学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
梶田チームの保有する部屋の一室――反町真理の部屋にて。
鷹一は、反町からある説明を聞いていた。
それは、鷹一にとってあまりにも想定外の話であった。
「――以上が、私の考えよ。どうかしら? 試してみる?」
そう言って、反町はテーブルに置かれた注射器とアンプルに手を触れた。今度は鷹一は魔力を纏わなかった。反町の説明の途中で、鷹一は魔力を解除していたのだ。
「そうだな……まず結論から言うと、試すつもりはない。お前の話は、ある意味で興味深い。納得できる面もある。だが、さすがに仮定や推量、発想の飛躍が多すぎる。現段階では妄想と言われてもおかしくはない話だ」
鷹一の言葉に対して、反町は穏やかに微笑んだ。
「そうかしら? 私は十分にあり得る話だと思っているわ。それに、この話は、貴方の異常な強さにも説明がつく」
「俺を疑う理由は分かるが、俺は有り得ない話だと思っている。少なくとも、今、その注射を打つ気にはなれない」
きっぱりと鷹一は反町の提案――鷹一にとって、あまりにも想定外の提案を断った。
「そう。残念ね。色々と確認したかったけれど……打ちたくなったら、いつでも言って欲しいわ。同盟とは関係なく、純粋な知的好奇心として貴方には興味があるもの」
穏やかな笑みのまま、反町は言葉を紡いだ。
「……お前の考え――現時点では妄想としか言いようがない話を俺が信じた上で、さらにお前の技術力次第ではあるな」
「技術力に関しては安心して。さっきも話したけれど、免許は持っているし、今まで、何回もしてきたことよ。ミスはしないわ」
はっきりと断言するような反町の言葉に、鷹一は奇妙な恐ろしさを感じた。
「心強いのか、恐ろしいのか分からない言葉だな……ただ、どちらにしろ、今は無理だ」
「わかったわ。安心して、無理にこの話を進めようとは思っていないわ。正直に言うと、貴方の性格的にも断るのは予想していたもの」
「俺が断ると分かっていたのに、この話を準備していたのか?」
「ええ。今は断るでしょうけど……将来は分からないわ。事前に話をしておければ、貴方に危機が――さっき私が話したような事が起これば、今の私の話の信頼性も上がるでしょ? その時に、私を頼ってもらえれば結構よ。勿論、その時になっても『頼まない』選択をするのも有りよ。私は貴方の自由意志を尊重するわ」
反町が鷹一にした提案には、いくつかの関係する事項の説明があり、また鷹一の身に今後起こるであろう危機に関する予想も含まれていた。反町の言葉によると、『その危機は、もし発生すれば、鷹一に対して、尋常でない被害をもたらす』ということであった。しかし、鷹一は、そんな危機が起こるとは到底思えなかった。
「随分な自信だな。確かにお前の言うような状況になれば、俺はお前を頼ることになりそうではある。だが、そもそも、さっきも言ったが、お前の話はあまりに突拍子もない話だ。お前の想像する危機が俺に訪れるとは思えない」
「そうかもしれないわね。ただ、覚えておいて。私としては、いつでも準備ができているということを」
鷹一に真っ向から否定されても、反町は穏やかな笑みのまま言葉を続けた。
「……分かった。そんなときが来るとは思えないが、もしもの時はお前に世話になるかもしれない。無いだろうが、その時は、よろしく頼む」
「ええ。私も、そんな時が来ない事を祈っているわ」
まるで鷹一にずっと幸福でいて欲しいかのような反町の態度に、鷹一は何とも言えない気分になった。
鷹一は一度、小さく呼吸し、感情と思考を整理した。あまりにも飛躍しすぎた会話を元に戻す必要があったからだ。
「ああ……それで、話を同盟の件に戻したい。先程の条件、雲川チームと梶田チームの間で、一年間、対等で互恵的な関係を構築する。俺としては問題はない。雲川と金崎が納得すれば、チームとしても問題はない。一応、再度聞くが、お前のチームも問題は無いんだな? お前は梶田にこの件を任されている、お前の言葉は梶田チームの総意と考えていいな?」
「ええ、問題無いわ。梶田と種村の許可は得たし、今回の件はチーム全員で動いていると言えるわ。雲川と金崎が頷き次第、同盟を結びましょう」
「それは構わないが……梶田は大丈夫か? 同盟締結にはリーダー同士が直接会う必要がある。梶田の体調を待ってからでも、こちらは構わないが」
鷹一の気を遣うような言葉を受け、ずっと微笑んでいた反町の表情が僅かに強張った。
「…………そういえば、そうだったわね。ごめんなさい、つい気が急いてしまったわ。…………、…………、そうね、少し待たせてしまって悪いけれど、梶田の体調が回復してからにしましょうか。大丈夫よ。二、三日もすれば、回復するわ」
途中で、反町は言葉に少しの間を置いた。その間に、反町がどんな思考をしていたのか、鷹一には分からなかった。
「分かった。雲川と金崎と一通り話がついたら、同盟の可否についてお前に連絡する。上手くいったら、後日、雲川と梶田の間で同盟を結ぼう」
「ええ。連絡を楽しみに待っているわ」
それから、鷹一は、反町の部屋を後にした。
※
Aランク高級マンションから出た後、鷹一はすぐに小型端末の電源をつけた。反町からの指示で今まで電源を落としていたからだ。
不在中の連絡が多数あり、鷹一はそれを確認した。
(連絡がかなり来てるな……紫苑と金崎から通話、水渕・宝珠山・源内からは通話とメッセージが来てるな。内容は……『話をしたい』か。一手、遅かったな)
そこまで考えて、鷹一は内心で首を振った。
(いや、違うな、逆だ。彼らは、かなり早いんだ。実際、以前話をした時、水渕と源内は優秀そうに見えた。特に、水渕は決断力が高そうだ)
以前、鷹一の勧誘を行った、水渕・源内の二人のリーダーを思い出しつつも、鷹一の脳内には、反町の穏やかな笑みが強く映った。
(ただ、梶田チーム、いや、反町が早すぎるんだ。試練が始まって、即座に仕掛けて来た。元々、こちらと組む予定があったと言うが……拙速ならぬ巧速だな。巧遅と拙遅の間にいる俺にとっては、やはり得難い相手だ。言動が怪しい点と、あまりに突飛な提案をしてきた点や、開示した経歴は、少し信用しにくいが……それでも戦術面・戦略面のサポートは期待できそうではある)
鷹一は思考しつつも、少し悩み、まずは雲川へと連絡した。
数コールとしないうちに雲川が出た。
『鷹一くん?』
「ああ、俺だ。すまない。少し訳があって電源を切っていた。こちらに連絡を入れていたな。何かあったか?」
『あ、うん、実は、さっきまで種村さんと一緒にいてね。あっ! それで! 凄い事があったのっ……!』
妙に前のめりの雲川の態度を鷹一は珍しいと思いつつも、反町の言葉を思い出した。
(種村。梶田チームの一人だな。反町が言っていた紫苑担当か。高魔力で戦闘技量も高く、判断力も高い種村は紫苑とは別系統の人間に見えるが……単純に紫苑に合いそうな人間がいなかったから、相対的に対応できそうな人間を派遣したのか……?)
「そうか。同盟の件か?」
『え? いや、そうじゃなくて……あ、でも、同盟の話もしてたけど、でもそうじゃないの……! 種村さんは、凄く美味しいウニを巻けるんだよ!』
「? ……? ウニ?」
雲川の想定外の言葉に、鷹一は一瞬固まった。
『うん! 凄く美味しいウニ! さっき食べさせてもらったけど、凄く美味しくて。美味し過ぎて、食べたら倒れちゃった……』
「……? ……? 種村がウニを持ってきて、紫苑に食べさせたのか?」
『違うよ! ウニの軍艦だよ……!』
自信満々な雲川であったが、彼女の言葉には大きな間違いがあった。
――それは、雲川が食べたものはウニではなかったということだった。
種村が雲川に食べさせたモノ――より正確に言うならば反町が種村に指示した内容は『プリンに醤油を混ぜたモノを軍艦のように巻き、雲川にウニと偽り食べさせろ』というものだった。あまりにも意味不明な指示に種村は困惑しつつも、少しの罪悪感とともにそれを実行したのだ。種村からすると、プリンをウニと偽るのは大罪だったからだ。
しかし種村の思いとは裏腹に、雲川は偽ウニを喜んで食べ、また美味しさのあまり倒れたのだ。そんな雲川を見て種村は色々な意味で唖然としたのだ。まさかプリンを食べたことに気付かないとは。
一方で、雲川は最初から最後まで幸福だった。彼女は今も、自分が最高のウニの軍艦を食べたと信じていた。
「そうか。それは良かったな。しかし、なぜ種村はそんなものを持って来たんだ?」
『種村さんはお寿司を作るのが上手なんだよ……!』
どうでもいい情報を耳に入れつつも、鷹一は少し気になったことを尋ねることにした。
「そうか。良かったな。ところで、そのウニはどこで食べたんだ? 種村の部屋か? それとも紫苑の部屋か?」
『? 私の部屋だけど……?』
その言葉を聞いて、鷹一は内心で、種村に対して僅かに感心した。
「紫苑の部屋か……分かった。それで、連絡してきたのは、そのウニの話をしたかったからか? それとも種村に何か言われたからか?」
『うん! 連絡したのは…………あっ! そうだった……えっと、種村さんから同盟を組みたいって話をされて。梶田さんのチームと組まないかって……何て答えていいか分からなかったから、鷹一くんに電話したんだけど、繋がらなくて……』
「それは悪かったな。実を言うと、俺も梶田チームの反町から話があった。それで、紫苑はどう思う。種村と話をしたようだが、組んで良いと思ったか? 種村はお前から見て、一年間背中を預けることができる相手に見えたか?」
これは、今後の同盟相手の選択に関わる、重要な問いかけであった。しかし……
『う、うん! 見えたよ……! 種村さんは優しくて、良い人だったよ。ウニの軍艦を作るのが上手だし、それにお菓子も美味しかったよ……!』
……雲川の回答は、なんとも雲川色であった。鷹一は内心で小さく溜息を漏らした。
(完全に餌付けされたな……ただ、まあ紫苑の人柄を知り、対応する能力があるならば、一年間の付き合いでもなんとかなりそうか。それに、警戒されずに紫苑の部屋に上がれるのは――匂坂のせいで、正直何とも言えないな……)
銀髪の美少女を思い出し、鷹一は少し嫌な気分になった。
(……いや、それでも紫苑は基本的に相手の人柄を見る。匂坂以外はある程度見抜けるはずだ。そして、そんな紫苑が受け入れたならば、種村の人格面は最低限信用できそうではある)
「それは良かったな。では、紫苑としては、梶田チームと組むのには、否はないか? 一応言っておくと、梶田チームは五人構成のAランクチームだ。ある程度上昇的な野心はあるメンバーはいるだろう。種村は優しいかもしれないが、他は分からない。それでも組めそうか?」
『え、……それは……あ、でも、種村さんは良い人だし……それにお菓子もくれたし……ウニも凄く美味しかったから…………うんっ! 組めると思う…………たぶん』
種村のほのぼのオーラと親切心、そしてお菓子の力は、反町の予想以上に雲川に食い込んでいた。
「分かった。答えてくれてありがとう。紫苑。少し金崎にも確認する。あと、大丈夫だと思うが、この後、何かあっても、一人で同盟を結ばないでくれ。同盟を結ぶ時は俺が見ている前でやってくれ」
『あ、うん、分かったよ』
「ありがとう。それじゃあ、またな……あ、そういえば、今日の夜は寿司の予定だが、どうする? ウニをもう食ったなら、また今度にするか? それとも今日でいいか?」
『今日! 今日食べたい! それに、種村さんとも約束したから……味比べするって……』
雲川らしからぬ素早い回答を聞いて、鷹一は内心で小さく苦笑した。
「そうか。分かった。夜、皆で集まったら寿司を食べに行こう」
『うん……!』
鷹一は電話を切ると、今度はもう一人のチームメイトである金崎に電話した。
金崎との通話も概ね雲川のものと同じものだった。
曰く――梶田チームの一之瀬から同盟の提案があったこと、そしてその内容は雲川チームに寄り添った物であったこと、一之瀬は真面目で良い人そうに見えたということ、また高級和菓子を箱で貰ったので後で皆で食べようという話であった。
一方で、鷹一からは、金崎に組んでも良いかということを尋ねると、金崎は『基本は鷲島に一存する』と前置きした上で、一之瀬は信用できそうに見えたし、同盟条件も良さそうなので、組んだ方が良いように思えると口にした。
鷹一は電話を切ると、Bランクマンションへ向けて歩きながら、少し思案した。
(紫苑も金崎も同盟には好意的だな。種村と一之瀬に対する評価も高い。反町の言った通りになったな……やはり分析力や人間観察力は本人の言っていた通り高いようだ。これは組むべきか? リスクとリターンを考えるなら組むべきだが……やや反町の信用性があやふやだな……)
反町に高い能力と信用性の難しさを天秤にかけつつも、鷹一はもう一つの問題点である梶田について考えを向ける。
(――それに、以前、話をした感じからすると、梶田は、紫苑や金崎とは少し相性が悪い気がするな。どうするか……いや、それを踏まえた上の種村と一之瀬か。人間関係はなんとかなるだろう。あとは反町をどれくらい信じられるか、だな)
そこまで、鷹一は考えたところで、思考を一時別のものへと向けた。着信履歴に残る三人のリーダー、水渕・宝珠山・源内の三人は、全員が過去に鷹一を勧誘したリーダーであった。そして、三人とも端的ながらもメッセージも残していた。
(源内は、文面的に、後でも良さそうだな。明日会う約束だけ返そう。水渕と宝珠山は『至急』か……)
内心で源内に対して少し助かると思いつつも、鷹一は、水渕と彼のチームについて考えを巡らせる。
(水渕は……同盟の話なら正直に言って旨味が少ないな。同じBランクであるし直近のZPのメリットも薄い。水渕は優秀そうに見えたし、水渕チームも強いチームではあるが、どちらも上位互換的な存在はいる。それに梶田チームの件もある。あまり、多くの相手と話をしていると梶田チームの面々に思われるのも良くないが……いや。以前、話をした感じからして、水渕は体面を気にするタイプに思える。優先順位を後に回されたと思われるのは避けた方が良さそうだな)
そこまで考えた鷹一は、自室に戻り次第、水渕に連絡を取ることを決めたのだった。