学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

54 / 134
第四試合⑤ 二つの罠、二つの活路

 

 一方で、零チームも、鷹一へ対して弾幕を浴びせながら、現状打破のための対策を思案していた。

 

(これが鷲島のシールドか……! 確かにやりずらい。上村の読みだと、分散シールドを使ってるって話だが……曲射砲以上に使いにくい装備をこんな簡単に使えるか? いや、それは今はいい。それよりもヤツを倒す方法を考えないとな。左腕が無えせいで、射撃の制御が最悪だ。それに距離もある。もう少しヤツが近づいてくれば弾幕を集約させられるが……望み薄か? いや、ヤツも近づかないと始まらない。どこかで、勝負をしかけてくるはずだ……!)

 

 状況を読みつつも、射撃を続ける秀川に対して、仲間から通信が入った。

 

(秀川君。五条さん。そろそろ任務発行のお時間ですが、どうします?)

 

 射撃の名手、上村であった。

 

(どうって何がだ? このまま鷲島を撃破するしかないだろう)

 

(いや、これもう厳しくないですか? 点数的にも、鷲島君無視して、任務発行と同時に散開した方がよくないですか? 任務重視に切り替えません?)

 

 上村・秀川・五条の弾幕攻撃は現在進行形で継続中であった。

 しかし、未だに鷹一にダメージを与えられていなかった。鷹一のダメージは、零の命をかけた攻撃による右手の喪失と、それによって発生した隙を突いた上村の射撃による右肩へのものだけだった。距離があるとはいえ、ここまで防御されている以上、上村にとって鷲島の撃破は非常に困難なものであった。

 

(そしたら、アイツに各個撃破されるだけだ)

 

 射撃を続けながら秀川が答えた。

 

(仮にそうだとしても、ここで膠着状態になるより点数稼げそうだと思いますけど)

 

 鷹一の撃破点を逃しても、任務点を確実に取れば、三人で3点。対して鷹一を倒せても1点にしかならない。上村はそこを指摘した。

 

(ここで鷲島を倒して、隠れて震えてる金崎を潰して、その後で任務点を確保。これが一番得点を稼げるし、最適解だ)

 

(いやー。第四試合始まる前なら、それもアリでしたけど、鷲島君が未知のシールド使ってきた上に、零さんが一方的に撃破されたって状況だと、もう敗戦確定でしょ。大英雄の根崎様も初手で落ちちゃいましたし)

 

 初手で根崎が落ちたことは、零チームにとって非常に大きな損失であった。仮に、初手で秀川が死に、代わりに秀川の今の位置に根崎がいれば、既に鷹一は根崎の膨大な弾幕に飲まれ討ち取られていただろう。それほどまでに、根崎と秀川には隔絶した差があった。

 

(リーダーの犠牲で、俺たちはかなり良い位置から鷲島を攻撃できている。それにお前の射撃も通った。リーダーの攻撃も通ったし、アイツは別に無敵じゃない。状況次第で倒せる相手で、そしてそれは今しかない。今、逃げたら、二度とお前はチーム戦で鷲島に勝てなくなるぞ)

 

 秀川には複雑な思いがあった。鷹一への対抗心、格下を有する雲川チームから逃げることへの恥辱感、さらに上位を目指すことへの渇望と誇り、弱気な根崎と上村への心配、身を賭して勝利への道筋を作った零への敬意と報いるべきという意志、様々な感情が秀川の中で渦巻いていた。

 

(いや、鷲島君には元々1対1じゃ勝てないですし……正直、今後のことも考えるとチーム点重視で行きたいですし、もう鷲島君にやられるのは仕方ないと割り切って任務重視でよくないですか?)

 

 一方で上村はやや冷めた考えをしていた。秀川ほどに熱くなく、『勝てない相手には勝てない』という考えが強かった。それよりもチーム戦の仕様を考えて、点を取れるところで取るべきという考えがあった。

 

(ダメだ。怯懦が過ぎる。リーダーも根崎も、そんな戦い方も勝ち方も望んじゃいない。五条、お前からも言え。お前の防御なら鷲島には負けないだろう)

 

 秀川は、賛同を得るため五条へと矛先を向けた。リーダー不在の状況では、決定権は曖昧であり、多数決という考え方は、ある程度の有効性を持っていた。

 

(ええ、負けませんが? それより、いつまで撃てばいいんですか? 私は頭と手を同時に動かすのは苦手です。通信をするなら射撃を止めたいです)

 

 冷たく鋭い声が答えた。声だけ聴けば、間違いなく冷静で強い知性を感じさせる、そんな声だった。

 五条は自分のシールドならば誰にも負けないという自負があった。それどころか彼女の個人的認識において、未だ負けなしのシールドであった。なお、既に第三試合で匂坂に破壊されたシールドであった。

 

(そのくらい気合で続けろ。俺も上村もさっきから通信しながら撃ち続けてる)

 

(いえ、私は通信母機も起動させてるので、お二人より負担が大きいのですが?)

 

 五条の言葉を聞いて、上村は『妙なところで変に正しい指摘をするな』と内心で笑った。

 

(お前はただでさえ、乱射しかできないんだから、それくらいこなせ。それより俺はこのまま鷲島と勝負を決めようと思ってる。鷲島が近づいてくるなら、高密度弾幕で迎撃する。もし、アイツが想像以上のチキン野郎で近づいてこないなら、こっちから出向いてやってもいい。五条、上村、お前たちは援護を頼みたい。できるか?)

 

(まあ構いませんよ。上村君はいいですか?)

 

 珍しく、五条が許可を求めた。

 

(いや~、止めた方がいいと思うんですけどね……まあ、お二人がそこまで言うなら止めはしないですよ。ワンチャン討ち取れる可能性もありそうですし……ただ、一応洗いたいことがあって、金崎君と黒沢さん、どうします? 位置割れてないですよね。ワンチャン、二人とも狙撃の構えを取ってて、こっち狙ってるとか無いですか? もしそうならヤバいですよね? 秀川君の拡張弾倉起動中に攻撃されたら終わりじゃないですか?)

 

 上村の指摘、それは拡張弾倉の弱点だった。

 試合中、各生徒はアクティブ装備を6つまで持ち込める。しかし、同時に使えるアクティブ装備は2つまでだった。現在の試合環境では、射撃武器とシールドを同時に使うというのが一般的な選手の戦い方であった。

 そして『拡張弾倉』もまたアクティブ装備であった。射撃武器ど同時に使用する『拡張弾倉』は、射撃武器を大幅に強化するものであったが、使用中は、射撃武器&拡張弾倉の形となってしまい、シールドが展開できないという大きな弱点があった。

 ゆえに、鷹一相手に、秀川が拡張弾倉を使っている間に、金崎または黒沢のどちらかに狙撃されるリスクがあると、上村は考えたのだ。

 

(それは無い。あの二人の試合での戦い方は見た。狙撃は高等技術だ。あの二人には使えない。念のため、さっきレーダーを使ったが、見つけられなかった。レーダーの性能から考えて、仮に二人が隠蔽装備を着込んでいたとしても半径300メートルにはいないだろう。そして、あの二人に300メートル先の目標を撃ち抜く能力はない。ついでに言うと、あの二人はそもそも撃ち合いが下手だ。50メートル先の相手でも当てるのは困難だ。狙撃はない。それよりあの二人は任務点を狙うだろう。俺たちが鷲島と戦っている最中に、カスらしく、コソコソ任務を狙う気だ)

 

 秀川の言葉を聞き、上村は咄嗟に金崎に関して反論しそうになるが、すぐにこれまでの金崎の戦績を思い出して沈黙した。対成田、対岡野、対淡路、岡野以外は至近距離で相手が回避できない状態での攻撃であり、岡野に関しても『狙撃』と呼べる状況ではなかった。今の秀川の言葉を否定するのは難しかった。

 

 そして、零チームが鷹一を一方的に射撃し、鷹一がそれを耐えるという状況が続いた。その間、鷹一は金崎に指示を出し、零チームに悟られないように彼を移動させた。そうして、任務発行の時間が訪れた。

 

 鷹一はすぐに自分の任務位置を確認し、さらに金崎の任務位置も通信を通して確認した。

 シールドで少しずつ減っていく自身の魔力量と金崎の機動力、その二つを天秤に乗せた鷹一は決断した。

 

『金崎、これから仕掛ける。色々考えたが、これがベターな選択だ。タイミングは、お前に任せる。速すぎても遅すぎてもダメだ。難しいが、お前ならこなせると俺は思ってる』

 

『わ、分かった!』

 

 その通信が終わった直後、機会が訪れた。上村と秀川のリロードの周期がちょうど重なったのだ。偶然の一致、いや十字砲火をするならば、それは致命的なミスだった。

 

 鷹一はそのミスを突くように動き出した。五条の乱射を躱しながら、上村の元へと駆けた。

 

 二つの罠が交錯した。

 

 零チームは、『任務発行後に、鷹一は任務点を稼ぐために、戦闘膠着を狙う』と予想していた。

 そこで、彼らは、あらかじめ射撃のリロードタイミングを少しずつズラしていたのだ。そして、故意に『任務発行後に上村と秀川のリロードが重なるタイミングが発生する』ように演出した。五条も、その演出に巻き込むかという話で少し揉めたが、すぐに、過剰演出すぎて罠くさすぎるという意見から上村・秀川だけとなった。

 この故意の同時リロードで隙を作り、接近戦最強の鷹一に接近させる隙を敢えて作ったのだ。千載一遇のチャンスで鷹一を釣り出し、戦闘膠着を狙わせないためだった。それに鷹一は引っかかった。少なくとも零チームの三人にはそう見えた。

 

 秀川は鷹一が駆けだした瞬間に、『拡張弾倉』を起動した。『拡張弾倉』の仕様上、起動と同時に即座にリロードが行われ、大きくリロード時間が短縮される。そして、上村の元へ向かう鷹一に横合いから、圧倒的な弾幕が降り注いだ。

 

(……!? なぜアクセルを使わない……!? 片手が落ちて重量変化に耐えられないのか!?)

 

 次々と圧倒的な量の弾幕を叩き込みながらも秀川は疑問を抱いた。片手を失ったアクセルにより制御能力と旋回性が落ちた鷹一を弾幕で落とすことが秀川のアイディアだった。それが空を切った。

 しかし、一方で、圧倒的な弾幕を前にして、鷹一は動けなくなった。上村への接近は途中で終わり、鷹一は動きを止めて、必死でシールドを展開した。鷹一の超人的な技量を持ってしても、これ以上の接近は不可能であった。そして、未だ、射程の短い鷹一は、上村を攻撃可能圏内に収められていなかった。

 策は少し外れたものの、すぐに秀川は軌道修正した。このまま、動けなくなった鷹一を一方的に弾幕で削り殺す。

 そして、それは実現可能であった。

 先程よりも鷹一が近づいてしまった分、秀川との距離が近く、弾幕の集約性は大きく向上していた。また、五条・上村からの援護射撃は健在であった。鷹一は次々とシールドを展開するが、迫りくる魔力弾が膨大であり、全てをカバーすることはできなかった。少しずつ少しずつ、魔力弾が鷹一を襲った。最初は体をかすめるように、そして、肩や腕、足や胴体に魔力弾が次々と命中し始めた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 徐々に負傷し、ダメージを蓄積させる鷹一は見て、秀川はさらに射撃に熱を入れた。

 

(いけるっ! コイツは倒せるっ! このまま、射撃を集中させるっ! 死ねっ、鷲島――)

 

 次の瞬間、マップ南部の建物の一室から放たれた魔力弾が次々と秀川に命中した。急所には外れたが、既に、麻倉チームとの戦いで片腕を失い満身創痍の秀川にとっては致命的なダメージであった。

 秀川のダウン、これは鷹一を攻撃する弾幕の主力が抜けたことを意味していた。秀川のダウンと同時に、防御する必要がなくなった鷹一は上村へと駆けた。

 一方で、秀川を撃破した金崎は、ほんの少し気を緩めた。

 

――遠距離射撃の成功、訓練の成果を出せた事、格上であり苦手意識のあった秀川を倒せたこと、そして何より窮地の鷲島の助けになれたこと、安堵や達成感、高揚感、それらが混ざった大きな感情の波が、ほんの少し金崎の意識を試合から遠ざけた。

 

――その僅かな油断は、Aランク帯の戦闘では致命的だった。

 

 秀川への射撃で位置が割れた金崎を、上村が淡々と狙い撃った。金崎とは比べ物にならない程に精密な射撃が、金崎の脳と心臓を貫いた。

 ダウンする金崎には目もくれずに、上村はすぐに南東へ逃亡した。そして同時に五条もまた北側へと逃亡した。近づく最強のユニットから少しでも距離を稼ぐためだ。

 逃げる上村を追いかけながら、鷹一は僅かに後悔した。

 

(金崎……! いや、これは俺のミスか。射撃後の防御と退避を徹底するように指示すべきだった……! ……いや、今は金崎が作った活路を切り開こう。まずは上村を倒す。それが終わったら北上して五条を倒す)

 

 数々の攻撃でダメージを蓄積している鷹一にとって、精密な魔力調整が必要なアクセルの使用はリスクがあった。確実性を重視し、走りのみで上村へと距離を詰める。

 

 しばらくの逃走劇の後、ハンドガンの射程に上村を収めると、鷹一は次々と発砲した。

 上村は振り返りながらも球形シールドを展開しハンドガンを防ぎ、アサルトライフルで反撃した。

 しかし、上村の精密射撃を持っても、1対1の状況で鷹一に射撃を当てることはできなかった。鷹一はシールドを使うまでもなく特殊な歩法で魔力弾を全て回避し、ハンドガンで牽制射撃を加えながら上村へと近づいた。

 

 双方ダメージを与えられない状況であったが、鷹一のブレード投擲の射程圏内に入ると状況が一変した。ハンドガンと投擲ブレードの変幻自在の攻撃は、上村ほどの選手であっても対応が困難だった。

 ハンドガンは全て球形シールドで防いだものの、ブレード投擲は防げなかった。一度目の投擲は回避できたが、二度目の投擲が上村の左腕に深々と突き刺さった。三度目の投擲は無かった。既にブレード戦の間合いだったからだ。

 迫りくる鷹一のブレードに対して、上村もまたブレードを顕現した。

 

 一合、鷹一と上村のブレードが交錯した。

 

 鷹一は上村の技量に少しだけ驚きつつも、淡々と次の斬撃を放った。余りにも速すぎる斬撃に対応できず、上村の胴体は真っ二つになった。半身が崩れ落ちつつも、上村は五条へ最後の通信をした。

 

(すんません、五条さん、あと任せました)

 

 上村は、内心で、『鷲島君と何合もブレード戦できる零さんも普通にヤバいな』と妙なことを考えながらダウンした。

 

 

【挿絵表示】

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。