学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
学園最初の講義は言語と文化に関するものだった。言語は現在使われている共通言語ではなく、西暦と呼ばれる過去の時代の分化した言語系の話が中心であった。文化の方も第三次世界大戦以前の多様で彩りある文化の概略であり、どちらも鷹一の興味を惹いた。
熱心に端末に書き込みを入れる鷹一に対して、隣の席の金崎は困惑しながら教師と自身の端末を交互に見た。金崎にとって、あまりにも難易度が高い授業だったからだ。
授業が終わったころには、満足気な表情をする鷹一を見て、金崎は『普段怒ってるみたいな顔なのに勉強すると機嫌が良いって、凄く変な奴だ』と思った。
「なんか、鷲島、凄いな……」
「? 何がだ?」
「え、いや、めっちゃ勉強できそうっていうか、勉強とか好きなのか?」
「……? 好き、かと聞かれると難しいな。ただ、想像よりもずっと興味深いものだったと思う。もう、この学園に来て良かったと思えるほどだ。ああ、だから勉強が好き、なのかもしれないな」
「おお……そっか、やっぱ凄いな。俺はあんまり勉強が好きじゃなくて……ていうか、たぶんバカなんだと思う。さっきの授業も全然分からなかった。周りのやつらは結構分かってた感じがしたし……正直付いていける気がしない」
「無理に付いていく必要はないんじゃないか? この学園にいる条件に学力はない。恐らくだが、チーム戦での貢献さえあれば問題ないはずだ。今の言語や文化の授業は直接的にはチーム戦では関係ない。魔力戦闘……魔力学や武器形成学のようにチーム戦に直接関わりそうな学問に集中するという手もある。勿論、それすらせずに、実践重視で座学は捨てるという手もある。深刻に考えるにはまだ早いはずだ」
「いや、それは、まあ、そうなんだけど……なんつーか、その学問は今俺が受けた授業より難しい感じがするっていうか、バカは何やってもバカっていうか。ああ、いや、何でもない」
途中まで行って、金崎は少し俯いた。
「…………今の授業が分からなかった所があったのなら、いくつか説明しようか? 勿論、俺の分かる範囲で、だが」
「え? あ、いや、今の授業は…………いや、そうだな、じゃあ、聞いてもいいか?」
「分かった。それじゃあいくつか説明するが、まず――」
そう言って、鷹一は金崎に今回の授業の流れを説明した。途中途中、金崎の分からなかった所を聞き、それについても懇切丁寧に説明した。
一通り説明した後、金崎は驚いた顔で鷹一を見た。
「すげぇ、何となくだが分かった気がする……鷲島、もしかして滅茶苦茶頭いいやつ、てか、凄い良い奴だな、お前。正直、鷲島とチーム組めたらラッキーだと思う」
「チームを? なぜだ?」
鷹一はじっと睨むように金崎を見た。金崎は、『やっぱり、こいつ顔怖いな』と思った。
「いや、頭いいし、それに顔怖いように見えてかなり優しいし、秀川の時も俺に気を遣ってくれたじゃん」
「そうか。ありがとう。俺も……、……金崎はチームに貢献するタイプだと思うから、一緒に組めると助かるかもな。まあ、それは俺たちを採用するリーダーが、たまたま同一人物でなければ成り立たない話だが」
「ははっ、そうだよな……鷲島はなんか今日か、明日までにはどっかのチームに入ってそうだ。俺は、まあ、今月中には入らないといけねぇけど……まあ、もしもの時は、どこかのリーダー様に拝み倒すしかないって思ってる」
金崎は不安そうに俯いた。
「まだ、お前のことを深くは知らないから、確固たる事は言えないが……俺は、今まで見た人間の中で、『才能が無い』人間を見たことがない。お前にも何かの才能があるはずだ。そして、それに気付くリーダーもいるはず。だから、巡り合いの問題もあるが、きっと拝み倒す必要はないと思う」
「鷲島、ありがとな。やっぱお前良い奴だ。渡辺も結構良い奴っぽいし……一時寮はラッキーだったな。うん、なんかやってけそうな気がしてきた……よし! じゃあ、俺、昼飯食ってくるわ。鷲島はどうする?」
「俺も昼飯を食べることにする」
「おお、じゃあ一緒に食うか? 中央食堂のメニューが凄い美味そうでさ、一緒に開拓していかね?」
「食堂か。その辺りの情報は全く調べてなかったから、一緒に行けるのは助かる」
鷹一が了承すると、二人は立ち上がり、中央食堂に移動するため、講義室を出た。
しかし、中央食堂に行く通路の途中で、二人の進路を遮るように二人の人物が現れた。鷹一は二人を無視するように避けようとするが、二人は俊敏に動き鷹一の進路を再び妨害した。鷹一が二人の人物――いや、二人の美少女を鋭く睨んだ。片方の小柄な赤髪美少女は僅かに臆し、もう片方の金髪美少女はじっと鷹一を見返した。
「アンタ、鷲島でしょ? ちょっと顔貸しなさいよ」
臆した方の赤髪少女は、臆したことを隠すためか、少し強気に鷹一に声をかけた。もう片方の少女は、赤髪の少女と鷹一を観察するように見た。
「悪いが、先約がある。付き合えない」
「は? 先約? 私が誘ってやってるんだけど?」
「昼飯だ。既に一緒に食べる約束をした相手がいる。付き合えない」
赤髪少女の小柄な外見と相反するかのような大きな態度に金崎は気圧されるが、当の鷹一は淡々とした風に赤髪少女に応じた。
「じゃあ、断ってよ。こっちの方が大事な話なんだから」
「それを判断するのは、お前ではなく俺だ」
「はぁ!? ちょっと何コイツ。超ムカつくんだけど? 龍華……! ホントにコイツが鷲島で合ってんの!?」
赤髪少女は隣に控える金髪の少女に鋭く声をかけた。まるで、失態を責めるかのような口調であった。金髪少女は特に気にした風でもなく、鷹一を数秒程じっと見てから口を開いた。
「んー、顔は同じだし、合ってると思うよアリシア。あ、でも、凄く似た顔って可能性もあったりするのかな? えっと、君は鷲島君であってる? 鷲島鷹一君。私は飛山龍華で、こっちのちょっと怒ってる子が、
「俺は鷲島鷹一で合っている。ただ、同姓同名の人物がこの学園にいる可能性を排していない以上、お前の考えている鷲島が俺ではない可能性は存在する」
「お~、細かいねー。でもでも大丈夫。見た感じ、同じ新入生でしょ。ていうか、言動から新入生だよね。新入生の中の選手180人の中に鷲島君は君一人だよ。まあ、リーダーの鷲島君がいる可能性もないこともないけど、君はリーダーじゃなさそうだし……つまり、私たちの探している鷲島君は君ってことさ」
金髪の美少女――飛山は、両手の指の腹と腹を合わせて、鷹一を見ながら、柔らかく微笑んだ。
「そうか、飛山はリーダーか。俺に話しかけた理由は想像がつく。だが、悪いな、先約がある。それが優先だ」
「だから、その先約取り消せって言ってんの! こっちはリーダーなんだから、選手でしかないアンタは従いなさいよ」
「意味が分からない。なぜリーダーが優先される?」
「はぁ!? そんなことも分かんないの!? コイツ本当に筆記順位――」
「――ちょ、ストップ、アリシア」
「何よ? 龍華?」
「いや、こっちの、ええっと、たぶん金崎君かな? 金崎君もいる状況だと順位の話はできないよ。金崎君も選手なんだから」
そう言って飛山は金崎の方を流し見た。釣られて、
「あ、えっと、ごめん、俺、たぶん邪魔な感じだよな。ていうか、そっちの飛山……さん? はリーダーで、しかも鷲島に声かけたってことは、アレっすよね? スカウト的な……? あれ、でも何で? 鷲島、知り合いってわけじゃないよな?」
「初対面だ」
「ん、じゃあ、……さっきの授業……? あ、いや、そっか、試験順位か……ああ、やっぱ鷲島結構できるんだな。秀川も言ってたし、筆記順位上位か?」
「その質問には答えられない」
「あ、いや、そうだったな、悪い。てか、そうすると、リーダーが来た理由が分かったわ。ごめん、たぶん俺が邪魔してるよな。俺、外すよ。あー、食堂巡りはまた今度やろうな」
そう言って、立ち去ろうとする金崎の腕を鷹一は軽く掴んだ。
「待て。その必要はない。先約はお前だ。お前が外れる必要はない」
「え、いや――」
「――アンタ頭おかしいんじゃない? そっちの、金――」
「――金崎君」
「そっちの金崎が良いって言ってるんでしょ。何付きまとってんの、意味不明なんだけど」
「俺は付きまとってはいない。お前が俺に付きまとっている」
「ああ!! もう、コイツ、本当にムカつく!! 龍華!! 本当にコイツ? 本当にコイツなの?」
「うーん、たぶんアリシアの思ってる相手は鷲島君で間違いないと思うよ」
「あー、もう、どうしよっかなっ! ここまで頭おかしい奴だと……あー、でも、……っ!」
「ええっと、それなら、一つ私から提案があるんだけどさ。鷲島君が金崎君との約束を終えた後なら、どうかな? それとも金崎君の次も埋まってるの?」
憤り悩む
「昼飯の後は午後の授業を受ける。午後の授業が全部終わった後なら空いている」
鷲島の回答を聞いて、金崎は『お前、本気か』という言葉が喉まで出かかった。まさかリーダーからの誘いよりも授業を優先するとは。しかも、ただのリーダーではない。異性の美しい容姿の持ち主だ。『もし自分だったら二つ返事でついていってしまっただろう』と金崎は思った。
「おー、それなら授業が終わった後、一緒にお話しようねっ!」
「ちょっと龍華! 本気? 午後の授業全部って、だいぶ後よ! それまで、コイツ一人のために待つの!」
「うーん、この学園のルールを考えると時間は貴重だけど……鷲島君の価値を踏まえるなら、待ってもいいんじゃないかな? それよりもっ! 大事な事は別にあると思うよ。鷲島君、今の鷲島君の予定って、金崎君とのお昼、授業、その後私たちとお話、だよね。君のことだから大丈夫だと思うけど、他の予定――たとえば別の人からお話に誘われても、それは私たちよりも後にしてくれるよね?」
飛山はじっと鷹一を見た。飛山の優しそうな外見に反して、強い圧を鷹一に浴びせているように、金崎には感じられた。なお、鷹一は無表情で飛山を見つめ返した。
「勿論だ。ただ、念のため言っておくが、何か緊急事態が発生した場合は別だ。たとえば構内で火災が――」
「――アンタ、ホント、ふざけてるでしょ!」
全て言い切る前に
「ふざけてない」
鷹一の睨むような視線に
「まあまあアリシア、他のリーダーよりも早く鷲島君と話ができるんだから、十分アドバンテージだよ。私も、二番目でいいからさ」
「――っ! しょうがないわね。特別に授業が終わるまで待ってやるわよ。その代わり、すっぽかしたら、許さないから、分かったわね、鷲島」
「もう予定に入れた。すっぽかすつもりはない。待ち合わせ場所はどこにする?」
「私とアリシアで講義室前で待ってるよ」
「そうか分かった。よし。待たせたな金崎。昼飯に行こう」
鷹一は一段落ついたとばかりに金崎に声をかけた。
「お、おう……やっぱ、なんか鷲島は本当に凄いな。大物っていうか……ぶっ飛んでるっていうか……」
「また後でね~」
「ふんっ」
驚く金崎、飄々とした飛山、憤る零の三人からそれぞれの言葉を鷹一はかけられるのであった。