学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
本編の時系列だと「雲川紫苑」あたりの話です。
※ちなみに5月第二試合は5月18日~19日です。
★登場人物紹介
【
後の雲川チームのリーダー。
小柄で弱そう。戦闘適性順位238位。かよわき生き物。
収容区出身であり、少し特殊な方法で学園に入学した。
【
後の蓮チームのエース。
戦闘適性順位三位の怪物。
雲川と一時寮が同じ。雲川からは怖い人だと思われている。
【
後の高光チーム所属の通信担当。
高魔力。
雲川と一時寮が同じ。雲川からは厳しい人だと思われている。
【
後の麻倉チームのリーダー。
穏やかで優しい。人徳と人望がある。
雲川と一時寮が同じ。雲川からは優しい人だと思われている。
四月二日。
新一年生が入学して二日目となる日の朝、雲川紫苑は気持ちよく目覚めた。
雲川の寝起きは、あまり良くはない。特に、ここ数年は悪いと言える。
しかし、どういうわけかこの日は目覚めが良かった。
雲川は不思議に思った。
なぜなら、目覚めが良くなる理由がないからだ。昨日、無事入学を果たした雲川であったが、いくつも問題が発生したのだ。そして、その問題の中で、特に大きいものは二つあった。
一つは、学園からの通知で『リーダー』に選ばれてしまったことだ。つまり雲川は、少なくとも一人以上仲間を作らなければ今月末には学園を追放されてしまうのだ。弱く鈍い生き物である雲川には難しい課題であった。
そしてもう一つは、一時寮の存在だ。四人で一か月の間、共同生活をしなければならない。どんくさい雲川にはこれもまた難しい課題であった。
そんな苦難が昨日提示されたにも関わらず、雲川は寝起きが良かった。
頭に疑問符を浮かべながらも、『もしかしたら良いことがあるのかもしれない』と思った雲川は、すぐに起き上がろうとして、止めた。
そして息を殺して、時間を確認した。
――早く起きたら、他の皆に迷惑かけちゃうかも……
もし音を立ててしまったら、それは『良くない事になる』と雲川は感じていたのだ。
音を立てて起こしてしまったら悪い、ではなく『良くない事になる』だ。そう『怖いことが起こる』と雲川は感じていたのだ。
けれど、幸いなことに、時間は既に10時を回っていた。どうやら、目覚めが良かっただけで、十分寝坊であったのだ。
雲川はそのことに安心した。
――だって、もうこんな時間なら、きっと『あの人』はいないからだ。
普通の生徒ならば授業に行っているか、行っていないとしても、試練対策や試合対策を行うはず。間違ってもこんな小さな部屋にいるわけがないのだ。
安心しながら、雲川はなんとなく横を向いた。まず視界には、二段ベッドの下部分に整えられた布団が置いてあった。これは雲川と同じように二段のベッドで下を占有することになった麻倉優愛の領域であった。主の姿はなかった。当然だ。リーダーとしても生徒としても、雲川より遥かに真面目な麻倉は、既に活動しているからだ。
『たぶん皆もうどっかに行ったんだろうな』とぼんやり思いながら雲川は視線を彷徨わせて、次の瞬間、ぞっとした。
なぜなら、生首が見えたからだ。
「おはよう。雲川ちゃん」
生首――正確に表現するならば、二段ベッドで雲川の上の空間を占有している少女が、首だけ上から出して、雲川のいる下層をのぞき込んでいたのだ。雲川から見ると逆さ首に見えたのだ。
もちろん、雲川だって理解している。これは別に討ち取られた首級ではない。ちゃんと生きている少女だ。だが、それがますます怖いのだ。
だって、雲川が音を立てないようにしていたのは、この少女を起こしてしまうのを恐れていたからだ。
「雲川ちゃーん、おはよー」
再度、無言で固まる雲川に少女――青井舞美が笑みと共にふわりと話しかけた。
「わ、あ、お、お……おはよう……」
雲川は小さな体を震わせた。
「お、お、ってなに? ニワトリの真似? 雲川ちゃん、相変わらず面白いねー。でもニワトリさんなら、もっと早起きしないとね。麻倉さんは、朝6時くらいには起きてたよ? コケコッコーって鳴いたりしなかったけどね。雲川ちゃんはニワトリさんだから、朝早くから
甘ったるい声とともに笑いかける青井を見て、雲川はびくりと体を震わせた。
なぜなら、青井は笑っているようで笑っていないのだ。
目が、笑っていないのだ。
そのことが雲川には、とても怖かった。
「どうしたの? 今、『ビクッ!?』ってしてたよ。心臓の持病?」
「びょ、病気じゃない、よ……」
「へー、そうなんだ。いつも変な風にドクドクしてるから病気なんだと思ってた。ごめん、ごめん、ところで――」
「――ちょっと! 青井さん! 止めなさいよ! 雲川さん、嫌がってるでしょ!」
青井が全て言い切るよりも早く、雲川の斜め上――麻倉のベッドの上から声がかかった。
「……え? なに? 水無月さん? 止めるってなにを? 私、今、雲川ちゃんと仲良くお話してただけなんだけど?」
雲川の方をのぞき込んでいた頭を起こして、青井はルームメイトである水無月の方を見た。
二段ベッドの上同士で視線が交差した。
「――っ! 雲川さん、怯えてるでしょ! 嫌がってる証拠よ!」
「そんなことないと思うよー。雲川ちゃんっていつもこんな感じじゃん」
「そんなことないわ。麻倉さんの前だと、雲川さん、びくびくしないもの。あなたに特別、雲川さんは怖がってるのよ! だから、変に絡むのは禁止よ!」
びしりと、水無月は、青井の方へ人差し指を向けた。
「……よくわかんないんだけどさ、そういうのって雲川ちゃんが決めることじゃない? 水無月さんが勝手に決めることじゃないよね? 第一さ、仮に、雲川ちゃんがビクビクしてる時が怖がってる時だったとしてさ、水無月さんの前でもビクビクしてるじゃん。それってさー、雲川ちゃんは水無月さんのことも怖いって思ってるんじゃない? ていうかさー、私に対するそれよりも、明らかに水無月さんに対しての時の方が震えてるよね、雲川ちゃんはさ」
青井の言葉に、水無月は僅かに気圧された。その間隙を縫うように、さらに青井が言葉を差し込む。
「あんまりこういうこと言いたくないけど、水無月さんって、圧が強いし、こんな風に変な絡み方しちゃうっていうかさー、それって周りの人困らせちゃってるんじゃないかなー?」
(ど、どっちもこわい……でも言ったら怒られる……麻倉さんが、麻倉さんがいい……)
朝早くから一時寮を出てしまった生徒を思い出し、雲川は優しさを求めた。そして、ちらちらと部屋の出口を見た。二人が言い合っている間に、こっそり部屋から出れないかと思ったのだ。
「私のことは関係ないでしょ! 今は、青井さんの話よ!」
「そうかなー? 水無月さんがイチャモンつけてるだけじゃない? 雲川ちゃんだって水無月さんの方が苦手だろうし。ていうかさー、そもそもおかしいよね。水無月さんって朝早くから起きてるのに、何でまだこの部屋にいるの? というか、昨日授業受けるって言ってたよね? 受けなくていいの? あと雲川ちゃん、【頭ぶつけちゃうから】、いきなりベッドから出ない方がいいよ」
二段ベッドの上段でリラックスしながら水無月へと言葉を紡ぐ青井であったが、途中でその矛先が急に雲川へと向けられた。
青井の位置からはベッドの下にいる雲川を見ることはできない。ゆえに、雲川が何をしようとしているのかなど本来青井には分からないはずである。
いや、仮に雲川を目視していても分からないだろう。なぜなら、雲川はまだ何も行動を起こしていなかったからだ。あえて言うなら出口をちらりと見たくらいであったが、当然、青井の位置では二段ベッドの下にいる雲川の目線など分からない。
「ベッド……? もう! また意味分からないこと言って! 私は青井さんを見張ってたのよ! 昨日みたく、また雲川さんに絡むと思ったからよ! そして、やっぱりだったわ! こうなると思ってたから張ってたのよ!」
「え? ちょっと何それ……? 水無月さん、こういうこと女の子に言いたくないけど、ちょっとキモいよ。私のストーカー? っていうか、雲川ちゃんのストーカーなのかな? いくら、雲川ちゃんが小さくて可愛いからって、張り付いてて気持ち悪いよ。ロリコンの男の人みたい。あ、もしかして、水無月さん、『そういう人』……? ごめんねー、私の住んでた区画って、そういう『目覚めてる系』の思想は禁止されてたから、理解とかあんまり無いんだよね~」
「な……! そんなわけないでしょ! 青井さんが……! いえ! そもそも、雲川さん! あなたもハッキリしないとダメでしょ! 雲川さん、言ってあげなさい! 青井さんが困るって! そしたら、私も麻倉さんも協力するわ!」
「え……、え……?」
急に水無月から言葉を投げつけられた雲川は、困惑の声を漏らした。
「ちょっとー、雲川ちゃん困ってるよー? ていうか、水無月さん、さっきから自分勝手すぎない? 雲川ちゃんの考えも、麻倉さんの考えも、勝手に決めちゃってさー。言ってる言葉もよくわかんないし、なんか『危ない人』みたい。もしかして、変なお薬とかやってないよね……?」
青井は、僅かに目を細めた。そして、【視た】。
空間を掌握し、
まず最初に動いたのは水無月であった。
「ちょっと! 危ない人って何よ!? 私、危険な薬なんてやってないわよ!」
怒りから顔を赤くし、声を大きくした水無月。それに対して、青井の体が小さく跳ねた。その動きは、まるで、急に怒鳴られて驚いてしまい、体が変に動いてしまったかのようだった。そして、その結果、青井の足が、二段ベッドの端に重ねられていたペットボトルの蓋に当たってしまった。
複雑な力を与えられた三つの蓋が飛び跳ねた。そして同時に二つのことが起こった。一つは、【雲川がこっそりとベッドから出ようとした】ことであり、もう一つは、【廊下へ繋がるドアが突然開いた】ことだ。
そこから、まるで奇跡のような流れであった。
三発の弾丸――ペットボトルの蓋は複雑な軌道を描き、室内を跳ねたのだ。
三つのうちの一つは、水無月の座るベッドのサイドフレームに当たり跳ねた後、さらに青井のベッドのサイドフレームに当たって反射し、水無月のおでこに直撃した。
「あでっ!」
真面目で凛とした水無月から、少し間抜けな悲鳴が漏れた。
そして別の弾丸は、並ぶ二段ベッドの間に落ち、一度床に当たって反射した。そして、その反射の先には、【部屋から抜け出そうとしたため下段ベッドから顔を出そうとした雲川がいた】。雲川のおでこに蓋が直撃した。
「あでっ!」
水無月の声に被さるように、雲川もまた小さな悲鳴を上げた。
最後の弾丸は、最も複雑な軌道を描いた。何度も壁に当たり反射した結果、その弾丸は、なんと廊下へと続く扉へ向かったのだ。本来なら扉は閉まっている。しかし今は開いていた。【ちょうど、タイミング悪く、麻倉優愛が帰ってきた】のだ。普段ならノックをして部屋に入る麻倉であったが、【今日はたまたまノックを忘れて、そのまま扉を開けてしまった】のだ。最後の蓋が麻倉のおでこに直撃した。
「あでっ!」
帰ってきたら突然突っ込んできたペットボトルの蓋に驚く間もなく、麻倉もまた二人と同じような声を上げた。
三人揃って同じ声を上げた。
そんな三人を見て、青井は堪えられぬとばかりに笑い声を漏らした。
「ぐふふっ……あっ! ごめんねっ? なんか、今、凄いこと起こったなーって思って……なんか凄いね。三人とも、おでこ? に蓋が当たっちゃって……それで『あでっ!』って同じ声出しちゃって……仲良いねー」
「ちょっと! 何笑ってるのよ! これ青井さんが蓋を蹴ったからでしょ! というより! 狙ってやったでしょ!」
「ちょっとちょっと~、イチャモンつけないでよ。こんなの狙えるわけないよ。狙ってやれたら、私、神サマになっちゃうよ? 奇跡だよ、奇跡。第一さ、水無月さんが急におっきな声だしたから、私もビックリしたんだよ? そしたら、何か蓋が跳ねちゃってさー、いやー本当、マジ奇跡って言うか~、いや、こんなこと、ある、あるんだね? あ、ごめん、なんか、凄すぎて、まだ笑いが出ちゃうっ……!」
ゆるふわとした笑みを作りながら青井が水無月の追求に答えた。
水無月は、青井の態度には苛立ったものの、彼女の言葉――『狙ってできるわけがない』という言葉は信じた。確かにそうだ。冷静に考えれば、こんな奇跡みたいなことを狙って起こせる人間などいないのだから。そのため水無月は、弾丸の発射に関する追求は諦めたが、一方で、別の原因に矛先を向けた。
「そもそも何で、そんなところにペットボトルの蓋が三つもあるのよ!?」
青井のベッドの端に重ねてあった三発の弾丸――ペットボトルの蓋の所在に関してだ。
「ゴミ箱が無かったから置いといただけだよ。いや、私だって困ってるんだよ? この学園、
何かを含んだような青井の言葉と視線が正面の水無月だけではなく、室内の他の二人にも当てられた。それを受けて水無月は怯んで言葉が出ず、雲川は恐怖で小さくなった。
数秒程無言になり、そして、その無言が1秒長引くごとに、凍えるような空気を感じ取った麻倉が、必死に口を動かした。
「あ、えっと、あっ! そういえば、青井さんはどのチームに入るか、もう決めたんですか……?」
必死に明るくしようとしつつも、それでいて丁寧さを崩さない麻倉の言葉は温かみがあり、場の温度が少しだけ元に戻った。
そんな麻倉の配慮に、青井は、にこりと笑みを浮かべた。
「んー、まだだよー。あんまりお誘いも貰ってないしねー」
「え!? そうなんですか。青井さんだったら、引く手あまただと思ったんですけど……」
麻倉はリーダーであり、そして雲川と違い、順位表に目を通していた。つまり、知っているのだ。この目の前の少女が戦闘適性順位3位の怪物だと。
「引く手あまたってっ……! 有名人じゃないんだからー。そんなに無いってっ……!」
「いえ、青井さんは、有名って言うか……あ、いや、そうですよね……! えっと……」
「麻倉さんっておもしろいねー。まあ、正直に言っちゃうと、少しはお誘いは貰えたかなー? でも、あんまり良いお誘いだけじゃなくてさー。何て子か忘れちゃったけど、赤毛の小さい女の子が昨日話しかけてきたんだよね、で、なんか強引に話進めようとしててさ。なんだろう? 圧が強いっていうのかな、そういう人って困るよねー。あと、一緒にいた女の子も、なんか何考えてるのか分かんない感じだったし、腹黒系っていうのかなー、あ、いや、別に? 腹黒って思ってるわけじゃなくてね、でもなんか人を値踏みしてそうっていうかー、なんだろう? やっぱり、リーダーに選ばれる人って順位表持ってるからかなー、なんか他の生徒のことを一個下に見てるって言うかさー、そういうのって良くないなーって思っちゃって――あっ! ごめんね! これ麻倉さんのことじゃなくてね? 麻倉さんは全然良い人だし、面白いし、良いと思うんだけど、でもリーダーで麻倉さんみたいな良い人はきっと少ないからさー」
ゆるふわとした雰囲気と甘ったるい声。そこから生み出されるのは流暢な言葉の雨。
それは誰に向けられているのか、そして、そこに含まれている感情は如何なるものか。
麻倉は悩みつつも必死に青井に対応するが、麻倉の処理能力を上回る青井の独特な話法が、ただただひたすら室内の空気を悪くしていった。
そうして、耐えられなくなったのか、麻倉は逃亡した。必死に青井に詫びつつも、学園の生徒としてやるべきことがあると言いながら部屋から逃げ出した。
麻倉に合わせるように水無月も部屋を出た。毒を直接浴びた麻倉は逃げるのに必死故気づかなかったが、水無月は取り残されてしまう者にも気づいた。そのため、水無月は部屋を出る際、鋭く雲川を睨み、同行を求めた。雲川は水無月を怖がっていたせいか、言葉が詰まってしまった。さらに、青井が『強制は良くないよー』と言葉をかけたため、水無月は仕方なく一人で部屋を出た。
そして、気づけば、雲川は取り残された。
「二人っきりになっちゃったねー」
雲川をじっと見つめる青井の瞳には強い嗜虐心が宿っていた。
これは、雲川の長い長い学園二日目の序幕に過ぎなかった。