学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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同盟結成と懇談会

 

「よし、じゃあ自己紹介も終わったし、同盟を結ぼう……!」

 

 なんとか罪悪感から脱却した種村が、場の空気を入れ替えるように、そう宣言した。

 

「はい、じゃあ、梶田、ちょっとこい。雲川さんもこっちこっち」

 

 種村に呼ばれた二名は対照的な動きをした。

 梶田は一度鼻を鳴らした後、無駄に豪華な椅子から立ち上がり、威圧感を持って種村に近寄った。

 一方、雲川はびくびくと鷹一の後ろから現れて、種村の方へと近寄った。種村は怖くない。ただただ、近づいてくる梶田が怖いのだ。雲川の『ほんわか危機管理レーダー』によると、梶田は学園最凶の危険度を持っていた。怖そうなのだ。とても怖そうなのだ。

 怯える雲川を――より正確に言うならば、今後の同盟における全員のパワーバランスと利益バランスを気にした反町が素早く梶田に近づき、彼女の耳元で何か囁いた。梶田は忌々しそうに反町を見た後、威圧感を押さえ、自信の端末を操作し始めた。

 

「じゃあ、同盟結ぶわよ。雲川、あんたも端末出しなさい」

 

「う、うん……」

 

 おっかなびっくりと端末を出そうとするが、ここでハプニングが発生した。緊張と恐怖から雲川が端末を落としたのだ。端末が床に弾かれ、梶田の足元へと転がった。梶田は小さく舌打ちした。

 

「ホント、どんくさいわね」

 

 冷たい視線が雲川へと突き刺さった。雲川はもう自室に帰りたい気分だった。あとお寿司を食べたかった。お寿司を食べて恐怖から幸せへと向かいたかった。

 

「だから、お前、威圧するのやめろって。雲川さんはお前と違って、繊細なんだから」

 

 種村が雲川を庇うように梶田へ非難の言葉を向けた。

 

「別に威圧してないわよ」

 

 三人がやり取りしている間に、反町が、落ちた雲川の端末を手に取った。

 一瞬、反町の脳裏にある閃きが巡ったが、すぐに内心で首を横に振った。リスクに見合わないと感じたからだ。

 

「はい、雲川。今度は落とさないようにね」

 

 端末を差し出しながら、反町は、穏やかで、それでいて優し気な笑みを作った。

 

「あ、う、うん、ありがとう……」

 

(優しい人……? うん、さっきから優しそうだし……匂坂さんみたいだし……でも、なんか……変……? 気のせいかな……? 気のせいだよね……?)

 

 『ほんわか危機管理レーダー』が、『安全』『優しい』『ほのぼの』『危険』『測定不能』など判定を目まぐるしく変えていくことに、雲川は疑問を抱きつつも、差し出された端末を手にした。

 そして、おっかなびっくりと操作し、同盟用の画面を出した。

 梶田も同様の画面を出し、二人の操作と軽い端末同士の接触音が室内に響いた。

 

「じゃあ、締結するわよ。いいわね?」

 

 最後にとばかりに梶田が室内にいる全員を軽く見回した。

 否の声は上がらなかった。だがそれは当然のことだった。この場には同盟に対して、賛成派か消極的賛成派しかいないのだから。

 梶田は再度、雲川をじっと見た。雲川は素早く視線を逸らした。

 それを見て、梶田は呆れるように息を吐いた後、確定ボタンを押した。

 

――この瞬間を持って、雲川チームと梶田チームの同盟が確定した。これにより一年生の終わりまで、両チームは試合でマッチングすることが無くなったのであった。

 

 そして、また、一年生の終わりまで、両チームは共に試練に挑む仲間となったのであった。

 だが、しかし、両者ともに問題を秘めたチームであった。

 片や、エースの個人的技量のみ依存したチームであり、そしてもう片方はチームの統率と安定性に問題があった。

 二つのチームがどのように協力し、そして問題を解決していくのか。それは現時点では誰にも分からないことであった。

 ただ、それでも今は、少しでも両チームの関係を良くし、これからに繋げていきたい。そんな風に思う者が、複数いたことが、この同盟の大きな長所であった。

 

「うむ……! これで同盟成立だね。めでたい、めでたい。うん、これから皆で頑張っていこう……! 私もほどほどに頑張っていくから、よろしくね……!」

 

「ああ。よろしく頼む。互いの関係がより良いものになれるよう、俺も願っている。できる限り、俺も協力しよう」

 

 鷹一と種村。

 互いに両チームの実質的なまとめ役であり、そしてそれは本人が望まずしてついた立ち位置であり、また両者ともに優れた技術の持ち主であり、何より、互いに匂坂を苦手としていた。

 不思議な共通点を持つ、この二人が、この同盟における結節点になることを期待されていた。

 

 そしてそんな二人を見て、反町はいつものように穏やか笑みを張り付かせた。

 

(とりあえずは、一件落着ね。鷲島を仲間に引き入れた以上、今後予想される戦闘面での心配は殆どない。匂坂・飛山・蓮あたりとのチーム戦はまだ厳しいけれど……石井の技術向上に、伏せ札の一之瀬もある。Aランク維持程度であれば、何とかなる。個人的には鷲島ともっと関係を深めたいけれど、無理は禁物ね……むしろ、今は、梶田をしっかり抑えておかないと……雲川や金崎に噛みつかれるのは鷲島の心証も良くないでしょうし……ただ、あまり過激なことをして梶田を抑えるのも、鷲島の心証を損なう。まあ、種村にやらせるのが無難ね。並行して一之瀬と金崎の関係を少し推し進めて……石井も思ったより金崎と相性が良さそう。この辺りも上手く調整したいわね)

 

 着々と、反町は一人、次への計画を重ねるのであった。

 

 

 

 

 無事同盟を締結した両チームは、相互の友好の印ということで、昼食を一緒に食べることになった。なお、これは主に種村・反町の提案であった。

 種村が『こんな時の為に、皆で食べる美味しい店を調べておいたよ……!』と得意げに言ったこともあり、彼女の紹介する店へと八人は向かった。

 

 案内された店はイタリアンであり、値段は通常の昼食よりも高いものであった。しかし、反町が梶田チームの運営費から出すので、気にせず食べて欲しいと言ったこともあり、(主に雲川によって)打撃を受けていた雲川チームの運営費は守られた。

 鷹一は、反町に借りを作ることには消極的だったが、一方で、種村の存在や、梶田と自身の関係、そして梶田チームとの今後を考えた結果、反町の提案を受け入れることにした。

 

 種村のセンスの高さか、はたまた値段ゆえか、店の味はとても良く、両チームの面々の舌を十分に満足させた。

 

 なお店内での席順は、反町が自然に誘導し、雲川・種村が向き合い、その隣に金崎・一之瀬が向き合い、さらにその隣に鷹一・石井が向き合う形となり、最後に反町・梶田が向き合う形となった。雲川チームの三人と反町が一列に並ぶ形である。

 

 雲川と種村がほのぼのと会話しながらも、のんびりと昼食を口にした。穏やかなオーラを持つ種村とゆっくりと美味しいイタリアンを食べれた雲川は満足であった。

 種村も種村で雲川のようなタイプは決して嫌いでなかったので、雲川の無意味な会話をほのぼのと対応しつつ、時には隣に座る一之瀬・金崎組とも会話を交えつつ時間を過ごした。

 

 金崎・一之瀬の二人は緊張しつつも互いに言葉を交えた。主に『これから一緒に頑張ろう』とか、『いつもどんな風に訓練をしているか』といった内容であった。

 また一之瀬から金崎に対する賞賛もあった。雲川チームの中で必死に貢献しようと努力する金崎の姿は、一之瀬にとっても眩しいものだったからだ。

 金崎は謙遜しつつも、自分の知識や分析能力の無さを恥じた。金崎は未だに一之瀬のことをよく分からなかったからだ。

 初めて一之瀬に声をかけられた後、鷹一がまとめた試合ログを見返したが、それでも金崎には一之瀬の強さが分からなかったのだ。第二試合では西山に瞬殺され、第四試合では水渕チームからの攻撃で簡単に撃破されてしまっていた。勿論、どちらの相手も金崎よりは格上であったし、一之瀬の戦闘適性順位は彼女の言葉が正しければ金崎よりも遥かに上の存在であった。何より、あの鷹一が一之瀬を非常に強いユニットとして戦闘AIを組んでいるのだ。しかし、金崎には一之瀬の強さがよく分からなかった。

 一之瀬に評価されるたびに金崎は良い言葉を一之瀬に返すことができず、何とも居心地の悪さを感じていた。そして、金崎が困った時に、ほのぼのと隣から種村が声をかけ、上手く会話に入り、話題を逸らした。金崎は何度も自然に場を整える種村に対して、感謝を新たにした。

 

――比較的、穏和な四人組に対して、残りの四人は殺伐として見えた。ただしこれは、実情として殺伐というよりも外見的に殺伐としていた。

 

 鷹一は鋭く冷たい視線で正面にいる石井を見て、一方で、石井も淡々とした視線で答えた。自然に見れば、『互いに嫌悪し合っている』とか、『一触即発の状況だ』と感じただろう。それほどまでに二人の纏う雰囲気は冷めきっていた。

 また、その隣の梶田は忌々しそうに鷹一を見て、ときおり厳しい顔つきで、覇気を鷹一へと向けた。鷹一は向けられるたびに梶田に対して、『何か用か?』と尋ね、その度に梶田が『別に、特に無いわ』と答えた。この二人の関係も周囲から見えれば危険に見えた。

 そして残った反町は、穏やかな笑みとともに七人を観察していた。

 

――なお、穏和でない方の四人組に関して、実情はもう少しまともであった。

 

 鷹一と石井は、時々、石井が鷹一へとブレードの技術に関する質問をし、それに対して鷹一は丁寧に答えた。鷹一の答えを聞くと、石井はしばらく無言で食事を続け、そして理解へと達すると、彼の恐るべき技量に対する感嘆と、その技量を己のものにできるという環境に対する充実感と高揚感を覚えた。そして、さらに追加の問いかけを行う。鷹一はすぐに石井の質問の意図を理解し、丁寧に自分の考えを口にする。そして、再び石井が無言になり食事をしながら、鷹一の言葉を咀嚼する。それの繰り返しであった。

 既に石井にとって鷹一は最高の師であった。また鷹一も、高度な質問をし、すぐに回答を行う石井の能力の高さに『今までの試合での活躍』以上のものを感じ評価を改めた。ただし、両者の視線が冷淡なせいか、端から見れば嫌悪し合っているように見えてしまうのであった。

 

 また梶田はコンプレックス故に、鷹一に対して何度も覇気と魔力を飛ばしたが、数回に渡る鷹一の対応によって、自身の考えを改め始めた。

 最初、鷹一はただただ合わせるように覇気と魔力を向けたが、回数を重ねるごとに変化が生じたのだ。なんと鷹一は魔力の指向性と繊細な魔力量の操作により、梶田の魔力を中和してしまったのだ。二回目から中和が始まり、三回目には殆ど中和され、そして四回目以降は完全に中和された。相手の魔力を中和するなどという技量は梶田には無かった。そのことに対して、梶田は純粋に驚いた。

 なぜなら、鷹一は梶田に比べて殆ど魔力が無かったからだ。魔力量が圧倒的に違うにも関わらず、中和を行うという恐るべき技量、そして、それを無表情で淡々と、行う精神性。試合で見せた戦闘技術だけではない、それよりも遥かに深く恐ろしいモノを、梶田は鷹一から感じ取った。

 

 なお、これには少しの裏話があった。

 

 鷹一の魔力中和のアイディアは先日の大浴場における佐々木が原因だった。彼の行った恐るべき技術を、鷹一は、その場で読み取り、僅か一日でマスターしたのだ。いや、精確に言えば、それはマスターではなかった。それよりも上をいったのだ。

 なぜなら、佐々木の魔力はマスタングよりも上であったが、一方で、鷹一の魔力は梶田よりも圧倒的に下であった。中和には魔力の指向性と量を合わせる必要がある。そして、鷹一では本来、梶田の『量』に合わせることができないのだ。鷹一は、指向性と発射する魔力の数に工夫を加えることによって複数の方向から梶田の魔力に指向性を加え、彼女の魔力を自壊させた後、自身の魔力で中和させるという、人ならざる技術を用いたのだ。

 もし、佐々木がこの場にいれば、あまりにも恐るべき技術を見て、『うへぇ……』と唸り声を上げたであろう。佐々木のことを一方的に危険視する鷹一であったが、端から見れば鷹一の方がよほど危険な技術の持ち主であった。

 ともあれ、そのような技術を見せられた梶田はたまったものではなかった。梶田は、この技術の真の恐ろしさに気付くことはなかったが、それでも『鷹一の魔力で梶田の魔力を中和するのは非常に困難』というのは理解していた。自身より戦闘適性順位が高い存在に対する反発心や敵対心があったが、しかし、これほどまでに優れている相手とは少しは友好的になった方がいいかもしれないと、梶田の動物的直感が理解した。

 それゆえ、少しずつだが、梶田の鷹一へと向ける態度が変化していった。

 

 一方で、始終穏やかな笑みを外へと向けていた反町であったが、鷹一の技術を理解してしまい、内心で僅かな冷や汗をかいた。そして同時に、強い興奮を覚えた。

 

(理外の技術ね……こんなことは誰にもできない。やっぱり、いいわね、鷲島。出自の件も含めて、興味が尽きないわ……もっと近くで彼と過ごしたいけれど……現状だと少し厳しいわね……ただ、私の読み通りなら、そう遠くないうちに、私は彼にとって最も重要な命綱になる。話は、それからかしらね)

 

 穏やかな笑みを浮かべる反町に、鷹一はやや薄ら寒いものを感じつつも、八人の時間は過ぎていった。

 

 最終的には、種村・反町が計画した、この昼食会は成功に終わった。参加者が比較的仲良くなったのだ。勿論、まだまだ仲が浅い組み合わせ、会話がまったくない組み合わせもあったが、比較的、良好な滑り出しであった。

 

 それから、休み期間中、一度、合同で訓練をすることを約束した後、楽しい楽しい昼食会は解散となった。

 なお、雲川は一人、『休み期間中に突然訓練の予定が入ったこと』に驚きと困惑があったものの、言い出すことができなかった。そして、内心で少し残念に思いつつも、穏やかな種村と一緒なら何とかなるかもしれないと思い直した。

 

 

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