学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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Bランクマンションとこれからの話

 

 Bランクのマンションにたどり着いた鷹一と金崎であったが、待ち合わせの時間になっても雲川は来なかった。

 二人は大して疑問に思うわけでもなく、それぞれがエントランスで、時間を潰した。

 

 途中、鷹一たちは、同じBランクの水渕チームの山辺・岩崎、柚木チームの堂前と顔を合わせた。

 岩崎は緊張しながらも鷹一へ警戒するような視線を送ったが、一緒にいた山辺が岩崎に何事か囁くと、すぐにエレベーターに乗りこんだ。

 堂前の方はエレベーターから降りた際に金崎を一瞥し、興味なさげにした後に、鷹一をじっと見た。そこには強い競争心があった。鷹一は淡々と堂前に視線を返した。堂前は一度小さく舌打ちした後エントランスから外へと出た。互いに会話はなかった。

 

 そうして十数分ほど遅れてから、雲川と麻倉がエントランスに駆け込んできた。

 

「ご、ごめん……ちょっと、荷物がいっぱいあって……」

 

「あ、雲川さん、これ……」

 

 鷹一の下に駆け寄りながらも、雲川がおろおろと遅れた訳を述べた。そして、それに続くように麻倉が、抱えていた荷物を雲川に差し出した。

 

「あ、うん……麻倉さん、ありがとう」

 

 麻倉が雲川と一緒にいるのには訳があった。本日、引っ越しということで、雲川もまた一時寮から荷物をこのマンションに運び出す予定だったのだ。そして、その運び出し後に、エントランスで鷹一・金崎と合流する手筈となっていたのだ。ところが、妙に変な私物が多い雲川は時間内に荷物を整理できず、また運ぶための体力もなく、どちらも同じ一時寮の麻倉に手伝ってもらったのだ。

 なお、鷹一たちが部屋に入らず雲川を待ったのは、リーダーである雲川が基本設定を済ませなければ、二人はBランクの部屋に入ることができないという理由があった。

 荷物の量と雲川・麻倉の様子から全てを察した鷹一は、麻倉に軽く頭を下げた。

 

「麻倉、うちのリーダーが済まない」

 

「あ、い、いえ……」

 

 少し戸惑い気味に麻倉が答えた。戸惑った理由は、単純に鷹一の殺人鬼のような冷たい目線に驚いたからだ。また心配もした。遅刻した雲川が鷹一に脅かされないかどうかの心配であった。なお、これは杞憂であった。鷹一の冷たい目線はデフォルトであり、今回の一件も特に気にしていなかった。

 

「そうか。……昨日の試合は、――いや、すまない、なんでもない」

 

「え……? あっ――! いえ、聞かせて下さい……!」

 

 何かに気付いた麻倉は真剣な目で鷹一を見た。

 

「いや、すまない大した話ではない上に、余計な話でもあるが」

 

「いえ、それでも教えてほしいです……!」

 

 麻倉の真摯な瞳を見て、鷹一は昨日の試合で気付いたことを言葉に乗せることにした。

 

「そうか。これは余計なお世話だが、昨日の試合、お前の装備と判断が合っていないように感じた。恐らくは零チームを警戒して隠蔽装備にしたんだろうが……もし隠蔽を意識し、そして、実際に狙撃の振る舞いをするならば、もう少し長射程の装備にするべきだった。逆に隠蔽をしつつも撃ち合いや遭遇戦を想定しての装備ということならあの装備構成で良いだろう。戦術的に正しい装備だった。だが、そうであるならば、あの時、狙撃ポジションに入るべきではなかった。上村の位置を見て撃てないと思ったならば、東回りで迂回して上村に横撃を加えるべきだったと思う」

 

 本来であれば、敵チームの、それもライバル関係であるBランクの麻倉チームなどに助言のような言葉を吐くべきではない。それは鷹一も分かっていた。ただ、それでも、雲川が今回の件で迷惑をかけたことも鷹一は感じていたのだ。

 

「それは……その、あの時は、…………いえ、そうですね。アドバイス、ありがとうございます。次は、もうちょっと考えて動きます」

 

 麻倉は少し悩んだが、鷹一の指摘の有用性を認めて、感謝の言葉を述べた。鷹一は内心で、『逆に気を遣わせてしまったか』と少しだけ後悔した。

 

 それから麻倉と雲川が少しの間、話をした後、雲川チームの三人はエレベーターに乗り20階へ移動した。

 20階に降りてすぐ、雲川の生体認証により各部屋のロックが解除された。また、鷹一が促し、雲川が恐る恐る基本設定を行った。これにより、六部屋のうち一つが鷹一、一つが金崎の部屋、そして一つが全員が共同で使う作戦室となった。

 鷹一・金崎の生体認証も無事終えたことで、二人はついに念願の個室を手に入れた。なお残りの二部屋は現在使わないため、初期設定である雲川が部屋主のままになっている。何か使い道ができたら使うという話になった。

 

 三人は30分ほど各部屋で休息の後、作戦室に集合となった。

 鷹一は二人と別れ、念願の部屋へと入る。

 

「おぉ」

 

 思わずと言った風に声が漏れた。普段の鷹一を知る者がこの様子を見たら間違いなく驚くであろう仕草であった。

 2LDKの部屋は当然トイレ、浴室、洗面所、収納スペースなど一通りしっかりとしたものが備えられていた。どの部屋も一人暮らしをするには十分以上に広いものであり、鷹一は感動を覚えた。

 部屋の内装も落ち着いており、また既に家具が一通り設置されていた。どの家具も部屋に合っていて、高級品ではないが、しかし決して粗悪品ではないということが鷹一にも何となく分かった。

 

「これは……良いな。Dランクでの妥協も考えていたが……これを知るとBランクから落ちるわけにはいかなくなるな」

 

 鷹一のチーム戦に対する熱意が、入学以来最も上がった瞬間であった。

 一通り部屋を確認し、家具のベストな配置や新たに必要な物などを軽く検討している間に予定の時間が来てしまった。

 名残惜しさを感じつつも、鷹一は作戦室へと向かった。

 

 時間ギリギリの入室になり、既に作戦室にいた雲川・金崎は内心で『珍しい』と感じた。鷹一が時間ギリギリに来るなど初めてのことだったからだ。金崎は内心で『もしかしたら、疲れてるのかもしれない』と推測した。なお、この推測は外れていた。

 

「すまない。遅れた。いくつか話をしたいが……そうだな、まずは支給額について話そう。本来Bランクのリーダーには100万ZPが毎月支給される。ただ、今回、学園から俺たち三人に渡された支給額通知には80万という記載だった。これについてだが……」

 

 鷹一は一度言葉を区切り、雲川と金崎を見た。金崎は意味を察して、気まずくなり目を伏せた。一方で雲川は鷹一の言葉の意味が分からなかった。というより、支給通知の内容すら読んでいなかった。昨日は試合で疲れていたし、今日は引っ越しで忙しかったのだ。見る余裕などなかったのだ。

 雲川の『分かっていない表情』を見て鷹一は全てを察した。

 

「紫苑、通知には、『試練におけるルール違反があったため、雲川チームの支給額から20万ZPを没収する』とあった。心当たりはあるか?」

 

 じっと、殺人鬼のような冷たい目が雲川に注がれた。雲川は一瞬びくりと体を震わした後、小刻みに首を横に振った。

 

「そうか……あまり、人の失敗を深掘りしたくはないが……恐らく、リーダー情報の共有禁止に触れたのだろう。それ故の没収だ。少し残念ではあるが、しかし良い経験だったと思う。20万で済んだのは、俺たちにとっては運が良かったと言えるし、何より学園側の基準がある程度分かった。今後はお互い、学園のルールに抵触しないように気を付けよう」

 

「う、うん……」

 

「分かってくれてよかった。それで配分だが、いつも通りでいいか? つまりは、紫苑、俺、金崎、チーム運営費で20万ずつ分ける。それでいいか?」

 

 鷹一の冷たい視線を浴び、雲川と金崎はこくこくと頷いた。

 

「よし、それじゃあ、次にこれからの話をしたいが……まず次の試合だ。次の試合、五月・六月の第一試合は来週末だ。知っていると思うが、今週末は試合はない。授業もない。5月第一週は完全に休みの週だ。おそらく学園としては、新しいランクに慣れるための期間を設けたのだと思う。第一試合以降は毎週試合があり、五月は合計で三試合、六月は五試合あり、計八回の試合の後に再びランクの更新が入る。そこまででまた20位以内に入れればBランク維持だ。俺はこれを次のチームの目標にしたい。二人はどう思う?」

 

「う、うん……良いと思う……」

「俺も、良いと思う」

 

 鷹一の問いかけに再び二人が頷く。

 

「わかった。それなら次の目標はBランクの維持だ。八試合あるが、チームポイントは今までのものを引き継ぐ。そういう意味では、現在のBランクボーダーよりも4点高い分、俺たちのチームは少し有利かもしれないな。ただ、油断は禁物だ。恐らくこの八試合でAランク帯に入ることもあるだろうし、逆にAランクのチームがBランク帯に落ちて来てマッチングする可能性もある。Aランクは魔境だ。前回の試合は、正直、運がかなり良かった。零チームと再度戦っても負けない保証はない。まあ、零がBランクに落ちることはないだろうが……Aランク下位のチームが転落してくることはある。彼らとの戦いは常に万全の状態で挑むべきだろう」

 

「分かった……! 俺も、この休みでもっと訓練に励むよ」

 

 金崎の意欲と、そしてその下にある、隠しきれない緊張感を見て、鷹一は次の言葉に悩んだ。

 

「ああ……そうだな。まあ、折角の休みだから、多少はリフレッシュするのもいいかもしれないが……だが、そうだな。現状のBランクも十分強い相手が多い。特に麻倉チーム・水渕チーム・滝本チームあたりは実力的にはAランクに近い。恐ろしい速度で下位ランクから駆け上って来た下水流チームも危険なチームだ。こちらも油断はできない」

 

「う、うん……でも、その、少しくらいなら休んだりしても……今までずっと訓練してきたし……折角の休みだから……」

 

 鷹一の言葉にすぐに雲川が反応した。こういう時の反応速度は速い雲川であった。

 

「そうだな。少しは休むのもいいだろう」

 

 雲川への多少の配慮、そして、頑張りすぎな金崎への配慮から鷹一は言葉を紡いだ。

 

「う、うん……!」

 

 長い休暇を確保できた雲川は嬉しそうに頷いた。ずっと大変な訓練をしてきたと感じていた雲川にとって、これは大きな喜びであったのだ。気分はるんるんであった。

 

「それに、俺も少ししたいことがある。だから、そうだな……とりあえず、五月の第一週の合同訓練はなしにしよう。各自で、できる範囲の訓練をしよう。ただ、もし訓練方法など困ったことがあれば聞いてくれ、必要な情報やシステムは提供しよう。五月の第二週、第一試合の一週間前からは今まで通り授業の終わり以降に特訓しよう」

 

「わかった。俺は昨日貰った反応システムの訓練の方を進めるよ」

「私も、その、うん、個人訓練なら……」

 

「よし、二人からは何か言いたいことはあるか?」

 

 大まかな予定が決まったところで、鷹一が二人に問いかけた。

 

「俺からは別に……あ、一応、後で次の訓練法とかを教えて欲しいけど……」

 

「分かった。それは後で金崎の端末に送っておこう」

 

「あっ! 鷹一くん、これ、見て……! 今日、送られてきたの……!」

 

 何かを思い出した雲川が、自身の端末を鷹一に見せた。それは学園から各リーダーに向けて送られたメッセージであった。

 その内容は次のようなものであった。

 

――五月一日正午に、五月の試練の内容が一年生239人に一斉に告知される。この試練は四月に大きく試合を盛り上げた新入生へのボーナス試練である。参加するかしないかは自由である。ただし、参加することが六月以降の試練達成の鍵になるだろう。各リーダーたちの賢明な判断に期待する。なお、このメッセージはチームメイトに共有してもよい。

 

「次の試練か……紫苑、他にメッセージはあったか? 勿論、チームメイトに共有してもよいメッセージだ」

 

「ううん、無かったよ」

 

 雲川は自然な態度で答えた。鷹一は、その態度から、もう一つの事も察した。

 

(共有禁止のメッセージも送られていないな)

 

「そうか。この内容だけだと試練内容の想定は難しいが……どうも六月以降にも関わってくる試練のようだ。しかも参加が任意の試練……いや、文脈からすると、恐らく参加するのが望ましいのだろう。まあ、明後日の正午には内容が分かる。それまでは、そこまで気にしなくてもいいだろう。ただ、明後日の正午以降にどこかで時間を取れるようにしておこう。先程、五月の第一週は自由訓練としたが、正午以降は作戦室に集まってもらうかもしれない。時間は少し開けておいて欲しい」

 

「わかった」

 

「う、うん……」

 

 それから、再度、鷹一は二人に連絡事項を聞き、ないと分かると、雲川チームの作戦会議は終了になった。

 しかし、話はまだ終わらなかった。解散して作戦室から抜けようとする雲川を鷹一が呼び止めたのだ。

 

「紫苑、残念だが、お前には重大な使命がある」

 

「え……?」

 

 鷹一の普段よりも強い語気の言葉に雲川は戸惑った。

 

「詳細成績と順位表について覚えているか?」

 

 それはリーダーの特権についてであった。

 リーダーは入学時の成績の一部である順位表を見ることができる。選手の戦闘適性順位と筆記試験順位が分かるのだ。また、指定した四人の選手に関しては詳細の成績も知ることができる。

 多くのリーダー、特にAランクやBランクに君臨する上位のリーダーはこの順位表をしっかりと記憶していた。勿論、記憶力に差がある以上、入手可能なデータを全て暗記できるリーダーは多くはないが、それでも上位ランクのリーダーはできるだけ覚えるように努力していた。

 一方で下位ランク、EランクやFランクのリーダーは能力に問題がある者が多く、殆ど記憶できていないリーダーや、時には、順位表を一回しか見ていないし、覚えていない、覚える気もないリーダーもいた。

 そして雲川紫苑は……

 

「えっと……? 順位表は、鷹一くんが言ってたやつだよね……ちょ、ちょっとは、覚えたよ……」

 

 ……チームメイトに言われてから取り組み、それなりに覚える努力をしていた。

 

 しかし、その努力はそこまで実ってはいなかった。

 雲川の小さな頭に詰め込める情報は多くはないし、何より、他にやらなくてはいけないことが多すぎたのだ。日ごろの鷹一が出す課題は雲川にとって難しいものが多く、もう、いっぱいいっぱいなのだ。覚えるためのエネルギーがないのだ。疲れちゃったのだ。

 

「そうか、それは良かった。詳細成績を四人まで調べられる件は覚えているか?」

 

 そんな雲川に対して、鷹一の冷たい視線が注がれた。

 

「え? えっと、そんなのが、あったような……?」

 

 随分前の話であり、またその時、鷹一は『まだ詳細成績の権限を使わないでほしい』と言っていたこともあり、雲川はこちらに関しては忘却していた。実際、鷹一の指示がなければ使わないのだから、ある意味で正しい雲川の記憶容量の使い方であった。妙なところで、雲川は都合の良い頭をしていた。

 

「四月の試練だな。『チーム結成試練』では、各リーダーは四名までの選手の詳細成績を知ることができる。その権限をまだ使わないでおいたはずだ。それを使ってほしい。五月以降の危険なユニットの情報を知りたい」

 

「う、うん……え、でも……これって私しか知っちゃダメなんだよね……? さっき鷹一くんもそれで怒ってたよね……?」

 

 先ほどの罰則20万ZPの件を思い出して、雲川は震えた。鷹一は顔と目が怖いのだ。凄く怖いのだ。

 

「四月まではそうだ。だが五月からは伝達可能だ。試練のルールにも書いてある。あと俺はさっき怒ってはいない」

 

 一方で鷹一は自分の怒りについては否定した。これは事実であった。本当に鷹一は怒っていなかった。むしろ、学園の判断基準や罰則については早いうちに知れたのはメリットと考えていた。

 

「お、怒ってたよ……」

 

 怯えながらも主張する雲川を見て、鷹一は一瞬だけ不思議そうな顔をした。

 

「そう見えたか?」

 

「……う、うん」

 

 問いかける鷹一に、震えながらも雲川が頷いた。鷹一が無言で雲川を見た。雲川はさらに体を震わせた。

 

(そんなに怯えさせるような顔になっていたのか……? 俺は怒っていたのか? ZPが減るのは少し残念とは思ったが……だが、金崎も少し怯えていたな。これからはもう少し表情筋に気を付けた方がいいかもしれないな……)

 

 冷たい視線で雲川を見ながらも、鷹一は、思考を回した。

 

「そうか。とりあえず、五月からは詳細成績も順位表も伝達可能だ。ただし、四月の終わりでこれらのデータは削除されるし、それまでに記録することも禁じられている。つまり、リーダーの記憶力が頼りだ。紫苑には、今日と明日を使って、詳細成績と順位表を可能な限り暗記してもらう。できるな?」

 

「え…………それは、ちょっと…………」

 

 あまりにも雲川には難しい要求だった。ここ数週間で必死に覚えて、まったく成果が上げられなかったのだ。それを二日でやるなど、雲川には不可能に思えたのだ。

 

「できるな?」

 

 再度、鷹一が言葉を発した。

 

「で、でも、私がやらなくても…………」

 

「これは紫苑にしかできない。紫苑、やるんだ」

 

 じっと鷹一の冷たい虚無の視線が雲川に注がれた。こればかりは譲れなかった。

 

「た、大変そう……」

 

 雲川は自分が頭が弱いことは何となく分かっていた。そんな自分にできるとは思えなかった。

 努力はした方がいいのは分かっている。でも自分にできる努力には限界があるし、凄く大変なことはやりたくはなかった。努力にだって才能はあるのだ。皆が皆、金崎や鷹一のようにはできない、と雲川は内心で言い訳した。

 

「たった二日だ。頑張るんだ」

 

「で、でも……せっかくの休みだし……」

 

 ずっと訓練で大変だったのだ。少しぐらいゆっくりしたいと雲川は切実に願った。

 

「順位表と詳細成績、この二つの情報があるだけで、だいぶ今後の戦いが楽になる。今、楽を取るか、未来に楽を取るかだ」

 

 一方で、鷹一にとってはもここは譲れなかった。

 雲川の気持ちは理解していた。彼女がこの学園に向かないことも、現状で努力していることも知っていた。だが、この情報は捨てる訳にはいかなかった。努力効率から見ても、ここは雲川が努力するべきところだと考えた。

 

「た、鷹一くんなら、そんなの関係ないんじゃ……凄く強いし、だれも鷹一くんには勝てないよ……」

 

 雲川の言葉は半分は自分が楽をしたいが故の言葉だったが、半分は本心からの言葉だった。鷲島鷹一はあまりにも強すぎる。雲川のような弱者であっても、そのことは理解させられていた。それほどまでに鷹一は異常な存在なのだ。

 

「匂坂、青井。それと可能性を追うなら……マスタング、谷崎もだな。今挙げた四人は、俺が対等な状況で戦って、1対1でも負ける可能性がある生徒だ。そしてチーム戦は1対1じゃないし、対等な状況などあり得ない。根崎・零・梶田・石河・高坂・星川あたりは、こちらが不利な状況で戦えば勝ち目は薄い。それにチーム戦は複雑だ。佐々木、山見、道合、一之瀬といった個人戦ではなく、チーム戦に特化したような生徒もいる。これらの相手に少しでも勝率を上げなければいけない。そのための情報だ。そして、それは今は紫苑にしかできない。頑張るんだ」

 

 じっと鷹一の視線が雲川に注がれた。

 

「う、うん……」

 

 雲川はついに引き受けた。その理由は、鷹一の怖さが半分、もう半分は彼の真摯な心と幼馴染としての絆、そして負い目からだ。

 

「ありがとう、紫苑。大丈夫だ、明日の夜まで頑張ろう。できる範囲でいい。ただ手は抜くな。本気でやれ。それさえできれば、成果が僅かでも構わない。そこから先、化物たちと戦うのは俺がやる」

 

「分かった……うん、がんばる……」

 

 鷹一の気遣う言葉を受けて、雲川は再度頷いた。頑張ろうという気持ちが少しだけ増えた。勿論、まだまだ、大変なことをしなくてはいけない徒労感と絶望が大きかった。

 

「よし。それじゃあ、詳細成績のターゲットだが、次の四人にしてくれ。麻倉チームの佐々木、蓮チームの青井、飛山チームの道合、それと匂坂チームの山見だ。本当は梶田チームの一之瀬の詳細も欲しいが……流石に山見優先だな。兎に角、この四人の詳細成績をできる限り覚えてほしい。それと、残りは順位表だ。可能な範囲で、戦闘適性順位・筆記順位の両方を上から順に覚えてくれ。途中で抜けがある順位があると思うが、それが何位かも覚えるんだ」

 

 鷹一はチーム戦において特に危険度が大きい四人の名前を挙げた。そして内心で、ルール上、リーダーの詳細成績を獲得できないことを悔やんだ。もしリーダーに対しても使えるならば、無敵の匂坂の情報を少しでも集められるのだから。

 一方で、雲川は、鷹一のあまりにも厳しい要求に、既に頭がいっぱいになりそうだった。こんないっぱいな頭にさらに情報を詰め込まなければいけないことに、雲川は絶望した。

 そんな雲川の様子を見て、鷹一は少しだけ悩んでから、しょうがないとばかりに口を開く。

 

「そうだな……五月一日になれば、ZPも支給される。第四試合は引き分けだったから祝勝会とは言いにくいが……Bランク達成記念ということで、三人で何か美味しいものでも食べよう。ZPはチーム運営費から出す。多少高級品でも良い。詳細成績と順位表を五月一日に転記し終えたら好きなものを食べよう」

 

「……お寿司でもいいの……?」

 

 緊張気味に雲川が言葉を発した。

 

「分かった。五月一日に三人で寿司を食べよう」

 

「…………それなら、頑張る……」

 

 鷹一の了承を得て、雲川の頑張る気持ちがまた少し上がった。

 

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