学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
第二試合、、日曜の部、Aランク帯『飛山・星川・中・雲川のチームの戦』終了後、帰還室にて、四人の少女が輪になって飛び跳ねていた。
「勝った勝った勝ったー! 勝った勝った勝ったー!」
「か、勝った、……勝った勝った……!」
「かったかったかった、かったかったかった」
「……勝った勝ったー! 勝った勝った勝ったー!」
リーダーの飛山は明るく盛大に、狙撃手の道合は困惑感を覚えつつも必死に飛山に付き合い、暗殺者の針谷はただただ飛山と同じ言葉を再生し、そして『目』である伊舎堂は目の前に映る光景から目を背け必死に口を動かしていた。
飛山チームの四人はそれぞれが手をつないで輪を作っていたのだ。そして、輪になって勝鬨を上げながらぐるぐると右回りに回転していた。中心となる目印がぶれないために、四人の少女は跳ねるようにぐるぐると何周も回ることができた。
ぐるぐる、ぐるぐると回る四人を淡々と見ながら、鷲島鷹一は口を開いた。
「そろそろ終わりでいいか?」
「もうちょっとやりたいので、そのままでお願いします……!」
飛山が周りながら答えた。ちょうど鷹一の目の前を通り過ぎた伊舎堂は、愛想笑いを浮かべつつも、『何でこんなことをしているんだろうか』と困惑した。
「あと一周でいいか?」
淡々とした鷹一の言葉が、伊舎堂の代わりに目の前に来た飛山へと向けられた。
「あと三周……! 三周したい……!」
答えつつも飛山は鷹一の正面から外れ、次の正面には道合が来た。必死に声を出す道合を見て、鷹一は僅かな哀れみを感じた。
「わかった」
しょうがないとばかりに鷹一は飛山チームの勝鬨の儀式が終わるのを待った。
なぜ待っているかというと、これが終わらなければ鷹一は動けないからだ。
なぜ動けないかというと、それは、飛山チームの四人が鷹一を中心に手を繋いで輪になり回っているからだ。終わるまで鷹一は出ることができないのだ。
そしてそんな五人の様子を、少し離れた所から、西が何度もシャッターに収めていた。この珍妙な儀式が始まった時、『おもろの波動』を感じ取った西は素早く五人に許可を取り、写真を撮る権利を得たのだ。
パシャリ、パシャリと音がなり、その場で素早くプリントされ、それを素早く南が回収する。回収した決定的瞬間の映像を見た南が思わず呟いた。
「鷲島飛行士、地上帰還後、管制官たちとお祝いムードって感じ。てか、これ無駄に写真が上手いな……! 上手すぎてキモいレベル……!」
「アクセルが使える上に、アサルトライフルの名手でブレードが使えて機動力があって頭も良くて顔も良くておもろな上に写真を撮るのまで上手くて本当に申し訳ないっ……!」
極限の集中力でシャッターチャンスを見逃さないようにしつつも、西は、素早く一息で自分のアピールポイントをまとめ口から出力した。
「嘘をつくな」
南は素早く切って捨てた。
西は自分の持っている『東探知レーダー』から素早く対象の方角を見つけ、そちらにアルカイックスマイルを向けながら定型文を放った。
「ウソジャナイ! ウソジャナーイ!」
東は不快な気分になりながら、不動の構えで事態を見つめる中を必死に動かそうとした。なお中チーム最後の一人である喜多見は、帰還室の出口とチームメイトを交互に何度も何度もちらちらと見ていた。
既に帰還室から去った星川チーム、鷹一の代わりに一人で金崎を探しに行った雲川を除いた全員が試合が終わったにも関わらず未だに帰還室にいる。
何とも言えない状況に鷹一は溜息が出そうになるのを堪えつつも、ぐるぐると周る飛山チームが止まるのを待つのであった。
※
無事、宣言通り三周で解放された鷹一は、飛山と少しだけ話をして、帰還室を後にした。ちょうど、帰還室側に戻ってきた雲川・金崎と合流し、一度、ホームであるBランクマンションへと戻った。
鷹一は、想像していたより落ち込んでいる雲川と、思ったより落ち込んでいない金崎の二人を見つつ、今回の試合を振り返った。
「とりあえず、今日の試合は終わった。得点だけ見れば、あまり良くないような結果に見えるかもしれないが、個人的には悪くない試合だったと思っている。飛山チーム相手に二点というのは、そこまで悲観的な点数ではない。今の雲川チームと飛山チームの差が現れた結果だと思っている。
それに、戦略的に見れば、Aランク上位に対して、俺たちはやや不利な状況で二点を取れた。Bランク残留を考えるならば悪くない結果と言える。色々と学べる点もあったしな。それに良いこともあった。さっきの試合のログを少し確認したんだが……」
そこで鷹一は一旦言葉を切って金崎を見た。
いつもと同じように淡々とした鷹一の態度。表情も冷たく視線も冷たい。今も冷たい視線を金崎に送っている。何もかもが冷たい外面を持つ雲川チームのエース。勿論、金崎は鷹一を冷たいなどとは今はもう感じていない。
「金崎、見事だった。あの西山相手に、あそこまで粘った。正直に言うと、お前ではまだ西山の相手は厳しい。一撃すら防げない可能性が高いと俺は思っていた。シールドを集中させる技術は、まだお前には教えていなかったが、それを試合で成し遂げるとはな。恐らく、これまでのお前の訓練の成果、ずっとしてきた努力が試合の中で特殊な成長を促したのだろう。あの一連の防御は見事だった。よくやった金崎」
尊敬している師からの温かい称賛を受けた金崎の胸中は驚きと困惑であった。そんな金崎の表情を見て、鷹一は少しだけ疑問を感じ、そして雲川はハッとした顔になって作戦室から駆けだした。
突然、作戦室から出ていく雲川に対しては、二人はぼんやりと『何が起こるか』を予想しつつも、それには深く追求しなかった。いや、金崎に関しては追求よりも、鷹一に返す言葉を考えるのに必死であった。
「え、あ、いや……それは……その、えっと、ありがとう……いや、それよりごめん。またすぐ落ちちゃって……!」
「いや問題ない。あの状況では基本的に助からない生徒が多い。Bランクの多くの生徒は、西山との戦いでは生き残れないだろう。負けて当然とは言わないが、勝てない戦いだった。
そして勝てない中でも、お前は必死に食らいついた。それは今までのお前の努力が現れていたし、そして、今回の西山との戦いの経験は必ず糧になるだろう。西山は強い。西山と何合も打ち合ったお前は俺の想定よりずっと強くなってる。次の試合ではきっともっと強くなってる」
じっと真剣な視線が金崎へと注がれた。圧倒的強者にして尊敬する師匠の真剣な言葉。それは嬉しくもあり、そして何とも言えない恥ずかしさを金崎に感じさせた。
必死に鷹一の視線に応えるように、金崎は言葉を作った。
「あ、ありがとう……! あ、でも、ただ、ちょっと問題があって……あのシールド、本当は俺がやったんじゃないんだ。咄嗟に出たんだ。咄嗟に。だから俺の力ではないのかも……?」
精一杯の感謝の言葉を作りつつも、同時に、試合中に感じた疑問を口にした。
「咄嗟にシールドが出たということか?」
「う、うん! あ、いや、それだけじゃなくて、ブレードも咄嗟というか、何となくというか……! あんまりちゃんと考えてなくて、なぜか、できたというか……正直、同じことをやれと言われてもできる気がしないんだ……なんかたまたま西山相手に上手く立ち回れたというか、なんか、俺の力じゃないみたいな……? ごめん、多分なんか、凄い変な事言ってる……?」
「いや、大丈夫だ。なんとなく言いたいことは理解した。恐らくだが、俺はお前の実力が出た面が強いと思う。勿論、運の良さや勝負強さ、言葉では言い表せないが何らかの感覚があったなどなど、色々と原因は考えられる。
ただ、基本はお前の実力――今までの努力の積み重ねが、あの場で現れたのだと思う。勿論、たまたま上手く行った点はあるだろう。反射でシールドが上手く展開できたという面もある。紫苑なんかは試合の方が訓練より強いしな。お前も完全にそのタイプとは言えないかもしれないが、そういう要素だってあるだろう。だが、基本はお前のこれまでの訓練の成果だ。お前の性格的にも、今回の試合結果的にも、誇る気持ちにはなれないだろうが……だが、それでも、お前の力が出た試合だったと俺は思っている」
「そ、そうなのかな……? なんか、俺は自分の力じゃなくて……いや、でも確かに、そうなのか……? ごめん、なんか、色々と混乱してて……いや、というか、そもそも、俺、成長してるのかもしれないけど、結局二連続で何もしなくて落ちてて……」
またしても後悔と懺悔に落ちそうになる金崎を、鷹一の冷たい視線が貫いた。
「それを言い出すと、今回の試合は恐らく、俺の思考が飛山に完全に読まれていたことが敗因だな。それにあのフロート技術……正直、お前よりも紫苑よりも、役割を考えると、俺の方が反省するべきだろう。ただ、俺たちの直近の目標はBランク維持。全く反省しないのは問題かもしれないが、あまり気負いすぎるのもよくないだろう。それが逆に次の試合や、次の試合までの訓練の悪影響になるかもしれないからな。だから、金崎、あまり気にするな。俺もあまり気にしないようにする」
「いや――俺は、鷲島は全然――! むしろ、道合や飛山なんか相手に……あ、いや、違うか。そうだな……確かに気にし過ぎは良くないよな……とういよりごめん。なんか二試合連続、こんな話をしてもらって。それにたぶん雲川さんにも……あ」
そこまで金崎が話をしたところで、リーダーである雲川が作戦室に戻ってきた。一週間前と同じように、プリンとスプーンを持って。
「か、金崎くん……これ、食べて……おいしいよ……!」
そう言って、手に持ったプリンとスプーンを差し出した。
金崎は『やっぱりか』と思いつつも、心の響くものを感じ感謝と共にリーダーの慈しみを受け取った。
なお鷹一は、『味を占めたな』と幼馴染の行為を少しだけ冷たい目で見ていた。
プリンを食す金崎を、どこか真剣な瞳で見つめる雲川。そんな雲川を視界に収めつつも、鷹一は気になったことを口に出した。
「紫苑、そういえば、あの時、なんで振り返ったんだ?」
「あの時……?」
雲川は首を傾げた。
「ダウンする直前。針谷に倒される直前、振り返っていた。恐らく、『逆認識』は発動していなかったと思うが、なぜ振り返った? 針谷が迫っていることに直前で気づけたのか?」
「う、うん……?」
幼馴染の質問の意味が良く分からなかったが、それでも『たぶんそう』という意味を込めて雲川は言葉とともに頷いた。
「気づけたのか?」
再度、鷹一が確認の問いかけをした。
「う、うに……? か、かっぱまき……?」
何となく質問の意味が分かった雲川は、必死に考えて彼女なりの言葉で返した。なお、意味不明な言葉であった。
「…………そうか」
鷹一はこの場での理解を諦めた。恐らく今この瞬間、幼馴染の脳内を占めている思考の大半はプリンと寿司だ。この場で問いかけても鷹一が聞きたい答えは聞けないだろう。
ゆえに、鷹一は、後でこれらのことを調べることにした。無音で接近する針谷とそれを操縦する飛山。どちらか一方でも事前に察知する手段があるのならば、それは今後の試合において大きな力になり得ると感じたからだ。
ただ、今は聞かない。試合までの訓練に、試合中の集中、試合後の疲れている中で金崎を気遣う心、努力しているのは今や金崎だけではない。雲川も頑張っているのだ。ゆえに、試合後に今、不思議な状態にある彼女を質問責めするのは好ましいことではなかった。勿論、単純に今聞いても答えが得られないので効率的に考えて聞くべきではないというのもあったが。
いや、それよりも今の鷹一には小さな問題があった。そう、寿司屋だ。
(普段の流れを考えると、今日か明日に寿司屋に行く流れではあるのが……今回は敗戦だ。それも初の敗戦。ZPの分配も考えると寿司屋に行くのは確実に赤字。そもそも現状チーム予算は足りていない。梶田チームからの試練報酬を全てチーム予算に割いたとしても、今後の試合の勝敗を考えると……今回は行くべきではないな。だが……)
鷹一は、じっと雲川を見た。ぐぐぐと瞳に力を入れながら、プリンを食す金崎を見ている。見られている金崎は頑張って、普段以上に嬉しそうにプリンを食べていることが鷹一にも分かった。そんな笑顔を作る金崎を見て、雲川は何か大切なことをやり切ったかのような顔になり、小さく頷いた。
――試合までの訓練に、試合中の集中、試合後の疲れている中で金崎を気遣う心、努力しているのは今や金崎だけではない。雲川も頑張っているのだ。
一瞬だけ鷹一は悩んだがすぐに決断した。
「紫苑、大事な話がある――」
寿司屋にはいかない。
心を鬼にして鷹一は、必要なことを幼馴染に告げた。
雲川は、鷹一の言葉を理解するのに時間がかかった。それゆえ、まるで言葉を失ったかのように無言になった。
十数秒の間、無言の雲川を鷹一と金崎は無言で見つめた。
時間が過ぎ、全てを理解した雲川ははどこか寂しそうに――
「うん……」
――と、呟き小さく頷いた。鷹一の言葉を受け入れた証であった。
そうして、しょんぼりとした後ろ姿で、のろのろと自室へと去っていくのであった。
哀愁漂うリーダーの背中姿を見て、金崎は『行ってもいいんじゃないか』と感じてしまい、思わず、尊敬する師に意見しようと考えてしまった。
しかし、すぐに、『いや、ここで口出しするのは良くない』と考えを改め、口を閉ざしたのであった。
雲川チームは第二試合の後に寿司屋に行かなかった。
そして同時にリーダーである雲川は、『敗戦』の重みを知ったのであった。