学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
五月一日。
金崎飛燕は午前中から訓練に勤しんでいた。
前日、チームメイトの鷹一から早く寝るように言われたこともあり、金崎は健康的な時間に起床することができたのだ。金崎は、朝食をしっかりと口にして、少しだけ休憩を挟んだ後、学園の演習場へと向かった。
演習場には、いくつもの密閉訓練室があり、ZPを支払うことで、使用することができる。
(やっぱり高くなってる。鷲島には良いって言われたけど……本当にいいのか? 秘匿モードにしない方が……いや、でもまだZPもあるし、鷲島の言われた通りにした方がいいよな……)
金崎は、借りる際に必要ZPの変化に戸惑いつつも、申請を行い、とりあえず、三時間の占有を行った。これにより、この密閉訓練室は三時間の間、雲川チームのみが出入りすることができ、また、秘匿モードの設定により、中での出来事は公開ログには残らないようになった。
この秘匿設定に必要なZPが四月から五月にかけて大幅に上昇したのだ。事前に学園からの使用料の変更についての情報は公開されていた。そのため、金崎は、五月からの訓練を秘匿で続けるべきかを鷹一に確認したのだ。鷲島の返事は『続ける』一択であった。
少し勿体なさを感じつつも金崎は、素早く密閉訓練室に入り、仮想空間の設定を行った。
設定は難しいものではなかった。以前から鷹一が詳細に設定を決めていて、その設定データを金崎・雲川の端末に転送しており、それを使えば簡単に設定できるようになっていたのだ。
(こういうのも、ぶっちゃけ助かるよな。設定項目が多すぎるし、一人じゃ、どういう設定がいいのかも分からない。鷲島はすぐ設定を組んでたけど……これ、絶対、組めないチームある気がする……いや、まあ、俺がアホなだけかもしれないけど……)
鷹一から送られた設定データをありがたがっている間に、訓練室内の基本設定が完了した。
次に、金崎は、訓練室内に設置された専用端末を操作し始めた。手慣れた手つきで、外部ファイルによる入力を選択し、短距離通信システムを使い、金崎の携帯端末からデータを送る。このデータも鷹一が作ったものだった。複数の訓練用のデータを見て、金崎は少し悩んだ。
(今日はどれからやろう……鷲島が作ってくれた『退避と掩蔽』にするか、それとも『射撃反応プログラム』にするか……うーん、『射撃反応プログラム』だな。この前、一回やってみたけど、難しかったし、時間がかかる気がする。それに鷲島も重要なプログラムって言ってたしな……)
シールド特訓用の『射撃反応プログラム』を専用端末から起動した。分かりやすいUI表記から金崎は目当ての項目を選んだ。
(こういうUIも鷲島が作ってるんだよな……なんでそんなことまでできるんだ……? いや、まあそこはいっか。とりあえず、まずはレベル2でいこう。これは前もできた。これを復習したらレベル3だ……基本型と万能型どっちにしよう……鷲島はどっちでも良いって言ってたけど……『実戦での撃ち合いを考えるなら万能型に対処できるようになるといい』って言ってたよな……うん)
金崎は『レベル2:万能型・突撃銃・正面戦闘』を選択した。そして、素早く金崎は、専用端末から離れ戦闘区画へ移動し、キーワードを口にする。
「訓練開始」
その言葉と共に、演習室にアサルトライフルを持った人型のユニットが現れた。ユニットは金崎を視認すると、素早く発砲した。金崎は、その射撃に合わせてシールドを展開した。
十分な強度と精度を持ったシールドは、攻撃を完全に防いだ。再度、ユニットが射撃を行った。今度は足を狙ったものだったが、それも防いだ。金崎のシールド展開速度は、人型ユニットが目標を狙い、撃ち、そして実際に魔力弾が到達するまでにかかる時間より速かったのだ。その後も何度も人型が金崎を狙うが、金崎は全ての攻撃を受け止めた。
鷹一が作った『レベル2の万能型』では正面戦闘において、金崎の防御を突破することは、不可能であった。
これは金崎がこの一か月間でひたすら、修練を重ねることで得た成果であった。
この能力――シールドを素早く必要な部位に展開し、さらには魔力効率よく強度を保たせる能力においては、金崎は下位の生徒たちより大きく上回っていた。そして、この能力をさらに伸ばすことを鷹一は期待していたのだ。最終的にはB・Cランクの生徒相手でも生き残れるように。
「訓練終了」
一定の成果に満足した金崎は再度キーワードを口にした。それとともに、人型のユニットは消滅した。同時に、金崎が疑似的に消費していた魔力も回復した。この空間では鷹一の巧みな設定により、実際の魔力は使わずに訓練することができた。しかし、実際の戦闘では当然魔力は無限ではない。そこで、訓練室に疑似的な魔力というパラメータを導入し、それを消費する形を取ることで、実戦さながらの訓練を可能にしていた。
金崎は一度、専用端末が置いてある場所まで戻り、設定を変更する。
少し悩んでから、金崎は『レベル3:万能型・突撃銃・正面戦闘』を選択した。そして、配置につき、先程と同じくキーワードを口にする。人型のユニットが現れるまでは一緒だ。だが、そこからが違った。
――速いのだ。
人型のユニットは素早く狙いを定め、的確な射撃で金崎を狙う。金崎は反射的にシールドを展開するが、間に合わず胴体に命中しダメージを負った。次々と襲い掛かる魔力弾を、金崎は必死にシールドを展開するが、殆どが間に合わない。なんとか致命的部位である頭部や心臓への攻撃は防いだが、徐々にダメージが蓄積し、金崎はダウン判定となり、訓練が終了した。ダウンすると自動的にシステムが停止するようになっているのだ。
「やっぱダメか……レベルが一つ違うだけで、こんなに違うんだよな……」
金崎は悩みつつも、再度『レベル3:万能型・突撃銃・正面戦闘』を起動し、人型ユニットに立ち向かった。しかし、結果は変わらなかった。さらに追加で二度ほど挑むが、どちらも長くはもたなかった。
「一応……5秒くらいは耐えられる時間は伸びてる……うん。最初は20秒だったけど、最後は26秒だ……とりあえず、1分を目標にするか……? 少しでも生き残れる方がいいよな……いや、でも鷲島にはレベル4を目標にしてほしいって言われてるし……それに、上村の時も考えると、正面戦闘だけじゃダメだよな……でもレベル3の側面なんてまず耐えられないし、レベル2の側面攻撃対応の方がいいかな……? いや、でも…………よし、一度だけレベル4をやってみよう」
金崎は今後は『レベル4:万能型・突撃銃・正面戦闘』を起動した。
決着はすぐついた。初撃が速すぎて、金崎はシールドを展開できず、そのまま心臓を撃ちぬかれて敗れたのだ。
金崎は唖然としつつも再度レベル4に取り組んだ。『心臓……! 心臓……!』と強く念じていたためか、初撃は何とか防いだ。しかし、すぐ次の攻撃が金崎の脳を貫いた。二撃目でダウンであった。3回目の挑戦は、初撃が脳を貫いた。心臓を意識しすぎた金崎の敗北であった。
「あ、これ……無理だ……」
金崎は、力量差を感じとり、レベルを落とした。再びレベル3と戦った。
十回ほど戦ったが、耐久時間は32秒で頭打ちであった。
「難しい……動きが、かなり読めない……1分の壁が高すぎる。というか、これでレベル3って……」
金崎は少し休憩しつつも専用端末を見た。UIには『万能型』以外にも『戦闘AI搭載』と書かれた項目があった。戦闘AI搭載と書かれたUIには生徒の名前が書いてあった。そして、中には金崎も見知った名前があった。
『レベル6:戦闘AI搭載【上村聖】』
『レベル5:戦闘AI搭載【秀川明】』
他にもいくつかの生徒名が書かれていた。これは鷹一が、四月の試合から生徒たちの能力や動き方を観察し続けた成果であった。
これらの『戦闘AI搭載型』は、『万能型』と違い、実際に考えて動き行動する。そのAIの元となった生徒の動きを模倣するのだ。もちろん完璧ではない。あくまで、鷹一が『この生徒はこういう行動を好む』と僅か四回の試合から分析したに過ぎない成果であり、むしろ完璧からはほど遠かった。されど、ある程度は本物を模倣しているのだ。つまり――
「やっぱり、当たり前だけど、秀川って凄く強いんだよな……いや、まあ、第四試合は完全にお膳立てされてたし、鷲島がいなきゃ、俺じゃ全く勝てないのは当たり前なんだけど……でも秀川の能力はレベル5か……マジで、俺が目の前にいたら瞬殺されるな……上村なんてレベル6だし……」
金崎は、このシステムについてはあまり詳しくなかった。ただ鷹一が分かりやすいUIと使用法を教えたので、練習に使っているだけで、どういった仕組みで動いているかなど見当もつかなかったし、同時に、何をもって『レベル』を定義しているのかも分からなかった。
このUIでは秀川はレベル5とされているが、それは彼の能力の全てを説明しているわけではなかった。この射撃反応プログラムにおいて、UIのレベルは、相対した時のシールド展開の難しさを表現していたのだ。それ故に、秀川と上村のレベル差であった。このUIは純粋な戦闘能力を表現しているわけではなかったのだ。秀川の強みは射撃速度ではなく、高威力の魔力弾と、圧倒的な弾幕によるものなのだから。勿論、金崎は、秀川の強みでもない射撃速度相手に負けてしまうのだが。
金崎は、少し休憩を取りつつも、何となく並び替え機能を使った。レベルの高い順にしてみたのだ。
(誰が一番強いんだろ……あれ、鷲島じゃないんだ……あ、いや、俺は鷲島とは戦わないし、そもそも鷲島のAIはわざわざ作らないか……)
『レベル11:戦闘AI搭載【一之瀬文江】』と書かれたUIを見て、金崎は首を傾げた。
「ん? 一之瀬……えっと……確か……梶田チームの選手だよな。でも、そんなに強かったか? 確か、第二試合ではすぐダウンしてたし、第四試合もダウンしてたよな。第三試合では生き残ってたけど、あの試合は確か梶田チームは全員生存してたし……というか一之瀬って、そもそもちゃんと戦ってない試合が多い気が……? 秀川とか上村より全然弱いよな……何かの間違いかな?」
金崎は『鷲島もたまにはミスするんだな』と思った。
(たぶんこれレベル1を間違えて11ってタイプミスしちゃったんだろうな。俺もよくやるし……鷲島もそういうところあるんだな。意外だけど、でもちょっと安心した。鷲島は完璧超人みたいで、それはそれで、凄く尊敬できるけど……ちょっと身近なところがあると嬉しいというか……あー、いや、いつも親切に教えてくれるヤツがミスして嬉しいって感じるのは良くないか……うん。これ報告した方が良いかな? いや、こんな報告されても、いちいち迷惑か……)
そして、金崎はなんとなく、『レベル11:戦闘AI搭載【一之瀬文江】』を選択して戦うことにした。
特に深い理由があったわけではなかった。タイプミスかどうか一応確かめておこうという気持ちはあっただろう。単に息抜きで、戦闘AI搭載を選んだかもしれない。ただ、とにかく金崎は、選んだのだ。
すぐにUIが続く質問を金崎に投げかけた。それは『実戦モードにするか』という問いかけだった。
「あ、そっか、戦闘AI型だし、向き合ってスタート以外の方がいいか……というか、一之瀬って狙撃手だから、向き合ってスタートは有り得ないよな……この推奨にしておこう」
鷹一が推奨戦闘モードとしていたのは『農業エリアでのランダム位置スタート』であった。それを押し、さらにいくつかの選択の後、金崎の視界が歪んだ。仮想演習室が第三第四試合の舞台であった農業エリアに変化したのだ。それに伴い。金崎もランダム位置へと投入となった。既に勝負は始まっていた。どこかに投入された戦闘AIが金崎への狙撃を通すため移動していた。
(まあ、でも、レベル1なら十分対処できる……うん、何となく始めたけど、狙撃手相手の訓練はそこまでしてないし、レベル1の狙撃手と戦うのは良いかも……梶田チームとは当たる可能性もあるし)
金崎は、どこから撃たれてもいいように警戒しながら移動した。少ない遮蔽物を利用し狙撃してくる場所を限る。そして、射線を制限できる場所を見つけ、そこに籠った。少しズルいが待ちの戦法だった。とりあえず、レベル1の狙撃AIにどこまで自分が反応できるかを知りたい金崎であった。
そして、次の瞬間、遠くで何かが光ったような気がした。金崎の脳がすぐにシールド展開の指示を出すが、体がシールドを展開しようとするより前に金崎はダウンした。一之瀬型戦闘AIの放った魔力弾が金崎の脳を貫く方が速かったからだ。
「あれ? 間に合わない……?」
金崎は思った以上に強いレベル1に驚きつつ、設定をリセットし、再度ランダム投入をした。今後は開始直後に心臓を射抜かれた。
「え?」
どこから攻撃されたのかすら金崎には分からなかった。
その後、金崎は5回ほど戦った。結果は全敗であった。初期から一之瀬AIの射線が金崎に通っている時は開始直後に瞬殺され、そうでない時も移動中に討ち取られた。最初の1回が狙撃元に気付けた奇跡の一回であった。
「……俺、もしかして、狙撃苦手? というか、狙撃ってかなり強い……? でも雲川さんは……あ、でも、そっか、雲川さんって殆ど撃ってないから分からないんだ……そっか……どうしよう……ちょっとズルいけど、正面戦闘モードにしよう。うん。向き合ってスタートならレベル1相手は大丈夫。うん、タイプミスの検証しないとだし」
既に本末転倒であった。というより、金崎も半分気付いていた。タイプミスでは無い可能性に。
正面戦闘モードでは、ついに一之瀬AIの姿が明らかになった。今まで一方的に撃たれていたので、金崎は、AIの姿を見ていなかったのだ。
金崎の前に現れた人型のユニットは万能型とは全然違うものだった。梶田チームの一之瀬の見た目を、しっかりと再現していたのだ。金崎から見てそのユニットは、静かで真面目そうな女子生徒といった印象だった。
(なんか思ったより大きく見える)
金崎がそう思いながらも、戦闘開始のキーワードを口にした。そして次の瞬間、金崎はダウンした。
「へ?」
少し間が抜けた声が金崎の口から漏れた。ダウンした自分を見る。『致命的部位損傷によるダウン』と表示されていた。金崎の心臓が撃ち抜かれていたのだ。
「え? え? え?」
何が起こったか分からず、金崎は周囲を見た。一之瀬を模したユニットが銃身の長い狙撃銃を構えていた。
「アサルトライフルじゃないよな……? え、でも、え、いや、その銃ってそんなに早く撃てない……え?」
金崎は訳が分からなかった。分からなかったが、検証のために、一度リセットした後、再度、一之瀬ユニットを出現させた。そして、金崎は再度撃ち抜かれた。今度は足を撃ち抜かれた後、体勢を崩したところ、頭を撃たれたのだ。
「……そっか、これタイプミスじゃないんだ。本当にレベル11なんだ。そっか……いや、でも何で狙撃銃で、こんなに速いの……? いや、というより、何でこんな強い設定なんだ……? 一之瀬って殆ど活躍してない生徒だけど……鷲島には強い生徒に見えるってことだよな……いや、まあ鷲島が考えるなら、たぶん本当に強いんだろうけど……」
鷹一のことを信頼しつつも、どこか釈然としないものを感じる金崎であった。