学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
【麻倉優愛】
麻倉チームのリーダー。穏やかで優しい。人徳と人望がある。雲川と同じ一時寮に所属している。生徒としては平均以上の戦闘力を持つが、Aランク帯で戦うには厳しい程度の実力。
【双葉愛里】
麻倉チームの暗殺者。通信担当も兼任。コミュニケーションが少し苦手。リーダーである麻倉を崇拝している。気が弱いが、さる理由から佐々木に対しては少し気が強い。平均以下の戦闘力の持ち主。
【佐々木緑山】
麻倉チームのエースかつ最終兵器。レーダーも担当。曲射砲を使った高威力の砲撃を得意とする。非常に高い魔力の持ち主だが、自身の魔力を制御しているため、あまり気付かれていない。鷲島・飛山に最も警戒されている生徒。
【黒沢惠里加】
麻倉チームのレーダー・観測担当。麻倉に惹かれてチームに入った。能力的に秀でた面は少ないが、観測能力は高い。
【七宮美雨】
麻倉チームの切り込み担当。高い魔力とAランク帯でも戦える戦闘能力を持つ。第二試合から参戦。やや寡黙で、冷たい印象を与えるが、色々と気を回す人物。少しだけ天然。
★麻倉チームのこれまでの戦歴
第一試合:安重・麻倉・三宮・木下のチーム戦
⇒安重チームに敗北する。序盤に麻倉・黒沢が落ちるが、佐々木の報復砲撃で撃破点を確保する。しかしその後、位置が割れた佐々木が安重チームに包囲されて打ち取られてしまう。佐々木が3点の撃破点を獲得。双葉・佐々木が任務点を確保する。合計5点。
第二試合:劉・麻倉・鈴木・高光のチーム戦
⇒勝利する。序盤の大乱戦に勝利し撃破点を確保。さらに佐々木が各戦場に砲撃支援を行いチーム全体の撃破点を伸ばした。撃破点は佐々木3点、七宮2点、麻倉1点。麻倉・双葉・佐々木が任務点を確保する。合計9点。
第三試合:飛山・麻倉・清沢のチーム戦
⇒飛山チームに敗北する。各地でゲリラ的に戦う飛山チームに苦戦する。飛山を除く全員を歩砲協同攻撃で抹殺するが、代償に佐々木・七宮・麻倉を失い、残った双葉・黒沢は二対一で飛山に挑むも敗北する。撃破点は麻倉2点、双葉1点、七宮1点。双葉・黒沢が任務点を確保。合計6点。
学園内某所、カラオケルームの一室にて。
第四試合のマッチング決定後、麻倉チームもまた動き出していた。
チームメンバーの双葉と佐々木の二人が第四試合の対策を考え、今日はその説明のため麻倉チーム全員がカラオケルームに集まったのだ。
双葉が部屋の防音性を確認し、扉をしっかりと閉めた。その物々しい様子を、他の四人が無言で見守った。扉を閉め終えた双葉が席に着くと、少し戸惑いながらも黒沢が口を開いた。
「えっと……その、聞いていい?」
躊躇いつつも、黒沢が双葉に問いかけた。
「はい。作戦のことですよね?」
「あ、えっと……それもあるけど……その前に……何で、カラオケ? 誰か歌いたい人でもいるの……?」
黒沢の言葉に、双葉は目をぱちくりとさせた。そして、少しの間、回答に悩んだ後、チームメイトの佐々木の方を見た。
「佐々木君がここがいいって言ったので……佐々木君が歌いたいってことかもしれません……」
三人――麻倉・黒沢・七宮の視線が佐々木に突き刺さった。
「え、ち、違っ……」
慌てた佐々木が双葉を見た。双葉は佐々木にだけ見えるように小さく口元を歪めた。佐々木は困った。彼はカラオケがあまり好きではないのだ。しかし、ある程度安価でかつ秘匿性があり、そして他のチームと遭遇しにくい場所ということでカラオケを選んだのだ。
ランクが決まる第四試合直前、多くのチームは訓練を意識する。もし彼らが作戦会議をするにしても、それは秘匿モードにした訓練室である可能性が高い。まさかカラオケなど行かないだろうと佐々木は考えたのだ。
(というか、ちゃんと双葉さんには理由を説明したのに……双葉さん、鬼畜すぎる……前はもっと優しい感じだったのに……なんか最近、俺にだけ当たりが強くない? 前の試合のこと怒ってるの? 別に砲撃当てたわけじゃないのに……)
佐々木が考えている間にも、事態は動いた。七宮がマイクを二つ持ち、それぞれ佐々木と双葉に差し出したのだ。
「はい」
七宮の簡潔な言葉と共に双葉と佐々木の手にマイクが握らされた。
「え?」
「えっと?」
双葉と佐々木が同時に疑問の声を上げた。
「……? 二人とも歌いたいんじゃないの?」
「いえ……佐々木君が歌いたいだけで、私は……」
双葉は少し困ったように佐々木を見た。佐々木は一瞬、人を呪わば穴二つという言葉が脳内に浮かんだ。
「あの、俺も別に歌いたいわけじゃないけど……ただ、作戦会議をするのに良い場所だと思って。音が漏れにくくて、ちょうどこの時期なら、人も少なさそうだから……」
「そう……歌わないのね……」
七宮は残念そうにしながら、マイクを回収した。
微妙な空気感を感じ、状況を仕切り直そうとリーダーの麻倉が手を叩いた。全員の視線が麻倉に集まった。
「ええっと、とりあえず、作戦会議しますか……!」
それぞれ了承の態度を示したことで、麻倉チームの作戦会議が始まった。
まず双葉が今回の試合の対戦相手である零チームと雲川チームの特色や所属選手、これまでの試合成績などを口にした。麻倉チームの面々は平均以上には意欲がある者達だ。故に、殆どのメンバーが、双葉の説明についてある程度知っていることも多かった。
しかし、それでもチームメンバー全員で情報を確実に共有するための時間を取ったのだ。
ところどころ、つっかえつつも双葉は情報共有をすませ、最後に付け加えるように次の言葉を述べた。
「――それで、纏めると……次の試合は『強い選手』が多いです。私と佐々木君の見立てでは、秀川君・上村君・五条さんは七宮さんと同格で、零さん・根崎さん・鷲島君に至っては佐々木君と同格以上です。特に後者の三人はこれまで多くの撃破点を獲得しています。三人とも、単純に『正面から戦ったら絶対に勝てない』相手です。零さんの対人能力と瞬発力、根崎さんの破壊力と対応力、鷲島君の機動力と撃破能力、どれも飛び抜けています。単純に戦うと私たちのチームは一番不利です」
そして、双葉の説明が終わると今度は、佐々木が第四試合における実際の麻倉チームが取るべき立ち回りや戦術の説明を始めた。
「あー、それで、実際、どうやって戦うかってことだけど……一番基本の戦法は今まで通りで良いと思う。つまり基本的には装備とかは変えない感じ。あ、ただ、麻倉さんだけはちょっと装備を変えてもらう感じかも。ええっと、だから、基本はいつも通り皆に視界を取ってもらって俺が撃つ感じ。でも、ちょっと違うこともあって……あー、なんて説明しようかな……」
悩みながらも佐々木が少しずつ言葉を口にする。
麻倉チームの基本戦法は、観測砲撃と歩砲協同攻撃であった。佐々木以外の麻倉チームの面々はパッシブ装備に【観測装置】と呼ばれる装備を付けている。これは自身が見た視界情報を仲間に送信できるというものだ。本来は偵察役が一人装備するかしないかといったようなモノであったが、麻倉チームは佐々木以外の全員が装備していた。
これにより、佐々木は全員の視界情報から、最も砲撃するべき対象を選び、間接射撃により、数々の敵を屠って来た。扱いが極めて難しい曲射砲、それを目視ではなく味方の視界を使って行うという人外じみた行いであった。それは、かの超人、鷲島鷹一が佐々木の試合を見る度に恐怖を感じるほどの行いであった。
そして、仮に佐々木の砲撃で仕留められない場合は、麻倉チームの面々が突撃し、砲撃によって混乱する相手を攻撃、それでも討ち取れない場合は、佐々木がさらに援護砲撃を行うというのが麻倉チームの戦法であった。
この戦法を打ち破った者は未だかつて存在していなかった。
過去に、佐々木自身が討ち取られたのは二度あった。第一試合で麻倉と黒沢が撃破された状態で佐々木が安重チームに包囲されて打ち取られ、第三試合では各地へ援護砲撃をする佐々木が針谷の突撃により討ち取られた。
ただ、それでも佐々木と麻倉チームの連携を崩すことができず、多くの生徒が一方的に撃破されていった。唯一、この連携攻撃を生き残ったのは飛山龍華ただ一人であった。なお、飛山本人はその件に関して、『あれは運がよかったのと針谷さんが頑張ったおかげかな』と考えていた。
「ええっと、試合の流れの漠然とした予想なんだけど……今回の第四試合はたぶん雲川チームと自然な共闘をする形になると思う……たぶん」
そこまで言うと佐々木は慎重にチームメイトを見た。それから慎重に、佐々木は、予想の理由を口にし始めた。
「ええっと、何でそう思ったかと言うと、零チームがあまりにも強すぎるから。強すぎて、麻倉チームだと正面から戦えないし、同時に雲川チームも正面から零チームには勝てないと思う。だから乱戦に持ち込むしかないけど……零チームは乱戦も結構強い。というか零さんが乱戦に凄く強いし、根崎さんはちょっと超人すぎるし、対処が難しい」
再度、佐々木は仲間たちの様子を見た。反対意見などは出そうになかった。
「それで、これは雲川チームから見ても同じだと思う。雲川チームからすると、エースの鷲島君が凄く凄く凄く強いけど、それでも一人だと零チーム相手には勝てないと思う。雲川チーム……というか鷲島君的には、たぶん零チームは厳しい相手で、一方で麻倉チームはそこまで警戒していないと思う。結果的に、麻倉チームも雲川チームも『零チームを優先的に叩く』って形に落ち着くと思う。だから、自然と共闘が成り立つ……はず」
佐々木の言葉に、残りの四人が頷くような仕草をした。特に対立意見が出ないことを確認しつつ、佐々木はさらに説明を続ける。
「ええっと、それで、第四試合の理想的な展開を言うと……雲川チームと無言の共闘で、零チームとそれぞれが削り合いをして、駒を減らす。ある程度駒が減ったら、三つ巴の乱戦タイムに持ち込む。麻倉チームの高得点パターンはこれくらいしかないと思う。
麻倉チームが単独で零チームの相手は厳しいし、雲川チームは落とせる駒が雲川さんと金崎君しかいないし、鷲島君と戦うというケースは最悪のケース。序盤は雲川チームと連帯し零チームと戦い、最後は三つ巴に持ち込むというパターンが麻倉チームにとってベスト寄りのベターで、雲川チームにとってもベターな選択のはず。鷲島君が生存力があって強いからね。
と、まあ、こんな感じで次の試合は無言の連携で、麻倉・零・雲川チームで削り合いをする感じ。それで、終盤までに、三チームがどれだけ戦力を残せるか、残した戦力でどのように当たるかってところが勝負の決まりどころだと思う……ただ、これでも勝率的には零チームが有利で、次点で生き残れる上に強い鷲島君がいる雲川チームが有利だと思う。でもこれぐらいしか勝ち目がある作戦は無さそうだから、これに賭ける感じでいいと思う」
そこまで言うと、佐々木は再度全員を見回した。特に反対意見があるものはいなかった。佐々木は内心で『良かった』と思いつつも、少しだけ、『本当に良かったのか?』と思った。しかし、すぐに、もう少し言うべきことがあったと思い出し、再度、言葉を続けた。
「で、この作戦を前提に考えると、基本的にみんな終盤まで生き残る必要があると思う。そこで、さっき言った麻倉さんの装備変更の件が関わってて……麻倉さんには隠蔽とレーダー重視の装備で行ってもらおうと思ってる。いつもより戦闘力は落ちるけど、たぶんそれでも金崎君と雲川さん相手なら勝てると思うからそれでいいと思う。双葉さんと黒沢さんは元々隠蔽装備なのでそのままな感じ。三人は隠蔽装備で隠れてやり過ごす感じになると思う。それで、七宮さんは、今まで通りの装備だから、場合によっては見つかると思う……一応、俺が援護可能なら援護するけど、零さんとかが相手だと凄く厳しいと思う……」
「分かったわ。精一杯気を付けて、生き残れるように努力するわ」
少し申し訳なさそうな佐々木の言葉に対して、七宮はすぐに了承の声を上げた。
「なんか、いつも難しい役回りを投げつけてしまって申し訳ない……」
「構わないわ。佐々木君ほど大変な役割ではないしね。それより、佐々木君は大丈夫? 重装備だからまず見つかるわよね。生き残れそう?」
大型曲射砲と拡張弾倉を装備している佐々木は、新入生240人の中でも特に重い装備であった。ゆえに、隠蔽能力は低く、さらに曲射砲の砲撃は目立つため、ほぼ確実に見つかる役回りであった。
「ええっと、ある程度距離があるなら、根崎さん・上村君・秀川君・五条さんは何とかなりそう。投入運が最悪だったら諦めて地獄の直射バトルをすると思うけど、まあそれはしょうがない……
ただ、零さん相手だとちょっと厳しいかもしれない。俺は高速ユニットに弱いと思われてるし、実際弱い方だから、見つかったらまず零さんが突っ込んでくると思う。だからそのケースはかなり警戒してる。
同じ高速ユニットの鷲島君も警戒対象だけど、共闘路線になると思うから、終盤に俺と鷲島君の両方が生き残っているパターンくらいしか戦う機会は無さそうかな? まあ勿論、それもそこそこあるパターンだと思うから鷲島君対策はするつもり。
まあ、零さんも鷲島君もあれだけ速いと曲射砲はさすがに当たらないから、針谷さん相手にやったように自爆するくらいしか無さそうだけどね……あ、でも生き残れるように最大限努力はするつもり。中盤以降に俺も皆と一緒に生き残れれば、数勝負になると思うから、結構勝ちの目が出ると思う。鷲島君と俺でどこまで零チームを減らせるか、そして俺と七宮さんが生き残れるかが、麻倉チームの勝敗の鍵になりそう」
「あ、あの、ちょっといいかな?」
遠慮気味にリーダーである麻倉が尋ねた。
「あ、はい。麻倉さん、何でしょう?」
佐々木もまた少し畏まった様子で麻倉に答えた。佐々木は、いや麻倉チームの殆どの選手は麻倉の人徳――親切で優しい人柄に惹かれてチームに入ったのだ。唯一、七宮だけは第一試合で見せた麻倉チームの強さを認めて第二試合から参加したという面があったが、それでも七宮もまた麻倉の優しさに惹かれていた。
「えっと、それなら雲川さんと共闘の話をした方がいいかな……? 私、雲川さんとは一時寮が一緒で……その、私の主観だけど……結構仲が良いと思ってるんだ。どちらかというと寮内では雲川さんとよく話をするし……雲川さんも話は聞いてくれると思うから……どうかな……?」
麻倉は雲川・水無月・青井と同じ一時寮に属していた。そして、雲川とは、よく話をしている仲だった。雲川もまた麻倉の人徳に惹かれていたのだ。
「あー、それは、その……やらない方がいいかもしれないです。なんかルール違反になりそうなので。たぶん無言で共闘するのも裏切るのも自由だと思うんですけど、実際に共闘の口約束をしたりするのはアウトのような気がします。チーム戦の基本ルールにそんな感じの記述があります」
「あ、そっか……ごめん。ちょっと気が早かったかも……」
「ああ、いえいえ。気を遣ってもらっちゃってすみません。えっと、あとは何かありますか?」
佐々木がチームメイトを見回した。七宮が遠慮がちに手を挙げた。
「その、ちょっとこれは言いがかりみたいな思い付きだけど……雲川チームが勝ちを捨ててチームポイントを取ることだけ考えている場合はどうする?」
「あー、それは実は結構ありそうで怖い感じです。そうなったら……あ、その、今更だけど皆はAランク一応目指すってことでいい? Bランクでも大丈夫?」
「私は全然Bランクで大丈夫です……!」
「麻倉さんが良いなら私も……」
「え……ええっと、皆が良いなら……?」
麻倉がまずはじめに答え、それを聞きすぐに双葉も同意を口にし、多数派が形成されたのを見て黒沢もあわあわと賛同を口にした。しかし、最後の一人、七宮は違う意見を持っていた。
「できればAランクが良いわ。私たちなら十分狙えるラインだと思う。配給されるZPも多いし、今後のことを考えるとAランク入りやその維持を目指すのは良い目標だと思う。でも、絶対目標ではないわ。無理をしてまでAランクにこだわる気は無いわね。ただ、Bランクは維持したいわ。佐々木君はCランクでも一人部屋確定だけど、私たちはCランクだと四人部屋になりそうだもの」
七宮は麻倉チームの珍しい点――男女比について言及した。佐々木だけが黒一点なのだ。ゆえにCランク待遇――チームに与えられる部屋が二部屋という状況では、男女で分かれる都合、麻倉チームは一人部屋と四人部屋という偏った構成になるのだ。
「Cランクに落ちることはさすがに無いと思うけど……とりあえず、Bランクでも大丈夫ってことなら、雲川チームがこっちを狙ってきたら相打ち覚悟で雲川チームと潰し合いする感じになると思う。
一応、それでも撃破点は少し入ると思うし……まあ序盤から雲川チームと潰し合いしたら、両チームの生き残りが零チームに狩られて、任務点も取れず、零チームは任務点全確保みたいな感じになりそう。端的に言うと、零チームに楽に勝利を譲る形になるかな。いや、まあ、零チームが楽できるかは別に関係ないか。
とりあえず、麻倉チームがどこまで点数取れるかの方が重要だよね……まあ、その、雲川チームとの潰し合いでも3点くらいは取れると思うし、Bランクは固いと思う。Aランクはちょっと厳しいけど……」
「えっと、あの、いいですか……?」
言い淀むような佐々木に対して、双葉が手を挙げた。
(え、なんだろう……双葉さん、俺にだけ鬼畜だから、ちょっと怖いんだけど……)
「あ、うん……双葉さん、何かある感じ……?」
少し戸惑いながらも佐々木が質問を拾い上げる。
「佐々木君がこの前言ってた、零チームへの対策って結局何なんですか……?」
「あー、アレね……そう言えば、説明してなかった……ええっと、何て言えばいいのかな……これはちょっとメタ読みもあるんだけど……零チームって重装備の生徒が多いから、防御力や弾幕構築能力は高いんだよね。そこを逆手に取れないかなって思ってて……」
佐々木は少し悩みながらも言葉を紡いでいく。
「……具体的に言うと、次の試合で、俺の砲弾の性質を今までとは違うものにしようと思ってる。通常時は低速拡散砲弾、拡張弾倉起動時は強化徹甲弾にする感じ。低速拡散弾は弾速が遅くて、精度が悪いけど、とにかく手数が多い。砲弾が途中でバラけて数十発の榴弾に分散する感じ。バラけた榴弾の一発一発は威力は弱いけど数で補う感じ。爆発範囲はけっこうあるし、面制圧としても使える。何より、弾幕で撃ち落とされにくくなる。これだけでダウンまでは持っていけないけど、相手にシールドを強要できるし動きも止められる。根崎さんレベルでも一時的に防御に意識を持っていけると思う。ただ、弾道が少し独特だし、弾速が遅いから、当て方はちょっと難しい……」
「でも、どうせ当てるんですよね……」
双葉が冷たい目で佐々木を見た。
(何で、気持ち悪いモノ見るような目で俺を見るの……?)
「ど、どうだろう……とりあえず、できれば試合には勝ちたいから当てるように頑張るけど……でもメインはこっちじゃなくて、拡張弾倉の方がメイン。拡張弾倉起動時は砲撃が強化徹甲弾に変わる。こっちは高速かつ高貫通、高威力。根崎さんや五条さんのシールドでも突き破れる。低速拡散砲撃で動きを止めてシールドを出させて、その隙に拡張弾倉を起動して高速の強化徹甲弾を発射。拡散弾に紛れて飛来した強化徹甲弾でシールドごと吹っ飛ばそうと思ってる。まだ使ってない技だし、そんなに対策はできないと思う。だから、たぶん零さんと鷲島君以外はこれで全員吹き飛ばせる」
「エグいです……」
双葉が冷たい目で佐々木を見た。
(何で、ゴミを見るような目で俺を見るの……?)
「ええっと……まあでも、零さんと鷲島君が問題で……あの二人は低速拡散砲弾を掻い潜りそうな気がする。まあ、鷲島君はシールド無いみたいだから、破片でも当たれば致命傷になるかもしれないし、面制圧的な攻撃だから高速戦闘が得意な零さんと鷲島君対策にならないこともないけど……うーん、まあ、たぶんあの二人には勝てないような気がする。だから、基本は頑張って逃げる。あとは投入運にお祈りかな。七宮さんと一緒に生き残れる配置になるように祈る感じ……?」
佐々木がそこまで言うと、なぜか双葉は目を瞑った。そして両手を合わせた。祈りのポーズであった。
双葉のポーズを見て、リーダーの麻倉もなぜか同じポーズをした。二人が祈り出したの見て、慌てて黒沢が同じポーズをした。
チームの過半数の異常行動を見て、佐々木はもくもくと祈りのポーズを始めた。
自分以外の全員の異常行動を見て、七宮は考えるのを止めて祈りのポーズをした。
しばらくの間、麻倉チーム全員は無言で祈り始めた。
そうして数分後、祈りを終えた一同に対して、佐々木がまとめの言葉を口にした。
「ええっと、まあ、投入次第で、どんな状況になるか分からないし、最悪Bランクでも良いみたいだし……その、まあ、気楽に……一応、もしもの時はそれぞれ頑張って生き残るか撃破点を稼ぐ感じで。何事も、臨機応変に対応できるのが理想だと思うけど……でも、それって難しい気がするし……あーその、まあ、えっと頑張りましょう……!」
そうして、麻倉チームは作戦会議を終えた。最後まで、佐々木の作戦提案に対して、反対意見は一つもなかった。終始穏やかで反発がないことが麻倉チームの面々の特徴だった。そのことに七宮は僅かばかりの不安を抱いた。
(うちのチーム、これでいいのかしら……? 双葉さんと佐々木君が頑張ってくれてるけど、このチームは主体性と作戦能力に欠けてる気がする。麻倉さんは、とても良い人で尊敬できるけど、反対意見は絶対言えない人だし、リーダーとして統率力には不安があるかも。私もあんまり人のことは言えないけど。黒沢さんは、周囲に合わせることしかできない……でも主体性が薄くて、作戦能力がないのは私も一緒か)
そこまで考えて、七宮は僅かに自己嫌悪に陥る。しかし、そこで止まらず、さらに自身のチームについての考えを続ける。
(……実際、双葉さんと佐々木君の作戦案は良さそうな感じはする。でも、対立意見がいつも無いのはどうなんだろう……? うちのチームは穏やかな人が多い。変に荒れたりするよりは全然良いことだし、恵まれているとは思う。けど、このままでいいのかしら……? 実際、佐々木君の才能でAランクにいるようなチームよね……もっと何か、作戦とか統率とか訓練とか、『佐々木君だけに頼らない』チーム作りをした方が良い気がするけど……)
七宮が悩む一方で、麻倉チームは、リーダーである麻倉の提案の下、残った時間を使い、皆で、純粋にカラオケで楽しむことになった。双葉・七宮の両名は歌がとても上手く、チームメイトを感動させた。最終的に、佐々木以外の全員が数曲ずつ歌を歌った。なお、最後まで歌わなかった佐々木に対して七宮は「歌わないの?」と尋ねたが、佐々木は端的に「歌わない」と答えた。七宮が知る限り、佐々木史上最短の会話切りであった。
佐々木の思わぬ弱点に、七宮は内心苦笑した。