学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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五月一日、ほのぼの二人

 

 お昼を過ぎて、ゴロゴロして時間を浪費する雲川であったが、彼女は今、小さな危機にあった。

 

(どうしよう……お腹減ってきちゃった……でも今日の夕ご飯は、お寿司だから……我慢しないと……)

 

 そう、空腹であった。

 夕飯にお寿司をいっぱい食べたい。うにを食べたい、いくらを食べたい、大トロを食べたい。

 でも、今、お腹も空いていた。

 

 いったいどうすれば……

 

 雲川は悩んだ。そして悩んでいるうちに、さらにお腹が空いていき、そうして、インターホンが再び鳴り響いた。

 

「? 誰だろ……? 鷹一くん……?」

 

 空いたお腹を庇いながら、ふらふらと雲川がインターホンを確認した。

 カメラを起動し、エントランスを確認した。

 そこには見ず知らずの少女がいた。

 小柄で、どこかぼんやりとしている少女だ。ほのぼのとした空気を纏っており、攻撃性は感じられなかった。誰かは分からなかったが、怖くなさそうなので、雲川は出ることにした。

 

「はい……?」

 

『おお……! いた……! どうも、こんにちは。雲川さんかな?』

 

 ほのぼのとした少女は、なぜか雲川を知っていた。そのことに雲川は頭に疑問符を浮かべた。

 

「う、うん……」

 

『おお、初めましてだね。ちなみに、私のこと分かる……?』

 

「え、えっと……」

 

『あ、ごめんごめん、こんなこといきなり言われても、分からないよね。えっとね、どこから話そうかな……とりあえず、私は種村だよ、種村可恋。梶田チームに所属してるんだけど、梶田は分かる?』

 

 インターホン越しにも伝わるほのぼのとした空気を出したまま、小柄な少女――種村は名前と所属を名乗った。

 そして、雲川は、よく分からないと思った。

 

(梶田チーム…………聞いたことあるような……ないような……鷹一くんか、金崎くんが言ってたかも……)

 

「う、うん……?」

 

 雲川の頷くかのような言葉――そこに籠っていたニュアンスを種村は正確に読み取った。

 

『ありゃりゃ、梶田もダメか……梶田は、結構印象に残る方だと思うんだけどな……まあいっか、それよりも、実は、ちょっと雲川さんとお話したくてね。とうかな、ちょっとお部屋にお邪魔してもいいかな?』

 

「え、えっと……」

 

『だいじょうぶ、だいじょうぶ、そんなに時間はかからないよ。あ、そうだ、美味しいお菓子もあるよ。甘くて美味しいやつだよ。お昼のデザート代わりにどうかな?』

 

 まったりと喋る種村の言葉に、雲川は惹きつけられるものを感じた。

 

「お菓子……デザート……」

 

 ちょうどお腹が空いていたのだ。ご飯を食べると、お寿司に支障がでる。でも、お菓子ならば……デザートならば……

 雲川紫苑の心が揺れ動いた。

 不思議と、この種村という少女に対する安心感もあった。

 普段なら怖くて、見ず知らずの人とは話さないが、なぜだか、この少女に対しては警戒心が働かなかった。これは種村のまったりとした気質故だった。

 

『ちょっとさっき、つまみ食いしたんだけど、美味しかったよ』

 

 ぼんやりと種村が言葉を発した。

 

「そ、それなら……う、うん、じゃあ、ちょっとだけなら」

 

『おお、やったやった。ありがとう、雲川さん』

 

 同気相求と言えるだろうか。雲川と種村は、両者ともに、まったりとしていて、それでいて、どこかぼんやりとしている。それ故、雲川は種村の入室を許した。

 ロックが解除され、種村がエレベーターへと乗り込む。

 しばらく経つと、再びインターホンが鳴った。今度は、玄関からのものだった。

 雲川は、少しだけ緊張しつつ扉を開けた。外には、小柄――雲川と同じくらいの背の高さの種村が手提げ袋を片手に立っていた。

 

「やあ。雲川さん。改めて、初めましてだね。さっきも言ったけど、梶田チームの種村だよ。よろしくね」

 

「うん」

 

 不思議と、雲川の緊張が消えていた。

 とてもまったりとしている、種村の生まれ持った気質が、雲川の懐にするりと入ったのだ。

 雲川は、空腹ゆえにふらふらとした足取りで廊下を歩き、リビングへと種村を案内した。そんな雲川の動きを種村は後ろから少し心配そうに見ながらも、考えを巡らせた。

 

(お昼食べてないのかな? それなら、この中身は効果ありそうだけど……まさか、反町のやつここまで読んでないよね? いや、あいつ普通に頭おかしいから、雲川さん観察して、朝昼のカロリーが足りてないタイプとか分析してそうだな……)

 

 種村は、反町に持たされた手提げ袋の中身を揺らさないようにリビングへと運んだ。そして、リビングで雲川に椅子を勧められ、感謝を述べてから席に座ると、ごそごそと袋からお菓子を取り出した。

 

「雲川さん、とりあえず、まあ、お近づきの印、みたいな感じかな? あんまりお昼とか食べないの?」

 

「う、うん……今日はお寿司だから」

 

「? お寿司? お寿司だとお昼食べないの?」

 

 雲川の言葉に、種村は内心で『独特のリズム子だな』と感じた。

 

「うん」

 

「? ……? そうなんだ。でも、お昼食べないのも体に悪いし、雲川さんふらふらだから、良かったらどうかな。このお菓子。Aランクの限定お菓子で、私も食べてみたけど、美味しかったよ」

 

「も、もらっていいの?」

 

「うん、どうぞどうぞ、お近づきの印だね」

 

「じゃ、じゃあ」

 

 そう言って、雲川はお菓子に手を伸ばした。妙に素早い動きで包装紙を剥ぎ、中のクッキーを口にした。口に広がる甘味と深みのある味が、雲川の心とお腹を癒した。

 

(美味しい……! 凄く美味しい……! こんなクッキーは初めて……!)

 

 味に感動している雲川を見て、種村は少し罪悪感を覚えた。

 

(お菓子作戦はとりあえず成功かな。なんか騙してるみたいで悪いかな……? うーん、でもこのお菓子はまだいいけど、本当に雲川さんにアレを食べさせていいのかな……というか、流れが難しいぞ。反町は何で私があんなものを雲川さんに食べさせられると思ってるんだ? やっぱりアイツ、本当はアホなんじゃないか? 流れが……いや、待て、さっき寿司食べるとか言ってたな……え、いや、これ、流れ作れるぞ……え、反町、それ読んでたの……なんで雲川さんの夕食知ってるんだよ、アイツ……)

 

 種村の考えには気付かずに、雲川は一心不乱にクッキーを頬張った。そして、すぐに尽きた。

 もはやクッキーはなかった。

 雲川はしょんぼりとした。

 

「あ、雲川さん、クッキーはもうないけど、チョコならあるよ。良かったらどうかな」

 

 そう言って、種村は今度は袋からチョコレートをいくつか取り出して、テーブルの上に置いた。

 

「う、うん……ありがとう……!」

 

 二度のお菓子供与により、雲川の中で、種村の信頼度が大きく上がった。再度、素早くチョコレートを回収すると、包装紙を剥いて、食べ始めた。至福の味が再び雲川へと襲い掛かった。

 

「ところで、雲川さん、ちょっと聞いてもいいかな?」

 

 チョコレートを頬張る雲川に種村が話しかけた。

 

「うん? いいよ?」

 

 指と口元をチョコレートで汚しつつも、雲川が答えた。

 

「今日、出てた試練の件だけどさ、もう同盟先は決まったりしてるのかな?」

 

 ぼんやりと、ほのぼのとしつつも、妙にストレートな質問が種村から放たれた。だが、これは意味のない質問であった。

 

「? 同盟って?」

 

 正午発表の『同盟結成試練』の内容など雲川は見てはいなかった。お昼を過ぎてから、ずっと空腹に悩んでいたのだ。そんな余裕は雲川にはなかったのだ。

 

「? 同盟は同盟だよ。ほら、お昼の発表にあった、五月の試練だよ。雲川さんのチームはまだ同盟を結んでないよね。だから、どこか同盟先を考えてるんじゃないの?」

 

「? お昼の試練……?」

 

「ん? あれ? もしかして、まだ見てないかな?」

 

「ど、どうだろう……?」

 

 雲川の困惑気味の表情を見て、種村は察した。

 

(私も人のこと言えないけど、雲川さん、だいぶぼんやりしてるな……どうしよう……とりあえず、説明して、最悪仲良くなるだけでも……ああ、でも反町のやつにアレは必ずやれって言われたな……ちょっと気が進まないけど、まあ、対鷲島君を考えると……しょうがないか)

 

「ええっと、とりあえず試練の話だけど――」

 

 そして、種村は雲川に、お昼にあった試練内容の発表を行った。そして、種村の所属する梶田チームが雲川チームとの同盟を考えていること、同盟の際の条件なども伝えた。この内容は、反町が鷹一にしたものと同様のものだった。

 

「――という感じなんだけどさ。どうかな? これから一緒にがんばらない? 今なら、お菓子が一緒についてくるよ」

 

 そう言って、種村は手提げ袋に残ったお菓子を全て出して雲川へと見せた。

 雲川は悩んだ。

 

(どうしよう……お菓子は欲しい……それに、Aランクの人と同盟を組んだら、明日もお菓子くれるかも……でも、これってきっと大事な事だよね。勝手に決めちゃダメだよね。鷹一くんに聞かないと……でも、お菓子……)

 

「お菓子は欲しいけど……ちょっと待ってね……」

 

 そう言って、雲川は立ち上がり、部屋の隅へと移動した。懐から端末を取り出し、鷹一へと連絡する。しかし、繋がらなかった。鷹一の端末の電源は切られていたからだ。

 

「繋がらない……」

 

 困ったように雲川は呟いた。

 

「鷲島君に電話?」

 

「うん、繋がらなくて……」

 

「うーん、反町のやつがもしかしたら電源切らせてるかも。アイツ妙なことに拘るし……まあ、あれだね。そんなにすぐに回答しなくても大丈夫だよ。鷲島君のところには反町が、金崎君のところには一之瀬さんが向かってるしね。とりあえず、今は考えてもらえれば、だね」

 

 種村は急かすようなことはしなかった。

 

「そうなの? 今すぐじゃなくていいの?」

 

「うん、雲川さんも考える時間は必要だと思うし、鷲島君や金崎君とも相談したいだろうしね」

 

「そ、そっか……そのお菓子は……」

 

 雲川は内心で、持って帰ってしまうなら、貰えないかと考えた。

 

「うん、食べていいよ」

 

 種村はどこかまったりとした声で答えた。

 

「いいの? あ、でも、同盟は受けれないかもしれないけど……」

 

「同盟は受けてほしいな……でも、まあ雲川さんもお昼抜きでお腹減ってるみたいだし、いいよ。このお菓子を食べて同盟を断っても、その時はしょうがないね。うん」

 

 前半は少し寂しそうにしながらも、しかし途中からまあしょうがないかといった風な顔で、種村はそんな言葉を口にした。

 

「ありがとう。種村さん……」

 

 雲川は、種村の優しさに感動しながらも、素早い動作で包装紙を剥いでいった。

 小柄で小動物なようで、けれど妙に食べる速度が速い雲川を見て、種村は少し興味深いと感じた。

 

(うん……これはお腹が減ってるよね。それにさっきの寿司……うーん、流れできちゃったな……騙し討ちするみたいで気が引けるけど……仕方がない。やるか……)

 

 種村はしかたがないと思いつつも計画を実行に移すことにした。

 

「そうだ、雲川さん。さっき寿司って言ってたよね?」

 

「う、うん……! 今日はね。お寿司を食べるんだよ……!」

 

 これまでの言動から、種村を優しい人間だと判断した雲川は得意げに答えた。寿司自慢をしても怒られないと踏んだのだ。

 

「ほうほう。それは良かったね。ところで、雲川さんは、どんなネタが好きかな?」

 

「ネタ……ど、どれだろう……でも、今日はうにを食べようと思ってるんだ……!」

 

「お! うにか、うにか……いや、何とも奇遇だね……実はね。今日、私、うに持って来たんだよ。あとチンするご飯と、海苔もあるよ。そうだ。折角だから、雲川さんに食べさせてあげよう。私の巻くうにをね……!」

 

 キリリと、種村が緊張感を持った表情を作った。ほのぼのとした種村がそんな顔を作っても本来ならば、誰も気圧されない。しかし、雲川はその雰囲気に飲まれて、ごくりと唾を呑んだ。

 

「種村さん……うにを……?」

 

「うん……! 私は、うにを巻けるんだよ……!」

 

 種村の言葉に、雲川は信じられないとばかりに驚きの表情を浮かべた。

 まさか寿司職人がこんな身近にいたなんて……

 

「す、すごいね……!」

 

「うん……! ありがとう……! 私の作る『ウニの軍艦』、ぜひ食べて欲しい……! そして、夕ご飯の寿司と比較して欲しい……!」

 

「わ、分かった……! それなら、食べる……!」

 

「ありがとう……!」

 

 そう言って、種村は雲川からキッチンを借り、持ってきた材料で作り始めた。雲川は、期待で胸を膨らませながら、リビングで種村を待った。

 キッチンに置いてあるBランクの備え付けの電子レンジで持ってきたパックごはんを調理しながら、種村はじっと手元にあるモノ――明らかに寿司を作るのには必要の無いモノを見た。

 

(本当に、こんなもの本当に食べさせていいのかな……流石に不味いんじゃ……反町のやつはコレが一番効くって言ったけど……これ一歩間違えたら同盟失敗どころじゃなくなるんじゃないか……? 反町のやつは、ちょっと頭おかしいからな。やっぱり今からでも止めとくか? いや、でも――反町のやつは頭はおかしいが、人間観察力は確かだ。アイツが必要と思ったなら、やるべきか。対鷲島君必勝の策、それに必要ならば――)

 

 種村は心の中で再度、雲川に詫びてから、『ウニの軍艦』を作り終えた。

 そして、それを雲川へと差し出した。

 雲川はそれを口にし、驚きの表情を浮かべ、その場で倒れた。明らかに異常な状態であった。

 種村はそんな雲川を見て、唖然としたのであった。

 

 

 

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