学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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第四試合③ 雲川紫苑は頑張っている

 

 時間は少し前に遡る。

 

 雲川紫苑は、鷹一からの指示を受け、農業マップ中央部を必死に走っていた。

 東へ東へと進み、北西から近づいてくる五条から少しでも距離を取るために必死であった。

 

 この一週間の訓練もあり、雲川の移動速度は何とか実戦レベルに達していた。

 鷹一の指示により自主訓練となってからも、雲川は彼女なりに精一杯の努力をしていたのだ。

 本当は雲川はちょっと休みたいと思っていた。訓練なんて大変だし、何より才能が無い自分がやっても意味が無いと思ったのだ。鷹一の見張りもないし、それならば、ゆっくりと……という考えが何度か頭に過った。

 それでも、雲川はここ数日間、誘惑を打ち破り必死に訓練をした。

 

――自分のために鷹一が頑張っている事を知っていたし、金崎もチームのために頑張っているのも知っていた。だから、一人だけ、完全にサボるようなことはできなかった。

 

 そして、その訓練の成果が今、はっきりと表れていた。

 重装備ゆえ五条の機動力が低いという点もあったが、それでも、走り方や逃げ方、農業エリアのマップ知識など、学んだものを活用した雲川の確かな成長であった。

 

『鷲島……! 七宮がダウンした! 上村が勝った! 最後、佐々木の砲撃がまた来たけど、全部回避してた……! 上村は雲川さんの方に向かってる……! あと零が、だいぶそっちに行ってる! もうすぐ鷲島の方に着く!』

 

 金崎からの通信を聞き、雲川はまたしてもつらい気持ちになった。

 一つ前の通信で、頼みの鷹一が来ないことを知り、とても困ったのだ。困りながらも鷹一の言葉を信じ、東へ東へ逃げ続けた。そして今、東から上村まで近づいてくるという。この後は、どうやって逃げればいいのだろうか。自分はどうすればいいのだろうか。

 雲川は鷹一に聞きたかった。でも、流石に今は鷹一がとても忙しいことは、雲川も分かっていた。

 

 それに、鷹一への信頼もあった。鷹一ならば正しい行動をすると思ったのだ。

 自分がこれ以上東に逃げるのがよくないならば、鷹一が指摘してくれるだろう。鷹一の指示を聞いておけば、とりあえず、問題はないだろうと雲川は思っていた。もし、問題があったとしても、それならば『自分のせいにはならないだろう』という後ろ向きな考えも雲川の中には少しだけあった。

 

 ある意味において、それは正しかった。鷹一に比べ、雲川は戦闘能力だけではなく、戦術能力も統率能力も劣っていた。ゆえに、雲川は勝手な動きをするよりも、『思考停止で鷹一の言葉を聞く』というのは、比較的ベターな選択であった。ただし、それならば、リーダーとして雲川に存在価値があるのかという問題にもなるし、何より、雲川の行動は思考放棄に他ならず、チーム戦でA・B(上位)ランクに留まるような生徒の行動ではなかった。

 

――その時だった。

 

 何か悪寒のようなモノが雲川に走った。その直後、通信機から悲痛な声が響いた。

 

『佐々木を撃破した。このまま零を――』

『――雲川さん! 上っ!!』

『紫苑! すぐに建物の中に退避しろ!! 佐々木の砲撃が来るぞ!』

 

 その声とともに、大量の榴弾が雲川に迫った。

 

――咄嗟であった。

 

 佐々木の砲撃が着弾する直前、雲川は反射的に建物の中へと隠れた。

 訓練での動き、マップ知識、鷹一の指示、そして何より鷹一も評価した『雲川の実戦での強さ』、それらが混ざった反射的な身のこなしは、雲川を建物の中へと隠し、迫りくる榴弾の雨から雲川を守った。

 

――そう、少しの間だけ。

 

 降り注ぐ榴弾の雨は先程まで雲川がいた道路を完膚なきまで破壊し尽くした。もし、建物の外にいたならば、シールド能力が低い雲川では一瞬でダウンしただろう。

 しかし、建物の中にいれば安全というわけではなかった。榴弾の雨は雲川の周囲に大量に降りそそぎ、彼女が隠れた建物をも巻き込んだのだ。

 大量の榴弾が建物の中にまで入り込み、あちこちで爆発を起こした。雲川は咄嗟にシールドを展開した。

 魔力が低く、訓練したとはいえまだまだ未熟なシールド技能では、雲川を守ることはできなかった。

 爆発と爆風に巻き込まれた雲川は大ダメージを負った。

 けれど、運よく、大ダメージを負いながらも生き延びた。

 

――しかし、雲川の運はそこまでだった。

 

 建物が榴弾の雨には耐えきれなかったのだ。轟音を出し崩れる建物が、瀕死の雲川に覆いかぶさった。

 雲川の体の下半分が、ぐしゃりと建物の下敷きになった。

 痛みはなかった。試合の仕様上、ダメージは肉体にフィードバックしない。けれど、行動不能に陥った。

 

――このままでは追いつかれる。

 

 雲川は必死に瓦礫をどかそうとしながらも、追手との距離を掴むため、レーダーを再度起動した。

 レーダーに表示される二つの光点、片方は五条、もう片方は見知らぬ敵――それらが少しずつ雲川に近づいてきた。

 

(ど、どうしよう……! あっ! 鷹一くんに報告しないとっ……!)

 

『た、鷹一くん……! 下敷きになっちゃった……! 動けない……! あと、なんか北東に新しい敵がっ――』

 

 そこまで通信をしたところで、遠距離から放たれた弾丸が雲川紫苑の脳を貫いた。

 

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