学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
梶田チームとの同盟締結までの二日間、雲川チームの面々は、五月初日に負けず劣らずの、慌ただしい時間を過ごしていた。
まず、鷹一は五月二日の午前中から、約束をしていたCランク27位のリーダーである源内を作戦室に招き、情報交換をした。とはいっても、鷹一と源内の交流時間の大半は、どこか適当でだらしない源内の愚痴を鷹一が聞き続けるというものだった。
なお、事前に源内に高級茶菓子を用意して欲しいとせがまれていた鷹一は、二種類の茶菓子――高級のものと一般のものを用意し、その包装を逆にしてから源内に出すという妙なことを行った。源内はトラップに引っかかりつつも、転んでもタダでは起きない精神で鷹一に追加の高級茶菓子を要求し、鷹一もそれに応じた。
また茶菓子を食べながら、源内は、彼の心境とチームの様子、そして、Cランク帯の温度感についても鷹一に話した。
曰く、源内自身は鷹一と組みたいが、互いにチーム戦術が似ているため補い合うのは難しいと考えていた。また自身が鷹一の下位互換であり、情けにすがる以外に同盟用のネタがなく、対等な関係を築くのは難しいとも認識し、それを実際に口にした。同時に、チームメイトたちは同盟先に揉めており、雲川チームとの同盟に賛成してくれる選手は一人もいなかったことも明かした。
さらに源内は、特に鷹一としても知りたかったCランクの生徒たちの実際の様子についても語った。ZP配給も一定以上あり、衣食住の待遇は悪くはないが、野心的な生徒には満足とは言いにくい環境であり、不満を口にする生徒もちらほらと見かけるということだった。また源内チームも、そして源内が知っている他のCランクチームもBランク昇格を目指しているチームが多く、そのために訓練室に足繁く通っていることを口にした。
待遇に関しては、鷹一も源内も入浴が好きだったためか、互いにBランクの大浴場・Cランクの浴場の感想について詳しく話した。
そうして、主に源内の愚痴――チームメイトに怒られてしまって大変なこと、リーダーの重圧に苦しんでいることなどを中心に、時折、源内が重要な情報をぽろりと口にする、そんな時間を一時間以上過ごした後、源内は満足気に感謝とともに作戦室を立ち去った。
鷹一はお土産に追加の高級茶菓子を渡して一件落着であった。
ここまでは。
なぜなら、源内がBランクマンションから出ようとしたとき、彼はチームメイトの中仙道に捕まってしまったからだ。源内は、鷹一に会うことをチームメイトには秘密にしていたが、中仙道は『気付いたらいなくなっている源内』に気付き、彼の思考パターンから鷹一に会いに行っていると予想し網を張っていたのだ。源内は捕縛され、高級和菓子を中仙道に没収された。
中仙道は一度インターホンを使い、鷹一に『うちのチームの馬鹿がすみません、こちらをお返しします』と茶菓子の返還を行おうとするが、源内を哀れに思った鷹一は『それは源内に渡したものだ。気にしないでくれ』とだけ言ってインターホンを切った。
なお、この高級和菓子は平等主義者中仙道により、四分割されたのち、源内チームの選手四人に等分に配布されることになった。試練真っ只中で、皆が知恵を振り絞っている中、一人ふらふらとBランクの部屋に遊びに行っているリーダーの分は当然無かった。
一方、鷹一も鷹一で新たな緊急事態に直面していた。
インターホン越しに中仙道と初めての会話をした鷹一は、『やはり、中仙道は体幹が良い。歩法も鋭く、源内の動きを読み切った思考力も高い。知勇ともに源内チームの要だな』など考えていたのだが、そこに雲川からの通話が入ったのだ。
雲川が、強い恐怖を含んだ声で、鷹一に助けを求めたのだ。また、通話越しから『ちょっと! 雲川さん、一体、何を……?』『わわっ、雲川さん、とりあえず落ち着こう……!』『おい、誰か呼んでるぞ! 通話切れ! 鷲島が来たらヤバいだろ!』『大丈夫だヨ、竹田。鷲島が来ても別に問題はないヨ。そのためにボクが来たんだかラ』といった声が聞こえて来たのだ。
印象的な訛り声を耳にし、すぐに鷹一は部屋を出て、雲川の下へと急行した。
鷹一が現場につくと、そこは混沌としていた。
雲川は落ち込んでいて、萩田はその雲川に寄り添い、滝本はその二人から少し距離が離れたところで腕を組み仁王立ちしながら二人を鋭く睨み、マスタングは鷹一を見て不敵な笑みを浮かべ、そして竹田は落ち着かない様子で萩田・滝本・マスタングを何度も順番に見ていた。
状況を半分程度把握した鷹一は、雲川と萩田の方を近寄ろうとしたが、すぐにマスタングが接近を妨害しようとした。
「おっと、二人の方へ行くならば、ボクを倒してからにしてもらおうカ――って、エェ!?」
「――マスタング君、やめなさいっ! って、え……?」
どこか芝居のかかった口調で鷹一の針路を妨害しようとするマスタングであったが、それは未遂に終わった。リーダーである滝本が制止したからではなかった。
鷹一が謎の歩法を使い、一瞬でマスタングの妨害を抜き去ったからだ。
滝本・マスタング両名は、鷹一の人間離れした挙動に、唖然とした。
「お、おい……!」
チームメイトを見ていた竹田は思わずといった風に声を出し、鷹一の方へ近づき、一方で、雲川の近くにいた萩田は慌てて雲川を抱きしめた。
「竹田君、待って、ストップよ。萩田さんも、いいわ、雲川さんを離して」
凛とした鋭い声が竹田と萩田へ鋭く刺さった。声の主は、鋭い態度と視線の持ち主、Bランク16位のリーダー、滝本明里であった。
滝本の指示を聞き、萩田は雲川を離した。雲川は一度、萩田を申し訳なさそうに見てから、鷹一を見た。その顔は『やってしまった』と言った風な表情であった。
「紫苑……いや、滝本、事情を聞いてもいいか? 何となく状況は察するが……」
雲川の表情や周囲の状況を見て鷹一は現状をほぼほぼ理解した。つまり、これは雲川の誤解が招いたことであった。
「それは……いえ、そうね、本来はリーダー同士で話すべきことだと思うけれど、誤解されたくはないし、説明するわ」
それから、滝本は、ここまでに至った事情を、鷹一に説明した。
――曰く、滝本チームもまた試練の同盟相手を探していたのだ。
滝本は今後のために強い同盟相手を求めていた。そして、目を付けたのが雲川チームであった。同じBランク同士ゆえに、試練の報酬は少ないが、『今後』を考えるならば、目先のZPに釣られるのではなく、『強さ』を求めるのが、正しいものだと滝本は結論を出したのだ。
しかし、滝本の案には一つ欠点があった。それは、滝本チームの中で、雲川チームと接点を持っているのが滝本だけだったという点だ。
そして、それは『滝本が入学当初、鷹一を勧誘し、その時に連絡先を交換した』というだけの関係しかなかったのだ。これは滝本としても難しい点だった。鷹一経由で同盟を結ぶという考えもあったが、それは滝本には納得できない考えだった。
なぜなら、同盟は『リーダー同士で結ぶもの』という考えを滝本が持っていたからだ。滝本はやや融通が利かない性格をしていたのだ。選手経由ではなく、直接リーダーである雲川と交渉したかったのだ。滝本は良くも悪くも真っすぐ正面突破するタイプであった。
ただし、それだけではなかった面もある。過去に鷹一を勧誘し、失敗し、そして、四月に鷹一は圧倒的な成果を挙げる一方で、滝本自身はマスタングという大駒を持ちながらも、チーム戦では負け続きだった。つまり、滝本は、内心で鷹一に対する恐れがあったのだ。勿論、滝本自身はそのような考えが自分の中に占める割合は小さいと思っていたし、何より、『リーダー同士で話しをつけるべき』という考えは本音でもあった。
そして、滝本は雲川に直接挨拶しにいったのだ。
しかし、これは失敗した。
雲川の部屋のインターホンを滝本は何度も押したが、その度に雲川は居留守を使ったのだ。理由は、滝本の凛々しく、鋭く、そしてなにより厳しそうなオーラを嫌ったからだ。雲川はインターホンが鳴るたびに、無駄に音を殺し、びくびくとしながら、滝本が去るのを待った。数回にわたりこれを繰り返された滝本も気付いた、自分が避けられているとに。
このことをチームメイトに相談し、結果、滝本は、柔らかな空気を持つ萩田と共に雲川に挑むことにしたのだ。そしてこれもまた失敗した。理由は、滝本がいたからであった。妙に滝本の印象が強かった雲川は、普段の乏しい記憶力から滝本を思い出し、柔らかな萩田がいるにも関わらず、居留守を続行したのだ。なお、居留守は気付かれた。一度、滝本を外して萩田だけで行くのはどうか、という話もあったが、これは『リーダー同士』の交渉でなくなることを嫌った滝本が拒否した。
そして次の案として、滝本と萩田が二人でBランクマンションのエントランスで雲川を待ち伏せするという案だった。雲川が部屋から出るということは事前に竹田が目撃していたこともあり、この案が実行に移された。
ただし、この案にはなぜか余計なものがついた。それが竹田とマスタングであった。
竹田は純粋に警戒していたのだ――雲川の不誠実さと、鷹一の脅威を。何度も居留守を使う雲川は、不誠実であるし、その行動はいまいち信用できなかった。竹田は滝本と萩田の行動が取り越し苦労になることを心配した。
そして同時に、鷹一という純粋な絶対的な強者も警戒した。圧倒的な強さと、見た目から想像される冷酷さ非情さを、竹田は強く鷹一から感じ取っていた。味方になれば頼もしいが、同時にまだ味方ではない以上、動きに最大限警戒すべきであり、何かあれば自分が滝本の盾になるべきだと竹田は思ったのだ。学園に入ってまだ一か月程度の付き合いしかなかったが、それでも竹田は、真面目で真剣な滝本のことを尊敬していたからだ。
なお、マスタングはただの野次馬根性であった。マスタングは滝本のことは別に尊敬していなかった。ただ、マスタングは、強気で美しい顔立ちの女子生徒が好みであった。滝本の顔立ちはマスタングの中でストライクゾーンど真ん中であった。そして何より、滝本は胸が大きかった。宝珠山などという貧乳とは比べ物にならなかった。マスタングは滝本に勧誘された時、一秒でチームに入ることを決めたほどだ。滝本が長々と勧誘する理由やチームの戦略などを真剣に話していたが、マスタングはその時、滝本との関係をどうやって深めるかしか頭になかった。
そして、今回も、ただただ滝本がどんな風に交渉を進めるのかの興味本位でこの場に来ていた。あと、もし、鷹一や金崎が現れたら、それを邪魔することで、滝本の好感度を稼げないかな、といった、程度の低いことを考えていた。
結果、なぜかチーム全員で雲川を待ち伏せすることになった。
一方で雲川は雲川で、この日は少し遅い朝風呂――もはや昼風呂を大浴場で楽しんだ。玄武の湯でぽけぽけと時間を過ごし、リフレッシュしたあとは、うきうきと半分ぼんやり半分でBランクマンションのエントランスを通ったのだ。そして、見事、滝本チームの網にかかった。
最初は滝本も威嚇しないように、竹田・マスタングは下がらせ、萩田と二人だけで雲川に近寄ったが、妙に記憶力を発揮し滝本を覚えていた雲川はすぐに逃走した。居留守を咎められると思ったからだ。慌てて萩田が追いかけた。しかし、急に素早くなった雲川は全力で逃げた。それを見て、竹田が反射的に駆け寄り雲川を確保した。
急に現れた強面の男に掴まれた雲川は、強い恐怖を感じ、鷹一に連絡をしたのであった。マスタング以外の三人は慌てつつも、雲川に事情を説明した。試練のための同盟を組みたいということを。
鷹一が来るまでの間、萩田の努力が実り、なんとか雲川を落ち着かせ、事情の説明に成功した。
一方で、完全に『萩田・雲川の交渉の場』となってしまったことに滝本は、雲川の臆病さと自身の交渉力の無さに失望し視線が鋭くなり、竹田は鷹一を呼ぶ切っ掛けを作ってしまい気まずくなった。なお、マスタングは、『ここは、鷲島を足止めして、明里の好感度を稼ぐチャンスだネ』などと考えていた。
そうして事情――滝本の知る範囲かつ、滝本の心情などを省いた範囲、の説明を受けた鷹一は、何とも言えない表情になった。
(同盟話というのは想像はできていたが……、紫苑……四回も居留守を使ったのか……まあ、俺も匂坂が相手なら十回でもニ十回でも居留守を使う覚悟はあるが……)
「とりあえず、事情は分かった。滝本、すまなかったな。リーダーは少し……いや、かなり人見知りなんだ」
鷹一の淡々とした謝罪に対して、滝本もまた凛とした鋭い視線で鷹一と雲川を相互に見た。
滝本としては、鷹一に対しては思う所はなかった。ただただ視線が鋭く顔が険しいのは、滝本の特徴であった。この一面に関しては、滝本は鷹一と似ていた。
一方で、滝本は、『能力が低く居留守を使いすぎる雲川』に対しては、思う所があった。というより、もはや嫌っていたし、軽蔑していた。滝本は能力主義的な面があり、有能である鷹一は高く評価し、好感を持っていたが、一方で、無能で怠惰な人物の評価は低かった。しかも、その人物が、過去に自分が勧誘に失敗した『最も優秀な生徒』を従えていることも嫌悪に拍車をかけた。
「いえ、私も、お供が増えた件に関しては、申し訳ないと思っているわ。それに、ここまで雲川さんが交渉事が苦手だと思っていなかった……最初から貴方と交渉するべきだったかもしれないわね」
「確かに、それはそうだな。俺の連絡先は持っていたと思うが……俺経由で雲川を呼ぼうとは思わなかったのか?」
「……それは考えていたけれど、…………さっきも言ったけど、リーダー同士で全て決めるべきだと思ったのよ。他意は無いわ」
これは嘘であった。滝本は純粋に鷹一に対して恐れがあった。ゆえに彼を避けていたのだ。
「そうか。それで、同盟の話だが――」
「――待って。ここで話すのは良くないわ。場所を移しましょう」
素早く滝本が制した。今後を左右する重要な同盟関係、その情報を他のチームに知られることを警戒したのだ。しかし、これは結論から言うと無意味であった。なぜなら、
「いや、滝本、すまない。そうじゃないんだ。実を言うと、もう雲川チームの同盟先は決まっているんだ。だから組めない。だいぶ時間を使わせてしまって悪いが」
既に、梶田・雲川同盟は決定しているのだから。
「……どうやら、一手遅かったようね。ちなみに、相手はどこか聞いてもいいかしら?」
鷹一の言葉に、滝本は悔しさから表情を険しくした。
「それは……そうだな、……いや、すまない。時間を浪費させてしまった以上、答えたい気持ちはあるが、生憎、相手側の機嫌を損ねたくない。悪いが、学園の同盟結成公開を待ってくれ」
「できれば聞いておきたかったけど……残念ね。ただ、これだけは聞かせてもらえないかしら。同盟先を決めたのは何時? 試練が始まった直後にはもう決まっていたの?」
この質問は、滝本なりの敗因分析であった。滝本は試練が始まってから、チームをまとめ、考えを整理し、そして雲川に突撃するという作戦を考えて実行に移した。それは結果的には実を結ばなかったが、せめて答え合わせをしたかったのだ。
「いや、直後ではないな。俺もいくつかのチームを候補に考えていたが……一応、同盟先を決定したのは昨日の夜だ」
「昨日の夜……もし、私が、昨日の夜よりも――、いえ、これは意味の無い質問ね。分かったわ。同盟が組めないなら、これ以上の交渉は無意味ね。鷲島君、雲川さん、迷惑をかけたわね。皆、戻るわよ」
そう言って、滝本は鷹一と雲川に背を向けた。竹田はその背を追いかけ、萩田は一度、鷹一と雲川に突然話を持ち込んだことを詫びてから滝本を追いかけた。そして、マスタングは不敵な笑みを浮かべた。
「残念だネ。てっきり、キミと戦いになるかと思って来たんだけど、当てが外れたかナ」
「試合以外で戦うつもりはない」
「ンー、キミも佐々木も闘争心が足りないナ。昨日も途中で帰っちゃったシ。そういう所は、水渕の方が面白いかナ。まあいいや、じゃあね、鷲島、紫苑。試合でマッチングしたら、よろしくネ」
雲川が鷹一の後ろに隠れるのを見て、マスタングは、小さく笑ってから滝本の後を追うのであった。
※
このように、鷹一と雲川は同盟結成日までの間に何人かのリーダー・選手と交流を持った。また鷹一・雲川ほどではないが、金崎も何人かの生徒と交流することになった。
交流の目的は様々だった。試練に関することもあれば、試合に関することもあり、またBランクという高みにいるために近づきたいという生徒もいた。また中には、純粋に、個人的に仲良くなりたいという理由での交流もあった。
そして、ある二つのチームからの同盟話が鷹一たちを悩ませた。
鷹一には天野チームから、そして雲川には麻倉チームから同盟の打診があったのだ。
片方はCランクでも優れた長所を複数持つチームであり、そしてもう片方は同じBランクではあるが、
どちらも強い魅力を持っているチームであった。しかし、既に、鷹一は、反町に同盟を受けるという返信をした後であった。
鷹一は泣く泣く、二つの同盟打診を断ったのであった。雲川も優しい麻倉との同盟を断ることになってしまい、残念な思いであった。
また、梶田チームとの同盟結成前に、いくつかのチームが同盟を結成した。
その情報は学園から公開され、鷹一も毎日の公開時間になるたびにそれを確認した。
それぞれのチームの同盟相手に納得や疑問を抱きつつも、あるチームの同盟関係が鷹一に強い危機感を感じさせていた。
――それは、あの恐ろしい匂坂チームが最速で同盟相手を見つけたという点だ。
――そして、その相手は、鷹一も高く評価していた星川チームであった。
匂坂チームの圧倒的な戦闘力に星川の技術力が加わる可能性がある、ということであった。
また、Aランク同士の同盟というのも鷹一は警戒した。
現在、五月に同盟を新しく組んだチームはどのチームもランクが違う者同士で組んでおり、つまり100万ZPの確保を意識していた。そんな中で、唯一匂坂・星川同盟だけが、同ランクの同盟であったのだ。
――同ランクの同盟、ZPよりも戦闘力を優先、あまりにも素早い同盟結成。
様々な面で、警戒せざるを得ない同盟であった。