学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
第四試合の雲川チームの対戦相手が決定した。
昼飯時の食堂で、鷹一は端末を使い対戦相手を見た瞬間から苦い顔をした。
(零チームと、麻倉チーム。よりによってAランク帯でも当たりたくない二チームだな。射線が通り過ぎる農業マップで重射撃の零チームと曲射砲の佐々木。これは少し厳しいか? いや、それでも3点ならば、ほぼほぼ確保できるだろう。当たり方次第か……?)
周囲からは、鷹一と同じように情報収集に忙しない一年生たちの騒がしい声が響いた。彼らもまた、対戦相手を見て一喜一憂しているのだ。
鷹一は午後の授業を一通り受けた後、雲川チームの面々を訓練室に集めた。
「知っての通り、第四試合の相手が決まった」
そこで言葉を止め、鷹一は雲川・金崎両名の顔を見た。金崎は対戦相手を午後の初めの方には確認していたため、緊張した顔になった。一方で雲川もまた少し緊張した顔になった。しかし、これは金崎とは違う理由であった。雲川紫苑は、まだ対戦相手の確認をしていなかったのだ。雲川はちらりと金崎を見た。金崎の顔を見て状況を察した雲川は僅かに俯いた。
そんな二人の様子を見ながら鷹一は言葉を続けた。
「まずAランク帯が相手というのは単純に運が悪かったな。Bランク帯相手ならもう少し余裕があったが……まあ世の中、運で決まることは多い。あまり気にせずにいこう」
そこまで言って鷹一は、ふと以前の自分の発言を思い出し、さらに言葉を付け加えた。
「以前、俺は、二人に1点ずつ取るように言ったが、それは難しそうだからそこまで思いつめなくて良い。今回の試合はマッチングが悪すぎる。Aランクの中でも対処法が少し難しいチームだ。零チームは明確な弱点が少ないし、麻倉チームは佐々木という最も危険な駒がいる。余裕な気持ちで挑める試合ではないだろう。ただ、必要以上に不安になる必要もない。俺は3点を目標にするし、実際、試合中に撃破点2点と任務点1点くらいなら何とかなりそうだと思っている」
鷹一の言葉を聞き、雲川と金崎の表情が僅かに明るくなった。それを見て鷹一は、内心で『良くない傾向かもしれない』と思いながらも、言葉を続ける。
「ただし、投入位置が最悪のケース――たとえばだが、零チームに囲まれているような状況だと、俺は何もできずにダウンするかもしれない。もし、そうなったら、残った二人で潜伏して任務点確保を狙うか、もしくは打ち取れる駒を打ち取るか考えてほしい。そういった状況になった際に、少しでも選択肢を増やすためにも、次の第四試合まで訓練を頑張ろう。撃破能力と生存能力の両方を高めるんだ」
鷹一は二人をじっと見た。傍目に見ると、殺意を込めて睨んでいるように見えるためか、二人は体を震わせた。二人とも後ろめたい面があったのだ。雲川は第二試合では何もせずに撃破され、金崎は第二試合では淡路に捕捉された。それを言及されているのだと思ったのだ。
しかし、鷹一はそんな気はなかった。ただ、今回は諸事情により、二人の訓練を付きっきりで見ることが難しかったのだ。それ故、二人に頑張ってほしいという気持ちから眼力が強くなったのだ。
「二人のそれぞれの訓練メニューと行き詰った時の対策法を資料にまとめておいた。後で端末に送るから確認しておいてくれ。あと、今回、俺はあまり二人の訓練を確認できない。二人には悪いが、俺も自分の訓練に集中したい」
「それはいいんだけど……というか、いつも鷲島には迷惑ばっかりかけてるから、訓練メニューを貰えるだけでも全然助かるんだが……でも『自分の訓練』って、つまり、鷲島自身の訓練ってことか……?」
「? そうだ。もしかしたら、二人は知らなかったかもしれないが、俺は実は今までも訓練をしていた。そして、今回は今までの訓練量では足りないと考えている。零、根崎、佐々木、この三人は間違いなく普通じゃない。あの星川・西山を超える実力者たちだ。他にも五条・秀川・上村・七宮は星川・西山レベルの猛者だ。次の試合では強い生徒が多すぎる。故に、厳しい戦いになる。二人にも頑張ってもらうが、俺ももっとトレーニングを積む必要がある」
「そ、それはそうなんだが……いや、なんか鷲島が負けるところとか想像できなくて……というか、今まで訓練してたんだな……いや、まあ鷲島の雰囲気とか性格とか考えるとしてて当然なんだが……なんかしてないイメージがあって……」
金崎が恐る恐ると喋ると、近くにいた雲川も何度が頭を縦に振った。
「合間時間に訓練していた。あと偶に設ける訓練休憩日、俺は一人で訓練していた」
「お、おう……そうだったのか……いや、なんかその、ごめん」
「? 別に構わないが……とにかく、俺はしばらくは自分のトレーニングに集中する。二人は俺がまとめておいた方法で各自トレーニングに励んでほしい。もし、どうしても聞きたい事があったら連絡してくれ」
「わ、わかった」
「う、うん……」
残念さ半分、申し訳なさ半分の金崎と、不安だが少し嬉しそうな雲川がそれぞれ了承の言葉を口にしたのであった。
「ありがとう。それと、二人は何か連絡事項はあるか?」
「いや……特には無かったと思う」
金崎が脳内で何か無かったかと思い出しながら答えた。一方で、雲川は少し悩まし気な顔を作った。言うべきか言わないべきか悩んだのだ。
「紫苑、どうした? 何か気になることでもあったのか?」
雲川の仕草をすぐに読み取った鷹一が問いかけた。雲川は一瞬びくりと体を震わせてから、おずおずと口を開いた。
「……うん、えっとね……その報告? みたいなのがあって……その、大したことじゃないんだけど……この前言ってた、『灯』さんと『桜花』さんのことで……」
雲川が以前――第二試合と第三試合の間の作戦会議で言及していた二人の生徒の名前を口にした。
「『天沢桜花』と『明星灯』のことか。二人は無事チームを組んだみたいだな」
すぐに雲川の言わんとしているところに気付いた鷹一が言葉を続けた。『明星灯』の所属をどうするかを、以前雲川が口にしていたのだ。鷹一は、当時は『とにかく人数を増やすべき』という考えから『明星灯』の加入を推奨していたが、今となっては、加入させなくて良かったかもしれないと思っていた。
「え……? そ、そうだけど……何で、鷹一くんが知ってるの……?」
「俺は一応全ての試合に目を通している。天沢チームの第三試合での活躍も確認した。偶々なんだと思うが、想像より高魔力のチームで驚いた。特に天沢の戦闘スタイルは興味深かったな」
「あ、そうだったんだ……やっぱり全部見てるんだね……」
「ああ。それで、二人の件で『明星灯』が天沢チームに所属するから雲川チームには入らないということを話したいのか?」
「う、うん……あ、あとね……その、二人がチームを結成することになって、それで、『ありがとう』って鷹一くんに伝えてって言われたんだ……その鷹一くんに相談したこととか、その時の話とか伝えたら、桜花さんも灯さんも鷹一くんにありがとうって言ってて……あ、二人とも直接言うか悩んだんだけど、鷹一くんは忙しいかもってことで……」
「そうか。別に俺としては感謝されるほどのことはしていないつもりだったし、むしろ俺の考え方は天沢には厳しいものだったと思うが……やはり紫苑の友人というだけあるな。紫苑と同じで優しいのだろうな……」
「うん。二人とも優しい人だよ……あ、でも、そのごめんね鷹一くん、結局チームメイト増やせなくて……」
「ああ、その件か。それはもはや仕方ない。時間切れと思うべきだろう。時間が経つほど優秀な人物はいなくなる。俺も探して回ったが、碌な生徒は残っていなかった。偶に『良い』と思う生徒もいたが、そういった生徒は既にチームに所属している生徒ばかりだった。この前のような生徒をチームに入れるわけにもいかないからな」
「そ、そっか……」
少し言い淀むような雲川や困惑気味の金崎を見て、鷹一は一瞬思い悩んだが、すぐに『今すべきことではないか』と考え直した。
先日、雲川・金崎を巻き込んだとある出来事があったのだ。
――第三試合が終わり、第四試合のマッチングが決定されるまでの間に、三人の生徒がそれぞれ雲川チームへの加入を希望する、という出来事があったのだ。
雲川には鬼山という生徒が、金崎には門倉という生徒が、そして鷹一には谷森という生徒がそれぞれ雲川チームの加入を願った。三人とも『高ランクが期待でき選手枠に余裕がある雲川チーム』のバリューを強く期待したのだ。
鷹一は、谷森と話をした結果『能力と人格に問題がある』と判断し、リーダーの雲川には会わせずに淡々と門前払いにした。谷森は逆上して鷹一に罵詈雑言を浴びせ、雲川チームを呪いながら去っていった。
雲川を頼った、より厳密に言うならば雲川に纏わりついた鬼山は理屈と屁理屈をない交ぜに虚偽を含めつつも知能犯のように立ち回り、雲川の了承を取ろうとした。しかし、それは失策だった。話が難し過ぎたため雲川は鷹一を呼んでしまったのだ。
結果、鬼山は、谷森と同じように能力と人格を問題視され、鷹一に追い返された。鬼山は、谷森のように逆上はしなかったが、不満げに、『自分を入れなかったことを後悔するだろう』と言い残し大物ぶりながら立ち去った。
そして、最後、金崎を頼った門倉という生徒は、節操なく金崎に色目を使い『一緒のチームになりたい』と懇願したが、不審に思った金崎が鷹一に通報、すぐに鷹一が駆けつけた。
やはり能力と人格に問題があると判断した鷹一は、門倉もまた追い返そうとした。しかし、門倉は前者二人とは少しだけ状況が違った。
門倉は『高ランクの期待できる雲川チーム』を狙っていたが、前者二人よりも悲観的であり、「このままでは所属チームが決まらず学園追放になるのでは?」という恐怖もあった。門倉は泣きわめいて金崎と鷹一にチームに入れてくれるように懇願した。
しかも運が悪いことに雲川がその場に現れてしまった。金崎と雲川が門倉を哀れに思ってしまい、鷹一にチームに入れても良いのではないかと言い始めてしまったのだ。
鷹一は金崎と雲川の心に配慮しつつも門倉を排除する手段を選んだ。以前連絡先を貰った生徒――鷹一を勧誘した19人のリーダーのうちの一人であり、現在暫定31位の秩父リーダーに連絡を取った。
交渉の末、『秩父に対して鷹一は借りを一つ作る』という若干あやふやな協定の下、門倉を秩父チームに押し付けることに成功した。
門倉は泣きながら秩父と金崎・雲川・鷹一に感謝しつつも内心では、『でも31位はDランク……はぁ~、私、Bランクが良かったなぁ~』などと思っていた。そしてそれは顔に出ていて、鷹一には読み取られていた。なお、幸いなことに、甘い面がある金崎・雲川・秩父には読み取られなかった。
このように三人の希望者を追い払ったのは、鷹一なりに考えがあった。
鷹一にとって、Bランク維持は重要な課題であった。生活の質が高く、何より、個室を確実に確保できる。プライベートな空間の確保は鷹一にとって大きな夢であった。
――Bランク維持のため足手まといはいらない。
使えない駒が入った場合のデメリットを鷹一は重く評価していた。つまり、その駒によって雲川チームの得点が増える可能性よりもBランク仮想敵の撃破点が増えることによる相対的なランキング低下の可能性が大きい、と鷹一は考えたのだ。
またチームの士気・団結力などが下がる恐れが大きく、ZPの一人当たりの配分も少なくなるという問題点もあった。さらに言うならば、金崎の努力と成長が予想以上であり、雲川の成長余地もあり、現状の三人構成でもBランク維持ならばなんとかなりそうだと鷹一は考えていたのだ。
能力と人格が一定以上ならば欲しいが、そうでないならば、足手まといを入れる訳にはいかなかったのだ。
その後、少しの会話を挟み雲川チームの第四試合対策会議は終了となった。
あとは第四試合開始までの間、三人は各自でトレーニングとなった。今までとは違い個人練習中心となる方針。勿論、雲川・金崎両名は必要に応じて、鷹一がまとめた第四試合対策のための資料を読むことになるだろう。しかし、それでも今までとは違い合同練習や対策会議は殆ど無くなった。
四月最後の試合に向けて雲川チームの戦略は各自の努力と才能にゆだねることになった。