学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
一方で、二年生の解説を聞きつつも、鬱憤の溜まっていた匂坂は、それを晴らすように、近くにいる
「この試合をどう見ますか?」
「初期配置次第かな~。でもアリシアは頑張ってたし、勝って欲しいなー。種村さんはどう思う?」
問いかける匂坂に対して、飛山が答え、さらに種村へ回答を促した。
「どうなるかは飛山さんの言った通り、配置次第だろうけど……この試合、佐々木君・鷲島君・零さん・根崎さん、この四人の強さが突出してるね。そのうち二人が零チームにいるから、数を考えると零チームが有利なんじゃないかな。まあ、私は飛山さんみたいに戦術肌じゃないから、詳しいことは分からないよ」
「ほむほむ。一理あるね。匂坂さんはどんな感じ? アリシア勝てそう? 匂坂さんは結構アリシアのこと好きだと思うんだけど、応援してくれる感じ?」
「フフッ、確かに、零さんや零さんのチームのことは気に入っていますが……応援するなら雲川さんのチームでしょうか。今回の試合で、私の友達は、鷲島君、雲川さん、根崎さんの三人です。先程の種村さんの提唱した数理論を用いれば、友達の絶対数が多い雲川さんチームを推すのは自明でしょう」
当然といったような言葉を口にする匂坂であったが、彼女が挙げた三人のうち、鷲島と根崎は匂坂のことを友達とは思っていなかった。そして両者奇しくも同じ感情を匂坂に抱いており、それは恐怖であった。
「うーむ、雲川さんチーム応援かー。根崎さんと友達っていうのは、まあ、もう、ツッコミいれないけど、鷲島君や雲川さんとも友達なの? 鷲島君は私とアリシアとも友達なんだけど、もしかして、勧誘とかしたの?」
「いえ、私は鷲島君を勧誘はしていません。私程度の器量では、鷲島君を下に置くなど恐れ多いですから。ただ単純に鷲島君とは観戦会場でお話して仲良くなったのです。雲川さんも根崎さんもそうです。ここは私にとって、とても良い友情の場なのです」
そう言って、匂坂は優しく微笑んだ。いつもより粘性が少ない笑みであり、匂坂のことを何も知らない人が見れば、『優しい少女』だと誤認したかもしれない、そんな笑みであった。
(ここ笑うところ? どっちかっていうと怖くて笑えないんだけど……)
種村が内心で首を傾げた。
「なるほどなるほど。で、推しチームは分かったけど、結局どういう流れになりそう? 匂坂さんの考えを教えてよ」
「そうですね。希望としては雲川さんのチームに勝ってほしいところですが、さすがに数の差が大きいです。正面から1対1という状況なら、鷲島君が最強ですが、このマッチングに、このマップですと、そういう展開は続かないでしょう。初期配置にも影響されますが……そうですね、引き分けを抜きにして考えると、勝率は、零チームが6割、雲川チームが3割、麻倉チームが1割といったところでしょうか。ただ、個人的には零チームと雲川チームの引き分けに終わる気がします」
「ほう? 一応、一番有利なのはアリシアのチームなんだ。ふむふむ。麻倉さんのチームは厳しい感じ?」
「エースの佐々木君はとても強い選手ですが、今回は相性が悪いです。佐々木君が苦手とする生徒のランキングがあるとすれば、恐らくそのトップ五位のうちの二人以上が今回の試合に参加しています。対処が難しいでしょう。
そして、佐々木君が上手くいかなければ、麻倉チームは厳しいです。佐々木君はポジション的にもレーダーに映りやすく、また危険度が高い駒ですから、他のチームも早々に排除したい。本質的に、佐々木君という駒は『生き残りにくい駒』であり、佐々木君が落ちると麻倉チームの能力が半減する以上、麻倉チームというのは『勝ちにくいチーム』です。
麻倉チームが勝つケースは、概ね、佐々木君を対処することができる生徒が一人もいない試合で、佐々木君が無双するケースになりやすく、結果、得点を伸ばしやすいです。麻倉チームの戦略は『勝てない』ときは撃破点を少しでも稼いで順位の低下を防ぎ、『勝てる』試合は全力で得点を伸ばす、となります。そして今回は『勝てない』試合です」
満足気に語る匂坂に対して、飛山は興味深そうに耳を傾けた。
「ほほーう。面白い分析だね。あれ? でも、そうすると、なんで勝率1割もあるの? その説でいくなら、麻倉チームの今回の試合の勝利は0割じゃない?」
「佐々木君の技量と、雲川チームの出方次第では、麻倉チームが勝つ可能性があります」
「ふむ? 雲川チーム出方っていうと……アレかな? 共闘路線?」
「ええ。雲川チームと麻倉チームが共闘して、零チームの数を減らし、その時の各チームの損耗具合によっては麻倉チームが漁夫の利を得る可能性はあります。まあ、恐らくそうはなりませんが……」
「ん? ならない? 結構ありそうなケースじゃない?」
「そうそう上手く共闘できるような都合の良い配置にはならないでしょう。それに仮になったとしても……鷲島君の機動力と撃破能力が高すぎます。共闘する場合は、最終的にどちらかのチームが先に裏切ることになりますが、そうなれば機動力の高い駒ほど有利です。佐々木君にとって鷲島君が苦手な相手というのも拍車をかけます。裏切り勝負は鷲島君が勝つので、共闘路線は雲川チームが有利になるだけです」
「ああ、なるほどー。確かに、そう言われるとそんな気がするね。ん? でもそれなら何で1割も麻倉チームの勝率があるの?」
「ですから、佐々木君の技量次第です。私は、佐々木君の事を全ては知りません。鷲島君の事なら大抵のことは知っていますが、佐々木君は違います。私が知らないだけで、佐々木君にはまだ隠された手があるかもしれません。それによっては、佐々木君が私の予想以上にこの試合で活躍することもあるでしょう。そこに賭けての麻倉チームの勝率1割です」
「ほー、なるほど、ありがとう。匂坂さん。勉強になったよ」
納得といったように顔を作りつつも、飛山は内心で思考した。
(ふむ。ってことは、匂坂さんは鷲島君の詳細成績は持ってるけど、佐々木君のは持ってないのかな? それとも持ってるけど、まだ佐々木君には裏があるって読みなのかな? どっちも有り得そうだなー)
「フフッ、構いませんよ。飛山さんとは、今まで、あまり話していませんでしたが、思ったよりも楽しいです。話している時に、怯えられるのも好きなのですが、こういった風にちゃんと聞いてくれるのも好きですね。ところで、先程から黙っていますが、道合さんはどうですか? この試合はどう見ますか? 貴女の忌憚のないご意見を聞きたいです」
飛山について評した後、匂坂は矛先を道合へと向けた。それに対して、道合は一度僅かに体を跳ねさせると、飛山の方を窺った。飛山は道合にだけ分かるように小さく首を縦に振った。
「え、ええっと……その、すみません、匂坂さん。私は、あんまり皆さんのように頭が良くないので……正直、さっきの匂坂さんのお話も分からないところが多くて……」
困ったように喋り出す道合を見て、匂坂は笑みを深めた。
「謙遜することはありません。貴女ほどの技術のある狙撃手は、一年生にはいないでしょう。狙撃手としての見方でも構いません、何か教えていただけませんか?」
「え、ええっとー、その、じゃあ……! その、皆さんと同じ意見になっちゃいますけど……! 零さんのチームが勝つと思います!」
「どのくらいの勝率になりそうですか?」
匂坂は粘着性のある笑みとともに、さらに問いかけた。しかし、それは――
「100%です!!」
――明るく快濶とした道合の言葉によって打ち消された。
「……それは、……大きく出ましたね。鷲島君や佐々木君では相手にならない、ということでしょうか?」
どこか詰まりながらも、匂坂の湿気を帯びた言葉が魔力の圧とともに道合に絡みついた。
(
道合のことを僅かに哀れみながら、種村は無言を貫きつつも、内心で匂坂に毒吐いた。
「え、あ、いえ……その、そういうわけじゃないですけど……でもっ! 零チームの皆さんはいつも頑張ってますし、勝ってほしいです!」
突然の魔力圧に驚きつつも、道合は明るい声音で強く希望を口にした。論理や戦術などは捨て去り、ただただ自分の期待と希望のみを口にしていた。
「頑張っているかどうかは勝敗には関係ありません。もし関係あるとすれば、あんなに頑張っている秀川君が山見さんと石河さんに蹂躙されることもなかったでしょうし、昨日の試合で貴女が石河さんに撃破されることもなかったでしょう」
「秀川君は頑張ってます……! でもっ……! 昨日の試合は、私のこれまでの『頑張り』が足りなかったんだと思ってます……!」
道合は悔いるように拳を握った。飛山は内心で『ちゃんと頑張ってるよー』と思い、種村は『なんか、よく分からない方向に話が進んでいる』と感じ取り、石河は『谷崎さんがいたら、どんな風な言葉で道合さんを詰っただろうな』と考えた。
そして、匂坂キッカは脳裏の五条の姿を幻視しかけるが、すぐに『アレよりもマシ』と思い直した。
「…………まあ、いいでしょう。少なくとも、道合さんの技量に関しては評価しています」
言外にそれ以外の能力に対する評価を損ねたという意味を含めていた。
「まあまあ、意見は人それぞれだからね。ところで、石河さんはどう考えてるの? 匂坂さんと同じで零チーム優勢?」
匂坂の不満を感じ取った飛山が、石河へ話を振り、道合の件を押し流そうとした。
「はい。私も匂坂さんの考えが正しいと思います。概ね、零さんのチームが勝って、場合によっては雲川さんのチームが勝つといった感じになると思います」
「ふむふむ。他に着目点とかある?」
「着目点ですか……? 特には、ないです」
「うーむ、もっと石河さんの『語り』を聞きたいんだけどな。んーっと、じゃあさ、アリシアの、零チームだと誰が一番推し? ほらさ、皆、零チームの勝率が高いって言うし、二年生の人たちも零チームが勝つって言ってるしさ、せっかくだから、皆で投票しようよ。零チームで誰が好きか投票。優勝者には、後で私が直接、『人気者だよ!』って伝えておくからさ」
「推し、ですか……? ええっと、飛山さんは零さんのチームで推しがいるんですか?」
「おお! よくぞ聞いてくれました! 実はいます。というか、最近『おおっ!』と思うことが多いので、ちょっと評価を改めてる相手がいます」
「へー、誰? 純粋に気になるかも」
それまで黙っていた種村が口を挟んだ。
「実を言うと、なんと、秀川君です……! 秀川君ってさ、何となく、重装備のゴリ押しマッチョのイメージがあるけど、実はアレで結構軍師でね。そのギャップが良かったね。軍師として、総大将のアリシアを支えるのが偉いなーって思ってるんだよね。皆はどう? 零チームで推すなら誰がいい?」
「それなら、私は上村君だね。技術力が高い。これまでの撃破点は少ないけど、目に見えない所の貢献度が高いよ。ああいう人がチームにいると、できることが増えるし、できないことも補える。あと、魔力ゴリラじゃないところがいいね」
飛山の問いかけに、真っ先に種村が答えた。そして、牽制するように匂坂と石河をチラリと見た。
「えっと、それなら、私は……五条さん……でしょうか? シールドが上手で凄いと思います!」
続いて、道合が答えた。二人の回答者が出たことで、石河が仕方がないとばかりに口を開いた。
「それなら、私は、零さんを推したいです。第三試合で谷崎さんを倒したのは驚きました。他にも第二試合でマスタング君を打ち取ってます。格上相手に対する勝利が多いのは、純粋に一生徒として、尊敬できます」
「……フフッ、それでしたら、私は根崎さんを推します。理由は分かり切ったことでしょうが……根崎さんは真の強者です。何をやらせても一流以上。彼女ほど優れた戦士は一年生では中々いないでしょう」
全員を推しを確認した匂坂は、ここぞとばかりに、根崎の名前を挙げた。
奇しくも、五人全員がそれぞれ別々の生徒を推す形となった。
(まあ分かり切ってたことだけど、普通に根崎さん推したか……
「なんか、凄く根崎さん推してるけどさ……この試合で、根崎さんが真っ先に落ちたらどうする?」
内心の不満やこれまでの鬱憤もあった種村は、少し遠回りながらも匂坂に水を差した。
「今回は鷲島君と佐々木君がいるので、ありえます」
一方で、匂坂は当然とばかりに答えた。
「へー、鷲島君か。ちょっと意外。匂坂は、鷲島君のことは評価してないと思ってた。魔力高くないし」
ぼんやりとした表情と共に発せられた種村の言葉に、飛山は引っかかりを覚えた。
(ん、ん、ん? 匂坂さんはずっと鷲島君のことは高評価だったけど……あれ、種村さんって結構人の話を聞いてない人なのかな? やっぱり梶田さんのチームは、ちょっと読みにくいチームだなー)
「種村さん、先程、私と飛山さんの会話をちゃんと聞いていましたか?」
じっとりと湿った声が種村に覆いかぶさった。
「…………き、聞いてたよ?」
種村は視線を遠くへ向けた。
「フフッ、人の話はちゃんと聞かないといけませんよ? あまり無下に扱われると、悲しくなってしまいます」
重い魔力の波が、種村を押し潰すように包んだ。
「うぅ……分かったから、魔力ハラスメントやめてよー」
種村は降参とばかりに両手を挙げた。
「今度はちゃんと聞いて下さいね?」
「だってさ……話が長いんだよ。ずうっと聞くと飽きるって言うか……というか、うちのチームの反町が匂坂と同じ種族だから、私からすると、もう許容量超えてるんだよ。こっちは、ほぼ毎日、反町の相手してるから、匂坂の相手までできないんだよ。てか、同じ種族なんだから、反町と話してよ。絶対気が合うよ。二人とも似てるもん」
とても困っているとばかりに種村は両手を振り謎のジェスチャーを飛ばした。
「反町さんですか……あまりお話する機会がありませんが、今度お話してみましょう。ところで、種村さんは鷲島君のことはどう思っていますか? 私は、先程も言った通り、鷲島君は1対1という環境においては最強だと考えています。残念ながら、根崎さんであっても1対1なら鷲島君には勝てないでしょう」
「まあ、それは匂坂の言う通り、1対1なら鷲島君はかなり強いと思う。特に距離が近いと対応できる人は殆どいないんじゃないかな? でもある程度距離が開いていたら、なんとも言えない。アクセルの接近能力とか、弾幕回避能力とかは凄いけど、正直どのくらい凄いのかも分からないから、遠距離ユニットと遠距離で戦闘開始するみたいなケースだと、結果が読めない。特に根崎さんクラスの遠距離攻撃能力持ち相手だと何とも言えない」
「おや? 思ったより鷲島君の評価が低いですね。では、質問を変えます。種村さんが鷲島君と1対1で、かつ好きな距離から戦えるという状況なら、どちらが勝ちますか?」
「それは鷲島君だね。私と鷲島君は相性が悪い。ただ……そうだな、……条件に、『鷲島君が私を意識していない』と付け加えていいなら、私が勝つ可能性も1割くらいはあるかもね。というか、鷲島君のこと、凄く高く評価してるみたいだけど、匂坂はどうなの? 鷲島君相手に勝てるの?」
「先程言った通りです。鷲島君は1対1では最強です。私では彼には勝てないでしょう」
匂坂の笑みが、一際強くなった。それを見て飛山は興味深いと感じた。
(戦闘適性順位なら鷲島君は1位で、それはリーダーである匂坂さんも知ってる。たぶん匂坂さんが2位だと思うから……うーん、分からなくはないけど……でもなんか含みがある言い方なんだよね。『勝てない』とは言ったけど『負ける』とは言ってないんだよなー。というか、たぶん、鷲島君と匂坂さんは1対1だと勝負がつかない気がする)
飛山が思案する一方で、種村は怪訝な表情を浮かべた。
「…………本当に? 正直、鷲島君は技術力が高くて、
「フフッ、ありがとうございます。種村さんからそう言ってもらえるのは嬉しいです。ですが、それは私もなのです。私も鷲島君が負ける姿が想像できないのです。いつも、いつも、いつも、ずっと、ずっと、ずっと、鷲島君の事を考えて、何度も何度も何度も想像の中で鷲島君と戦っているのですが、いつも彼には勝てません……どうすれば彼に勝てるのでしょうか?」
普段の余裕がある表情は消え去り、瞳は虚無色でどこか遠くを見つめていた。
(怖い……)
種村は純粋に恐怖を感じた。
匂坂が発する淀んだ空気のせいで、一同、言葉に詰まった。
そして、その空気を打ち壊すように、二年生の実況担当、中村の声が響いた。
『では、時間になりました! 試合開始です! 各生徒、一斉に投入されました!』