学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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第二試合⑭ 序盤戦を振り返って

 

『いやー、凄い試合でした! 序盤から非常にテンポが速い試合であり、また複雑な機動戦と隠蔽戦、そして、試合に決定打を与えた大通りの乱戦、非常に高レベルな戦いでしたが、結果を見ると、飛山チームの圧勝となりました!』

 

『まあ、ある程度予想されていた結果ではありますが、思った以上に、他三チームが点数を取れなかった、いえ、点数を取らせなかった試合運びのように見えました。この辺りは、やはり、鎮西リーダーが評価しているだけあって、飛山リーダーと飛山チームの強さが出た試合だと思います』

 

 試合を振り返る相良に高砂が答えた。

 

『鎮西みたいなこと言うじゃんって思ったけど……いえ、そうですね。飛山チームは非常に強力なチームです。というか、これ、2年生のAランクにこっそり混ぜても、普通のAランク上位に居座りそうな実力ですね。飛山チームは非常に強いです……!

 ただ、星川チームや雲川チームはそれぞれエースが頑張りました。要所要所で点を確保した西山選手、そして、非凡な技術力を見せつけた鷲島選手、そしてそれぞれエースを支えた両チームの生徒は暫定Aランクの名に恥じぬ活躍だったと思われます……! 中チームも、序盤は厳しい展開でしたが、最後に意地を見せました……!』

 

 全員良しとばかりにまとめようとした相良の言葉を聞いて、鎮西は鼻で笑った。

 

『やはり俺の予想通りだったな。結果は飛山の圧勝だ。まあ、もう少し鷲島に点数を恵んでやるかと思ったが……鷲島ごときがAランクの聖域に居座ることを飛山は許さないのだろうな。あいつらしいと言える』

 

『鷲島選手叩きに必死すぎる。そんなに飛山ちゃん倒されたの悔しいの? てかさ、お前、道合の……鎮西リーダー、道合選手の初動は狙撃がないと言っていましたが、実際は狙撃があったようです……! これは、どういうことでしょうか!? 飛山リーダーは、鎮西リーダーの予想を上回る、ということでしょうか……!?』

 

 ちらちらと鎮西の方を見ながら相良が言葉を紡いだ。

 

『雑魚が囀るんじゃない』

 

『いやいやいや、なんか得意気に、腕組みながら、道合選手は狙撃しないとか言ってたじゃん。違ったじゃん。解説してよ、解説……!』

 

『黙れ雑魚』

 

 鎮西が相良の言葉を切り捨てた。

 そして、二人のやり取りを完全に無視するように高砂が鎮西に声をかけた。

 

『鎮西リーダー。今回の試合、飛山チームの非常に高度な戦術や、星川チーム・雲川チームとの深い読み合いがあったと思います。その辺り、ご解説いただければと思います。あと個人的には金崎選手の序盤の戦い方など振り返りたいです。まずは最序盤の南戦場の様子。ここで3点の得点が動くことになりますが、この場面、端的に言うとどのような形でしょうか。得点は道合選手が2点、西山選手が1点となりますが』

 

 淡々と、興味なさそうに、他人事にように言葉を紡ぐ高砂。そんな彼に対して、鎮西は一度鼻で笑った後、口を開いた。

 

『最序盤の動きは端的に言うと中チームの失態を飛山が見逃さなかった。そして落ちていた点を西山が拾った。それに尽きるな』

 

【挿絵表示】

 

『中チームの失態と言うと、南選手の砲撃でしょうか?』

『なんで俺相手には答えないのに、高砂は微妙に許されてるの? これ差別でしょ』

 

 鎮西に答えを聞いて、さらに高砂が問いかけ、同時に相良は一人不満を口にした。

 

『そうだ。南が意味もなく不用意に砲撃した。あの砲撃には何の意味もない。南は何がしたいんだ? そもそも曲射砲という武器は単独で撃つものではない。数発程度では目標に当たらないからな。運よく、金崎がいた場所には当たったようだが、当たらない可能性の方が本来高い。

 しかも、運よく目標付近に着弾しても、今回のように待避される可能性もある。しかも南は軽量曲射砲で威力もない攻撃だ。金崎がよほど無能でない限り得点にはならない。まあ金崎がよほど無能な可能性に賭けたのかもしれないが、相手の無能に賭ける作戦など自らの無能を晒しているようなものだ』

 

 この鎮西の指摘――曲射砲という武器に関しての指摘は概ね正しいものであった。曲射砲はその名の通り、砲撃が直線では飛ばない。弧を描くように飛ぶため、基本的に直接命中させることはおろか、目標の周囲に命中させることすら本来は難しい武器なのだ。故に、一発目から目標にの命中することなどあり得ない事であり、今回の南の砲撃が金崎の潜んでいた場所付近に命中したのは鎮西からすると、『非常に運が良い』ことだと考えてしまった。

 鎮西のこの考えは、決して間違ったものではなく、むしろ、長くAランクにいたリーダーとしての熟達した経験の表れであった。

 

 勿論、鎮西も理解している。今年の一年生には常識外の怪物がいることに。

 

 その怪物が暴れた試合ログを視聴したとき、鎮西は友人である四宮と同じように、いや、四宮以上に驚愕した。だが、同時に理解もした。あれは完全な例外であり、外れ値であり、一般的な存在ではないのだと。

 もし鎮西に間違いがあるとすれば、それは南もまた才能ある曲射砲使いであり、そして何より彼女は何度も目の前で怪物の技を見た生徒であることだ。しかし、こんなことは鎮西に分かるはずもない。慈善活動で下位の生徒に食料配給をするなどといったことを行う麻倉チームのことを、今の鎮西は理解できないし、さらに言うならば、その場に参加して、怪物に曲射砲の実演を何度も何度も執拗に迫るAランクの生徒というのも想定できないのだから。

 

『南選手の砲撃の後に、喜多見選手が動いていたので、南選手の砲撃で攪乱し、喜多見選手が狙撃で倒す、という流れだった可能性はありませんか?』

 

 高砂の問いに鎮西は冷笑と共に言葉を紡いだ。

 

『もしそうなら、俺は中チームの評価をさらに下げざるを得ないな。

 まず第一に、もしそれをやるならば砲撃前に喜多見が狙撃準備を済ませるべきだ。Aランク相当の狙撃手ならば砲撃と準備を並行して進めるという手もあるが、喜多見にそんな力量はない。喜多見は今回の参加生徒で最も能力が低い。喜多見の蒙昧(もうまい)で愚鈍な動きでは、攪乱中に攻めるどころか、事態が収まってから攻めることになりかねない。そのような状況で狙撃を通せる技量は喜多見にはない、というより、そもそも喜多見は、あの距離の静止目標を狙撃できる技量があるとは思えない。

 第二に、喜多見の動きが杜撰すぎる。なぜこんな移動ルートを通る? これでは仮に狙撃されなくても、まず間違いなく見つかる。そして事実として見つかって道合に撃たれた。

 第三に、こんな稚拙な行動の寄せ集めを初動でやるのは、あまりにも愚かだ。しかもその愚かな行動で得られる利益は金崎の撃破点のみ。リスクとリターンがあまりにも釣り合わず、そして結果として、金崎の点は得られず、中チームは南側の全戦力を失った。序盤の南側に関する情報や盤面支配力、抑止力、干渉力、全てを失い、これが結果として大通りの戦いでの敗北を招いた。まあ、あれは西が南と同レベルの無能を晒したのも原因の一つだが、試合全体で見ると、この南と喜多見の失態があまりにも大きい。俺の中で既に中チームの評価は地に落ちているが、もし、この金崎砲撃に何か意味があるなどと言ったら中チームの評価を地中に埋めざるを得ない。南と喜多見の失態と認識する方がまだマシだ。乱戦で大失態を犯した西は論外だが、僅かに東と中は見てやれないこともない。本当に僅かにだがな』

 

『人叩く時だけイキイキしてるじゃん? コミュ力のステ振り間違えすぎでしょ』

 

 鎮西の言葉に相良が食いついた。そして、その相良の言葉に被せるように、高砂が素早く次の質問を重ねた。

 

『なるほど、ありがとうございます。西選手の失態については後々聞きたいところですが……道合選手が南選手、そしてほぼ間を置かずに喜多見選手を狙撃しましたが、この辺りどのように見ますか? 道合選手の独断でしょうか、それとも飛山リーダーの作戦のうち、ということでしょうか?』

 

『ここは飛山の作戦だな。まず、飛山は初動の数秒で鷲島の位置を掴んだ。恐らく針谷が捕捉されていたことから推測したんだろう。そして、ここだ。よく見ろ。大通りを鷲島が渡るとき、飛山が監視している。これで確実に鷲島だと判明した。そして砲撃している南は目立つ的だ。道合の狙撃能力なら討ち取れるというのもあるし、不用意に動いた喜多見を捕捉したというのもあるだろう。確実な2点と引き換えに道合の位置が鷲島に露見する可能性があった。鷲島も砲撃で目立つ南を狙っていることは明らかだろうからな。

 だが、飛山はそのリスクを計算した上で勝負をかけた。ただし、これには鷲島対策として飛山側には二つの準備があったことが推測される。一つ目は、道合の狙撃銃のカスタムだ。これまでとは違うカスタムを入れていた。ここではその詳細は解説しないが、悪くないカスタムだと言っておこう。一時期、今の二年の間でも少し流行った方法だな。一年の五月でやるのは飛山らしいと言える』

 

 どこか満足気に頷く鎮西を見て、相良は素早く言葉を返す。

 

『解説放棄するな……! 意味深な事言ってないで道合選手のカスタムを教えて下さい! てか、俺が分からないから教えろや!』

 

 相良の言葉を聞いて、鎮西は一瞬だけ眉を顰めた後、不快気に顔を歪めて相良を睨んだ。

 

『今の言葉で理解できない愚鈍な猿に、なぜ俺がいちいち時間を割かねばならない?』

 

『お前がこの試合の解説担当だからだよ!』

 

 相良の真っ当な指摘に対して、鎮西は鼻で笑って無視したが、数秒間を置いた後、高砂が『鎮西のヒント』から答えを導いた。

 

『ああ、なるほど……鎮西リーダー、ありがとうございます。なんとなくわかりました。スライダーとサプレッサーの混合カスタムですね。恐らく威力のスライダーを使っているということでしょうか?』

 

『ようやく理解したか……まあいい。特別にお前らに知恵を授けてやろう。道合のカスタムは多岐にわたるが、今回では特別な要素としてサプレッサーをつけている。これは銃声を下げる効果があるが、いくつか問題があるカスタムだ。威力と精度が低下するという問題があるが、それ以上に大きな問題として、元々の威力が高すぎるとサプレッサーの効果が低下する。故に、威力と隠密性の両立は本来は難しかった。

 しかし、それを解消する方法が生み出された。それがスライダーだ。スライダーは、使用者の魔力の出力を一定にする機能をオミットする代わりに戦闘中でも武器性能を変化させる効果を持つ。まあ、一年たちも、これまでの試合で何度か見てはいるだろう。それを道合は『威力』に使った。そして、スライダーの検知範囲が一定以下の魔力でサプレッサーが起動するように設定している。そうすることで、威力はないが隠密性のある狙撃、隠密性は薄いが威力が高い狙撃のマルチ運用が可能になった。まあ、精度はどちらにしろ下がるが、道合ならば問題ないという判断だろう。これまでには使ってなかった戦法だな。

 そしてこの戦法はこれだけに終わらない。鷲島を葬ったのもこのカスタムが関係している。恐らく、このカスタムも飛山の考案だろう。飛び抜けて優れた手法ではないが、一年の五月にこれを実行し、実際に鷲島を仕留めたのは見事だ』

 

『急に得意気に解説しだすじゃん? 飛山ちゃん上げに繋げられるネタだから?』

 

 流暢な鎮西の解説に相良が口を挟んだ。

 

『鎮西リーダー、よろしければ、飛山リーダーの鷲島選手対策の二つ目の準備についてもお願いします』

 

 相良の指摘に被せるように高砂が鎮西に願い出た。機嫌が良さそうなので、このまま鎮西に解説を押し付けるのが良いと考えたからだ。

 

『二つ目は陽動、囮だな。飛山が自分自身を釣り餌にして、鷲島の注意を削いだ。そのために飛山は高架鉄道に敢えて上り鷲島の方へ迫った。この行動は一見すると不可解ではあるが、後の戦況を考えると複数の意味があったことが窺える。全て説明するのは長すぎるからここでは割愛するが、重要なポイントは鷲島の思考に負荷をかけること、飛山を見つけた雲川チームの観測手の居場所の特定、道合・伊舎堂・針谷それぞれの行動の自由化だ』

 

『なるほど。対鷲島選手で考えると納得できます。しかし、道合選手の隠蔽が露見するリスクや、伊舎堂選手は高機動かつ目立つ移動方法を使用する以上、そちらに鷲島選手が行ってしまう可能性もあったのでは?』

 

 鎮西の言葉に反発しそうになる相良を視線で封じつつ、高砂が相打ちの言葉を紡いだ。

 

『そしたら飛山は本命の対策をするだけだ。試合前にも言ったが、飛山の本来の戦術は誰か一人が鷲島を引きつけることだ。伊舎堂なら最高だ。一番鷲島を担当するリスクが少ない。次点で針谷。

 道合と飛山が担当するのはリスクがあるが、しかし、この二人はアクセルとフロートが一年の中でも特に上手い二人だ。さらに飛山は生存性に長け、道合は一撃離脱能力が高い。鷲島を長時間担当するには最適とも言える。リスクが大きいがリターンも大きい二人だ。それに鷲島が道合の方に行ったのなら、それはそれでよい。そこで得られた情報を使って鷲島に対処するだけだ。飛山ならば手は無数にある』

 

『ありがとうございます。ただ、対鷲島選手の作戦としてはある程度理解できたのですが、対星川チームや中チームとしてはどうだったのでしょうか? 最序盤で道合選手・飛山リーダーの位置が割れる可能性がありましたが……』

 

 再度、高砂は、問いかけと相槌を混ぜたような言葉を適当に発し、鎮西の解説を促した。

 

『問題ない。そもそもその二チームはまともに勝てる戦力がない。鷲島だけが、飛山チームを倒せる戦力を持っている。多少位置情報が割れた程度で巻き返せるほどの戦力も戦術も星川・中チームにはない。

 お前が理解できるように言うながら、特に中チームは、道合の狙撃が成功すればその時点で二人欠ける。数少ない駒数という優位性すら喪失するのだから、対中チームではむしろ有利だ。飛山チームが強いのは序盤の乱戦で軽装甲を数体強制的に排除できる点だ。これがあるから、中盤以降の戦力差による優位性確保に繋がるし、何より撃破点の積み上げと、他のチームの撃破点・任務点を強制喪失させられる。この強みは飛山チームならではなのだから、よほどでない限り、押し付けるべきだ。

 まあ、今回の戦場には、その【よほど】がいたが……それも飛山の前では赤子も同然。正直、鷲島を警戒し過ぎたな……』

 

『嘘だぞ。今まで鷲島選手のこと扱き下ろしただけで、警戒要素なかったぞ』

『星川チームは序盤、道合選手の魔の手からは逃れていますが、こちらも飛山リーダーならば問題はなかった、ということですか?』

 

 鎮西の解説に相良が茶々を入れ、それを高砂がさらに言葉を重ねることで誤魔化した。

 

『究極的にはそうだ。だが、そうだな、中チームとは違う理由を説明するならば、【星川は容易には撃てない】からだ。撃てば居場所が露見する。西山の活躍のためにも星川は隠蔽に徹する必要があった。というより、そもそも全隠蔽は苦肉の策だ。星川は飛山に対応するために一手を譲ることになるが、飛山相手に一手を譲るというのは負けるということだ。だが、一手を譲らなければ自分が暗殺される。

 星川は【まだ隠れなければならない】、故に、撃てない。これが終盤なら違っただろうが、最序盤の道合の狙撃を見て、自分も動こうとはならない。というより、動けば死ぬ。そしてそれを飛山も理解していた。むしろ飛山としては星川に動いて欲しかったかもしれないな。だが、星川はここではチームの生存を優先して行動した。まあ、星川視点でも攻勢に出るタイミングではなかったから、それが自然ではあるが』

 

 

※

 

 

 実況と解説二人がそれぞれ言葉を紡ぐ中、観客席のある一角でも、ほのぼのとした雰囲気の少女が悩まし気な声を上げた。

 

「うーん、言ってること分かるような分からないような。まあ飛山さんが鷲島君以外は舐めプで十分だったっていうのはギリギリあるかもね。星川さんは優秀な人だけど、飛山さんほど圧はない気がするし……あ、いや、でも匂坂と同盟結んだから私の中ではゴリラポイント100点くらいあるから、星川さんもやっぱりアレだな……」

 

 ぼんやりとした表情の種村の呟き。それが自分への声掛けだと感じた有賀は、梶田の方をちらりと確認してから、口を開いた。

 

「星川と匂坂の同盟は確かに驚いたね……ただ飛山は別に星川のことは舐めてないと思うよ。解説担当が言うように、星川や中の戦力を見積もった上で、作戦を決めたんだと思う」

 

「ふむふむ、なるほど……ん? でもさ、そもそも道合さんを守るって話だったのに、道合さんが追っかけられても良かったってオチはなんかズルくない?」

 

「それは……多分だけど……あの解説役の二年生、飛山のことがかなり気に入ってるんじゃないかな?」

 

 まったりとした種村の問いかけを聞いて、有賀は一瞬だけ悩んでから言葉を作った。

 

「気に入ってるから、飛山さんのよくわかんない行動にも好意的ってこと?」

 

「いや、気に入ってるから、隠してるんじゃないかな。飛山の考えを」

 

「ほう? 詳しく、詳しく……!」

 

 種村がじっと有賀を見つめた。

 

「ええっと、自信はないけど……飛山の最序盤の戦術で、あの二年生の解説役が気づいているのに言ってないことがあると思う。というか、戦術というか投入の話になるのかな……?」

 

「ほうほう……続けて、続けて……!」

 

 どこか期待するように、好奇心を持った種村の瞳が有賀に話を促した。

 

【挿絵表示】

 

「ええっと、最序盤の配置なんだけど……まず道合が南東にいて、伊舎堂はさらに端の方にいた。伊舎堂は役割から考えてできるだけマップ中央に近い方がいいから、自然と道合側に寄る。それでいて、状況的に針谷が南に逃げざるを得なかった。

 結果的に、飛山以外の三人がほとんど南西に集中した。ここに鷲島が突撃してくるのを飛山は避けたかったんだと思う。それをやられるのが飛山としては一番嫌だった。そして、飛山は素早く三人を展開させたかった。だから南部にいる邪魔な南と喜多見を早急に倒す必要があったし、鷲島を東側に誘引したかった。

 南部の二人を倒して、空間が空いて、そして僅かな時間さえあれば、三人は展開できるから、展開後なら、誰が鷲島のターゲットになっても問題はなかったけど、展開するまでの間に鷲島が突撃してくるのは嫌だったんだと思う。そして、展開の邪魔になるから南と喜多見は倒されたんじゃないかな? まあ、正直、これは僕の後知恵みたいなものだから、正しいかは分からないけど……」

 

 有賀の説明を聞いた種村は、悩まし気に眉を顰めた。

 

「むむ……結構複雑な話だね。なるほど、『ちょっとの時間の差』ってことか。『ちょっとの間』だけ道合さんたちを守りたかったから、その『ちょっとの時間』を長くしちゃう南さんと喜多見さんは邪魔だったのか。うーむ、難しいね。というより、有賀君はよくそんなこと気づけたね。飛山さんも有賀君もそんなことまで考えてたのか……あれ、ひょっとして、鷲島君とか星川さんも同じこと考えてるのかな?」

 

「あの二人は、そういったことを考えそうではあるね。同じ盤面で同じ戦力を持っている時に、同じ行動をするかは分からないけど、情報さえあれば、あの二人は似たようなことはできると思う……ただ、それでも、判断の速さと巧みさでは飛山には勝てないと思う。勿論、二人とも、僕よりはずっと上だと思うけどね……」

 

「むむむ……鷲島君ってそこまで策士タイプだったのか。うーむ。いや、まあ、頭が凄くいいって言うのは分かってたけど、そういうタイプだったとは。ちょっと意外だね」

 

 同盟仲間の思わぬ評価に種村はぼんやりと頷きつつも、あれこれと鷹一の過去の言動を思い返しえていた。

 

「そうなの? 結構見た目通りだし、それにこれまでの戦術を考えると自然に見えるけど……あんまり同盟内では鷲島は戦術とか分析の話はしたりしないのかな?」

 

 そんな種村に、有賀は自然と雑談のような問いを発した。

 

「うん、それは……む、いや、だめだよ。教えないよ。秘密情報だからね……!」

 

 ほのぼのとした顔を、急にキリリとした顔で上書きしながら、種村はそんなことを口にした。

 

「え……? あ、ああ、そっか、ごめん。そんなつもりは無かったんだけど、なんか探るような質問になっちゃったね……」

 

「むふふ……こう見えて、私は結構頭脳派だからね。情報は漏らさないよ……!」

 

 妙に力の入った表情――しかし、どこかぼんやりとしたマイペースさが入った表情で種村は有賀を見つめた。

 

「あはは、流石だね……」

 

「まあね」

 

 そういって、種村は得意げに自分の頭をトントンと指で叩いた。『知的である』というアピールのつもりであった。

 ぼんやりとした種村のほのぼのとした仕草を見て、困惑した表情を浮かべつつも有賀は思考を回した。

 

(多分だけど、飛山は、どっちでも良かったんだろう。道合が見つかっても、見つからなくても。いや、もっと言えば、飛山自身がどうなろうとも良かったんだろう。恐らく飛山は今回の試合結果に拘っていない。この試合で得られる情報を飛山は欲していたんだと思う。特に鷲島の思考を試したように見える。飛山自身が釣り餌としての価値があるのか、伊舎堂を途中で視認したらどうなるのか、雲川を暗殺したらどうなるのか、それぞれの反応を見たかったんだろう。そうすることで、鷲島の情報を――いや、むしろ、試合という場で鷲島の様々な反応を周囲に見せることが目的なのかもしれない。僕だって気づいたんだ。他にも気づいている生徒は多いはず。多分、これでまた学年全体での対鷲島の研究が少し進む。圧倒的な強者である彼の優位性を少しでも下げる。それをすることで、雲川チームという危険なチームの脅威度を下げることこそが目的なのかもしれない……考えすぎかもしれないけど、飛山が相手だ。様々な状況をこちらも想定するべきだろう)

 

 柔和で追従的な笑みを浮かべつつも有賀は黙々と思考を回し、そしてそんな有賀を前にして、種村は内心で次のようなことを考えていた。

 

(よし……! 有賀君に一本取ったぞ……! 情報の流出を阻止した……! あとで一之瀬さんに褒めてもらおう……! ……まあ、でも考えすぎかな。有賀君は悪気とか無さそうだし、たまたま聞いちゃったんだよね。色々教えてもらったし、答えてもよかったかもだけど……でもあんまり私が頭脳派じゃないって思われるのは良くないし、頭脳派アピールは大事だからな……! すまんな、有賀君。鷲島君のことは秘密だ……!)

 

 有賀の内心などつゆ知らず、種村は『ほのぼの家』としての生き方を進むのであった。

 

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