学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
――数秒間、無言で時が流れた。
反町は穏やかな笑みで二人を静観し、種村は少し悩みつつも今は介入しない判断を下し、雲川・金崎・一之瀬の三人は固唾をのんで見守った。なお石井は二人の覇気を感じた時、一瞬だけチラリと二人を見るが、すぐに興味を無くし、再び本に目を向けた。
六人の人物がそれぞれの反応を示す中、先に動いたのは梶田であった。梶田は鷹一から視線を逸らした。そして苦々しそうに口を開いた。
「……まあ、いいわ。鷲島、あんたの実力は認めているわ。私も特別に譲歩してあげる」
梶田の言葉を聞いて、鷹一は圧を緩め、確認の言葉を口にした。
「それはつまり限りなく対等で――」
「――それで構わないわ」
鷹一が全て言い切る前に、梶田は面倒くさいと言うように了承の言葉を口にした。
この結果を予想していた二人の人物――反町と種村はすぐにフォローに回った。
「ごめんなさい。鷲島。梶田はちょっと素直になれない子なの。許してね」
そう言って、反町は梶田の髪を撫でようとしたが、すぐに梶田が乱暴にその手を払った。
「当初の条件で同盟を結べるならば、俺は別に構わない」
「そう。それなら良かったわ。雲川と金崎も、驚かせてしまって、悪かったわね。ただ、貴方たちも知っているように鷲島は文字通り、この学園最強の生徒よ。それを前にしたら私たちも緊張してしまうの。梶田も私もね。だから、今日のことは大目に見てくれると嬉しいわ」
反町の穏やかな笑みが雲川と金崎の両者に向けられた。
「……え、あ、うん……」
「お、俺も別に、気にしてないというか……」
二人は少し緊張しながらも、肯定の言葉を返した。
「ありがとう、二人とも」
反町の感謝の言葉の後に、種村もまた続いた。
「まあ、まあ、あの、コイツ、偉そうで基本アホだけど、根はそこまで悪いわけではないと思うから……まあ、あの、腐れ縁の私としては、あんまり庇いたくないけど……でも、アレ……まあ、コイツ、ちょっと調子に乗ってるだけで、あんまり害はないから、気にしないで……いや、本当に、なんか、ごめん……」
ほのぼのしつつも雲川チームの三人に謝る種村の方を、梶田が咎めるように見たが、すぐに反町が耳元で何かを呟くと、顔を歪めて、何かに堪えるように手を握りしめた。
種村のとりなすような言葉に雲川チームが応じた後、種村が一度大きく手を叩いた。
パチンと音が室内に響き、一度、全員の視線が種村に集まった。
「よし、じゃあ、まあ、とりあえず、これで梶田は良いとして。うん、今日は、私たちで同盟を結ぶめでたい日なんだけど、まずは自己紹介しようよ。反町と梶田もしたしね。うん、順番にやっていこう。まずは私からだね。
まあ、知ってるかもだけど、私は種村可恋だよ。戦闘適性順位は32位。ポジションは……なんだろう? 遊撃手……? 狙撃手……? まあ、火力支援がメインだよ。一発デカいのを当てる係だね。
あんまり誇れる話じゃない上、ゴリラに褒められた話するのもアレだけど、一応、私の一発は匂坂のシールドにヒビを入れられるよ。あと五条のシールドも貫けるらしいよ。一発屋さんとして頑張るので、よろしくね。あ、割と趣味は読書だよ。こう見えて、知的なタイプなんだよね。よし、こんな感じかな? じゃあ、次、一之瀬さん、行ってみよう」
ほのぼのとしながら、種村は最も信頼できるチームメイトの発言を促した。
一之瀬は緊張しながらも、周囲を見て、話す内容に悩みつつも口を開いた。
「えっと……じゃあ、一之瀬文江です。戦闘適性順位は、一応、63位でした……ポジションは狙撃手です。あんまり試合では活躍できていませんが……一応、狙撃は得意な方だと自分では思っています。
趣味は……なんでしょう……? 訓練するのは割と好きな方だと思います。知識を学ぶのも好きだと思います。……、……えっと、一年間、よろしくお願いします」
悩みつつも必死に自己紹介をした一之瀬を見て、種村はうんうんと頷いた。
「うん。一之瀬さんは、狙撃がかなり上手いよ。魔力はそんなにだけど、技術力はかなりあるから、期待していいよ。あと反町から聞いたんだけど、雲川さんは狙撃手っぽいポジションらしいから、一之瀬さんとは同じポジション同士色々と教え合ったりできると思うよ。技術共有ってやつだね。うん、そんな感じで仲良く技術を分け合おう……!
あ、そうだ、一之瀬さん、さっき鷲島君が、一之瀬さんは凄く技術力が高いって褒めてたよ。鷲島君ほどの実力者に認められるとは、流石だね。一之瀬さんを選んだ私も鼻が高いよ」
ほのぼのと喋りつつ、ふと先程の鷹一の言葉を思い出した種村は、それを口にした。
一之瀬は目を見開いた。
「え、あ、そうなんですか……えっと、ありがとうございます……あと、その、金崎君、この前はすみません。本当だったんですね……」
鷹一に感謝し、そして同時に、一之瀬は金崎に詫びた。この情報は以前金崎が口にしていたことだったからだ。だが、その時、一之瀬はお世辞だと思っていたのだ。その誤解を詫びたのであった。
一之瀬の言葉を聞いた金崎は少し気まずくなった。なぜなら、あの時、『一之瀬の能力が高い』と金崎が思った本当の訳は別にあり、それを今でも隠している自身に対して、一之瀬がずっと真剣に向き合っていたからだ。
「あ、いや、全然、俺も変な説明になっちゃたし……」
気まずそうな金崎を、種村は少し気にしたが、すぐに問題は無いだろうと思い、次の相手を見た。
「じゃあ、最後、石井」
名前を呼ばれたのは部屋の片隅でずっと座っていた少女――梶田チームの最後の一人、石井梨絵であった。
彼女はずっと雲川チームの三人が現れてから、これまでの間、一言も発せず、一切関わらず、ただただ、手元にある本をめくっていた。まさに、我関せずとばかりな態度であった。
そして、それは今も変わらなかった。
種村が名前を呼んでから数秒程、ずっと石井は無反応だった。ただただ本を読んでいた。
無言で種村が石井に近寄った。そして無警告で本を奪おうとした。
種村の手が空を切った。石井の素早い反射神経が本を守ったからだ。
再び種村の手が伸びた。しかし、それも石井は回避した。そうして、合計五回ほど種村の手が伸びたが、その全てを石井は躱しきった。
石井の動きの鋭さを見て、鷹一は感心し、金崎もまた『凄い速さだ』と驚いた。だが、当事者である種村はまったく別の気持ちであった。
「おい、お前いい加減にしろよ。本を読むな。自己紹介しろ」
これまでで一番低い声で種村は石井を威圧した。ただし、その威圧は種村が持つ『のほほん』とした感じに中和されてしまい、あまり効果はなかった。
「なんで?」
石井は億劫そうに口を開いた。
「今、自己紹介の、って言うか、そもそも大切な同盟を組む時間なんだ。だから、まず本を読むなよ。というか、お前、普段読書とかしないのに、何で今になって読んでんだ……!」
種村はぷんぷんと怒るが、やはり彼女の持つほのぼの属性が、周囲に怒りを感じさせなくしてしまった。
「この時間が、限りなく無意味で退屈だから」
「お前、ふざけてるのか?」
「ふざけてない。事実でしょ」
種村の顔が強張った。しかし、やはり彼女の持つ生来のほのぼのオーラがそれを包み隠してしまった。
「おい、お前本当にふざけるなよ。梶田だって色々踏ん張ってるし、一之瀬さんなんか凄く協力的なのに、お前は何でこんなに非協力的なんだ。お前、ちょっとは協調性見せろ」
「自己紹介は別に必要ないし、そもそもこうやって集まる意味が分からない。雲川と梶田で同盟締結のやり取りをすれば終わることでしょ」
「一年間一緒に付き合うし、場合によって試練で協力したりとかもあるかもなんだよ。というか、それ以前に、せっかく同盟を結ぶなら、仲良くした方がいいだろ。それくらい分かれ……!」
種村の気合の入った視線を浴びて、石井は面倒くさそうに溜息を吐いた。
「私は特別仲良くしたいとは思ってない。まあ、鷲島となら仲良くしてもいいけど、他の二人は別にいいかな。仲良くしてもメリットが無さそう」
石井の冷めた視線が一瞬だけ金崎と雲川を流し見た。その視線は梶田とは違い威圧感は一切なかったが、しかし、梶田のものよりも遥かに冷たいものだった。
「あー! もう……! お前といい、梶田といい、何で決まったことをひっくり返そうとするんだよ……!? いい加減にしろよ、いい加減に……!」
ぷんぷんと種村が怒るが、彼女がもつ生来のほのぼのオーラが、怒りの圧を見えなくさせていた。それもあり、種村の激怒に雲川は無反応であり、金崎も特に怯えることはなかった。
一方で、種村の魔力の流れが烈火の如く揺らいでいることから、鷹一は彼女の怒りを強く感じていた。そして、石井もまた、チームメイトゆえ、これ以上、自分を通すのは危険だと理解した。
種村という少女はただのほのぼの少女ではないのだ。戦闘技術と魔力を高いレベルに持つ、一年生の中でも有数の強者なのだから。
石井は、一度大きく溜息をついた。そして、種村の言葉に従うことにした。
「石井梨絵。梶田チームの近接担当。特技はブレード戦、あとジュースの銘柄を当てることかな? 特に仲良くする気は……ああ、でも、一之瀬が雲川に技術を教えるって話があったから、その代わりに、鷲島の技術を学べるなら学びたい。よろしく、鷲島」
石井は、雲川・金崎を一切見ずに鷲島だけ見て話した。それがまた種村をイラつかせた。
場の空気を察した鷹一は、とりあえず、種村への義理も込め、自身が対応することにした。
「分かった。石井、よろしく頼む。技術交換に関しては、反町との話題でもあった。細かい内容は同盟締結後に決まることだろうが、一年間相互に助け合うと決めたのならば、俺もお前に技術を教えるのに否はない。ただ、一方で、お前の試合での立ち回りは金崎の参考になりそうだ。状況によっては金崎にお前の技術を教えてもらうことになるが、それは構わないな?」
じっと鷹一が石井を見た。石井は特に目を逸らすこともなく、ただただ冷淡に、それでいて少し億劫そうに鷹一を見続けた。
「少し面倒だし、私の技術を金崎に教えることに意味があるとは思えないけど……まあ、鷲島の技術を学べるなら、いいよ。よろしく、金崎」
そう言って、石井は初めてしっかりと金崎を見た。淡々とした冷めた視線が金崎に突き刺さった。
「あ、ああ、よろしく」
金崎には、石井の視線からは、梶田のような恐怖は感じなかったが、同時に一之瀬や鷹一のような真摯さも感じられなかった。
「では、一応こちら側も自己紹介しよう。恐らく知っていると思うが、俺は鷲島鷹一だ。戦闘適性順位は1位だが、恐らく2位であると思われる匂坂には劣る。実力的には青井相当と考えてもらうと良いと思う。ポジションは近接と遊撃。特技はあまり無いが……強いて言うならば、魔力操作は得意な方だ。一年間よろしく頼む」
そう言って鷹一は、梶田チームの五人はそれぞれ見た。
梶田は苦々しい表情を浮かべ、反町はいつものように作ったような穏やかな笑みで鷹一を迎え、種村は感心と疑念を混ぜたような表情で鷹一を見て、一之瀬は緊張感と尊敬の目で鷹一に応じ、そして石井は淡々と鷹一の目を見返した。
鷹一は、それぞれの表情や視線から彼女たちの思惑について頭の片隅で考えながら、促すように金崎を見た。
金崎は何とか頭の中で組み立てておいた言葉を口にし始めた。
「あ、えっと、じゃあ、俺は金崎飛燕……です。ええっと、戦闘適性順位は……その、すみません……204位で……ええっと、ポジションは……たぶん偵察だと思う……ええっと、特技は…………い、一応、訓練するのは……、あ、いや、やっぱ何でもない。その、一年間、よろしく……お願いします……」
頭の中でできていたとしても、それが実際に言えるかは別の問題であった。Aランク3位の実力者たちの目で、しかも最強の生徒である鷹一の次に自己紹介するというのは金崎に重いことだった。それ故、いつも以上に緊張してしまい、言葉を何度も詰まらせてしまった。
しかし、彼の努力を買ったのか、それとも他の理由か、種村が手を大きく叩いた。
「うん……! 金崎君、よろしくね……! あ、これは極秘情報だけど、実は私、第四試合で、金崎君の活躍を飛山チームの人達と、あとゴリラと石河さんと一緒に見てたんだけど、飛山さんと道合さんが金崎君の事褒めてたよ……! 『よう、がんばっとる……!』みたいな感じだったね。飛山さんは皆が認める凄い人だし、道合さんは一年生最強の狙撃手だと思うから、金崎君はもっと自信持って大丈夫だよ……!」
ほのぼのとしつつも、どこか元気づけるように種村が金崎に言葉を送った。同時に、種村が手を叩いているのを見て、こっそりと一之瀬も小さく手を叩いた。残る三人は特に手を叩くことも無く、梶田は塵芥を見るように金崎を見て、反町は始終穏やかな笑みで金崎を見て、石井は再び本を開いていた。
(種村は……雲川さんみたいに少しぼんやりしてるけど……さっきから色々と気を回してくれてるし、たぶんかなり良い人だよな……一之瀬さんは鷲島に似て良い人だし……何とかなりそうだ。良かった。……でも、今の話、本当だとしたら、ちょっと嬉しいな。飛山って確か、あの時、鷲島を勧誘してた凄そうなリーダーで、おまけにチーム順位2位のリーダーだ。道合は、俺でも分かる凄い狙撃手。そんな人たちが俺のことを、評価してくれてたのか……いや、でも、第四試合って全部鷲島にお膳立てされてた試合だからな……それに最後は俺の油断のせいで……というか、そもそも第四試合で俺が上手く立ち回れたのは、最初に見つからなかった運と、それまでに鷲島が鍛えてくれたからであって…………とりあえず、褒められたからって、油断するのは駄目だな……正直、Bランクで戦うのは、今の俺じゃあ、厳しいと思うし……)
「あ、ああ、ありがとう。種村さん……その、そんな風に飛山とかに思ってもらってたとは知らなくて」
脳内で様々なことを思い、苦しみつつも、金崎は感謝の言葉を口にした。
「うん、うん、私も中々金崎君は頑張ってると思うよ……! うん……! これからも一緒に頑張ろう……! では、最後、雲川さん、行ってみようか……!」
キリリとした顔で、種村は雲川に促した。凛とした風を装っても、生来のほのぼのオーラ故か、雲川は自然と頷いた。
「う、うん……えっと、雲川紫苑、です。ポジションはよく分からないけど……鷹一くんには狙撃手をやってほしいって言われたから……やってる。特技は…………寝ること……? えっと趣味は……お寿司を食べるのが好き……えっと、一年間、よろしくお願いします……」
ぼんやりとした雲川の自己紹介に、梶田が露骨に顔をしかめ、一之瀬も少し顔をこわばらせた。反町は僅かに笑みを深め、石井は既に本に集中していた。
そして唯一のほのぼの同士種村は、顔を逸らしていた。雲川の『お寿司』という言葉から自身の大罪を思い出したからだ。