学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
それから数十戦、金崎は万能型レベル3と戦い、なんとか目標の一分に到達した。とはいっても、奇跡のような一分耐久であり、この時、金崎のダメージは深刻で、とても試合を続けられるような状態ではなかった。
「なんとか耐えれたけど……結局平均だと33秒か……初撃で落ちちゃうこともあったし……正直、まだまだだよな……」
呟きつつも、金崎は再び端末のUIを見た。 『レベル6:戦闘AI搭載【上村聖】』と書かれた文字が、金崎の第四試合での苦い出来事を思い出させた。
(……いつか、上村相手でも、耐えられるようにしたいけど……今のままじゃ難しいよな……いや、まあ鷲島も一歩一歩進むことが大事って言ってたし、兎に角、今は少しずつできることを増やしていこう。うん)
決意を新たにした金崎は一度、休憩を取る為に密閉訓練室から外に出た。昼飯を食べようと思ったからだ。訓練に熱中していて、正午をだいぶ過ぎてしまっていた。
なお、現在使用中のブースは雲川チーム用に確保したままだ。これは、非公開設定のZP消費の仕方が少し特殊であり、少し訓練室を離れる程度であれば、使用中のままにした方がZPを節約できるからだ。
ちなみに、この方法を鷹一から教わった金崎は、『いないのに取ったままにしていいのかな?』と気になってしまったが、鷲島からの『問題ない』という一言により、この方法が使われることになった。なお、現在、演習場に設置してあるブース自体はまだまだ空きがあるため、金崎はまだそこまで気まずくはなかった。
密閉訓練室を出て、演習場内を少し歩いたところで、ふと金崎の背中に声がかかった。
「あの、すみません……ちょっといいですか……?」
大人しそうな女子生徒の声だった。
金崎は一拍置いてから、自分が話しかけられたことに気づき、疑問を覚えつつも振り返った。そして驚いた。
「え?」
その人物に金崎はついさっき何度も敗れたからだ。いや、厳密には違う。その人物をモチーフにした鷲島が作った戦闘AIに敗れたのだ。
「え、えっと……」
金崎の驚くような反応を見て、その真面目で大人しそうな少女――梶田チームの一之瀬文江は、困ったような声を出した。
「は、はい……」
金崎もまた困った。Aランク、それも第三位の梶田チームだ。あの尋常じゃない強さを誇った『零チーム』よりも上位のチームなのである。その上、先ほどまで、金崎は、一之瀬に一方的に射殺され続けたという出来事があった。勿論、これは一之瀬は全く関係がないことであったが。
「えっと、その、雲川チームの金崎君ですよね……?」
長い髪を困ったように揺らしながら、一之瀬が問いかけた。
「え、あ、うん、そうだけど。確か、えっと、梶田チームの一之瀬さん……?」
「はい、そうです……私の事、知ってるんですね……」
一之瀬は少し驚いた顔をした。
「あ、うん、その鷲島が、…………あ、いや、その、鷲島が、うちのチームメイトが強い選手って言ってたから……」
金崎は少し嘘を吐いた。鷲島の作った戦闘AIについて説明するのは良くないと感じ、咄嗟に鷹一の発言を捏造したのだ。金崎は内心で、一之瀬と鷹一に小さく謝罪しつつも、再度一之瀬を観察した。
一之瀬は、当惑したような表情を浮かべた後、すぐに何かに気付いたような顔になった。
「えっと……その、ありがとうございます。私、あんまり試合では活躍できていないので……嘘でも、そういってもらえると嬉しいです……」
(あ、どうしよう、これ、嘘のお世辞言ったって思われてる……違う、あ、いや、俺も本当は一之瀬が強いのかはよく分からない。でも間違いなく、鷲島は一之瀬を強いって思ってる。あの戦闘AIを見れば分かる。うん。一之瀬は、上村や秀川以上の実力者なんだ)
この金崎の解釈は大きな誤解があった。鷹一の作った戦闘AIのレベルは一之瀬・上村・秀川の強さの順番を表したものではなかったからだ。
「いや、本当に、鷲島は、一之瀬さんのこと強いって思ってるよ。俺も良く分からないけど……」
「そうですか……それは、その、ありがとうございます。気を遣ってもらって、すみません……」
一之瀬の態度を見て、金崎は気まずくなった。
「ああ、いや、その……あ! ところで、何か、俺に用……? あ、その、もしかして、訓練室借りたままって良くなかった……?」
恐る恐る金崎は質問した。鷹一には許された占有行為であったが、やはり金崎には、ほんの少しの罪悪感を覚えさせるものだったのだ。
「いえ、その件ではなくて……ええっと、その、どこかで話せませんか?」
「いいけど……どこかって?」
「ええっと、…………じゃあ、その……ここで」
そう言って、一之瀬は近くの空いていた訓練室を指差した。
「え? 訓練室で……?」
「はい。あ、その、安心して下さい。ZPは私が払います」
「え、あ、ありがとう……でも、訓練室って他のチームの人と入れるんだっけ……?」
「入れるらしいです。私も試したことはないですけど、反町さんから聞きました」
「そうなんだ……あ、でも、それなら、俺の――」
途中で、金崎は言い淀んだ。あることに気付いたのだ。
(今、借りてる訓練室に一之瀬さんを入れたらマズいか……? 鷲島の作ったAIのデータがある。あれは見られちゃいけないものだよな……なら、ここは黙っておいた方がいいのかな……? でも、なんか、一之瀬さんに無駄にZPを使わせちゃって悪い気もする)
悩む金崎を見て、一之瀬は口を開いた。
「別に、大丈夫ですよ。私、これでもAランクなので、ZPはだいぶ余ってますから。それに私の方から話しかけたことですし……あと、チームメイトから、金崎君とお話するときにかかった費用は全部、チーム運営費から出していいって言われますので」
「え、あ、そうなんだ……ん? チーム運営費……えっと、その、ところで、俺にどんな用なの……?」
話が大きくなっていることに気付いた金崎は、恐ろしい何かを背景に感じた。Aランクに大きな力が働いている、そのことに危機感を覚えたのだ。
そろりそろりと、金崎の手が、ポケットに入れてある端末に触れた。最も信頼できるチームメイトに連絡するべきかと思ったからだ。
「その、ここではちょっと……密閉訓練室の中なら音は漏れないですし、秘匿モードにすればログにも残りませんから……あ、その、安心してください。変なことではないです……」
「えっと、違法なこととか、危ないこととかじゃないよね?」
金崎は少し警戒するように一之瀬を見た。
「はい、ルールに則ったことです……」
一之瀬は金崎の警戒を肌で感じつつも、しっかりと金崎の目を見て答えた。
淀みない、真剣な眼差しを見て、金崎は、なんとなく鷹一のことを思い出した。
――少しだけ似ていると思ったのだ。金崎のような弱者にも、真剣に向き合おうとする、その眼差しが。
「わ、分かった」
少し緊張しつつも、金崎は一之瀬の申し出を受け入れた。
そして、一之瀬が素早い手つきで、密閉訓練室の申請を行った。それにより梶田チームによる占有と雲川チームの入室の許可が発行された。
密閉訓練室に入室する前、一之瀬は金崎の方に振り返った。
「そういえば……渡すものがありました。お近づきの印です。どうぞ」
そう言って、一之瀬は箱に入った和菓子を金崎に差し出した。白地の箱に刻まれたマークは、金崎も知っている超高級和菓子会社の製品であった。これもまた、Aランクのみが入手できる代物であった。
「え、あ、これって、あの有名な……!?」
「はい、あの有名なやつです。Aランク特権で手に入れました……どうぞ……」
「あ、え、ありがとう……でも、貰っていいのかな……?」
「はい、貰って下さい。チームメイトから金崎君に渡すように言われてて……」
「それは、嬉しいけど……あ、でも、その、これからする話って……」
金崎は悩んだ。これは賄賂ではないかと思ったのだ。これを受け取れば、これからする話を拒否できないのではないかと考えたのだ。
「えっと、その、話とは関係なく……お近づきの印で受け取ってもらえれば、……もちろん、話の方も受け入れて貰えると、助かりますけど……その辺りは、金崎君の事情もあると思うので……」
僅かにつっかえつつも丁寧な言葉を繰り返す一之瀬を見て、金崎は少し不思議に感じた。
(なんか、一之瀬さんって、ちょっと変わってる人かも……Aランクチームだし、たぶん戦闘AIからすると尋常じゃない程強い人なんだと思うけど、そういう人の圧を感じないし、それに俺みたいな戦闘適性下位の生徒にも、すごく丁寧に接してくれる……珍しい人だ。やっぱり、鷲島に似てる……? うん、真剣なところと、目が強そうなところは似てる……いや、鷲島の方が目は凄いけど……)
「えっと、じゃあ、その、頂きます。ありがとう」
そう言って、金崎は箱を受け取った。
「はい、よろしくお願いします」
箱を受け取った金崎を、一之瀬がじっと見た。
「えっと……?」
「食べてみて下さい」
「え、今?」
聞き返す金崎の方を、一之瀬がじっと見つめた。
「はい」
「えっと?」
困ったような金崎を見て、一之瀬もまた少しだけ困ったような顔をした。
「その、……チームメイトに必ず渡すように言われましたので……」
「えっと、もう貰ったけど……」
「食べるところも見守るように言われました」
「そうなの? なんか、それは、そのちょっと……いや、まあ、お腹空いたし、良いんだけど……ちょっと変わったチームメイト……いや、一之瀬さんの仲間のことを悪く言いたくないけど、ええっと、もしかして……梶田さん?」
金崎は悩んだ末に、一之瀬のチームのリーダーの名前を口にした。
「いえ、反町さんです。必ず、これを金崎君に食べてもらうように言われました。あ、その安心してください。私も食べましたけど、美味しかったです」
「そ、そうなんだ……じゃあ、まあ、少しだけ」
そう言って金崎は箱を開け中から饅頭を一つ取り出し、口に含んだ。
「飲み込んで下さい」
じっと金崎を見つめる一之瀬が追加の指示を出した。
金崎は、よく饅頭を噛んでから、味を確かめて、それから、ごくりと飲み込んだ。とても美味しかった。
そして、そんな金崎を見た一之瀬は、何かやり遂げたかのように安心した顔になった。
(あ、可愛い……)
初めて表情を緩めた一之瀬を見て、金崎はそんなことを思った。