学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
観客席に座る一年生たちが、猛者たちの激突を今か今かと待つのと同じく、二年生の三人もまた、熱心に実況と解説を行っていた。
『集まってます! 集まってます! 大通りに集まってます! 主戦場は東部ですが、西部も怪しい動きがあります!』
『黒井選手を西選手が追いかけ、ここに飛山リーダーと鷲島選手が合流。西部では、援護要員として、姫乃選手と雲川リーダーが狙撃の構えを取っています。また針谷選手が徐々に雲川リーダーに接近中。星川リーダー、伊舎堂選手・道合選手も大通りに接近中です』
相良の実況を高砂が補う。旧島田チームで何度も行っていた連携――それを目の前で見せられた鎮西は、ある人物を思い出してしまい、僅かに眉をひそめた。
内心で舌打ちしつつも、それを隠すように鎮西はある選手へと目を向けた。
『鷲島は黒井に狙いを変えたか。凡庸だな。やはり盤上が見えていない。ここで狙うべきは飛――、いや、飛山を狙ったか、……悪くはないが、この盤上では数手足りない。間に合わないぞ、鷲島』
大通り東部の三人――西・鷹一・飛山の三人が黒井を狙ったかのような仕草をしつつも、本当に黒井を狙ったのは西だけであり、鷹一は飛山を狙って動いた。それを見た鎮西は、僅かに感心したような音を漏らしたが、すぐに冷たく鷹一を評した。
『うるさいぞ! うぉ! 西側の射手が動いた! 姫乃選手が西選手に射撃! 雲川リーダーも狙撃で黒井選手を狙うが、どちらも防がれ――あっ! 黒井選手ダウンです! 得点は鷲島選手。てか、今どうやって倒した!?』
相良は、西と黒井へ意識を向けていたため、鷹一の神業――飛山へと高速で接近しながら振り返ることなく背中側にいる黒井をハンドガンによる射撃で撃破する、という神業を見逃してしまった。それゆえの言葉であった。
『そこは後で振り返りましょう。たぶん、ここから試合が動きます。エース級が集まってますし、後から振り返りましょう。今に集中です』
『そうだ! そうしよう! ん、エース級!? おっと、ここで西山選手の乱入です! 強いのが揃った! そして鷲島選手がどんどん飛山リーダーに接近しますが、飛山リーダーも射撃で対抗しつつ、東側へ逃亡。距離を維持したいようです……!』
『――思ったより鷲島の距離の詰め方が悪くないな。これなら数手は補えそうではある……だが、飛山を倒した時に、果たしてお前が倒せる駒が残っているかな』
そう言って鎮西は鼻で笑った。
『強者アピールやめろ! 解説しろや! 西山選手と西選手は激しく切り合いますが、この距離は西山選手が優勢! 西選手は得意の射撃に持ち込みたいですが、これは厳しいか!? 一方、鷲島選手は恐ろしい感じで距離を詰めていきます! 飛山リーダー逃げの一手ですが、互いにダメージは無し。かなり高度な攻防です……!』
相良が実況の言葉を紡ぎ、そして、それに合わせるように、相良の見ていないマップ西側の視点を高砂が抑える。
『マップ西側の射手は対照的です。射撃に集中する姫乃選手と、狙撃後に素早く位置を変えた雲川リーダー。道合選手の動きは、姫乃選手を狙っているように見えますが、動きが独特。星川リーダーも狙っているように見えます。伊舎堂選手のレーダーで捉えた……にしては、星川リーダーの動きが隠蔽寄りです。鎮西リーダー、もしご気分が良ければ後でご教授願います』
『――考えておこう。それよりも針谷の動きが面白い。いや違うな、雲川は運がいい。この攻防で2回切り抜けた』
意味深で、その上、なにを言っているのか分かりにくい鎮西の言葉を聞いて、高砂は内心で『鎮西リーダーらしいな』と思った。
『ありがとうございます。雲川リーダーの運の良さについても後々聞きたいと思います』
淡々とした高砂の言葉を聞いて、相良にひらめきが走った。久々のひらめきゆえに、それはすぐ口へ出てしまった。
『今のはアレじゃね。針谷が雲川のいたビルに突撃したけど、もう雲川が逃げた後で、んで、その次に凸したビルには雲川がいないかったこと鎮西が言いたかったんでしょ。今のは俺も分かったよ』
どこか得意げな相良の表情を見て、高砂は拡声装置から口元を離した後、小さく溜息を漏らした。そして、内心で『この人は相変わらず、よく分からない所で、不要なことを言う』と思った。
『黙れカス。そんな程度の低い話じゃない』
『いや別に――、あ、これ違う? ええっと、実況戻ります! って空飛んだ! これが噂のフロート活用! 飛山リーダー見事な飛行戦術ですがっ! あっ! 鷲島選手、無情の絶殺コンボ炸裂っ! 飛山リーダー地上へ墜とされます! マップ西側の攻防見てたら東側が凄い! どっちの戦場も目が離せない! 西山選手と西選手の攻防も激しくなっていきます!』
鎮西の罵倒に対して、相良が反論しようとするが、高砂が相良の袖を軽く引っ張ることで、それを止めた。元チームメイトの無言の袖引きから、何かを感じ取った相良は反論せずに実況に集中した。
『鷲島選手の有名な技、ブレード投擲とハンドガンの混合攻撃ですね。西山選手と西選手は、やはり西山選手が優位です。……マップ北東部で中リーダーが待ち伏せしてます。逃げる飛山リーダーを撃ち抜けそうですが、見逃しました』
『うぉ! 本当だ! 今、撃てたでしょ! そして、次に交差点を通過しようとする鷲島選手には攻撃! ん、これ逆じゃね!? 鎮西、どういうこと?』
飛山を見逃し、一方で鷹一には射撃を行った中の判断。それを見た相良は、中チーム・飛山チーム・雲川チームの順位ゆえに疑問の声を発した。
『乞食が。少しは無い頭を使ってみろ』
吐き捨てるような言葉を残しつつも、鎮西は内心では、僅かに思考のリソースを中個人へと割いた。
(まず今の射撃では仮に飛山を攻撃しても致命打にはなり得ない。その上で中の行動だが……何も考えていない、射撃の準備不足。この二つの可能性もあるが、より合理的に考えるなら、鷲島の処理方法と、中チームの潜在的な能力の問題だな。戦術的に見るならば、『鷲島が必ず飛山を倒せる』という条件を絶対視するならば、残った鷲島が少しでも傷ついてた方がいい。戦略的に見るならば、中チームは飛山チームには勝てないが、雲川チームとは得点勝負が成り立つ。直接の対決は、戦術と平均的な戦力が優れる中チームと鷲島の個人戦闘力に特化した雲川チームだとどちらが上かは状況に寄るが、総合的な得点能力は、現状では、そこまで変わらない。勝負にならない飛山チームより、勝負なりうる相手である雲川チームを妨害するのは理に適っている。まあ、中がそこまで考えているかは分からないがな。……高砂ならばこの程度のことは考えられそうだが。相良は――いや、これ以上は不要だな)
飛山の思考、飛山チーム全体の動き、星川チームと鷹一の動きとその思考、中チームと雲川の動き、様々なものを並行して思考することができるのが鎮西というAランク2位のリーダーの強みであり、そして同時に、大きな弱点でもあった。
鎮西もそのことは自覚していた。いや、自覚させられた。それを思い出してしまうから、鎮西は高砂も相良も好きではない。好きではないことを自覚しているのに、それでも二人から声をかけられたら拒み切れない自分もまた好きではない。こんな風に、複雑な盤上を整理することに思考を割いているはずなのに、それでも余計な事を平行して思考してしまうことなど、もはや嫌いである。
(もはや呪いだな。島田と、……あの女の呪いだ。追放されたやつらの怨霊がこんな時まで纏わりつくとは……)
鎮西は必死に暴走する自分の思考を抑え、そして、盤上のある部分を注視した。
『雲川と姫乃、マップ西側の二人が取られた。詰み、だな。後は適当に飛山が逃げつつ、針谷と道合で駒を取る。飛山チームの勝ちだ』
試合会場では、針谷の暗殺により雲川がダウンし、その直後、道合の狙撃で姫乃がダウンした。
『気が早いぞ! おっと! ここで西選手もダウンです! 得点は西山選手。ここで西山選手何かを鷲島選手に向かって叫び、雲川リーダーを倒した針谷選手の方へ進みます!』
鎮西の冷淡な言葉に相良が反応しつつも、実況としての言葉を紡ぐ。
『戦場口上というより、戦場交渉っぽい雰囲気ですね。状況的に針谷選手と飛山リーダーを互いに倒そうといったところでしょうか。星川リーダーも配置についてますし、星川チームはもう少し得点を取れそうに見えます』
相良に合わせるように高砂がそれを捕捉する。
『もう星川の位置は割れてる。手遅れだな。それに鷲島を縫い留める意味合いも薄くなった。飛山ならここで一旦離脱を――』
飛山チームの圧勝を予想しながら、言葉を口にする鎮西であったが、それを全て吐き出すことはできなかった。
なぜなら、『怪物』鷲島鷹一の絶死の技が一瞬にして飛山龍華を切り裂いたからだ。
飛山による鷹一の誘引、遅滞戦闘は二年生Aランク鎮西から見ても完璧なものであり、そこには適確な鷹一との距離の制御が行われていた。故に、鎮西は、この場では飛山がダウンするとは思っていなかった。
まだ、『死なずの距離』であり、そして、生存性と離脱能力に長ける飛山であれば、戦場から離脱し、勝利を確固たるものにすると予想していたのだ。鷹一がそのあと飛山を追おうが、針谷・西山を狙おうが、この場で飛山を逃がした時点で、それ即ち飛山の勝利を意味するのだ。
ゆえに、混乱。
思考を複数に分け、並行処理する類稀な能力を持つAランク2位のリーダーである鎮西。彼は、新一年生に比べて圧倒的な戦闘経験とチーム戦の経験もあり、過去にはAランク1位であったこともある。
そんな彼が、混乱し、思考が止まった。
――ありえない、何だ、あの技は。
いや違う、四宮から聞いていた。信頼できる友から何度も何度も聞かされていた。新一年生、鷲島鷹一は最強クラスの近接担当だと。
だが、それはあくまで、最高峰のブレード技術・アクセル技術・シールド技術の混合であって、こんな『あり得ないアクセル』を使うなどといった情報はなかったのだ。
そして自分でも確認した。鷲島鷹一が出場した試合の中で直近の試合である五月第一試合と、四宮が解説役として参加した四月第四試合。どちらも確認したから、鎮西は鷹一のことを理解していたつもりであった。特に鷹一の軟弱な精神性については人一倍理解していると認識していた。だって、似ているのだから。
『――!?』
鎮西と相良が同じような驚愕の表情で固まる一方で、高砂だけはいつもと同じどこか他人事の表情を浮かべた。
『飛山リーダー、ダウンです。得点は鷲島選手。同時に、鷲島選手が消滅……してないですね、上空です。鷲島選手なぜか上空に投げ飛ばされました。加速度がおかしいです。そして、凄い勢いで道合選手が狙撃連射……なんか凄い攻防があったようですが、鷲島選手ダウン、得点は道合選手です』
機能しなくなった二人を置いて、高砂は実況の補佐を淡々と続ける。
『そして地上に視点を戻したいのですが、星川リーダーがダウンしています。得点は針谷選手。ん、これはどういうことでしょうか、色々と位置がおかしいのですが、後で確認ですね、今に集中しましょう』
既にダウンしている星川。その最終位置付近にいる負傷している針谷を見て、高砂はいくつかのケースを考えるが、いずれも疑問が残るため、それを口にすることなく、今の実況に集中した。
『西山選手は星川リーダーの仇を取るように大通りを西進、針谷選手は迎え撃つように建物から飛び降りて大通りへ降り立ちます。またそれに合わせるように道合選手・伊舎堂選手がそれぞれ移動。ちょっと思考が読みにくいですが、恐らく針谷選手を囮にして道合選手の狙撃で仕留める作戦かと思われます』
西山瑠香と針谷瑞希。どちらもAランク屈指のブレード使いであり、アクセル制御に長けるダブルアクセル使いだ。そして得点巧者でもあり、またどちらも戦術型リーダーを仰ぐ者同士である。
『素の近接戦のスペックではウルミによる『崩し』がある分も含めて西山が優位であるが、暗殺に長ける針谷には純粋な近接担当としての技量以外の強さがある』、左記のような評価が、鷹一が金崎に伝えたものであり、また飛山や星川も似たような評価をしていた。
そんな一年生でも稀有の実力者二人の戦いを実況するのだから、それは当然、熱烈なものになるはずであったのだが、あまりにも状況に恵まれていなかった。
『激しい剣戟、激しい剣戟、激しい剣戟』
他人事のように、淡々とした高砂の実況。いや、既に実況ではなく、あまりにも冷めた音の羅列。
『いや! もっと他に言うことあるだろ! 凄い剣戟です! 何と言う速さでしょうか! しかし、負傷もあるのか、針谷選手は不利です! おおっと! 片腕を落とした! 針谷選手ピンチです!』
元チームメイトのあんまりな実況を聞いて、どこか遠くに旅立ってしまっていた相良がなんとか帰還を果たした。そして、実況の役目を果たすために必死に言葉を発していく。
彼の実況通り、現在の状況は戦う前から西山が有利であった。
もともと個人戦では西山が有利であり、しかも針谷は負傷していた。無傷の格上相手に、負傷しながら、正面から戦う。
針谷にとって、これは敗北が前提の戦いであった。だが、それ構わないのだ。なぜなら、
――飛山がダウンする前に下した最後の作戦コード。それは針谷の犠牲を前提に組まれたものなのだから。
西山の斬撃が複雑な軌道を描きながら針谷の右脚を切り裂いた。返す刃で放たれる斬撃をブレードで防ぎながらも針谷は必死に耐えた。
『おっと! さらなる追撃! 針谷選手粘りますが、だいぶ不味い状況です!』
防御と回避に専念した針谷による足止め。
しかし、それも長くは続かなかった。二合を躱し、二合を防ぎ、一合を体で受け止め、そして、次の一合で残った腕を飛ばされた。
もはやブレードを構えることすらできない。それでも諦めず闘志を瞳に宿した針谷を見て、西山は滾るものを感じた。
嗜虐心と使命感と僅かな敬意を込めた西山の斬撃――ウルミによる一撃を、なんとか躱したところで、針谷は己の役目が終わったことを察した。
直後、変幻自在の二撃目が針谷の首を斬り飛ばした。
『針谷選手ダウン! 得点は西山選手! ですが――!』
『――針谷に時間をかけ過ぎたな』
相良の実況に、鎮西の冷たい言葉が割り込んだ。そして、同時に放たれる死神の狙撃。一撃必殺の四連射。
初撃は、直前まで針谷の胴体があったところを通り、回避しようとした西山の体を掠め、二発目はシールドごと西山の右脚を抉った。機動力の低下と想定外の狙撃――高連射・高精度・高威力のそれを見せられたことに僅かに驚いているうちに三発目が胴体を貫いた。尋常ではないダメージを受けつつも咄嗟のアクセル――ダブルアクセルの強制発動による緊急回避法を用いることで四発目の回避に成功するが、しかし、普段よりも高い精度が必要とするダブルアクセルを深いダメージを負った状態で制御などできるはずもなかった。
自身のアクセルにより、吹き飛びながら建造物に衝突した西山は追加のダメージを受けた後、『態勢を立て直さなければ』と考えているうちに、五発目と六発目の狙撃に脳と心臓を撃ち抜かれてダウンした。
『西山選手ダウン! 道合選手、チームメイトの仇を取りました! さっきから何か凄い狙撃です! なんだこれ!?』
『……その狙撃も後で解説して、今に集中と言いたいところですが、盤上が結構すっきりしたので、解説始めてもいいかもしれませんね』