』
鎮西が冷たく吐き捨てた。その鎮西の指示を耳にしながら高砂が素早く飛山チームの生徒の位置と状況を口にする。
『伊舎堂選手は大きく東へ移動中です。一方道合選手は北側へ移動中。飛山リーダーは距離を詰める鷲島選手から逃亡中。そして針谷選手ですが、引き返してマップ西端を北上中。姫乃選手が北側から降りてきているので、鉢合わせもあり得そうですが……いえ、ここで針谷選手は大通りを素早く渡りました……これは……?』
『雲川の暗殺が目的だな。どこかのタイミングで雲川の位置が割れた。しかもマップ西端移動中にアクセルを使っている。射線が通りにくい場所とはいえ、ここでアクセルを切らせたか……』
手元の端末で針谷の少し前の動き――アクセルを使用した高速機動を、鎮西は確認しつつも、飛山の作戦に思考を巡らせた。
※
「ん? 雲川さん、見つかってないよね?」
鎮西の解説を聞いていた種村は疑問を口にした。
「……えっと。そうだね。飛山チームのレーダーには雲川は映ってないよ。ただレーダー以外にも見つける方法はあるし……というか、飛山はたぶんレーダーに映ってない雲川を暗殺したいんじゃないかな。これまでの試合を見た感じ、雲川は『逆認識』持ちだろうからね」
種村の疑問の矛先が誰に向けられたものかは、彼女のぼんやりとした気質ゆえに大変分かりにくかったが、有賀は『たぶん自分だろう』と思い、少し悩んでから答えを口にした。
「む? レーダー以外ってなると、どんな感じに見つけるの? 目視? 雲川さん結構見つかりにくい所にいそうだけど」
「目視もあるけど、参加生徒の動きである程度予想するってこともできると思う。飛山はたぶんそれが凄く上手いから」
さらなる種村の疑問に答える有賀であったが、そこにまたしても『厳しい支配者』の声が鞭のように打ちつけられた。
「何の答えにもなってないわ。本当に飛山が雲川を見つけているか怪しいものね?」
鋭い声と美貌、そして視線が有賀へ突き刺さる。一瞬だけたじろぐ有賀を見て、梶田は内心で少しだけ気分が晴れた。
少し前、
それをすることが己の心と立場を安定させるのだから。
そんな思いを表面には出さず、梶田はさらなる言葉を紡ぐ。
「あんたも、あの調子に乗ってる解説も飛山を評価し過ぎよ。あの程度の低魔力を持ち上げるなんて底が知れるわね」
梶田は『支配者』として厳しい評価をつけたことに満足しながらも、再度チラリと有賀を見た。ちゃんと、梶田の圧にひれ伏したか確認するためだ。
だが、有賀は期待には応えてくれなかった。
「あ、えっと、それはごめん……ただ、雲川はもう捕捉されてると思うよ。針谷も向かってるし。うん、やっぱり――あっ!?」
なぜなら、有賀は謝罪しつつも、飛山への評価は改めず、そして、言葉の途中で意識が別の方向へと行ってしまったからだ。
(――星川!? このタイミングでアクセルを切った!? 絶妙過ぎるタイミングだ。恐らく伊舎堂のレーダーにギリギリ映ってない……! 西山も金崎を倒した後、アクセルを使って北側に向かった。針谷といい、三人とも使うタイミングが鋭すぎる。西山はダブルアクセルを使えばアクセルの弱点を多少補えるだろうけど……星川と針谷はそれができない。勿論、二人とも遮蔽物が多く射線が限られる場所で使っているし、状況的にも狙撃はしにくい。星川チームに関しては初動の道合の狙撃を観測している可能性もある。それを考えれば西山のアクセル使用は安全な方だ。勿論、中や雲川といったリスクはあるだろうけど。初動で道合がマップ南西にいると分かったなら、時間経過による道合の移動を考えたとしても、さっきの星川を狙い撃つのは無理だ。ただ針谷は……? 状況的に星川の位置は露見していない。中と雲川もだろう。マップ西端ならある程度安全だろうということか……それとも、それを秤にかけたとしても雲川の始末をつけたかったのか……? いや、違うか、この盤上からすると、『この後の戦い』が始まるよりも前に、北西部の高密度帯に針谷を忍ばせたかったのかもしれない)
試合会場における各チームの配置を見ながらも有賀は必死に思考を回し、そして、梶田への言葉を中途半端にしてしまったことに気づいた。
「えっと、ごめん。ちょっと凄い戦いになりそうで、驚いて。大通りで凄い決戦になりそうだね……でもこの人数差なら鷲島が押し通せそうだね……」
梶田が満足しそうな言葉を適当に作りながら、有賀は追従するような笑みを浮かべた。それを見て梶田は、まあいいかと判断を下した。
一方で種村はせっかくの解説の途中――しかも、有賀という善良そうな生徒の解説が、梶田によって遮られたことに不満を感じていた。「わるいやつ」がのさばる世の中への不満もあれば、純粋に、『どうやって飛山が雲川を捕捉したのかが分からなかった』という不満もあった。しかし、会話が打ち切られてしまい、聞ける雰囲気ではなくなってしまった。
勿論、梶田など無視して堂々と聞く、または先ほどのようにこっそり聞くという手段もあるにはあるが、それをすると、なぜか梶田が不機嫌になりそうな気がしたので、種村はとりあえずやめておくことにした。
(よし、あとでこっそり聞くか――ん?)
決意を新たにする種村であったが、そこで視界の端に妙な人影を見た。
いや、別に妙な相手ではなかった。同盟相手の一人であり、種村も認める男子生徒を視界に収めたのだ。
(む、金崎君だ……帰還室からこっちに来たのか。なんか心なしか、しょんぼりしてるように見える……今日ちょっとアレだったからな……相手がな、西山だったからな……うーん、どうしよう。ここに呼ぼうかな。でも距離があるしな。大きな声で手を振ったら目立っちゃうしな……それに、何か梶田の機嫌が悪いしな。梶田が金崎君に噛みついたりしたら悪いしな。うん、やめておくか……ん? あれ? うーん? 誰かと話してる……女の子……? ほうほうほう……ほほーう、金崎君も隅にはおけないね……! これは同盟仲間として、ぜひとも相手を確認せねばな……!)
仲間の思わぬ一面を見てしまった種村は野次馬魂に燃料を注ぎながらも、近くにいる三人に気づかれないように必死に金崎とその近くにいる女子生徒を観察した。
(誰だろう、なんか顔が見えないな。というか……? なんか、あの女の子、やけに影が薄いな。んー? 魔力もちょっと朧気……? 気配が薄い……? あれ、なんかこんな事、前にもあったような――)
そこまで考えたところで、種村は相手が誰かを理解した。なぜなら二度も戦った相手だったからだ。しかもどちらも直接相見えた相手だ。一度は種村が勝ち、そして一度は相手が勝った。
(――この薄っすら魔力に薄っすら気配、そして幸薄オーラ……! ゴリラチームの中で影が薄いから逆に目立つ……! 山見さんだ……! 山見さんだ……! 金崎君が山見さんと会ってた……! これはビッグニュースだ……! 二人は仲がいいんだ……! なんということだ……! これは注視せねばな……! ん、あれ、そういえば山見さんといえば、何かあったような……? ……あ、反町)
少女の正体が思わぬ人物であったことに驚きと、そして溢れるばかりの野次馬パワーに満たされる種村であったが、山見の姿を見てある存在を思い出した。そう、梶田チームの「わるいやつ」、反町真理である。
(うげ。忘れてた。反町が言ってたやつじゃん……え、てか、本当に匂坂と一緒じゃないとこ見ると怖いんだが……てっきり今日も匂坂と一緒かと思ってた……やっぱり反町はだめだな。あいつは私の平和を乱す……! うーん、でもどうしようかな。二人は仲が良いのかな。秘密のデートなのかな。気になるな。でも反町に教えたらあいつ邪魔しそうだからな。秘密にしておくかな。うん、よくよく考えなくても、今日は私は一人で観戦するはずだったのに、梶田のやつの面倒まで見てるんだからな。本当は梶田の担当は反町なのにな。うんうん、今日の仕事はもう果たしてるし、報告はしないでおくか……? うんうん、青春……! 青春……! 私は応援するよ、金崎君……!)
野次馬燃料を燃やせて少し満足気な種村や、試合について深く思考する有賀の陰で、目立たぬように樋口もまた思考を組み立てていた。
(針谷さんが回り込んでる。大通りに戦力が集中してる……それに姫乃さんが配置についた。針谷さんと姫乃さんは互いに気づいてないっぽい……? 道合さんも伊舎堂さんも北側に向かってる。星川さんは隠蔽装備ならギリギリ伊舎堂さんに気づかれてない……? 星川さん側からは伊舎堂さんは見えてそうだから、これはレーダー網を搔い潜った……? 大通りの東部に主力を集めて、西部に射手を置いてるのが星川・雲川チーム。でも飛山チームはその射手を抑える動きをしてる。星川さんと伊舎堂さんの動きも、たぶん大通りを意識してる動きだと思う……なんかさっきから凄い攻防がずっと続いてる……有賀君もずっと考えてるみたいだし、やっぱり飛山さんも星川さんも凄いな……)
観客席での考察が続く中、試合は、12人もの生徒を巻き込むことになる『大通りの乱戦』に差し掛かっていた。