学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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事件のプロローグ

 五月五日。雲川チームと梶田チームの同盟の翌日。

 

 この日は鷹一は午前は反町との打ち合わせ、午後は飛山との約束があった。

 そして、同時に、この日は学園の新一年生のチーム戦環境において、ある重要な意味を持つ日であった。雲川・梶田同盟の成立が、学園を通して、正式に一年生に公開されたのだ。

 事前に知らされていなかった生徒――特に上位のランクの生徒たちは、この非常に強力な同盟を恐れた。

 

 そんな中、午前中、反町との約束の時間の1時間ほど前、鷹一の部屋のインターホンが鳴った。マンションのエントランスからではなく、玄関からのものであった。

 鷹一はカメラから誰が来たかを確認し、すぐに扉を開いた。

 

「紫苑、どうした?」

 

 小型端末を手にしたリーダー、雲川紫苑であった。

 

「あ、うん、鷹一くん……あのね、今日、キッカさんと遊びにいくんだけど……キッカさんが鷹一くんにも来て欲しいって言ってて……」

 

「遊びに……? 匂坂とどこかへ行くのか? 俺としてはお勧めしないが……だが、まあ、お前がすることにそこまで口を出す権利はないか。ただ、俺としては、匂坂と行動する理由はない。先約もあるしな。一緒にはいけない」

 

「そ、そうなの……? あ、でも、匂坂さんが話したいって……、通話、繋がってるから……」

 

 そう言って、雲川は、【キッカさん(グループ:凄く優しい)】【保留中】と表示された小型端末を、鷹一に差し出した。

 鷹一は内心、少し嫌だと思いつつも通話に出た。

 

「鷲島だ。匂坂か?」

 

『ええ、匂坂です。お久しぶりですね。鷲島君』

 

「四日前に会ったばかりだ」

 

 鷹一は、部屋に匂坂が襲撃してきた日、そして同時に寿司屋で匂坂が暴れた日でもある五月一日の悪夢を思い出した。

 

『四日も前のことです。鷲島君にとっては、『たった』かもしれませんが、私にとっては、ずっと前の事なんですよ?』

 

 どこか、責めるように匂坂が言葉を紡いだ。

 

「そうか。それで用件は何だ? 紫苑と遊びに行くようだが、俺は先約がある。悪いが行くことはできない」

 

『それはとても残念ですが……先約とは何でしょうか? やはり同盟相手の梶田さんでしょうか?』

 

 じっくりと、ねばりつくような匂坂の声が鷹一の耳に響いた。鷹一は嫌な気分になった。

 

「そんなところだな。Bランクである俺にとって、Aランクの梶田との同盟は、まさしく雲の上からの話だ。こちらとしては、梶田の機嫌は損ねたくない。悪いが、そちらを優先させてもらう」

 

 鷹一の言葉は、決して嘘ではない言葉であった。

 しかし、同時に、建前としての意味合いが強すぎた。本音は当然、匂坂と遊びに行きたくない、その一心であった。

 

『それは構いません――と言いたいところですが、梶田さん程度、鷲島君であれば瞬殺、他の面々も興味深い生徒は何人かいますが……鷲島君を前にすれば、有象無象も同然。機嫌など考える必要があるとは思えませんが……』

「そんなことはない。梶田チームの面々は優秀な生徒たちだ。まあ、流石にお前のような理外のチームには劣るかもしれないが、俺から見れば、優れた生徒たちの集まりだ。関係を重視するのは当然だ」

 

 嘘偽りなく、それでいて、本音を隠して鷹一は言葉を紡いだ。

 

『フフッ、いつも私には本当の事を話してくれないのですね。分かりました。いえ、私としても、鷲島君が梶田さんと結んだことは喜ばしいと思っています。この前のような――ZPなどといった些細な学園での縛りで、鷲島君のような真の強者が困窮するのは見たくはありませんから。梶田チーム……種村さんならば、鷲島君の価値を理解しているでしょうから、私も安心です』

 

 ねばつくような匂坂の言葉を聞いて、鷹一は嫌な気分になった。

 

「評価してもらえるのは光栄だが……すまない、そろそろ切って良いか? 少し忙しくてな」

 

『最後にもう一度だけ言わせて下さい。今日は、私と紫苑さんと一緒に遊びませんか? Aランク専用の高級スパでゆったりと過ごそうと紫苑さんと約束しているのですが……招待券は当然鷲島君の分もご用意しています。もし、チーム全員ということでしたら、金崎君の分もご用意します。どうでしょうか? 一緒に静かに過ごしませんか?』

 

「気遣ってもらっているところ悪いが、先約がある」

 

 鷹一は内心で、一緒に静かに過ごすなど不可能だ、と思った。

 

『そうですか……残念です。仕方がありませんが、紫苑さんと谷崎さんと三人で遊ぶことにします』

 

 何気なく付け足された言葉――谷崎という名前を聞いて、鷹一は顔をこわばらせた。

 

「待て。谷崎もいるのか……?」

 

『ええ、谷崎さんも一緒ですよ。どうかしましたか?』

 

 食いついた鷹一に対して、匂坂の声は喜色をはらんでいた。

 その声を聞いた鷹一は、脳内で匂坂に恐ろしい笑みを思い出してしまい、嫌な気分になった。

 

「そうか、谷崎も一緒なのか……」

 

 鷹一はそう呟くと、一度心配そうに雲川を見た。見られた雲川は訳が分からず、頭にクエスチョンマークを浮かべた。

 

『フフッ、気が変わりましたか? 鷲島君、どうでしょうか。谷崎さんもいますし、鷲島君もどうでしょう? きっと、お二人は仲良くできると思いますよ』

 

「少し待ってくれ」

 

 そう言うと、鷹一は通話を保留に切り替えた。そして、雲川へと視線を向けた。

 

「谷崎はあまり良い噂は聞かない。この学園で何度も暴力行為を犯していると聞いている。それに何より、匂坂とも仲が良いと聞く。危険人物の可能性が高い。今日は止めた方が良い」

 

 顔も声も、そして心も真剣に、鷹一は雲川を見た。

 

「え、でも…………キッカさんの友達だし……優しい人だって言ってたし……」

 

「どうしても行きたいなら止めない。だが、止めた方が良い。いや、本来ならば行くべきでない。匂坂も谷崎も化物だ。関わるべき相手ではない。だが、お前がどうしても行きたいなら行ってもいい」

 

 鷹一の言葉を聞いて、雲川は少し悩んだが、それでも自身の『危機管理レーダー』を信じることにした。なお、それは『ほんわか』でできていた。

 

「い、いってくる……」

 

「そうか……」

 

 死地へと赴く友人を見るように、鷹一は雲川を見た。その視線は、雲川の罪悪感を刺激した。

 

「ご、ごめんね……?」

 

「いや、お前が決めたことなら、構わない。俺も俺で自由に交友網を広めているしな、本来、お前に何かを強要できる立場でもないだろう。すまない、紫苑、余計なことだったな」

 

 そう言うと、鷹一は、保留にしていた通話を元に戻した。

 

「匂坂、待たせてしまってすまないな。少し確認をしていた。ただ、そうだな、すまないが、やはり、俺は参加しない。予定もあるしな。誘ってもらって悪いが……」

 

『フフッ、構いませんよ。鷲島君との逢瀬はまたの機会に取っておきます……楽しみに待っていますね?』

 

 艶めかしい匂坂の声に対して、鷹一は嫌な気分になった。そして、適当な言葉を返し通話を切り、雲川へ端末を返した。

 

「じゃ、じゃあ行ってくるね……」

 

「ああ、気をつけてな」

 

 そう言って鷹一は雲川を見送った。

 

 これが後に起こる事件――『Bランクマンションエントランス乱闘事件』の予兆であった。

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