学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
一時寮に着いた鷲島鷹一は、早速自身に割り当てられた部屋へと向かった。寮内図に表示されていた情報――床面積が狭く、それでいて四人部屋という環境に、眉根を寄せるが、すぐに『一か月の我慢である』と自身に言い聞かせ、ノックをしてから部屋へと入った。
「どうぞー!」
明るい男の声が聞こえ、鷹一は室内へと入る。
「お! 二人目……で、いいんだよね? えっと名前聞いてもいいか? いやまあ、鷲島か秀川のどっちかなんだけど。あ、ちなみに俺は金崎、よろしく」
明るい男――金崎に対して鷹一は一瞥し、部屋を流し見た。四人部屋は狭く、一か月という期間が長く感じられそうだと鷹一は思った。
「鷲島の方だ。よろしく金崎。そっちは?」
鷹一は金崎に答えた後で、室内にいるもう一人の男に声をかけた。
「渡辺、渡辺智弘だ。ベッドの割り振り決めたいんだけど、左と右、上と下どれにする? 秀川来てからでもいいんだけど、俺は上がいい。お前ら二人とも下でいいなら俺が上確定なんだけど、下でいいか?」
「……特にこだわりは無いが敢えて言うと下派だ。秀川と金崎が下派でなければ俺も下確定だ」
「え、ちょっちょ、待って……秀川来てからの方が良くないか? 三人で勝手に決めたらなんか圧かけてるみたいじゃん」
渡辺の問いかけに鷹一が答え、二人の問答を見た金崎が少し慌てて口を挟んだ。まだこの場に姿を現していない最後の生徒を思い浮かべたからだ。
「金崎お前、お人よしって言われるだろ。てか、これは本来早い者勝ちだと思うが、鷲島はどう思う?」
「緊急性を持たない話題だから、全員に意見を聞いた上で判断を下した方が、全体の幸福度は高まるように思える」
「一応、金崎派か……分かった。二対一なら俺も無理に通す気持ちは無い。秀川を待――」
「おー、ここ狭いな! あ? お前ら三人が、アレか? 一緒の部屋のやつか?」
渡辺が結論を出そうとしたその時、寮室に最後の一人が現れた。
「秀川か?」
「おお。秀川明だ。よろしくな。つっても、一か月しかいないから、よろしくも何もないか。あ、お前らの中にリーダーっているか?」
秀川は言葉に対して、三人はそれぞれ軽く自己紹介しつつも、それぞれがリーダーでないことを示した。
「一人もいねーのか。じゃあ、やっぱりあんま関係ねーな。一応聞いとくけど、お前ら、結構優秀な方か? 成績?」
「――成績を教え合うのは禁止だったはずだ」
秀川の質問に対してすぐに鷹一が反応した。
「いや別に細かいのは聞いてないだろ。何位かとか、細かい試験結果言わなきゃ問題ないだろ。たとえば、お前ら戦闘か筆記のどっちかで40位以内に入ってるやついるか?」
「その聞き方は『試験順位』を教えるに該当するように俺には感じられる」
淡々と鷹一が自身の見解を述べた。秀川はそれを鼻で笑った。
「細かいやつだな。そういうやつは筆記が得意なやつが結構多いが……見た感じ、戦闘はできなさそうだな。戦闘できないやつは、意味無さそうだけど、一応聞いておく。鷲島、お前、筆記40位に入ってるか?」
そう言うと、秀川はじっと鷹一を捉えた。視線や瞳孔の変化、表情の変化、呼吸の変化、発汗の変化――様々な変化を読み取ろうとする。
「その質問には答えられない」
鷹一は表情を変えずに答えた。数秒ほどして、秀川は苦笑した。
「お前、見た目によらず、度胸ありそうだな。大した順位じゃないと思うが、よろしくな。そっちの二人は……いいや。渡辺は中位かそこらで、そっちのお前は、なんだっけ、まあいいやお前はせいぜい下位だろ」
秀川は鷹一のことを僅かに評価する一方で、渡辺・金崎に対しては見下したような態度を取った。
「何でそう思う?」
威圧感を発する秀川に対して、渡辺が問いかけた。
「目と空気だ。優秀なやつはだいたい纏ってる空気が違う。あとは目の動きだ。俺が質問したときの反応でだいたい分かる。渡辺、お前は凡人だ。お前くらいはよく見る。んで、そっちのお前は並以下だ。どうだ? 合ってるか? 端末見て確認するか?」
そう言うと秀川は馬鹿にするように笑った。渡辺は鋭く秀川を睨んだ。一方で金崎は俯き黙った。
「当たり、みたいだな。鷲島、俺はこれから少し寮を回る。お前は来るか? 俺と一緒に来れば、少しは良いチームに入れるぞ」
「なぜ、お前と一緒だと良いチームに入れるんだ?」
「おいおい、そのくらい分かれよ。リーダーは成績順位を知ってる。そしてリーダーはできる限り強いチームを作る必要がある。俺のような成績上位者はそれだけ人気だ。俺の近くにいれば、お前も多くのリーダーと関われる。これ以上説明が必要か?」
「いや、必要ない。あと、俺はこの後の授業を受けたい。誘ってもらって悪いが、一緒には行けない」
「授業って……お前、やっぱりアホだろ。もう、お前いいや……」
失望したように鷹一を見た秀川は部屋を去った。なお去り際に二段ベッドの上を要求してきたことで、残された三人は何とも言えない気分になった。そして数秒程の沈黙を挟んだ後、鷹一がその沈黙を破った。
「金崎、下でもいいか?」
「――いや、お前、最初に言う言葉がそれかよ」
無表情に金崎に問いかける鷹一を見て、渡辺は呆れたように言った。
「……っ! あ、ああ! 大丈夫、大丈夫! もとから俺、下が良かったんだよ」
「そうか、なら良かった。あとは左右だな。渡辺は好きな方はあるか?」
「特には無いが……じゃあ、左で」
「分かった。金崎、俺はどちらかと言うと右派なんだが、金崎は左側でもいいか?」
「え? あ、ああ、全然、俺も左派だから、助かるな」
「じゃあ、残った右上が秀川だな。よし……じゃあ、俺は授業出てくるから。二人は授業はどうする?」
「本当に授業行くのか……いや、まあ俺も一応は教育目当てもあったけど。でも、俺は遠隔で十分だな。わざわざ講義室までは行く必要はないだろ」
渡辺が口にした遠隔――この学園で行われる授業は、基本的にいつでも配布された小型端末や、情報室にある大型端末を使うことで視聴することができた。
「知識を得るという意味では遠隔で十分なのかもしれないが……俺は講義室というのを見てみたい。あと生で受けるというのも体感してみたい」
「鷲島、お前、ちょっと変な奴だな。俺は嫌いじゃないが、好き嫌いが分かれそうな性格だ」
「一般的にそのような認識をされている自覚はある」
そう言って鷹一は部屋を出た。しかし、すぐに後ろから足音が聞こえ、振り返った。
「あ、鷲島、俺も一緒に行っていいか? その、ちょっと講義室、俺も興味があって……」
部屋から出たが金崎が少し不安そうに鷹一を見た。
「いいんじゃないか?」
無表情に答える鷹一に、金崎は僅かに安堵した。
※
講義室に移動するまでの間、鷹一と金崎は多数の生徒とすれ違った。そして、その中の数名は二人を興味深そうに眺めていた。視線に気づいた鷹一は僅かに眉をひそめ、金崎は首をかしげた。
そして、講義室――扇状に広がる階段教室に入った時、複数の鋭い視線が教室内から鷹一を貫いた。既に視線に慣れてきた鷹一は何食わぬ顔で、空いている席に着き、金崎は困惑しながらも、鷹一の隣に座った。
「なあ、鷲島……なんか、俺たち、見られてないか……? いや、てか、見られてるの、俺たち? それともお前?」
「……視線の飛んでくる方向から考えると、おそらくは俺だ。心当たりはある」
「もしかして、鷲島って有名人だったりするのか? 俺は、外縁部出身だったから、よく分からないんだけど……」
「いや、有名人ではない」
「そ、そうか……ああ、えっと、そういえば、チームってどんな感じになると思う?」
少し突き放すような鷹一の言い方に、金崎は話題の転換を図った。
「どんな感じ、というのは、どういう意味だ? 一か月後の存在するチームの数の予想か? それとも、チームの編制パターンの予想か? それとも、単に俺やお前がどんなチームに入っているか、という予想か? それとも他の意味を持った質問か?」
淡々と冷たい目線が金崎に刺さった。金崎は、話題を間違えたかもしれないと不安になった。
「あ、あ、いや、その、何となく、気になって。悪い、俺はたぶんお前ほど頭が良くないから、そんなに深く考えてなかった。ただ、あー、漠然と、自分がどんなチームに入るか気になって……あー、でも、そうだな。俺は全然チーム戦ってどんな感じになるか分かんないんだよ。ルール読んでもさ、魔力ぶつけて戦うみたいな感じじゃん? それでチーム作れって言ったって、それじゃあ、普通にリーダーは魔力高い奴か戦闘センスが高い奴から取っていく訳でさ……そうすると俺のようなやつは売れ残――」
「――待て」
金崎が全て言い切る前に、鷹一が口を挟んだ。
「え?」
「お前の発言を聞き続けることは、『チームメイト以外に成績を教え合うのは禁止』というのに間接的に触れる気がする」
「? ……え? 何で?」
「……これは推測になるが、お前は今、自身の戦闘適性順位を前提に話をしようとしていたように思える。それは『自身の戦闘適性順位を間接的に俺に教えている』と言えないか?」
「………………あ、そっか。悪い。いや、でも、流石に、そこまで厳しいルールなのか?」
「運営側の判断基準による。俺が気にし過ぎている可能性も十分にある」
「そ、そうか……えっと、分かった。その、じゃあ、なんつーか、あー、えっと、じゃあ、質問なんだが、俺が一か月後にどんなチームに入ってるか分かるか? 漠然とし過ぎだけど、なんか鷲島なら答えられそうな気がする」
「それは非常に複雑な要素の重なりによって決まることだ。だから、現時点では予想の仕様がない。だが、何人かのリーダーたちと話をすることができれば、ある程度、チーム編制のパターンや、チーム戦の流れを予想することができるかもしれない。そして、得られた予想に、お前の入学時の能力を嵌め込めば、お前の概ねの立ち位置は推測可能だろう」
「お、おう……? ってことは、今は分からない? あ、いや、別に全然いいんだ。てか、俺の質問が漠然とし過ぎたから、何人かリーダーと話すだけで分かるって言う方が凄いな」
「待て、今、俺が言ったことはあくまで推測であって、確証はない。チーム戦のルールも一時寮に来る前に軽く読んだ程度だ。情報を間違って解釈している可能性も十分にある」
じっと睨むような鷹一の視線を受けて、金崎は次のように思った――悪い奴じゃなさそうだけど、なんか怖いやつだな、と。