学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
『解説ありがとうございます、鎮西リーダー。序盤戦で他に気になることはありますか? 自分としては、金崎選手の戦い方が少し興味深かったので、可能なら、その辺りを振り返りたいです』
どこか他人事のようでいながら、高砂の声音には、僅かに興味の色が混ざっていた。
『西の序盤の動きで指摘したいことがあるが、それは後で話そう。序盤戦を乱戦前に定義するならば、飛山チームの展開が非常に巧みであった点があるが、それは金崎の戦闘の後の方がメインになるな。先に金崎の戦闘について解説しよう』
『お願いします。金崎選手と西山選手の戦闘。まず西山選手の奇襲から始まり、それを金崎選手が防御、その後、非対称のブレード戦のような形になりますが、ここの金崎選手の防御戦法が少し気になりました。鎮西リーダーはどう見ますか?』
『そうだな。最初のシールドは単に上手く反応できたんだろう。正直に言うと金崎のレベルだと反応しにくいように見えたが、一つ前の試合よりはシールドが上手くなっている、ないし、単に運が良かったんだろう。ブレード戦に関してだが、俺はブレードは使わない。四宮、解説を……』
ここにはいない友の名前を口にしてしまった鎮西は一度黙った後、相良の方を睨んだ。ある重大なことを指摘するためであった。
『え、なんでこっち睨むの……?』
相良は鎮西の考えに気づけなかった。
『なぜ、上位のブレード使いが複数いる試合にブレード使いの解説を呼ばない? お前に実況としての自覚はないのか?』
冷淡な鎮西の言葉と視線が相良に突き刺さった。
実況担当は学園からの指名であるが、実況担当は解説担当を二名まで呼ぶことができる。誰を呼ぶかは、実況担当が決めるのだ。交友関係や同盟相手、その他、取引などによって解説役を確保するのが実況役の務めである。
単に仲が良い・話しやすいで呼ぶ場合もあるが、学園の生徒である以上、彼らは最低限の実況・解説を行わなければならない。
よって、実況役は、つつがなく業務をこなせるように、戦術・指揮に詳しい生徒を解説を呼ぶというのは、一般的なものであった。そして、さらに言うならば、試合に参加する生徒に応じて専門職の解説を呼ぶ必要があった。ブレード・アクセル・重装備・隠蔽・高機動・弾幕・曲射砲・その他特殊武装など、その試合に参加する生徒の特色に合わせた解説役を呼ぶことが求められた。
そして、鎮西も高砂も相良もブレードは普段使わない生徒であった。一方で、この試合の参加生徒である西山・針谷・飛山・西は高いブレード戦の技量を持ち、怪物鷲島鷹一に至っては二年生相手でもブレードで押し切れる力量の持ち主である。つまり、解説側のブレード技量が圧倒的に足りなかった。
『え、いや、それは……だって……いや、でも、鎮西は知ってなきゃダメでしょ。Aランクなんだし……』
どこか言い訳のような言葉を口にする相良に対して、鎮西は心底呆れたような表情を浮かべた。
『まったく……この低能を採用したことが島田の人生で二番目の過ちだな』
『それさっきも言っただろ!』
『高砂、この低能のせいで、ブレードの解説は難しい。金崎の件は諦めろ』
相良の抗議を無視して、鎮西は高砂に言葉を返した。
『個人的に、金崎選手の技量では西山選手相手にここまで【耐える】のは難しいと考えていたので、この辺り鎮西リーダーの見解をお聞きしたいです。単に運が良かった、もしくはブレード戦の技術を向上させていた、だけでしょうか?』
『…………俺はブレードの専門家じゃない。ただ、金崎の技量はそこまで突出していないことは分かる。単に運が良いのかもしれないし、金崎に多少のブレード技術があったのかもしれない。鷲島が技術を金崎に教えたのならそこまで不思議ではない。まあ、金崎如きに時間を割くような脆弱な鷲島の考えなど理解したくないがな……
だが、そうだな。この後の動きを見るに、西山の油断・慢心の面もあるだろう。いや、むしろ嗜虐心か。こういうタイプはほどほどにいる。それで足元を掬われたなら、その程度の凡人だが、まあ、乱戦には間に合っている。対金崎における時間ロスはそこまで大きくはないだろう。特に何かを言いたくなるような内容ではないな。どうしても気になるなら四宮に聞け。あいつが興味を持てるような内容なら個人的にお前に解説する可能性はあるだろう』
『なるほど、ありがとうございます。ちなみにですが、鎮西リーダーから、四宮選手に口利きしていただくことは可能でしょうか?』
解説としての質問ではなく個人としてのお願いを高砂が口にした。
『……、断る。乞食にくれてやる時間は無い』
高砂の問いかけに、僅かに鎮西は詰まったが、すぐにいつものような冷酷な表情とともに返答をした。
『了解しました。では、先ほどの話に戻しまして、乱戦までの間の動きでは、鎮西リーダーは飛山チームの展開について興味深いとありましたが、その辺りをお聞きしても?』
『あのさ、今更だけどさ、実況って俺じゃなかったっけ? 何か俺いらない人になってない?』
解説を促す高砂の言葉と、どこか困惑した相良の言葉。前者だけを耳に入れるようにしながら鎮西が言葉を紡いだ。
『試合の序盤、大通りの乱戦までの各チームの動きでは飛山チームの動きが他を圧倒していた。展開が巧妙だ。盤面の索敵とエリアの制圧、特に乱戦に至るまでの配置が絶妙だ。ある意味、この時点で勝負が決まっていたと言えるかもしれない。先ほど言ったように飛山による鷲島の釣り出し、伊舎堂の南側の索敵、道合の展開と索敵、針谷を大通り西側に伏せておく手腕。一つ一つに戦術の妙がある。決戦となりうる場所を予め予想しておいたのだろう』
『飛山リーダーは南・喜多見両選手がダウンしたあたりで、既に大通りの乱戦まで読めていたということですか?』
鎮西の解説を促すために高砂が問いを発した。
『確定で大通りで乱戦をする、とまで決めてはいないだろう。複数の展開を考えていた。そのうちの一つが大通りでの戦いだった。大通りでの戦いの場合は、主に針谷と飛山自身がメインとなり、伊舎堂がマップ南東側のケア、道合はどこにでも介入できるように配置した。もちろん、それだけの配置ではない。この配置は他の作戦では別の意味のある配置になる。飛山は多彩な戦術を同時に並行して進め、情報が出揃い全員の手が分かってから、進めている戦術の中で最善手を選んだ。一年では最高レベルの指揮能力・戦術能力を持ったリーダーだろう』
『なるほど。飛山リーダーは非常に優秀なリーダーであることが良く分かります。乱戦が始まるまでの飛山チーム以外の動きで何か気になることはありますか?』
『西が南と同レベルの失態を犯している。いや、失態の長さで言えば南以上だ。中チームの完全敗北を決定したのは南だが、加速させたのは西だ。こいつはこの試合中、突撃銃を使っていない。ずっとブレードで戦っている。なぜ突撃銃を使わない? ふざけてるのか? さっさと突撃銃を使って黒井を仕留めるべきだった。西山戦では、使えない状況だったかもしれないが、そもそも飛山達と接敵するよりも前に黒井を仕留めていれば、こんなことにはならなかった。中チームは何がしたい? 投げ銭狙いにしても、もっと違う手があるだろう』
『確かに、西選手と南選手の挙動は独特なものでした。他には何かありますか?』
『星川と西山のアクセルの切り方が上手かった。星川は飛山には劣るが、戦闘センスと読み合いの能力に関しては一定の評価を与えたい。飛山には劣るが』
『もうこれ病気だろ。飛山ちゃん大好き病だろ』
ずっと黙っていた相良が口を挟んだ。すぐに、高砂はそれを鎮西に拾わせないように言葉を被せる。
『最初の狙撃で、道合選手の位置がある程度割れていたこともありそうですが、西山選手はやはりダブルアクセル使いということもあってか、アクセルを使いやすい印象があります』
『そうだな。針谷もそうだが、ダブルアクセルはアクセルの弱点を補える。単純に使い勝手が良いし、使用後のクールダウンを踏み倒せる故に、リカバリーがしやすく、ゆえに使用の判断コストも低い』
『え? 針谷選手ってダブルアクセル使えましたっけ?』
相良が疑問を感じ、口を挟んだ。相良の持っている情報――これまでの針谷の試合の結果と今回の試合の様子、には針谷ダブルアクセルを使えるなどといったものは無かったのだ。
『ちゃんと試合を見ろ、雑魚』
そして、むべなく切り捨てられた。
『え? え? 使ってないでしょ? え? 高砂どういうこと?』
『あー、相良選手、とりあえず、鎮西リーダーの話を聞くことに集中しましょう。たぶん、星川リーダーと針谷選手との戦いでその辺りの説明をしていただく予定です』
この高砂の言葉には裏があった。
実は、鎮西は相良と言い合っていた時、こっそり手元の端末で大量の情報を確認していたのだ。そして並行思考能力を駆使して、【相良と言い合いながら、盤面の動きを見て、手元の情報を確認し、針谷VS星川戦でダブルアクセルが使われていたことを分析した】のだ。
そして、そんな鎮西の様子を隣にいた高砂はこっそり見ていたのだ。高砂は、その時、針谷がダブルアクセルを使えたかどうかの確証は得られなかったが、鎮西がこっそりと情報収集をしていたことと、今の鎮西の発言から、状況を掴んだのだ。
『え、あ、うん、というか、なんかごめん。ずっと実況任せてるわ……このまま任せてもいい? 俺と鎮西が会話してると時間と解説が無くなりそうだし』
『はい。というか、そのために自分を呼んだのでは……? ……? まあ、いいや。それでは、鎮西リーダー、最終的にかなりの人数が干渉した……いえ、東選手以外の全員が介入することになった大通りの乱戦ですが、この場面で気になった事などあれば解説をお願いいたします』
『まず西が突撃銃を全く使わなかったことが正直不快だったが、まあそれは本題ではない。やはり飛山の動きが上手いな。鷲島を牽制し、針谷を使い駒を排除。最終戦までの盤面を整えて、道合に一掃させた。ほぼほぼ飛山の掌の上だったが……
そうだな、敢えて他の駒にも言及するなら西山が落ちている点をしっかりと取ったことは評価する。Aランク帯のエースとしての役割はある程度果たしていると言えるな。あとは……まあ、鷲島に関しては、飛山を最後まで狙っていた点は評価してもいい。まあ、飛山に負荷を与えたとしても、結局は飛山の戦術を打ち壊すことはできなかった上、隙も粗も大きいことには変わりはないし、雑魚を見捨てられない弱さが目立つが……飛山の能力を見抜いた眼力だけは評価しよう』
鎮西の評価に、高砂は僅かに意外そうな顔を作り、そして、本来の実況である相良は素早く声を上げた。
『上から目線すぎる解説っ! いやでも、これ地味にデレたのか? なんか四宮も試合結果出てから鷲島にデレたらしいし、やっぱり四宮とはマブなんだなって』
『鷲島の眼力は四宮よりは上だな』
『もう逆に四宮大好きすぎるだろ……!』
『黙れ、カス』
鎮西の罵倒が相良へと投げつけられた。
相良と鎮西の応酬を見つつも、高砂は、話を進めるべく言葉を作る。
『……西山選手は試合の序盤でも、乱戦中でも、しっかりと点を積み上げた印象があります。それと見返して分かりましたが、鷲島選手が黒井選手を倒した方法が凄まじいです。雲川リーダーの狙撃で黒井選手の余力を削った後、ハンドガンで射殺しているのですが、ここ、スロー再生します』
鷹一の神業を見て、真っ先に相良が反応した。
『うわっ! えっぐっ!! なんだこれ……全力疾走しながら後ろに撃ってる。しかも、これノールックじゃん……え、怖っ……なんで当たるの。というか、そもそも、何で撃てるの……? 俺、この状況でそもそも後ろ向きに撃てないんだけど』
『いちいち、喚くなカス』
騒ぐ相良に冷たい言葉を浴びせた鎮西は呆れたように息を吐いた。
『いやいやいや、これは凄いですよ! だって、鎮西リーダーだって、同じことできないでしょ!?』
『俺ができなくても問題ない…………四宮なら、……できる』
少しだけ言葉に詰まりつつも、鎮西は友の名前を口にした。
『四宮大好きすぎでしょ。てか、四宮できるかな? あいつもだいぶ強いけど、これは無理じゃない?』
『黙れ、カス』
『四宮ネタの沸点低すぎでしょ。飛山ちゃんdisより低いんじゃない?』
相良の言葉に鎮西は答えず、冷笑を浴びせるだけであった。
高砂は、『この二人、相変わらずだな』と思いつつも、解説の役目を果たすため、再度、言葉を作った。
『この攻防では、雲川リーダーと鷲島選手の連携のレベルが非常に高かったです。ところで、鎮西リーダー、試合中、雲川リーダーの運の良さについて言及していましたが、その辺りお聞きしてもよろしいでしょうか?』
『……雲川は能力が低い。Aランクどころか、Bランク戦場で戦えるか怪しい存在だ。だが、今回は、それが逆に幸運となって、針谷の網を二度掻い潜った。まず一度目は狙撃後の待避を意識した点だ。雲川はこの戦場では連続して同じ場所から撃てない。生存性と機動力に問題があるからな。それ故、撃った後すぐ撤収しなければならない。それで一度針谷の攻撃を掻い潜った。
そして、もう一つ、こっちが特に運が良い点だが、雲川は足が遅い。遅すぎる。なんだこの鈍足は? このランク帯では、あり得ない程に遅い。金崎も遅いが雲川は遅すぎる。だが、ここまで足が遅いと、大して移動できない。雲川は狙撃手として行動範囲が狭すぎるんだ。針谷は上位とばかり戦っているから、逆に雲川のような行動範囲が狭い狙撃手に対応できなかった。故に、針谷は雲川の洗い出しに一手遅れた。まあ、その一手の間で雲川に何かできたわけではないがな。これが雲川のことを運が良いと評した点だ』
『なるほど。ありがとうございます。では、次に、鷲島選手による飛山リーダーの撃破と、その直後の鷲島選手が空に投げ出され、道合選手に討ち取られる流れですが……ええっと、とりあえず、超スロー再生しますが……これって何が起こっていますか?』
ひとまず気になった点についての解説を得た高砂は、この試合における山場――飛山と鷹一が相次いでダウンしたシーンについて問いかけた。
『とりあえず、鷲島は飛山をブレード突撃で倒している。かなり加速があるブレード突撃だ。飛山でも対応できないレベルとなると【よほど】の技と言える。そして、鷲島が空に打ち上げられた理由だが……、フロートだ。飛山がダウンする直前にフロートを使い鷲島を空へと投げ飛ばした。空にいる鷲島は回避ができず、道合の狙撃……十連射、か……? 十連射の狙撃に敗れた。言葉にするとそれほど複雑なことではない』
鎮西は内心を隠しながら、淡々と質問に答えた。だが、そんな鎮西の態度に、相良は耐えられず声を上げた。
『いやいやいやいやいや!? 解説を放棄するなよ! 鷲島選手、空飛んでるのに結構避けてるし防いでるよ! しかも道合選手もあり得ない程の威力と精度と連射速度だよ! というか! そもそも何でこんなに空飛んでるの!? フロートでこんなに飛ばないだろ! これ何百メートル飛んでるの!?』
驚愕の連続――謎の空中射出に、『死』の連続狙撃、そしてそれを何発か凌ぐという怪物の技、ある程度一般的な感性を持っていると自負する相良には、見逃すことができない出来事であった。
『約400メートルです』
唯一答えられる質問にだけ、高砂が手元の観測データを見ながら答えた。
『飛ばしすぎだろ! なんでそんなに飛んでんだよ! というか、よくそんな空中の的に当てられるし、なんで、そんな上空に吹っ飛ばされて冷静に対応してるの!? これどういうことなの、鎮西!?』
『黙れ、カス』
相良の必死の質問を鎮西は暴言を持って切り捨てた。
『解説できなくなると暴言になるの止めろ……!』
『鎮西リーダー、先ほど、道合選手のカスタムが鷲島選手の死因に繋がったとありましたが、その辺りのご説明を聞いてもよろしいですか』
相良の言葉に被せるように高砂が鎮西に問いかけた。
『道合が威力のスライダーを付けていたのがポイントだ。道合は初弾と二段目を最大威力では撃たなかった。三発目以降から、高威力のもを混ぜるような形だ。道合は、威力を変えながら狙撃している。こうすることで、鷲島のシールド調整に負荷をかけた』
『……なるほど、そういうことでしたか。しかし、道合選手が十連射もしたのは初めてでしたね。今回の西山選手相手には五発しか使っていませんし、そもそも道合選手は本来は一発一発が重い選手です。ほとんどの選手が一撃でダウンします。あの状況で四射目まで生きていた西山選手も相当強いですが、こんな常識外の状況でここまで耐えた鷲島選手は、まさしく異常でした……本当に異常です。防御能力と対応力が高すぎます。急上昇し続ける鷲島選手を射貫く道合選手も異常ですが、鷲島選手はこれを何発か防いでいます。異常な生存能力です』
『そうだな……鷲島の生存能力が高いのは認めよう。戦闘能力に関しても、まあ、十分にあるだろう。だが、チーム戦はそんなに単純なものではない。戦術や連携は、時に戦闘能力以上に重要だ』
『結局なんで空飛んでるかの解説はしないの?』
二人の解説者の問答に相良が再び口を挟んだ。『フロートで飛ばされた』という解説では納得できなかったからだ。
『黙れ、カス』
当然のごとく、鎮西がその問いかけを切り捨てた。
『わかんないの?』
『黙れ』
『カスって言わなくなったね。わかんないの?』
迫るような相良を無視して、鎮西は高砂に意識を向けた。
『高砂、次だ。星川撃破の状況を説明しろ。そろそろ時間がなくなる』
『状況的にもそれが最後の説明になりそうですね……では、針谷選手が雲川リーダーを倒した後ですが、一度大通りに出ます。その少し後、西山選手が西選手を倒して、針谷選手の方に向かいます。この時には、星川リーダーが配置についています。星川リーダーは鷲島選手と飛山リーダーのいる方に銃口を向けている形になります』
針谷・西山・星川のいた戦場の様子を大型画面に表示させながら、高砂が状況の説明を行った。
『星川は突撃銃装備だが、明らかに狙撃用のカスタムをしているな』
『この時、針谷選手の方ではなく、鷲島選手・飛山リーダー側に銃口を向けていたのはなぜでしょうか』
ある程度理解しつつも、解説を促すため、高砂が鎮西に質問した。
『西山なら針谷に勝てると踏んだ。そして、自分はまだ見つかっていないと星川は思っていたんだろう。このまま西山に針谷を取らせ、そして、鷲島と飛山が西山を邪魔しないようにするための妨害準備だな。恐らく……、……星川は鷲島が勝つと考えていたんだろう。結果は相打ちだったが、鷲島が残っていれば、西山の針谷撃破を妨害した可能性がある。それを防ぐために準備していたのだろう』
『なるほど。しかし結果は針谷選手によって星川リーダーは討ち取られました。ここもちょっと動きが難しいのでスロー再生しますが……針谷選手は最初、アクセルを使って、西山選手の方に接近するように見えて、ここで、フロートを無理やり踏んで、さらに加速しながら、星川リーダーのいる一室に飛び込んで、ブレードで心臓を一突きし、星川リーダーを撃破しました。この、アクセル中にフロートを踏んだ後の加速が、ダブルアクセルですか?』
『そうだ。針谷は西山と同じくダブルアクセルが使えたということだ。これまでの試合で使っていなかったのか、それともこの試合で使えるようになったかは分からないが、どちらにしろ針谷はこの技が使えた。そして、それを他のチームは知らなかった。針谷はダブルアクセルとフロートを活用し、星川に奇襲をしかけ、それが見事に嵌った形だ。ダブルアクセルは利点が多い。習得は難しいが、使い方次第でこういった奇策にも使える』
鎮西が説明した通り、ダブルアクセルには様々な利点があった。攻撃にも移動にも、そして回避にも使えるアクセルというカード。それを他者の倍以上使えることは、大きなメリットだ。
そして、今回のように、『連続して使う』という応用技まである。単純にアクセルの射程が大きく伸び、さらには強制的な軌道の変化まで行える。フロートとの組み合わせによる立体的な機動まで可能だ。針谷のような近接役ならば、これはブレード突撃の射程が大きく伸び、旋回性と回避力が上がったと表現することさえ可能だ。
『針谷選手の技術力が、飛山チームがこの試合を制する一手となった、ということですね』
『一助ではあるな。全体の絵図を考えていたのは当然飛山だ。恐らく、この前後の伊舎堂や道合の動きから考えて、星川の動きを飛山は読み取っていた。位置も分かっていたんだろう。星川に悟られないようにな。針谷は有用な駒ではあるだろう。だが、その駒をどう扱うかという視点の方が重要だ。極論、針谷がいなくても別の方法で飛山は勝ちを作れるが、針谷は飛山というリーダーの下でなければ、ここまで活躍することはできない。飛山あっての針谷だ。飛山がいたからこそ、奇襲で星川を落とせた』
『なるほど。しかし、星川リーダーもタダでは落ちませんでした。死ぬ間際に至近距離からの射撃で針谷選手にダメージを与えています。このダメージがこの後の西山選手との戦いでは致命的になりました』
飛山への評価は触れず、高砂は星川の話をした。
『それはそうだ。咄嗟にこういった動きができる面に関して言えば、星川も最低限高ランクの生徒としての能力はあるだろう。だが、それも飛山は織り込み済みだ。むしろ針谷の犠牲で西山を倒し、勝敗を完全に決した。この後の展開は、もう解説したし、ただの消化試合だから振り返らない。そして、結果だ。飛山チームの勝利、11点の圧勝。まあ当然の結果ではあるな』
しかし、飛山の話へと鎮西が戻してしまった。
高砂は少しやりにくさを感じ、そして、そんな元チームメイトの心境を感じ取ったのか、相良が再び茶々を入れる。
『飛山ちゃん大好きすぎる。ちなみに、飛山選手は今回0点でした。これは別に悪いことではないですが、でも今回0点でした』
『黙れ、雑魚』
『確かに飛山リーダーが0点というのは珍しいですね。飛山リーダーは非常に得点力が高い生徒です。これまでの試合の平均得点が4点とエース級ですから。飛山リーダーが0点に抑えられた、と見ると、鷲島選手の脅威が感じられた試合かもしれません』
どこか他人事のように高砂が飛山の得点力について触れた。
『全体の指揮と戦術、鷲島への対応を行ったことを考えれば、それは飛山の落ち度ではないな。というより、0点を探すならいくらでもいるだろう。今回の参加生徒は半数以上が0点だ。特に南・西・喜多見・金崎、こいつらは何もやっていない。こいつらは、ただただ得点だった。南と西は脳に問題があり、喜多見と金崎は能力が致命的だ。見るに堪えない。俺はもうこいつらの解説はしたくない。次、こいつらの試合に俺を呼ぶことは許さん』
『偉そう! そもそも――、え、また、ストップ……?』
鎮西の傲慢な態度と言葉に応じるために、相良が言葉を挟もうとしたが、それは高砂に抑えられた。
『すみません、本当に時間が押しているので。鎮西リーダー、姫乃選手・黒井選手・雲川リーダーに関して、何か良かった点はありましたか?』
『……、姫乃と黒井はAランクとしては能力に問題はあるが、動きは悪くなかった。最低限の動きはしただろう。今回の星川チームの戦術は【隠蔽しながら、西山で点を稼ぐ】である以上、その作戦に沿って動き、そして、不測の事態が発生すればそれに柔軟に対処する。それは悪くなかった。実際に西山が3点取れたのは、西山の能力や運の良さもあるが、他の三名の行動も大きい』
二人の自然な連携に僅かな苦々しさを覚えつつも、鎮西は仕方がなく飛山以外の生徒を評価する言葉を口にした。
『星川チームの隠蔽戦術にはある程度の理があった、ということですね』
『飛山チームへの対策として考えたのは評価する。だが、今回は隠蔽で負けたとも言える。隠蔽で飛山を妨害したかったんだろうが、結局、その裏をかかれて星川は倒れた。素直に得意の射撃戦をやっていた方が星川という駒を有用に使えただろうな。星川は【隠蔽】を意識し過ぎた。
……まあ、これも結果論ではある。隠蔽を捨てていれば、飛山はそこを突く。より結果が悪くなることもあっただろう。ただ、今回は、針谷のダブルアクセルや道合のスライダーサプレッサー戦術、単純に道合の技術力の向上、飛山の超空中投げ飛ばしなど、飛山が手札を揃え過ぎていた。戦う前から負けていたとも言える』
『……雲川リーダーに関しては何か良かったことはありますか?』
少しだけ悩みつつも高砂は一歩だけ踏み込んだ。
『運が良い。これに尽きる』
淡々とした鎮西の回答。しかし、そこには弱者を見下すような含みはなかった。ただただ真剣な言葉であった。鎮西をほどほど以上に知っている高砂としては、それは意外な反応のように思えたが、同時に、ある意味で鎮西らしい回答だと思った。運の良さは大事なことだ。この学園で戦ってきた高砂は、それを良く分かっていた。
『……なるほど。興味深いお話です。そろそろ時間的に締めですね。個人的には、中チームがあまり活躍しなかったのが心残りでした。動きがやや消極的で、普段の連携の良さが見えないのが少し気になります。爆発力が売りのチームですが、今回は若干自爆気味だったかとも思っています。すみません、これはただの感想です。ただ、なんとか、放送事故にギリギリならずに実況解説を終わらせられそうで、今はほっとしています。最後に、相良選手、何かありますか?』
終了時間寸前となったこともあり、高砂はやや早口気味に最後の言葉を口にし、そして、実況としての締めの言葉を相良に託した。
『え、あ、えー、なんだろう。えー、まあ、高砂ありがとう。後半なんか俺、あんまり喋ってなかった気がする。えーとえーと、あ! とりあえず、鷲島選手は凄いと思いました! 鎮西リーダーがなんか死ぬほど叩いてて、やべぇなって思いましたけど、よくよく考えると、こいつここまで喋るのは逆にだいぶ好きってことだと思うので、もし、このちょっとやべー実況解説を鷲島選手や雲川チームの皆さんが聞いてていても気にしないで下さい! 鎮西リーダーはツンデレみたいなところが、あるので、まあ、本当は大好きなんだと思います!
えー! では、これで第二試合、日曜の部、Aランク帯、飛山・星川・中・雲川のチームの実況解説を終わらせたいと思いまーす! それでは皆さん次の試合も頑張って! ちなみに、次の試合の実況解説は二年生の最後の実況解説です! 次の次からは一年生の皆さんで頑張ってもらいます! 頑張れー!!』
相良は、焦りつつも、必要な言葉を必死に並べるのであった。