学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
二年生の実況・解説が必死に仕事を果たそうと努力している中、観客席にも動揺が広がっていた。
そして、その動揺が特に激しかった場所の一つが、ここ、種村・梶田・有賀・樋口が座る場所であった。
「まさか、鷲島君が負けちゃうとは……完全に予想外だ……」
ぼけーっとした顔に僅かな驚きの色を添えながら、種村が呟いた。
有賀と樋口も想定外の状況を見て、顔には出さなかったものの内心では驚きを感じていた。特に、鷹一の力量の高さを非常に高く評価していた有賀の内心の驚きは、この場では二番目に大きいものであった。
そして、この場で最も大きな動揺を感じていた者、それは――
「そんな、ありえない、鷲島が……」
――Aランク3位のリーダー、梶田霰であった。
自然と漏れた無意識の呟きであったが、しかし、その音は意識していなかったせいか、それとも驚愕が大きかったせいか、呟きにしては大きく、それは梶田自身の耳に強く響いた。
自身の言葉を聞いてしまった梶田は、1秒ほど硬直したあと、ハッとしたような顔になり、急いで表情を取り繕った。そして必死に、急いで、普段の『強い支配者』としての雰囲気を纏おうとした。
「ま、まったく……あれだけ調子に乗っていた割に、大したことなかったわね……鷲島は。飛山程度に出し抜かれるなんて……それにたった2点。これは鷲島の評価を改める必要があるわね……」
梶田は必死に、普段の『冷たい支配者』の声と言葉を意識したつもりであった。しかし、動揺が隠し切れず、それゆえ、その声には震えと動揺が混じってしまった。
それを聞いた有賀は自身の気配を消した。この場で梶田に干渉することは、梶田の性格を考えて悪い結果になると判断したからだ。
また樋口は、気配をあえて消すようなことはしなかったが、混乱している梶田に潜在的な敵チームである自身が声をかけるのは、気分を悪くさせてしまうのではないかと思い、梶田に干渉することはなかった。
そして、腐れ縁である種村は――
「いや、なに言ってるんだ。ていうか、お前もびっくりしてるだろ。声がちょっと震えてるぞ……まあ、道合さんの狙撃は普通に凄かったし、飛山さんは謎の技で鷲島君を打ち上げた……? みたいだから、ビビる気持ちも分かるけどさ」
――無自覚に無慈悲に梶田を貫いた。
声が震えた本当の理由には種村は気づかなかったが、しかし、梶田にとっては現状の種村の認識も看過できないものであった。
『強いリーダーである』こと。それは梶田にとって重要なアイデンティティであり、特に種村の前では決して崩すわけにはいかないのだから。
ゆえに、梶田は、冷静になった。冷静になり頭が回り始めた梶田は、常の自分を思い出し、それを再び作り出した。
「種村、何を言ってるの? 私が飛山や道合如き低魔力に臆するわけがないでしょう。あまりにも無礼が過ぎるようなら罰を与えるわよ?」
普段と全く同じような『冷たい支配者』の圧とともに、美しく冷淡な声が種村へと返された。
「いや、罰ってなんだ、罰って? というか、びっくりしてたのは本当だろう。何か声が――」
「――怒り、ね。この際だからはっきりと言うけど、今、私は、激怒しているわ。鷲島という弱者にね。私が求める最低限の水準、それを鷲島はクリアできなかった。普段あれだけ大口を叩いてながら、飛山如きに負けるなんて、私の盟友として失格ね。これからは、鷲島は私の同盟者ではなく、私の奴隷として扱うわ。私を怒らせたのだから、当然よね? 本当に激怒したわ。思わず、怒りで、我を忘れそうになった……怒りで、声が震えるなんて久々なことね。それに、思い返してみれば、他の二人も駄目ね。金崎は格上相手に奮戦していたみたいだけど、結局今回も得点を取れなかった。今後はより厳しく指導する必要があるわ。雲川なんて気づいたら死んでた、論外よ」
梶田は僅かに感じた感情を最大限表現することで、自身の動揺の隠蔽を図った。真実からは程遠い言葉の羅列であったが、雲川に対する言葉だけは、ほぼほぼ真実であった。梶田は、鷹一や金崎の方ばかり見ていたため、雲川が針谷に暗殺されるシーンは見逃していたのだ。
必死に理由を作り出した梶田は、美しい美貌に冷たい微笑を纏い、種村へと圧を飛ばした。
「いや、いや、お前は何を言っているんだ……というか雲川さんは針谷さんにやられてて、試合的にはそこは名シーンというか見せ場だっただろ……あ、いや、雲川さんがやられるのが見物という意味ではなく、針谷さんが凄かったというか、飛山さんの采配が……というか私は、本当は、有賀君にそこを聞きたかったんだぞ……! なんで、飛山さんが雲川さんを見つけたのか、気になってるんだよ……! お前が不機嫌だから聞かないでやったのに……! なんかまた不機嫌になってるし……! お前ら、いつもいつも、会話をし無さすぎなんだ……! いい加減ちゃんと会話しろ、会話……!」
ほのぼの顔とほのぼのとしたオーラを纏ったまま、種村はぷんぷんと怒り出した。
それを横目で見ながら、有賀は自分の名前が挙がったことに気付かないふりをした。
(気配をできる限り消そう。試合の隠蔽行動中を意識して、思考を別のところへ持っていくんだ。大丈夫。二人は強すぎる人だ。特に梶田は強すぎる。梶田と比べれば、僕は蟻。巨象と蟻だ。大丈夫だ。気配を殺せば気づかれない。これまでの会話から考えて梶田は情に厚い人間だ。種村は少し分かりにくいが、たぶん間が悪い人だ。この二人が何で同じチームかは少し疑問だけど、たぶん色々と関係があるんだろう。入学前から何かあるのかもしれない。いや、今はそこは重要じゃない。梶田の情の厚さは本人の攻撃的な雰囲気と強い関係性がある。変な話だが、梶田は本質的に守りの人なんだ。自分の領域を守る人であり、そして外敵の侵略を許さない。問題は、梶田の『侵略されたかどうか』の判定は、彼女のプライドや彼女の中での秩序、そして恐らくは親しい人間との関係で決まる。つまり、かなり曖昧だ。ラインが明確ではない。現状、梶田・雲川同盟との敵対は避ける方が無難。うちのチームの立場を考えると理想的には友好的な関係でありたいが、これは現状では難しい。故に、敵対は避けることに注力する。よって、今、僕がすべきことは曖昧な梶田のラインを踏まないことだ。今の梶田は普段より乱れている。ある意味で寛大と言えなくはない彼女でも、乱れた状態ではどうなるかは分からない。故にここは無言。空気に徹する。試合に集中していたことにする。種村に対する言い訳としてはそれで十分。……後ろにいるであろう反町が僕の態度をどう判断するかは少し不安だけど、梶田に敵対視されるリスクを抱えたくはない。樋口は……)
言い合う梶田と種村から、気配の距離を取りつつ、有賀は思考を重ね、そして相方の方を一瞬見た。
彼の悩まし気な表情を見て、僅かに不安を感じるが、しかし、すぐに信頼できる仲間ならばと思い、樋口に対する不安を消した。
(……大丈夫だ。きっと樋口は、これに関しては僕よりずっと上手いはずだ。僕以上のことができる。僕は気配を消すことに集中しよう)
気配を消しつつも有賀は、先ほどの試合での各選手の動きに焦点を向けた。
(……さっきの場面、鷲島が空中へと射出されて、道合がそれを撃破した形だ。装備的に考えて、恐らく飛山のフロートを活用したんだと思うけど……なぜ鷲島が高速で空中に飛ばされたのかが分からない。フロートにそんなことができるとは思えないけど、事実としてそこに出されたのなら、方法はあるんだろう。でも、どんな原理なんだ……? この辺りは二年生の解説役に期待したいけど、彼らの雰囲気を見るに難しいかもしれない。鷲島と道合の攻防も一瞬すぎて僕では理解できない。ここも解説待ちになる……恐らく、あの二人の攻防は異次元の技術で、真の意味で理解できる人は殆どいないと思うけど、それでもコマ送りの再生機能を使えば、概略くらいは掴めるはずだ)
飛山・鷹一・道合の常識外の攻防について考えた後、有賀は同時に起こっていたもう一つの攻防にも考えを巡らせた。
(それに針谷が星川を討ち取ったのも一瞬過ぎた。解説役も言っていたが、針谷の動きが不自然すぎる。恐らく、雲川を捕捉したのと同じように、『気づかれないように』星川を捕捉していて、瞬間的な暗殺を行ったんだろうけど……物理的に針谷がどうやってあの位置に移動したのか分からない……? アクセルを使った……? アクセルとフロートを活用して無理やり星川のいる建物に乗り込んで彼女を正面から暗殺した……? それはもう暗殺と言えるのか……? でも、星川に気づかれないでそれをやったのなら暗殺か……? それよりも、そもそも星川はなぜ……いや、星川は鷲島に集中していたのか……? 星川は鷲島が飛山を一方的に倒すと考えていた……? そして、飛山を倒した鷲島が自由になるのを狙撃で抑えようとしていた……? 星川が飛山の代わりに鷲島を抑えて、その間に西山が針谷を倒す。『逆認識』を装備し、そして伊舎堂の索敵を掻い潜ったと考えていた星川ならば、自分が見つかっていないと思っていたはず。実際飛山チームの動きも、星川から見れば星川に気付いていないように見えたはずだ。そこを飛山が突いて針谷で星川を正面から暗殺した。情報が少ないし、合ってるかは分からない。全部、僕の妄想かもしれない。でも、もしこれが合っているならば――飛山はあまりにも危険なリーダーだ。そして、同時に、鷲島も危険な選手だ)
異常な盤面の整理――飛山、星川、鷹一の思考を紐解きながらも有賀は思考を重ねる。
(飛山は生かしておいてはいけない類の駒だ。彼女の瞬間的な戦術能力と判断力は常人から乖離している。前線で鷲島と戦いながら、あんな指示を出せるのは明らかに異常だ。そして悪いことに、本人の生存能力が極めて高い。チーム戦でこれほど厄介な相手はいないだろう。そして鷲島だ。彼もまた危険だ。いや、見方によっては飛山以上に危険かもしれない)
飛山という脅威に目を向けつつも、同時にもう一人の脅威――怪物、鷲島鷹一へと有賀は考えを向けた。
(――彼はずっと飛山の撃破に固執していた。彼の力量なら他の駒を取って、『ほどほどの撃破点』で満足することもできただろう。けど彼はそれをしなかった。知っていたからだ。飛山を生かしておくことが、どれ程危険なことなのかを。そして、彼は実際に飛山を仕留めた。あの生存率が極めて高い飛山を。飛山がこれまでで唯一ダウンした試合は、四月第四試合の一度のみ。それも谷崎・石河・山見の三人に攻撃されるという地獄のような状況だ。しかも、そんな地獄の戦況でも、かなりの時間を飛山は耐え抜いた。鷲島はそんな飛山を瞬殺できる技を持っている。それだけで異常だ。しかも、今回みたいな飛山の罠がなければ生き残ったし、鷲島が生き残ればさらなる得点も獲得できた。結果的には飛山を狙うのは獲得可能な得点を捨てることになったけど、それはあくまで結果論だ。飛山を一方的に撃破できる公算の方が大きかっただろうし、だから鷲島は仕掛けたんだろう。異常な速度と異常な生存性、そしてそれを活用する頭脳。『よほど』がないければ落ちない。『よほど』が二試合連続で続いたから少し脆く見えるけど、逆だ。鷲島は強すぎるんだ。強すぎる故に彼は最も対策される生徒だ。そして強すぎるが故に、彼が敗れると、その周囲は動揺するんだ。彼の周囲の人間は、敵である僕以上に彼の強さを知っているのだから。特に、鷲島と同じく、尋常ならざる強さを持つ梶田ならば、それが衝撃となるんだ)
そこまで考え、気配を殺しながら、一瞬だけ有賀は種村と梶田の方を見た。ぷんすかと怒る小柄な少女と、強い圧を飛ばす傲慢な少女。似ていないようで、嚙み合っているようで、それでいてどこかズレた二人組。有賀からすると雲の上の強者二人。巡り合わせがよければ共闘できる二人。そして巡り合わせが悪ければ、有賀が追い落とさなければならない二人。
そんな二人を見て、そして、その同盟相手であり、先ほど全滅した雲川チームを脳裏に浮かべながら有賀は結論を出した。
(どんな相手でも無理やり点を取ることができる雲川チームと、尋常じゃない程の高魔力と攻撃力を持つ梶田チーム。組んだ時から思ってたけど、今はそれ以上に思うよ。厄介すぎる同盟だ。できれば敵になってほしくはないけど……たぶん僕たちの考えだけでは勢力図は決まらない。それに、今後来るであろう試練を考えると……もっと色々備えないとダメだ。訓練も戦術も連携も、個々の対策も)
言い争う四等級魔力二人の様子をほどほどに確認しつつも、有賀利道は、神岡チームの今後に考えを巡らせるのであった。