学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
【匂坂キッカ】
匂坂チームのリーダー。優し気な面影の美少女。趣味は観戦会場の徘徊。鷲島・雲川と一緒に第一試合を観戦した。その縁により、雲川とは友達関係になった。なお鷲島には避けられているため中々会えていない。現在、チーム戦暫定一位。
【石河朝菜】
匂坂チームの戦闘・通信担当。非常に小柄な生徒。私的な場では親切で献身的だが、試合では基本に忠実な優れた選手。同じ匂坂チームの谷崎とは知り合いで、その縁もあり匂坂チームに加入した。
獲物を求め、観戦会場を徘徊する怪物――匂坂キッカは今日も『お話』に飢えていた。
第三試合の観戦の時、零チーム相手にいっぱいお話しできたという成功体験が、第四試合の観戦にも影響を与えたのだ。
匂坂は、これでもないこれでもないと今日の楽しいお話相手を探し、そしてようやく見つけたのが、飛山・道合・種村の三人組であった。
三人を順番に眺めながら匂坂は笑みを深めた。
「うわでた」
匂坂を見た種村が、少し引き気味に声を漏らした。現在、暫定一位チームのリーダーである匂坂は、その尋常ならざる戦闘力と人外の魔力量、そして何より粘着質な性格ゆえに、一部の生徒から避けられていたのだ。
「お! 匂坂さん、昨日ぶりだね」
一方で、飛山は特に不快さを見せることなく、親し気に匂坂に話しかけた。道合も尊敬する飛山の態度を見て、立ち上がり、無言でぺこりとお辞儀した。
そんな三人の様子を見て、匂坂はますます嬉しそうにした。
「お久しぶりですね。飛山さん。昨日は一本、いえ、五本も取られてしまいましたね」
「私としてはワンチャン、八本くらい欲しかったな~」
飛山の言葉に対して、匂坂は小さく微笑んだ。
「フフッ、それは少し傲慢と言いたいところですが……昨日の試合運びを見ると、不相応とは言い切れませんね」
「お~、褒めてもらって嬉しいなー。匂坂さんも試合観戦に来た感じ? 匂坂さんくらい強いとあんまり観戦の必要は無さそうだけど」
「そんなことはありませんよ。私は観戦会場がとても好きなんです。それと、聞き逃してしまいそうでしたが……種村さん、先程、『うわでた』と言いましたか?」
唐突に匂坂が種村へと口先を向けた。
「……い、言ってないよ……?」
種村は素知らぬ顔で視線を逸らした。
「そんなことを言われると悲しいです。梶田チームとは同じAランク上位同士、切磋琢磨していきたかったのですが……そのように言われてしまうと、つい、次、種村さんと戦う時に、魔力が必要以上に籠ってしまうかもしれません」
匂坂は種村の嘘を無視し、粘性のある声で言葉を紡いだ。種村は嫌な顔をした。
「いや、だってさ……第二試合で食らったバトルライフルが未だにトラウマなんだよ。何なの、その魔力。私も大概、魔力が多い方だけどさ……匂坂は、ちょっとゴリラすぎるんだよ。もうそれチートでしょ……試合出場禁止だよ……」
第二試合『匂坂・安重・梶田・星川のチーム戦』において、種村は匂坂に撃破されていた。そのことは種村にとって嫌な思い出だった。
「魔力は生まれつきですから。それに、種村さんも人のことは言えないのでは? 私と種村さんの魔力の差によって生じる不公平さよりも、種村さんと下位の生徒の魔力の差によって生じる不公平さの方が大きいでしょう。あなたは、根崎さんと同程度の魔力があります。それほどの魔力の持ち主が、試合に出場できる以上、私も出れるのは当然です」
「……でも、私は、人に粘着したり、甚振ったりしないから」
種村は匂坂から目線を逸らしながら、呟いた。
「そうでしょうか? 第二試合では随分、安重君を追い回していたようですが」
「あれは試合だから……」
「おや? それでしたら、私の行為も全て合法化されるのでは?」
「いや、今、試合中じゃないのに、私に粘着してきてるじゃん……」
少し困ったように種村は呟いた。
「粘着ではありません、これは雑談をしているのです」
「粘着だよぉ」
種村は嫌そうな顔をした。
「そう嫌そうな顔をしないで下さい。もっと嫌がる顔をさせたくなってしまいますよ?」
「じゃあ、その魔力をぶつけてくるのやめてよ……魔力ハラスメントだよ」
匂坂は先程からずっと、自身の絶大な魔力を種村へとぶつけ続けていた。種村は必死に魔力を練り、それに対抗していたが、魔力量の違いから、会話の最中に徐々に徐々に押されていたのだ。ただただ魔力の量を見せびらかすようなモノであり、実害はなかったが、それでも魔力感知能力が高い種村のストレスになっていた。
なお、匂坂は種村の魔力感知能力が一定以上であることを知っていた。知っていて遊んでいたのだ。お話をより楽しむために。
「フフッ、そんな顔をされるともっと魔力を当てたくなってしまいますが……あまりやると嫌われてしまうかもしれませんね」
そう言って匂坂は魔力の圧を下げた。種村は少しだけ助かったとばかりに息を吐いた。なお、既に種村は匂坂のことが苦手であった。
「では、隣を失礼しますね」
そう言って、道合の隣に匂坂が座った。そして、非常に小柄な少女――匂坂チームの石河が種村・飛山・道合に向けて小さくお辞儀をした後、匂坂の隣に座った。
「え? あ……」
ずっと沈黙して会話の流れを見守っていた道合が、思わず声を漏らしてしまった。ずっと視界に映っていなかった石河が急に匂坂の隣に座ったからだ。
「どうしました? 道合さん」
粘性の強い声が道合にかかった。
「え……いえ、ええっと……」
道合は困ったように飛山の方を見た。飛山は小さく頷くと口を開いた。
「アレかな? 石河さんかな? 急に現れたから道合さんもビックリしたんじゃないかな。実を言うと、私も今、匂坂さん一人じゃないのに気付いたんだよね。というか、逆に、今思ったんだけど、谷崎さんと山見さんは? 四人はわりと仲良しだよね。匂坂さんと石河さんだけなの?」
「フフッ、流石は飛山さんです。私たち、匂坂チームの仲の良さに気付くとは……零さんとは違いますね」
「どうもどうも、アリシアは結構鋭いところがあるからねー。ところで、谷崎さんと山見さんは?」
匂坂の言葉を適当に流しつつも、飛山は再度問いかけた。
「お二人は、とても勤勉ですから。今は、次の試合に向けて力を蓄えています」
どこか愉しそうに匂坂が答えた。
「ふむふむ。勤勉ね。なるほど。いや、でも、本当にそれだけ? 何か面白い事やってたりしないの?」
飛山が問いかけると、匂坂はどこか含んだように笑みを浮かべた。それを見た石河は口を挟んだ。
「匂坂さん。説明しても良いですか?」
「説明ですか……チームの機密は本来言うべきではありませんが……前試合の功労者である石河さんが言うならば認めましょう」
「ありがとうございます。飛山さん、ご存知かもしれませんが、本来、匂坂さんの隣に座るのは谷崎さんです。実力的にも人格的にも、谷崎さんが私たちのチームの副リーダーです。ただ、昨日の試合で、飛山さんのチームが活躍したので、今は私が、匂坂さんの隣に座る栄誉を授かっています。谷崎さんには申し訳ないと思う気持ちもありますが……」
匂坂から許可を得られたことを感謝しつつ、石河は飛山に、現状を説明した。しかし、それは妙な言い回しであった。質問に直接答えていないのだ。飛山は、それが少し気になった。
「ほむほむ? もしかして、一番得点を稼いだ人が隣に座るみたいなルールがあるの? 面白いね」
昨日の『匂坂・飛山・舞島のチーム戦』の匂坂チームの得点は8点であり、そのうちの4点を石河が獲得していた。
「いいえ。谷崎さんは、山見さんの特訓を手伝うのに忙しいんです。そして、山見さんが特訓する理由は、飛山さんなら知っていると思いますよ」
石河は明るい笑みを浮かべた。隣に座る匂坂とは対照的だった。
「あはは……そういうこと。なるほど。それはちょっと山見さんに悪い事しちゃったかな? でも、まあ、私のチームもだいぶやられちゃったしね」
飛山は苦笑しながら、匂坂チームの特徴を一つ掴んだ。
(たぶん山見さんだけダウンしたからだよね。うーん? そういえば、前、アリシアが第三試合で観戦中に匂坂さんと会った時は山見さんだけ随伴だったって言ってたな。確か、第三試合だと谷崎さんがダウンしてたから……ふーむ、ふーむ、どうにも個性的な規律を作ってるチームだなー。まあ、勝ち続けてるから問題ないのかな? 戦術的には結構合理的なところがあるチームだし、指揮は匂坂さんのワンマンだと思うから……やっぱり、良くも悪くも匂坂さんの求心力で成り立ってるチームだね。匂坂さんを倒せれば、一気に崩れたりしないかな……?)
飛山は思考を重ねつつも、それを悟られないように、おどけた雰囲気を保ちつつ、今度は石河へと話しかけた。
「いや、それにしても、石河さん、昨日は凄かったね。私たち、殆ど石河さん一人にやられちゃって、私も、石河さんに撃たれたとき、ぐへーってなったよ。被撃墜は初めての体験だったけど、あんな感じなんだねー。いや、お見事……!」
飛山に対して、石河は真面目さと柔らかさが混ざったような表情をした。
「ありがとうございます。飛山さん。正直、鹿子田さんを飛山さんに討ち取られたのは、痛手でした。その後の、道合さんの狙撃も凄かったです」
「おお……! 褒められちゃった。ありがとねー。あと、今、思ったんだけどさ、石河さんと山見さんは普段から魔力ちゃんと制御してるよね。なんで、匂坂さんと谷崎さんはしないの? 皆怯えちゃってるよ」
飛山の指摘、それは、魔力の扱い方であった。
魔力制御能力――これが低いと、無駄に魔力を体外に発散させてしまう。これは魔力の浪費に繋がるが、一般的にはそこまで問題にはならない。なぜなら殆どの、魔力保有者は、低魔力ないし平均魔力であり、そういった者達が多少魔力を発散させても、大した浪費にならないからだ。
しかし高魔力保有者は違った。高魔力保有者は魔力の発散による浪費分が大きい。そのため彼らにとって魔力の制御は重要な能力だ。さらに言うならば、根崎や五条、石河や匂坂、種村といった高魔力の中でも特に上澄みの存在は、制御しなければ、あまりにも魔力浪費が大きくなってしまう。
また、副次的な面としても、魔力探知能力が高い人間に強い重圧を感じさせてしまうため、モラルやマナーとして、高魔力保有者は魔力制御を身に着ける必要があるのだ。
しかし、匂坂キッカという少女は、人外の魔力を持ちつつも、魔力を常に体外に放出していた。
「私が魔力を常に溢れさせているのは、実益を兼ねた趣味です。谷崎さんは……フフッ、谷崎さんは気が強いところがありますから」
「そういう皆が嫌がる趣味を持つから、避けられてるんだよ……」
種村が小さく毒吐いた。
「趣味っていうのは匂坂さんを見てると分かるけど、実益って何かな? あんまり無さそうだけど?」
一方で飛山は、さらに深掘りした
「魔力感知能力が高い者をあぶり出せます。彼らは皆、私の魔力を見ると、苦しそうにしますから。その我慢の顔が、また良いのですが……」
「うーん? 魔力感知能力の高さって試合で直接活きるかな? チームに一人くらいいれば、相手の魔力を調べるのに役立つけど……匂坂さんだって魔力見るの上手いと思うし、あぶり出す必要性ってあんまりなくない? というか、魔力感知能力高い人って結構いるし、どうせ、どのチームにも一人くらいいるでしょ」
「いえ、魔力感知能力の高い者を見つけておくと、暇な時、助かります。追いかけ回すだけでも時間が潰せますから」
「魔力ハラスメントの上、ストーカー、……」
種村が嫌そうな顔をしながら呟いた。
「むむむ? それは、結局、実益ではなく、趣味の話じゃないの? どっちも趣味じゃん」
一方で、飛山は納得できないとばかりにツッコミを入れた。
「フフッ、気づいてしまいましたか。流石は飛山さんです」
「それ、さっきも言わなかった?」
少し呆れ気味の飛山に対して、匂坂は意味深な笑みを浮かべた。
「飛山さん。実を言うと、昨日の試合、少し不満がありました」
「うむ? 昨日は、わりと匂坂さんのチームが圧勝してた気がするけど。不満とな?」
飛山は少し不思議そうな表情を浮かべた。土曜日の『匂坂・飛山・舞島のチーム戦』で飛山チームが匂坂チームから取れた撃破点は1点のみ。一方で、飛山チームは匂坂チームに全滅させられたのだ。大きく力の差を示された試合であった。
「始終、飛山さんに翻弄されていた気がします。舞島さんのチームも飛山さんのチームも、駒質で、私たちに圧倒的に劣ります。どの組み合わせでも1対1ならば、ほぼ確実に私たちが勝つでしょう。一応、飛山さんは少し例外ですが、それでも私たちの方が有利でしょう。それなのに、私は3点しか取れませんでした。チーム全体の得点でも僅か8点。そして、飛山さんのチームに5点も取られました。正直な話、ここまで思い通りにならない戦いは初めてでした。飛山さん、私は貴女の事をどこか下に見ていたようです。戦術も機動力も、純粋な暴力には勝てないと思っていました。それが少し揺らぎました。見事でした。飛山さん」
いつものような粘着性は薄く、比較的純粋な言葉が飛山へと送られた。
「おぉ……? 最初は、いつもみたいに、おちょくられる流れかと思ったけど、これはまさか、本当に褒められてる? やったね。匂坂さんに褒めてもらえるなんて、根崎さんと鷲島君以来の快挙だね。うんうん、録音して、家宝にしたいね」
「そうやって、素顔を隠すところも飛山さんの魅力の一つですが……やはり少し不満ですね。今度戦う時は、その偽りの表情をぐちゃぐちゃにしてあげますから、本当の顔を私に見せて下さいね?」
強い魔力の波が押し潰すように飛山を飲み込んだ。しかし、飛山は、まるでそれを感じていないとばかりの、けろりとした表情で応じた。
「わわわ、急に怖い事言われちゃった。匂坂さんはちょっと、言葉の圧が強いね。魔力の圧の方が強いけど」
(飛山さん、さっきから、
飛山と匂坂の攻防を見ながら、種村は思案した。
「誉め言葉として受け取っておきましょう……それと、道合さんも昨日の試合は見事でした。飛山さんの戦術を不足なくこなせるのは貴女の技量によるところが大きいでしょう。舞島チームの連続撃破、谷崎さんの足止め、山見さんの撃破、非常に高い狙撃技能でした。最高の一撃を何度も撃てる貴女は、一年生でもトップクラスの狙撃手でしょう」
「えっ……!? あ、ありがとうございます……!」
道合は匂坂の純粋な賞賛を受け、一瞬固まり、飛山の方を見た。すぐに飛山が『行け行け』と合図すると、道合は感謝の言葉を口にした。一方で、種村は冷めた目線で二人の様子を見ていた。
(
ふと種村と匂坂の視線が交錯した。匂坂が意味深に笑うと、種村はまたしても、げんなりとした気分になった。
「そういえば、種村さんも、以前、第二試合で山見さんを撃破していましたね。フフッ、思えば、道合さんと種村さんは少し似ているところがありますね」
「……どの辺が? 戦闘スタイルとかだいぶ違うけど」
匂坂の言葉に、種村は、しかたないとばかりに応じた。
「判断力・対応力が高く、長距離攻撃可能な選手というところが似ていますね。それと、どちらもメインとする武器の扱いが、一年生でトップクラスという点も似ています。道合さんは狙撃銃でトップクラス、そして、種村さんは対シールドライフル使いではトップクラスでしょうから」
「判断力と対応力ね。まあ、そこは分からなくはない。でも、メイン武器がトップクラスって……道合さんはそうだけど、私のはそもそも使い手が少なくない? メインで使ってるの私と大町さんくらいだよ。あと、ワンチャン、メイン使いじゃないけど、星川さんは? 前に、試合で一瞬使ってたけど、なんか普通に私より上手そうな感じがした」
「それでもトップクラスには違いないでしょう?」
「なんか、匂坂に褒められると怖いから、否定できるところは否定したくなるんだよね……」
種村は少し困った顔をした。
「フフッ、そう身構えないで下さい。私なりに、お二人の事は、とても認めているんですよ。お二人とも、私の大事なチームメイトである山見さんを倒した。そして、道合さんは、私のチームを翻弄し、種村さんは私のシールドにヒビを入れました。どちらも並大抵の生徒ではできません」
「道合さんは分かるけど、結局私は、山見さん倒したところしか評価されてなくない? シールドにヒビ入れたけど、結局本体は無傷だったじゃん。私、あの試合、一方的にバトルライフルでボコボコにされて嫌だったんだけど」
不満そうな顔で、種村は匂坂を見た。
「いえいえ、私のシールドにヒビを入れられる選手はそう多くはありませんよ。恐らく、種村さんなら、五条さんのシールド程度ならば簡単に貫けるでしょう」
「五条か。まだ戦ってないから、なんとも言えないけど、魔力だけなら匂坂の次くらいに高いよね。匂坂でヒビ程度だと、五条相手は貫けないんじゃない?」
「私と、五条さんの間にはかなりの魔力差があります。恐らく問題なく貫けるでしょう」
「へー、そうなんだ。珍しく良い情報が聞けた。一応、対五条の時の参考にしとくよ」
「喜んでもらえたなら何よりです」
そう言うと、匂坂は優し気な笑みを浮かべた。その表情だけ切り取れば、『優しい少女』だと見る人を誤解させることができるかもしれないと、一同は思った。