学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
第二試合開始直前。雲川チームはマップの最終確認と戦術の再確認を行った。
訓練の結果、鷹一が出した結論は『隠れる』ことだった。鷹一は雲川と金崎には隠蔽装備を積み、その他装備も軽い装備を中心として隠蔽性能を上げた。
これにより、二人は他のチームのレーダーに捕捉されにくくなる。さらに、パッシブ装備に拡張パーツである『逆認識』を装備させた。これは装備者が敵チームのレーダーに映ってしまった場合に反応する装備だ。これらにより任務発行までの序盤戦を隠れてやり過ごすことを目標とした。
二人の訓練での成長はある程度感じられたものの、まだ正面から射撃戦をするのには不安があったため、任務点確保を意識した戦術となったのだ。
「た、鷹一くん、大丈夫……? その、一人だけ、隠れなくて……」
試合直前の各チームの待合室で最終確認を終えた後、雲川が恐る恐る鷹一に話しかけた。
そう、『隠れる』のは雲川・金崎の二人だけだった。鷹一は大型の装備をいくつか積み、重量を上げたため、この試合では、隠蔽性能と機動力が悪化しているのだ。
「大丈夫だ。最初に説明したように、今回の試合では大出力レーダーを装備する必要がある。魔力量的にも、隠蔽性能的にも二人には装備させられない。俺はある程度なら撃ち合いでも優位に立てる自信がある。見つかっても何とかなる可能性が高い。それに、上手く行けば、長期的に雲川チームを優位に立たせることができるかもしれない」
大出力レーダーは遠い距離まで敵を捕捉でき、さらに隠蔽性能の高い敵も一部捕捉することができる。一方で、大出力レーダーは魔力消費が大きく、何より重い。『重い』とされる装備を身に着けた生徒の隠蔽性能と機動力は大きく低下する。
「優位に……?」
「今回俺が重い装備を積むことによって生じる長期的なメリットは、今度、時間があったら説明しよう。それよりも、紫苑は気を付けてくれ。恐らく撃ち合いになったら紫苑は助からない。だが、通信母機は紫苑しか装備していない。だから、紫苑が通信母機を起動させていない間は、俺と金崎は試合中通信システムを使えなくなる。ダウンすれば、雲川チームの通信網は死ぬ。だから、紫苑はできるだけ上手く隠れるんだ。昨日までに覚えた知識で頑張るんだ」
雲川は通信母機と中出力レーダーを装備し味方を情報面で支援するポジションだ。
通信システムは、アクティブ装備枠を使用する通信母機と、パッシブ装備枠に装備できる通信子機に分かれており、母機がアクティブの時に限り、母機・子機を持ったチームメンバーの間で通信が可能になる。故に、この試合中、基本的に紫苑は常に通信母機をアクティブ状態にしておく必要があった――6つ装備できるアクティブ装備枠のうち、同時にアクティブ状態にできるのは二つまで。そのうち片方を塞がるのは通常の生徒でも戦闘において大きな足枷になる。それが雲川紫苑という最下位に近い生徒ではなおさらだった。
いや、むしろ、シールド技術も射撃技術も拙い雲川にとっては、もはや、撃ち合いは難しいため、通信母機とレーダーを抱えて隠れるくらいしか、チームに直接役立つ方法がなかった。
「う、うん……頑張る。まずは隠れる、まずは隠れる……」
緊張しながらも復唱する雲川を見た後、鷹一は金崎を見た。
「金崎、シールドはまだまだ成長過程だが、射撃はだいぶ上手くなった。金崎には、試合展開次第では射撃戦に参加してもらうことになる。練習通りやれば大丈夫だ。1点、1点、確実に取れる点を取っていこう」
「あ、ああ……! 練習の成果、出してみる……!」
緊張しながらも、どこか目に闘志を滾らせて金崎は答えた。
「よし、そろそろ時間だ。二人とも、投入室に行こう」
頷く二人を率いて、鷹一は投入室――仮想戦闘エリアに選手を投入する専用の部屋へと向かった。
雲川チームが投入室にたどり着いたのは試合開始の15分前。各チームは、試合開始の五分前に集合するように通達されていたが、雲川チームが投入室に着いた時に、部屋の中にいたのは三人だけだった。
「おお!! 来ましたか!!」
三人の女子生徒のうちの一人が、投入室に入った鷹一たちを視認するやいなや、大きな声を上げながら近づいてきた。踏み込みの一歩、それに続く少女の歩法を見て、鷹一は僅かに感心し、そして自身も一歩前に出た。
「どうも皆さんこんにちは!! 天野さんのチームに入った進藤です!! 今日は良い試合にしましょう!! よろしく!!」
そう言うと進藤は片手を鷹一の前に差し出した。
「そうか、俺は雲川チームの鷲島だ。今日はよろしく頼む」
返す言葉と共に鷹一は握手に応じた。進藤は満足気な顔をした後、すぐに大きな声で、金崎と雲川にも挨拶をしながら握手を求めた。金崎は僅かに気圧されるが、握手に応じ、雲川はびくびくしながらも握手に応じた。
そして、進藤が雲川チームの面々に握手している間に近寄って来た天野が鷹一に話しかけた。
「鷲島君、お久しぶりです! 今日はよろしくお願いします!」
「ああ、天野。久しぶりだな。以前は突然すまなかった。今日はよろしく頼む」
「いえいえ! あの時は、むしろ鷲島君とお話できて良かったです! 今日は胸を借りるつもりで行きます!」
明るく朗らか、そして何より勤勉なリーダーである天野は、リーダーの特権である順位表にしっかりと目を通していた。全ての生徒の順位を覚えているわけではないが、それでも鷲島鷹一が戦闘順位首位の怪物であることは理解していた。
「お手柔らかに頼む」
朗らかな態度の天野に対しても鷹一はいつも通りの態度で応じた。それから鷹一は残る一人に僅かに視線を向けた。最後の一人である浜口は、他の二人とは違い声は出さず、しかし、僅かに頭を下げた。鷹一もそれに習い、浜口に対して僅かに頭を下げた後、不思議そうに鷹一の方を見る雲川と金崎に向き直った。
「以前、雲川チームの選手を募集するときに、天野を誘ったんだ。天野は協調性があって紫苑とも相性が良さそうだったからな。ただ、見ての通り、天野はリーダーだったから、勧誘は失敗した。ただ、天野が気を利かせてくれて、選手探しを手伝ってくれたんだ。そういったこともあって、天野とは面識があった」
「そ、そうだったんだ……」
雲川が不安そうに天野を見た。天野は朗らかな笑みを返した。雲川はびくんと震えた。天野は訳が分からず、頭に疑問符を浮かべた。
そして、さらに三人の生徒――吉川チームが投入室に現れた。
「おー、もう六人もいるじゃん。ええっと、あれ、六人ってことは、あれ? 何チームだっけ? ツチ、何か、分かる?」
三人の男子生徒で先頭を歩いていた小柄な生徒――リーダーである吉川が、チームメイトの土橋に問いかけた。
「え? いや、まあ、今日戦うチームなんじゃないっすかね……?」
「いや、だから、どのチームの誰々さんか、みたいな質問なんだけど? え? ツチ、覚えてないの?」
土橋の曖昧な答え方に対して、吉川は少しイラつきながら言葉を口にしていく。
「いやー、生徒200人とかいるんだから、全員は覚えてないっすよ。てか、吉川が覚えるもんじゃないの? リーダーの仕事っしょ」
その言葉はある意味で真を突いていた。
なぜなら、リーダーには順位表がある。一般的なリーダーであれば、手元の情報を有効活用し、少しでも敵戦力の把握に務めるはずなのだから。しかし、土橋にはそういった視点はなかった。順位表のことも忘れていたし、ただ、なんとなく自分の責任ではなくリーダーの責任だろうという思い込みがあった。土橋のモチベーションは低かった。
そしてリーダーである吉川もまた意識が低かった。吉川は順位表など初日に適当に見ただけだった。故に、今日の試合のマッチングを見ても、『まあ、俺のチームは結構強いと思うし、装備とかもしっかりしてるから、何とかなるっしょ』などと適当に考えていた。吉川は、雲川チームに戦闘適性順位一位がいるなどと知らなかった。それどころか、その名前が鷲島鷹一ということすら覚えていなかった。
「いや~、キツイっす。じゃあ、鉄さん、答えお願いします」
土橋に責められた吉川は、黙っていたチームメイトである成田鉄平に話を振った。
「おう! 任せろ、今日戦うのは、ズバリ、雲川チーム三人、天野チーム三人、杉山チーム二人。六人いるってことは、雲川チームと天野チームの六人ってこと!」
大柄の男の力強い声を聞き、雲川は僅かに怯み、鷹一の後ろに隠れた。
「おお、さすが鉄さん、頼りになる。ツチもしっかりな!」
「え、え? いや、リーダーがまず覚えろっていう話。てか、何、結局、杉山チームはいないの? え、不戦勝的な? この場合って点数とかどうなんの? 俺ら貰える系?」
「鉄さん、答え」
土橋の問いかけに対して吉川は答えずに、成田へと再び質問を流す。
「えーっと、その場合は、……どうだったかな、何か、貰えるみたいな感じがしたけど。基本は、不参加は許されない系! もう、病気でも這ってでも戦え! でも、確か、どうしてもだったら休めたけど、ペナルティが重い感じだから、休まない方がいい的な?」
「おう! さすが鉄さん。じゃあ、まあツチ、第三試合もサボらずな」
成田の曖昧な答え方に吉川はさくっと感謝しつつも土橋を弄った。それに対して、土橋は少しだけ眉根を歪めた。
「いや、別にサボらないんだけど……でも、もう五分前に近くね。杉山チーム来ないんじゃ――」
「――は? 来てるんですけど。お前ら何なの?」
土橋が全ての言葉を言い終わる前に、気の強そうな男――杉山が口を挟んだ。杉山チームの二人が五分前ギリギリに投入室に間に合ったのだ。リーダーである杉山は堂々とした態度で投入室にいた九人を見回し、そして鼻で笑った。『弱そうなヤツしかいない。自分一人でも三点は余裕で取れるな』と確信を持ったからだ。杉山もまた順位表の読み込みが吉川と同レベルであった。ただ、吉川以上に自信過剰でかつ、他者を見下すところがあった。
「あー、いや、何か、遅刻みたいな感じなんで、気にしたっていうか。まあ、遅刻はしない方がいいっすね」
吉川が土橋を庇うように杉山に声をかける。
「は? 遅刻してないけど。つうか、お前何? お前に話しかけてないだろ」
「え、いや、まあ、自分、吉川って言います。まあ、リーダーやってるんで。てか、えっと、杉山チームの、え、誰さん? リーダーなの? それとも下っ端?」
「は? リーダーだけど。てか、お前、チビの癖に態度デカいな。あんま調子乗ってると試合でボコボコにするよ」
「は~、背の大きさはそんな変わらないと思いますけどね。というか、そっちこそ二人しかいないんで、こっち三人なんで、まあ、ボコボコにされないように気を付けてくださいって感じですかね」
吉川の指摘通り、二人の身長差はあまりなかった。ただ、それでも杉山の方が少し背は高かった。
「弱いヤツほど口はデカいんだよな。まあいいや、お前は試合でシメるから」
杉山の脅すような言葉に吉川はふてぶてしい顔で応じた。その態度に対して、杉山は一度舌打ちした後、今度は舐めるように四人の女子生徒を見た。雲川は縮こまり鷹一の影に隠れた。金崎は勇気を出して鷹一の斜め後ろに近づき、雲川のはみ出している部分を杉山から隠した。
「てか、女の子多いな。はー、バサカ、どうする? 真面目にやる系? いや、まあ普通に男はシメるけど、女の子相手にマジになるのもなー」
「え……いや、……」
声をかけらた杉山チームの坂場は気まずそうな顔をした。杉山と違い坂場は慎重な考え方の持ち主だった。また、ある程度の道徳心も有しており、挑発的な態度を取るリーダーに対して内心で嫌気があったのだ。しかし、同時に、杉山は売れ残っていた坂場を拾ってくれた唯一のリーダーでもあった。
「『いや』、じゃ、分かんねーよ、バサカ。はっきりしろよ」
「まあ、その、うちのチーム二人しかいないし、ランク上げの機会もあと三試合しかないから、できるだけ点数取らないとヤバいんじゃないの?」
「だから、どっちだよ、質問に答えろよ」
「いや、まあ……その男女とかは関係ないというか……」
「バサカ、お前、気が弱い癖に鬼畜だな。まあ、バサカが言うならしゃーねーな、そこの女の子たち。俺、普通にガチで行くから、まあ、試合中倒しちゃうかもしれないけど、その時は、こっちのバサカ、あ、坂場っていうのね、コイツ。坂場を恨んでくださーい」
杉山は下卑な笑みを浮かべながら女子生徒たちを見るが、天野は強い視線で返し、浜口はまるで杉山の言葉など耳にも入れていないとばかりに平静とした態度だった。そして進藤は――
「今日は良い試合にしましょう!! よろしく!!」
吉川チームの面々と握手をしていた。吉川たちは少しデレデレとしながらも、しっかりと握手を返した。吉川チームの三人は内心で『進藤ちゃんはあんまり狙わないでおこう』などと考えていた。一方、進藤は、『正面から、しっかりと突撃し、ここにいる皆と良い闘争をしたい』と本気で考えていた。大きな温度差があった。
女子たちの思わぬ反応に杉山は再度舌打ちをした。そして、そんな杉山に対しても進藤がやって来た。
「今日は良い試合にしましょう!! よろしく!!」
杉山は仕方なく握手をした。なお、その直後、同じチームの坂場が笑顔で進藤と握手しているのを見て、杉山は、何となく坂場を後ろから蹴った。