学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
突然の匂坂の来訪に、鷹一は気持ちの悪さを感じつつも、飲料を口にし、気分を整えた。
そして、しばらく心身を清めた後、再びインターホンが鳴り響いた。
今度はBランクマンションのエントランスに設置したものからの通信であった。
『やっほー! 鷲島君~! 遊びにきたよー!』
特徴的な明るい声が誰のものであるかは一目瞭然であった。
「飛山か。よく来たな。今、エントランスのロックを解除する。認証コードも発行した。それで20階に来てくれ」
鷹一は、カメラに映る飛山の持ち物――看板のようなもの、に僅かに眉を顰めるが、危険は無いと判断し、飛山の入場を許した。
『ほいほーい』
鷹一は、自室から外に出て、20階のエレベーターホールで待機する。
少し待つと、1階から昇ってきたエレベーターが止まり、扉が開く。
「やあやあ鷲島君。久しぶり、ってほどではないけど……直接会ったのは数日ぶりだね。調子はどうかな?」
エレベーターから出るや否や、飛山が鷹一に声をかけた。
「ほどほどだな。飛山は――いや、ここで話し込むこともないか。作戦室で話そう」
そう言って鷹一が歩き出した。
「お! 何それ? カッコイイ部屋名だねー」
飛山は素早く鷹一の後を追いながらも、煽るような言葉を発した。
「チームの共有部屋に適当な名前を付けただけだ。気に入らないようなら、雲川チームの談話室という認識で構わない」
「いやいや、作戦室の方がカッコイイし、それにしようよ。私のチームの空き部屋も作戦室にしちゃおっかな~」
「そうか。着いたぞ」
鷹一が生体認証を使い、作戦室の扉を開け、中へと入る。
「ほー、ここが作戦室か~。というか、私、入っちゃっても大丈夫? 見せちゃ駄目な資料とかない?」
「大丈夫だ。資料は電子的なものばかりだし、この部屋には保存していない。そういう意味では、作戦室というより、談話室の方が近いかもな」
「そっかー、残念。鷲島君たちの秘密作戦資料とか、こっそり見たかったな~」
冗談半分本気半分の言葉を飛山が口にした。
「お前に自慢できるほどの優れた資料など無いがな」
「そんなことないと思うよー。それにしても、Bランクの部屋ってこんな感じなんだね。写真で見た感じより良く見えるね。間取りもなんだか広い感じがする」
「物が少ないからな。ところで、気になっていたんだが……その手に持っている物は何だ?」
ずっと気になっていた物に関して、鷹一が問いかけた。
「お! 気付いてくれましたか。これは鷲島君に見せびらかすための物です。食らえっ!」
そう言うと飛山は木でできた看板の隠してた面を鷹一に見せた。そこには【飛山チーム2位】【雲川チーム12位】【邪神様に勝利!】と大きくマジックで書かれていた。
鷹一はそれを淡々と見つめてから、ふとおもむろに動き出し、室内にあったマジックペンを手に持った。
「書き加えてもいいか?」
「いいよー」
飛山の許可を得た鷹一は、看板の【雲川チーム12位】と書かれたところの隣に、【初期目標Bランク:無事達成】と書き込んだ。
淡々とした顔の鷹一を見た、飛山は小さく笑った。
「意外と負けず嫌いな一面を発見っ……!」
「零やお前ほどではないがな」
「いやいや、鷲島君も中々だよ。まあ、でもBランク達成はおめでとうだね。有言実行。流石だね。というか、結局、殆ど一人でBランク取っちゃったねー。鷲島君の戦闘能力どうなってるの?」
「今回のランクは、チームの皆の頑張り、特に金崎が頑張ったお陰だ」
雲川チームの総得点22点のうち、雲川の得点が1点、金崎の得点が4点、鷹一の得点が17点であった。そしてBランクのボーダーは18点。鷹一、一人だけではBランクの得点にはギリギリ満たしていなかったのだ。それを鷹一が口にした。
「金崎君かー。相変わらず仲いいねー。もしかして、金崎君と一緒のチームって条件で雲川さんのチームに入ったの?」
飛山の問いかけ。鷹一の答えは否であった。しかし、それは口にはしなかった。
「…………それは、チームの極秘事項に関わる。すまないが、答えられない」
「そんなに重要なことなんだー。うーん、気になるな~。やっぱり雲川さんが可愛い女の子だから、惹かれちゃった感じ?」
「それは無い。あり得ない。あと、悪いが、詳細は答えられない。それよりも、通話の続きについて話したい」
そう言うと、鷹一は席に座り、また飛山にも席を促した。
「情報交換に関しては、この前の通話である程度できたと思うが、今日時間を取ったのは、この後の正午の試練発表の件でいいか?」
「おお。さっそく本題だね。うんうん、そこは鷲島君の読み通りだよ。試練の内容がいまいち読めないからね。色々と話をして、できれば、試練発表を鷲島君と迎えて、その後、対策とか話したい感じかなー。まあ、全チームで共謀禁止の殴り合いするとかだと、話し合いもなにも無いけど、流石に、もうちょっと面白い試練だと思うんだよねー。あ、せっかくだから、試練の内容当てでもしない?」
「試練の内容は俺も読めない。ただ、文脈からして、長期的に関わる内容ではあるはずだ。あと、恐らくチーム間である程度足並みを揃える要素はあると考えられる。実際、四月のチーム結成試練では、いくつかのチームが交互に人材を斡旋していたはずだ」
「ほうほう、興味深い意見だね。ちなみに鷲島君は斡旋業には手を出したの? 何割くらい貰った感じ?」
飛山の問いかけに、鷹一は、秩父チームの門倉を思い出した。
「いや、俺は殆ど関わっていない」
「ほーん。ちなみにだけど、私の試練予想は、同盟がテーマだと思うよ。詳細は読めないけど、同盟は一年間解消できないしね。影響力が結構大きい。あと、参加自由っていうのが、同盟を組んでないと参加できないみたいな試練なんじゃないかな? 試練クリアで何かご褒美があって、それが六月以降の試練に関わるか……または六月以降の試練も同盟をテーマにした試練で、こっちは不参加にはペナルティがあるか、とかじゃないかな? どう、鷲島君は合ってると思う?」
飛山の予想を聞いて、鷹一は、少しの間、固まった。自身では考えていなかったことだからだ。そして思考を回し、飛山のアイディアが十分にあり得るものだと結論付けた。
「…………、今の段階では何とも言えないが、可能性はあると思う。そうだな、ボーナス試練と言うし……同盟の結成の推奨試練とかかもしれないな。同盟を組むとボーナスを貰えるとか……」
鷹一は、飛山からの刺激からなんとなしに思いついたことを口にした。
「おー、それはありそうだね。あれ? でもその試練だと私とかアリシアとかはどうなるんだろう? もう同盟組んじゃってるよね。中さんとか蓮さんとかもそうだし。ボーナス貰えなくない?」
「その場合は、不参加でボーナスが貰えると考えるのが自然だろう。まあ、現状で、仮定の上に仮定を重ねるような話だがな」
現状では完全な予想など不可能だと鷹一は示していた。そして、間もなく正午であった。
「ふむふむ、あ、12時だ。さー答え合わせの時間です……! 答えは……! おお!!! 凄い! 鷲島君! 大当たり! 五月の試練は、【同盟結成試練】だよ! 凄いね~」
「……いや、まさか、当たるとはな。ただ、正直、殆ど予想してなかった。飛山の言葉を聞いて、少し閃いただけだ。どちらかと言うと、お前が当てたと俺は思っている」
「そうかな? 私のは少し先を行き過ぎていた気がするから、正解は鷲島君だと思うけど。過不足無くってやつだね。んで、今回の試練のルールの詳細は~」
飛山の言葉を聞きながらも、鷹一もまた、自分の端末から通知を確認した。
そこには次のような試練情報が書かれていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――親愛なる一年生諸君へ
五月一日。この学園に残っている数多くの生徒たちを誇りに思う。
再度になるが、四月の試練の健闘は見事だった。
そして、その健闘の報酬の意味合いも込めて、次の試練を君たちに送りたい。
本試練の名称は【同盟結成試練】だ。
試験開始は五月一日正午から、終了は五月三十一日の終わりまで。
現在、同盟を組んでいないチームが、新たに同盟を組んだ場合、その同盟相手によって、リーダーは六月一日にZPを得られる。
ZPの付与条件は次の通りだ。
①現在のランクと同じランクのチームと同盟を組んだ場合:10万ZPを付与。
②現在のランクより低いランクのチームと同盟を組んだ場合:100万ZPを付与。
※現在のランクより高いランクのチームと同盟を組んだ場合にはZPの付与は発生しない。
本試練はボーナス試練であり、参加するしないは任意である。
ただし、この試練の結果は六月以降の試練結果にも大きく影響するだろう。
なお、ボーナス試練でも試練は試練である。不参加の場合はペナルティとして10万ZPを没収する。
没収はリーダーのZPから行われ、もしZPが足りない場合はマイナスとなり、翌月以降のZP配布から差し引かれる。
なお、既に同盟を結んでいるチームは本試練に参加できない。ただし、その場合はペナルティではなく、補填として、同盟相手に関係なく六月一日に50万ZPを得られる。
これは先見の明を持ったチームとリーダーに対する報酬でもある。
以上。君たちの勝利と栄光を期待する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「こりゃ、また、不均衡な試練だね。まあ、私はあんまり関係ないか。アリシアともう組んじゃってるし」
詳細を読んだ飛山が、僅かに呆れの気持ちを込めた声音で言葉を紡いだ。
「そうだな。Aランク同士の同盟を既に結んでいる飛山・零、蓮・中チームはまさしく先見の明があったな」
実力者である鷹一の言葉に、少しだけ飛山は嬉しい気持ちになった。
「いやいや、それほどでも……! ところで、鷲島君はどうするの? この試練。参加するの?」
「難しいが……とりあえず、参加することにはなりそうだ。10万ZPの没収程度は何とかなるが、しかし、この試練の仕様を考えると、参加せざるを得ないだろうな」
「んー、没収と獲得の両方あるのがちょっと困るよね」
鷹一の返答に、内心で『当然か』と思いつつも飛山が、その原因について言及した。
「ああ、没収額は、AランクやBランクならば問題にならない額だが……Eランク以下は厳しいだろう。結果、彼らはほぼ確実に参加せざるを得ない。下位が動くならば、それに乗じて中位の一部も下位と組もうとするはずだ。ZP欲しさにな。実際、上手く協定を結んで、下位と中位の同盟は締結されるだろう。そして、ある程度以上の同盟が結成されると、それに対抗する意味も込めて同盟を組む所もあるだろう」
「やっぱり、六月以降の試練にも影響っていうのが怖いよね。皆、同盟を組まないなら組まなくていいけど、皆組むなら、自分たちも誰かと組んでいたくなるよね」
「他にも、ZPの獲得機会損失を嫌うという線もありそうだな」
妙なところで世俗的な鷹一らしい視点であった。
「それはそうだね。上位はだいたい皆、貪欲だし、中位以下はZPをもう少し欲しいだろうしね」
「……そういう意味では、一番深刻なのは下位だが……それに、今、チームは59チームしかない。奇数だ。1チームは必ず不参加になる。つまり誰とも同盟できないチームができる。恐らく、そのチームは今後の学園において、極端に不利になる可能性がある。それは避けたい」
下位の深刻さに関して口にした鷹一を見て飛山は少しだけ意外に感じた。
(ふむふむ……下位の事とか、どうでも良さそうな顔してるけど……案外と気にしてるのかな? 誰か下位に仲の良い生徒がいるのか、それとも、見た目からは考えられない程に優しい人なのか。意外と後者だったりするのかな……? もしそうなら、金崎君を拾った理由も雲川さんのチームの理由も分からなくはない。すごく意外だけど、ワンチャンありそう……でも、もしそうなら……うーん、アリシアは初手から間違えたってことだよなー、うーん、見た目詐欺でしょ)
「うんうん、それは確かに不味そうな感じがするね。この後の展開を考えると、同盟関係は持っておきたいよね」
内心を隠しながらも飛山は明るい口調で鷹一との会話を続ける。
「ああ、お前の言う通り、六月以降の試練では同盟相手が重要になるはずだ」
「どんな感じになるのかな? すごく単純に考えると、試合に同盟を呼べるとかかな? もしそうなら、できるだけ強いチームと同盟を結びたいよね。でもでも強いチームと同盟を結んでも今回の試練だとZPは貰えない。逆に弱いチームと結べば100万ZPも貰える。折衷案の同格との同盟だと10万ZPまで落ちる。なんか嫌らしいよね」
飛山は少しだけ言葉を選んで、鷹一の様子を窺った。
「そうだな。特にランク下位陣のZP配給を絞った後と考えると、学園側の性格が窺えるな」
鷹一の言葉に飛山はぴくりと反応した。
(む、この言い方……やっぱり気にしてるね。能力主義ってあんまり好きじゃないのかな? 分からなくはないけど、ちょっと不思議かな。この学園で最も評価され、そして最も有用な生徒が、この学園での環境に馴染みにくいっていうのは)
「鷲島君はどうするの? ABランク狙い? それともCランク以下を狙うの?」
鷹一について考察しつつも、飛山は、表側の情報も欲した。つまり雲川チームの同盟先であった。飛山チームにとって、雲川チームは直接的にはAランクを競う相手ではない。だが、それでも鷲島鷹一という怪物の動向はしっかりと把握しておきたいのだ。
「そこは何とも言えないな。相手側の考えもある。それにリーダーの意向もあるしな」
隠す訳でもなく、鷹一は純粋に素直な回答をした。鷹一は、飛山のことをある程度以上には好感を持っていた。優れたリーダーであり、思考・情報能力が高く、また人格面でもある程度の信用はしていた。匂坂を相手にするのとは違い、理由も無く嘘を吐くことはなかった。
「おおー、そんなに強いのに、リーダーを立てるとは、選手の鏡だね……! ところで、六月以降はどんな感じになるかな? たぶん50チーム以上が同盟を結ぶ感じになりそうだけど……ABランクあたりの同盟予想とかある?」
「現状だと何とも言えないが……Aランク・Bランクのリーダーやそれを支える選手たちは優秀だ。彼らは今後に備えて、どこかしら同盟相手を見つけるだろう。ZPを重視するか、強さを重視するかは、判断の仕方にもよるが……」
「ほうほう。鷲島君は戦闘力優先だと思ったけど、ZP優先もアリな考え?」
飛山は少しだけ意外に感じた。ZP優先というのはある程度、意味がある考え方だが、現状の試合環境や学園環境にはそぐわないと感じたのだ。
「何とも言えないな。ABランクはZPにはそれほど困らないことを踏まえると、戦闘力優先で同盟相手を選ぶのは理にかなっている気がする。ただ……この試練、本当の正解は100万ZPを手に入れることなのかもしれない」
「ほむ? その心は?」
興味深いとばかりに飛山が問いかけた。
「試練の書き方だ。強いところと同盟を結べとは書いていない。もしかしたら、六月以降の試練はZPが物を言うような環境になっている可能性もある」
「んー、それは確かにちょっと有り得そうだね。いや、学園側の性格の悪さを考えると、『ちょっと』では済まないかも? でも、どうだろう? そうすると、素のZP配給が多い上位が有利すぎない? 実際、この試練で、100万ZP全部貰うのって難しいよね。ランクの低い側は、自分と組めば相手が100万貰えるって知ってるんだから、リターンを欲しがるし、上位側も普通は譲歩するでしょ。50万:50万の配分にはならないかもだけど、70万:30万くらいの配分にはなるんじゃない? たかが、70万ZP有利になっても、微妙じゃない? AランクとBランクの普段の月間配給額差の方が大きいよね」
「確かに、仮に100万ZP取れても、一か月分のABランクの差額しかない。だが、六月のうちにZPを少しでも多く…………いや、済まない。あまりにも仮定が多すぎるな」
意見を口にしつつも、鷹一は途中で言葉を切った。あまりにも仮定に仮定を重ねるような言葉であり、根拠に乏しいと感じたからだ。
「いやいや、聞いてて勉強になったよー。やっぱり鷲島君は頭の方の回転も早いね~。それで、どうしよっか? 私は、ある意味、もう試練達成済みだけど……鷲島君、どうでしょうか? 何か協力しましょうかー?」
にやりと、飛山が得意げな笑みを浮かべた。匂坂とは対照的な金色の髪が、作戦室の窓から入る光によって、綺麗に輝いた。
「……お前に協力してもらえるのは心強いが……対価を用意できそうにない。止めておこう」
「いやいや~、対価なんて無しで十分だよー。ほらほら、私と鷲島君の仲だしね?」
「お前とはまだ一か月程度の仲だし、あまり深いとは言えないな。それに、『ただより怖いものはない』と言う。気持ちは嬉しいが、止めておこう」
飛山の再度の誘いを鷹一は断った。個人的に好感を持っている一方で、飛山の才覚と飛山チームに対しては警戒があった。
「んー、中々ガードが堅いね……! 鷲島君に恩を着せる作戦は失敗してしまったし……仕方がない。ちょっと出直します。でもでも、何か必要になったら連絡してねー。鷲島君のピンチにはすぐ駆けつけるよー」
「ありがたい話だが、こちらが対価を用意できないうちには難しいだろうな」
「いやいや。警戒し過ぎだよー。あ、そうだ、折角だから、これあげよっか? じゃじゃんっ! Aランク高級スパの招待券ですっ! 友好の証として、鷲島君にあげちゃいますっ! これで、警戒心を落として下さいっ! 飛山龍華が良い人だと思って下さいっ!」
飛山は頭を下げながら両手で手作り感溢れる紙の招待券を差し出した。鷹一は胡乱気にそれを見た。
「見たところ、特に意味のないものに見えるが」
「いえいえ、そんなことはございません。鷲島君も知ってるでしょ。AランクとBランク招待券。アレみたいなものです」
そういうと飛山は、ふざけたような笑みを浮かべた。
招待券。それは、AランクとBランクの生徒に与えられる特殊なチケットだ。月に三枚、Aランクの各生徒には「高級スパ体験券」、Bランクの各生徒には「大浴場体験券」が与えられる。これらはそれぞれAランク・Bランクの生徒の特権の貸出版である。
本来であれば、学園の高級スパはAランクの生徒しか利用できず、また大浴場はBランクの生徒しか利用できない。しかし、この券を他ランクの生徒に渡すことで、その生徒も1回だけ利用できるようになるのだ。この券をA・Bランクの生徒は月に3枚ずつ発行することができる。鷹一もBランクの生徒であるため、その気になれば、「大浴場体験券」を三枚まで発行し、Cランク以下の生徒に与えることができるのだ。鷹一は、この権利は上手く使えば、学園での利害関係形成に役立つと考えていた。そして、また、Aランクの生徒が自分に向けて使うことも想定はしていた。
ただし、手作り感溢れる券が自分に向けられるとはまったく想定していなかった。なぜなら――
「それは電子発行するものであって、紙ではない」
――招待券は電子的なモノであって、紙媒体ではないからだ。
「おお! 流石は鷲島君だね。パチモンでは騙せなかったかっ……!? では、これが本物の招待券です。受け取って下さい」
そう言うと、飛山は今度は本物の招待券を自分の端末に表示させた。あとは僅かな操作をすれば鷹一の端末に招待券を渡すことができる。
「少し興味はあるが……正直に言うと、あまりお前に借りを作りたくない。骨までしゃぶられそうだ」
「おお! よく分かったね! 実を言うと、私はお肉を食べる時は骨までしゃぶっちゃうよっ……! 骨付きチキンとかってさ、なんか骨に張り付いてる肉の部分が気になっちゃってさ。あと心なしか美味しい気がする。あ、ちなみに、もしかしたらイメージ違うかもだけど、アリシアはテーブルマナーとか結構ちゃんとしてて、そういうことすると怒るんだよね。鷲島君はアリシア派? それとも私と一緒で骨までしゃぶる派?」
どこか、うきうきとした表情で飛山が問いかけた。
「骨付きチキンはほどほどだ。あとテーブルマナーは詳しくない。恐らくだが零ほど気にしないだろう。だが、お前ほど、無駄を嫌う性格でもなければ、利用するものを全て利用するような性格でもない」
淡々と返す鷹一に対して、飛山は大袈裟に体を動かし、驚いて見せた。
「うぉぉー、骨付きチキンの食べ方の話しただけなのに、冷酷な経営者みたいな扱いされた……! ぼこぼこ殴りモードの鷲島君だっ……! これは傷付いちゃうな~」
「そうか。悪かったな」
「そうです、そうです……! あ、それはそうと、この招待券どうですか? 今ならお安くしておきますよっ……!」
ふざけた口調で喋りつつも、飛山は再び招待券の話に話題を戻した。
「いくらだ?」
「本来なら100万ZPはする貴重品ではありますが~、な、な、な、なんと……私と鷲島君の仲を踏まえて……無料で良いです……! でも、鷲島君がタダが怖いなら好きな額でいいです。100ZPでもいいですし、2000ZPとかでも良いですよ。お好きな額を選んで下さい……!」
「配慮してくれるのは助かるが…………そうだな…………いや、やはりやめておこう。気を遣ってもらって悪いが、俺はまだBランクの大浴場すら浴びていない。Bランクになったのだから、まずはそこから体験するべきだと俺は思っている。それにAランクの高級な扱いに慣れるのも怖いしな。俺のチームはお前のチームと違って、Bランクが精々だ。身の程に合わないことは、やめておこう」
「うーむ、鷲島君の優秀さを考えると、本来はAランク相当だし、全然身の程に合ってると思うけどなー。あー、でもでも、最初に大浴場行きたいって気持ちは分かるかも。まずはそっちってなるよね。私も自分の力でBランク達成したら、『まずはBランクの風呂でしょ!』ってなって、大浴場に突撃する自信があるかな。あーでもでも、Aランクの人に高級スパ券ちらちらさせられたら、食いつく自信もあるよっ! 『それを私に寄越せー!』ってなるかも。この辺は鷲島君の方が自制的で凄いなーって思ってます、まる」
ふざけたようでありつつも、どこか真剣な空気を纏わせながら飛山が言葉を紡いだ。
「お前は、俺以上に自制的な人間だと思うがな。まあ強い精神力を持っているが故に、あえて受け取る選択をするというのは理解できる。俺にはそこまでのモノはない。だから、ここまでお前に配慮されているのに、俺は受け取れないのだろうな」
「うむむ、何か、もしかしてだけど、私、結構警戒されてる? というか鷲島君って自己評価低いよね。普通にもっと高くてもいいんじゃない? この高級スパ券で自己評価高めるのどうですか?」
そう言って飛山は再び、自身の端末にある招待券を鷹一に見せた。
「お前のことはチームランキング2位の優秀なリーダーとして強く警戒している。だが、お前個人に対する警戒心はほどほどだ。個人的には嫌いじゃないし、どちらかというと好感を持っている。あとスパ券は今は止めておこう。俺自身がもう少し自制できる人間になったら受け取ろう。それに、さっきも言ったが、大浴場にまず行きたいからな」
「うーむ、鷲島君の好感度が結構高いって知れたのは、大喜び案件だけど、鷲島君を高級スパ沼に落とす作戦は失敗しちゃったなー」
飛山は、ふざけつつも少しだけ悪振るような言葉を口にした。
「もし、チャレンジしたくなったらお前に話をするかもしれない。まあ、その時までにお前が招待券を持っているか、またその時、お前が俺に招待券を渡したくなるかという問題があるが。この辺りは、巡り合わせ次第だな」
「そうだねー。まあ、もしもの時に備えて、常に一枚は残しておきます……! 鷲島君を口説く武器だからねっ! あ、でも二枚はどこかで使っちゃうかもだから、月に三回行きたいとかだったら、月初めから飛山チケットセンターに予約を入れてね」
「下位チームとの交渉用に使わなくていいのか?」
鷹一の問いかけに、飛山は一瞬固まりそうになるが、すぐに笑みの表情を作った。
「ふむ? と言いますと?」
「お前の事だから、招待券を上手く利用して、下位チームとの関係を結ぶかと思ったが、違うのか?」
「……ん? それは同盟相手を探すってことかな? 私はもうアリシアと結んでるから、そういう意味では他のチームに用はないかな。まあ、折角だからある程度交流は持ちたいし、そういう意味では、招待券をチラチラさせるのはいい作戦かもね」
飛山は内心を隠しつつも言葉を選んだ。
「そうか」
鷹一はそんな飛山に対して淡々とした言葉を返した。
(うーん、これは読まれてるっぽい? どこかから漏れたかな。伊舎堂さんは、結構、用心深いはずだけど……いや、下位の動きを読み切るのは上位の動きより難しいか)
飛山は冷たい感情を心の中で抱きつつも、それを表には出さず、逆に何かに気付いたかのような表情を故意に作った。
「お……! これはもしかして……鷲島君も、大浴場招待券で他のチームと仲良くする作戦かな?」
「ああ、俺のチームは交渉能力が低いからな。ある程度、意識して動こうと思っている。次の第一試合まで時間もあるしな」
淡々と飛山の問いかけに答える鷹一を見て、飛山は、手応えと手応えの無さの二つを感じた。
「お、おお……なんか、凄く正直に言われると、アレだね……アレだね……まあ、私もほどほどかな。とりあえず、私の分の招待券に関しては鷲島君用にキープできるよ。でも、鷲島君のことだから、私に頼らなくても招待券はゲットできちゃいそうだけどね」
「そう見えるか?」
「うん、見える見える。Aランクで鷲島君と仲良くなりたいリーダーは多いだろうしね。いや、リーダーだけじゃなくて、選手もかな? というより、鷲島君も私以外にも色々な子と相談してるでしょ?」
飛山は、探るような視線を鷹一に向けた。
「ほどほどにな」
鷹一は淡々と飛山を見返した。
「うーん、何人くらいと密談してるんだろー、気になるな―」
再度、飛山が探るように鷹一を見た。
「悪いが、相手との関係もある。詳しくは言えない」
「ふむふむ。十人……いや、七人くらいかな? どう? 合ってる?」
飛山の言葉に、鷹一は内心で『鋭いな』と感じた。
「悪いが、詳しくは言えない」
「そっか。残念。まあ、鷲島君の一番の相談相手に成れるように、もっと、これからも好感度上げていきますっ」
飛山のその宣言に、鷹一は冷めた表情で返答をし、それから少しの間、会話を挟み、この日の飛山との交流は終了したのだった。