学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
五月第二試合日曜の部、午前の試合を終えたお昼時、飛山チームの四人は、防音個室のカフェに集まっていた。
勝利を祝い景気付けに軽く一杯やりつつ、ちょっとした反省会を込めた催しであった。
労いの言葉、勝利を喜ぶ言葉、練習の成果の確認、各自の動きが正しかったかの検証、戦闘中の予想が正しかったのかの考察などなどの言葉を重ね、一段落ついたところで、伊舎堂が何気なく飛山に話しかけた。
「そういえば、花火職人、本番でよく決まりましたね」
「運も良かったけど、頑張ったからね~。まあ今のところ、対アクセル使いにしか効果がないんだけどね」
「アレ、未だに原理が良く分からないですけど、何であんなに飛ぶんですかね? というか、零さん相手の時より飛んでませんか?」
伊舎堂は、試験運用時に何度も空中射出に付き合わされた零の呆れた顔を思い出した。
「あれは、うん、私も驚いた……アリシア相手に100メートルくらい吹き飛ばせたから鷲島君なら200メートルいくかと思ってたけど、アレたぶん400メートルくらい飛んだね」
「アクセルの加速が大きいほど飛ぶってことですよね……?」
「たぶんそうだよ。アクセルの加速が大きいほどぶっ飛ぶ。逆にアクセル使ってない相手にはあそこまで飛ばしたりはできない。だから、現状だと対アクセル使い用の技だから、上位チームにはあんまり有効打にならないかな。上位でヤバいアクセル使いはアリシアと鷲島君くらいだからね。まあ、それ以前に花火戦法はそこまで成功率が高くないんだけどね」
飛山が試合中に使った技――フロートを使った打ち上げ技は未だ完成とは言い難い技であった。特定条件下でしか使えず、成功率も高くはない。今回の試合では様々な条件が重なり、さらに運にも恵まれて、なんとか鷹一を空中に発射できたのだ。ゆえに、今後は、成功率の上昇や必要条件の緩和が課題となっていた。
「ま、アリシアとは三年間マッチングしないだろうし、実質鷲島君特効の技だね~。でも、今回出せてよかったかな、鷲島君をびっくりさせられたし、あとワンチャンしばらくの間、皆、飛山龍華に近づくと花火されるって思ってくれるかもしれないしね。いやー、解説しないでくれた鎮西先輩には感謝だね」
今回、飛山がこの技を使った理由は多岐に及ぶが、その中の一つとして、『まだ未完成かつ使用条件が厳しい技』を敢えて使うことで、周囲に警戒を促すという意図があった。元々使いにくいカード、使う機会があまりないのであれば、敢えて使い、相手に対策コストを割かせる。現状、試合と試合の間は一週間しかない。ゆえに相手チームの戦略に負荷を与えるのは有効な策の一つであった。
そういった飛山の考えを伊舎堂は読み取りつつも、彼女のある言葉が気になってしまった。
(三年間……やはり零チームとの同盟を切る気はありませんか……強いチームですし有用な生徒も多いですが、そこは柔軟に――いえ、これは出過ぎた考えですかね。かなりフリーハンドにやらせて貰っていますし、最低限の枠組みくらいは守らないといけませんね)
伊舎堂が僅かに感じた未練に向き合う一方で、道合がおずおずと手を挙げた。
「龍華さん、質問してもいいですか?」
「お! 何かな、何かな……!」
うきうきとした表情と態度を作りながら飛山が答えた。
「えっと、その、結局、龍華さんは、今回の勝ちってどのくらい読めていたんですか……?」
「ふむ。中々難しい質問だね……まあ、試合が始まる前は、まあまあ勝てるかなーとは思っていたよ。試合直後は、初期配置がちょっとアレだったから、不味いかなーとは思ってたけど、運が良かったり、あと、皆がそれぞれ運を引き寄せる努力をしたり、ミスをせず、逆に相手のミスを拾う動きが上手かったから、良い感じに勝てたかなーって思ってるよ。
あとあと、中盤で、花火戦法が決まったのが大きいね……! 私の運が良かったのと、道合さんのスーパー狙撃が重なって、鷲島君撃破の流れは熱かったね……!」
「あ、ありがとうございます! やっぱり、鷲島君を完璧に釣り上げたのも龍華さんの作戦だったんですね……!」
「うーむ、それは半分そうだけど半分違うというか……何て言うのかな、鷲島がどこへ行ってもそれに合わせて対応する予定だったんだよね。
ただ、正直、ガチで
「ぜっころ……龍華さんのところに鷲島君が突っ込んでくることですよね……! やっぱり、アレが一番キツかったんですね……!」
「うんうんそうそう。ガチ絶殺は、あるかもなーとは思ってたんだけど、現実でやられるとヤバいね。いやー、本当にキツかった。正直、あの一連の鷲島君との攻防はここ数年で一番集中したと思う。谷崎さんと石河さんと一緒にダンスしたときよりキツかった。もう戦いたくないから、鷲島君はぜひ花火戦法に悩んでほしい。飛山龍華は攻略が大変な女だと誤解してほしい……! 実はアクセル使わないと余裕で倒せるチョロい女だって気づかないでほしい……!」
「そこまでだったんですね……! やっぱり鷲島君は強い……! あ、でも、今回は凄く早く鷲島君の居場所が分かりましたよね。あれってなんでですか? 解説の先輩方が言うよりも早く気づきましたよね」
『鷹一は大通りを渡った時飛山に目撃された』と第二試合解説役の鎮西は言っていた。しかし、飛山チームはもっと早く鷹一の位置に気づいていた。試合開始とほぼ同時に、まだ誰にも目視されていない鷹一の居場所を飛山は分かっていたのだ。
「おおー、あれね。あれは実は鷲島君の数少ない弱点の一つでね。まず開始直後、伊舎堂さんの大出力レーダーに鷲島君は映ってた。それプラス針谷さんの逆認識が発動していた。この時点でかなり鷲島君っぽいと思ったんだけど、そこで、レーダー光点が荒ぶるわ荒ぶるわ。単純に機動力が速いのもあるけど、一番は加速度が大きすぎるんだよね。人間ってあんなに速く動けないし加速できないんだよ普通。だから重装備で無茶苦茶速い駒がいたらそれはもう鷲島君です。鷲島君は速すぎるので、アンノウンだったとしてもレーダーに映る光点が理不尽に速く動いたらそれは鷲島君ということになるのです。
あと、まあ、ついでに『おまけ』を付け足すと、初動、南さんが誰かを砲撃したじゃん? あの砲撃で落とせる相手ってあんまりいないんだよね。南さんはちょっとおふざけな所もあるけど、基本的に頭が良い子だから、『有効』な攻撃をする傾向がある。だからあんまり強くない人を狙っていると思ってて、そこにダッシュで駆け込む人がいるってことは、なんとなくだけど、あんまり強くない人を助けたいっぽい動きだよね? 鷲島君と金崎君か雲川さんのどっちかっていう組み合わせだとそれっぽいよね? まあ、これは、単に、砲撃先の近くに西君とか東君とかがいたって可能性もあるから確度はそこまで高くないけど……逆説的に、中盤以降の駒割れがあったから、『あ、序盤で落ちたの金崎君だったんだな』とは思ったかな」
「な、なるほど……! 複雑ですね……!」
「えへへ……!」
「流石は龍華さんです! あ、あと、伊舎堂さんが南東側を偵察したのは、やっぱり南東側のケアですか……?」
「ありがと、ありがとう……! ええっとね、伊舎堂さんの偵察はかなり複雑で、色々意味があるんだけど……ええっと、そうだねー、結果的に、あの行為は、星川さんを一方的に知る状況を作りたかったのと、あと乱数調整、というか好感度調整って感じになったのかな? 鷲島君の防衛圏に伊舎堂さんを入れたくなかったんだよね。もっと中央側に行くと伊舎堂さんへのヘイトがヤバい。
まあヘイト稼いで伊舎堂さんがフィッシングしてもいいかなとも思ったけど、そうすると雲川さんをロストしそうで嫌だったんだよね。私としては、あの時の気分は雲川さん絶殺だった感じ」
「雲川さん、ですか……? でも雲川さんって……あ、いえ、その雲川さんが悪いわけじゃないですけど……」
道合にとって雲川は不思議な相手だ。不思議な方法で戦う狙撃手だ。だが、それは警戒してるわけではない。
『最強狙撃手』道合杏奈から見れば、狙撃手としての雲川は脅威ではないのだ。あくまで少し気になっただけの相手であり、そして、もう既に『学び取ってしまった』相手だ。そういう意味では、現段階では興味も薄れていた。だって、もう学び取れるところはないのだから。そして、道合から見れば、飛山という敬愛すべき偉大なリーダーが、雲川を倒すために手数を割いたのが奇妙に思えたのだ。
「ふむふむ、なんとなく言いたいことは分かるよ。でもちょっと、私としては、できるだけ早く雲川さんに退場してほしかったんだよね」
「それは、どうしてですか……?」
「だって雲川さん、鷲島君取ってったじゃん。大して実力もないのに。ズルくない?」
じっと虚無色の瞳が道合を捉えた。
「え――?」
リーダーの想定外の言葉に道合は固まった。いや道合だけではない。針谷も伊舎堂も、リーダーが発する異様な圧に凍り付いた。
飛山らしからぬ言葉に、飛山らしからぬ態度。
道合は敬愛する優しいリーダーが表した冷淡さに動けず、暴力に詳しい針谷は思わぬ『暴の圧』に気圧されてしまい、そして最も飛山を恐れていた伊舎堂は強い恐怖を感じた。
時間が止まったかのように誰も動けずにいると、飛山はコテっと自分の頭を拳で軽く叩きながら、にへらと笑った。
「じょうだん……! 冗談です……! ヤンデレ飛山龍華です……! 最近ちょっと自分のキャラが薄いから、キャラ付けしようかなって考えたんだけど、あんまりウケなかったね……! もっと中チームから『おもろ』を学ばないとダメだね……! あ、でも突然なキャラ変ってテコ入れっぽくなって打ち切り漫画感あって良くないかな? 好感度爆上げにならないかな……!」
「あ、あー! そうですね……! ビックリしました! 龍華さん、演技すごく上手いです……! やっぱり龍華さんはすごいです!」
おちゃらけた風な飛山の言葉に、道合は驚きつつも、素直に彼女の言葉を受け入れ、また納得した。さっきの虚無色の飛山は道合からすると完全な未知の存在であり、逆に今の飛山の方が飛山らしいと感じたからだ。偉大なリーダーは演技も上手い。納得であった。心に残りかけた僅かな恐怖を、それを上回る敬愛で塗りつぶすことで道合は己を保った。
他方、針谷は、無言で飛山の先ほどの圧を考えた。演技とリーダーが言うなら、針谷はただそれを信じるだけだ。自分には飛山の虚も実も分からない。分からないが飛山の言葉に従うのは概ね正しいことはこの一か月半で理解している。ならば、飛山の言葉を信じるだけだ。雲川が憎いのなら、憎いのだなと思うし、それが冗談と言うならば冗談と思うだけだ。ただ、それでも針谷には疑問があった。
圧だ。鋭い暴力の圧。針谷は、暴力には一家言ある。人に暴力を振るったことも振るわれたことも数えきれない程ある。実際、針谷はあの大町百合の暴力の師匠でもあるのだ。ゆえに、『自分は飛山チームで一番暴力的な人間である』と針谷は考えていた。その自分が、気圧されるほどの『暴の圧』を飛山が出したのだ。これまで暴力など口にも態度にも雰囲気にも出さなかった飛山の思わぬ実力に、驚きと興味が沸いたのだ。
そして同時に思ったこともあった。
「たぶん龍華は面白いことやるの下手だから止めた方がいい。冗談が本気に取られて本気が冗談に取られるタイプ。滑る」
なので、思ったことを口にしてみた。
「ぐぇー、飛山龍華に100ダメージ……!」
淡々とした針谷の指摘に、潰れた蛙のような声を出した。普段の飛山チームの空気に戻っていく三人を見ながら伊舎堂は恐怖を必死に抑えていた。
(今のって、どっちですか……? 本気……ではないと思いますけど……完全に嘘ってわけでも無さそうですよね。思ったより最強さんに関心があるということですか……いえ、でもそれをわざわざ針谷さんどころか道合さんにまで見せる意味は……? 道合さんを引き締めたかった……? いえ、今回は勝ち試合ですし、道合さんは過去最大の戦果を上げています。色々な意味で飛山さんらしくないですし……いえ、道合さんの感情の管理なんて飛山さんならすぐできるし、針谷さんはそこまで気にしない……そうすると……、……、……? ……え? 私……? 私に言ってますか……? え、なんで、え? もしかして、何か怒ってますか……?)
強い恐怖を感じた伊舎堂は咄嗟に声を上げそうになるが、それを抑えた。そして必死に思考し、絞り出すように言葉を口にした。
「……ちなみに、なんですけど、……飛山さんが雲川さんを狙ったのは、鷲島君との連携を恐れた、あとフリーになったときの行動がやや読みにくい、それと単純に雲川チームの浮き駒の放置は盤上的にも得点コントロール的にも良くない、って感じですかね……?」
飛山の考えを補佐するように、道合と針谷に戦術を説明するように、そして先ほどの飛山の『冗談』の意味を確かめるように慎重に伊舎堂は言葉を紡いだ。
そんな伊舎堂を見て、飛山は飛び跳ねるように、喜びと感動の態度を作った。
「おおーー! 心が読めるのか……! 流石です……! 今、伊舎堂さんが全部言った通りなんだけど、雲川さんと金崎君は、基本的に即排除しないといけないんだよね。鷲島君は単体でも死ぬほど危険なのに、サポートする二人を残しておくのは普通に凄く危険。あと二人とも見つかると落ちやすいから、他のチームに取られちゃうリスクもあるね。
あー、あとあと、突然雲川さんを倒して、鷲島君をびっくりさせるっていう意味もあったかな。これは効果があったか微妙だけどね。決して、私がヤンデレムーブしたくて狙ったわけじゃないよ……! 飛山龍華はこれまで通り清楚キャラでいきます……! ヤンデレキャラではありません……! あ、でも鷲島君には、非情な経営者キャラだと思われてて、もう手遅れかも……!?」
おちゃらけ倒した風な飛山の態度。伊舎堂は未だに恐怖が消えなかったが、しかし同時に僅かな安堵を覚えた。
飛山からの称賛だ。勿論、伊舎堂から見た飛山は、誰が相手でも――それこそ敵対者であっても、これから利用する相手であっても、切り捨てる寸前の相手でも、笑顔で称賛することができる人間だ。
ただ、それでも、今の飛山の称賛のすべてが嘘だとは伊舎堂には思えなかった。まだ自分は大丈夫なはずだ。自分はまだ使えるはず。自分を切るのはリスクがある。リスクとリターンを考えればまだまだ大丈夫なはずだ。切り捨てるとはっきり考えているならば少しは態度に出るはずだ。だからまだ自分は大丈夫だ。
僅かな安堵を使い必死に恐怖を遠ざける伊舎堂は、今日中に飛山と話し合う必要があると思った。
――何を怒らせてしまったのか。まだ自分は許されるのか。自分の改善すべき点は何なのか。
そういったことを話し合う必要があった。