学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
五月五日。
この日、金崎飛燕は午前から、訓練室へと通い、しっかりと訓練に励んでいた。
元々、モチベーションが高いこともあったが、同盟結成とそれに伴う新たな人間関係が、金崎の意欲をさらに上げていた。
――Aランクとの同盟、一之瀬や種村といった善良で強い人たちとの関係、そして何より今までの鷹一に対する恩義、それらに少しでも報いるためにも、金崎は一生懸命であった。
勿論、モチベーションの高さは感情面によるものだけではなかった。
Bランクという恵まれた待遇は、金崎の生活面を充実させ、それがやる気にも繋がっていた。
特に大浴場というBランクの特権は、金崎のモチベーションの上昇に役だった。
この施設は一般的な階級出身の金崎では、中々見ない施設であり、ゆったりと、それでいて、とても心地よい入浴を約束してくれた。
最近の金崎のマイブームは、午前中に訓練し、お昼前に、一度大浴場で汗を流し、そして、少し遅い昼飯にありつく、というものであった。
本日もそのブームに従い、大浴場を満喫し、そして、ある生徒と一緒に大浴場を出た。
ある生徒――Bランク14位神岡チームに所属している樋口広介は、最近金崎とよく話をする、風呂仲間であった。
樋口は、5月のはじめ、大浴場を使う時間帯がたまたま金崎と被り、そして、何となく金崎に声をかけた。
金崎の人の良さそうな雰囲気から、声をかけやすいと思ったからだ。樋口は、人と話をするのが好きな男子生徒であった。しかし、現状の環境ではチーム内は味方でも、他のチームは仮想敵である。
それゆえ、樋口は今まで、チーム内でばかり話をしていた。彼はチームメイトと仲が良く、十分話をすることはできていたが、それでも話好きの樋口を満足させられるほどの会話量ではなかった。五月に入り、樋口はときおり、話しかけても怒らなそうな生徒を見つけては話しかけていた。そして、金崎もその一人であった。
金崎は、最初、突然話かけてきた樋口に驚くものの、彼の持つ穏やかそうな雰囲気と、あまり強者には見えない仕草から、それほど警戒せずに話に応じた。
そして関わっていくうちに、互いに穏やかな気質を持つ金崎と樋口は、風呂仲間となった。二人の交流は、金崎がお昼に大浴場を使うため、樋口が自然とそれに合わせる形となっていた。大浴場内で話し、脱衣所と休憩室で少し話し、そしてBランクマンションに戻るまでの間に話をする。数十分程度、話をする――厳密に言うと、樋口が一方的に話し続け、金崎が相槌を打つ、といった時間を過ごしていた。
これは、樋口が話を聞くのも好きだが、それ以上に話をするのが大好きであったためだ。
知識が豊富な樋口の話は、金崎にはやや難しく、理解しにくい面があったが、金崎が分からなそうにすると、すぐ樋口が嬉しそうに、言葉の意味を解説したり、かみ砕いて話をするため、時間はかかるものの、ゆっくりとだが金崎も樋口の言葉を理解していった。
勿論、それでも樋口の話は難しく、完全な理解にはならなかったが。
そして、今日も仲良く大浴場を出て、Bランクマンションに帰るまでの間、マシンガンのように喋り続ける樋口の相手をした金崎は、Bランクマンションのエントランスへと入った。
エントランスには先客がいた。一人の男子生徒がベンチに横になっていたのだ。本を顔に被せていたこともあってか、金崎はそれが誰だか分からなかった。
(こんなところで、寝る人って珍しいな……)
そんなことを考えながらも、金崎は樋口とともにエレベーターに近づいた。
そして、端末でエレベーターを操作しようとしたところで、新たにエントランスに入る人影があった。
金崎は何となく振り向いた。
入って来た人物を見て、金崎は固まった。意味が分からなかったからだ。
(え? 人を担いでる? ていうか、メイド服? なんでメイド服……? いや、まあ可愛い顔立ちだし、似合ってるけど……ん?)
突如現れた、メイド服姿のとても可愛らしい顔立ちの少女を見て、金崎は困惑しつつも、あることに気付いた。
それは少女が片手で肩に担いでいる人間――ネックピローを着けた小柄な女子生徒が知り合いだったからだ。
(え? え? あれ、担がれてるの、雲川さんだよな……? え、何で、担がれてるの? それに、全然動かない……まさか、死んで――いや、そんな訳ないか、寝てるのか? いや、担がれてたら寝れなさそうだけど……ああ、いや、でも雲川さんだし、あり得るか……)
メイド服の少女は、雲川を肩に担ぎながらも、安定した足運びで、一歩一歩、金崎たちがいるエレベーターへと距離を詰める。
(これ、何か言った方が……というか、この子、誰? こんな子、Bランクにいたか? いや、いないよな……メイドさん? 学園に務めてる人か……?)
そこまで金崎が考えたところで、隣にいた樋口がトントンと金崎を叩いた。そして、金崎の服を引っ張り、エレベーター乗り場から離れようとした。樋口は、目の前に迫ってきている脅威の正体に気付いていたからだ。
声を潜めながら、樋口が口を開いた。
「金崎君……た、谷崎、道開けないと……」
恐怖からか僅かに震えながらも樋口は、動かぬ金崎を引っ張って、メイド服の少女――谷崎ミホの進路から離れようとした。
(谷崎……?! え、いや、谷崎って、あの匂坂チームの……!? え、こんな見た目だったっけ……? もっと梶田みたいな、怖い美人みたいな雰囲気だったような……普通に可愛い見た目だし、メイド服だし、そんなに怖くもない? いや、それより背の高さが違う気がする。もっと試合で見た時、大きく見えた。梶田と同じくらいはありそうだったけど……この子、俺より背が低くないか……?)
金崎の身長は男子生徒にしてはやや低く、170cmに達していなかった。一方で、梶田は170cm、そして目の前の谷崎は160cmしかなかった。
頭にある知識と、目の前の事実、相反する情報に金崎は混乱するが、迫りくる谷崎と、担がれた雲川を見て、重要な事へと思考を絞った。
(いや、それよりも! 雲川さんが意識無い状態で担がれてるって、ヤバくないか……? それに何か、インターホンとか無視して、エレベーター乗ろうとしてるし……端末がないと乗れないけど……あ!? 雲川さんの端末……!)
思考しつつも、金崎はあることに気付いた。それは雲川を支える谷崎の片手に小型端末が握られていたことと、その端末にはウニの軍艦を模した特徴的なストラップが付いていたことだ。あんなストラップを付けるのは学園広しと言えど、雲川だけだろうと、金崎は考えていた。ゆえに谷崎が持っている端末は雲川の端末だと察したのだ。
そして、同時に、雲川の端末が、谷崎によって雲川の体に押し当てられていることから、あることを閃いた。
(生体認証……! 雲川さんが端末を開いたまま、端末を取られて、その後、眠らされて、ずっと端末を雲川さんの体に押し付ければ……もしかして、端末はロックされないんじゃないか……? え、これ、もしかして、俺たちのエリアに入ろうとしてる……!? や、やばい……止めないと……! あ、そうだ! 鷲島にっ!)
閃いた金崎は素早く自身の端末を使い、鷹一へと通話をかけた。
しかし、普段はすぐ出る鷹一は、今日に限って全くでなかった。これには理由があった。鷹一は反町と会う約束をしており、そして、反町は自室で鷹一を迎えるときは、必ず彼に端末の電源を切らせていたからだ。
(はやくっ……! はやくっ、出てくれっ、鷲島……!)
そんなことは露知らず金崎は必死に、コールを続けた。
しかし、既に時間切れだった。
雲川を担いだ谷崎が金崎の前に立っていたからだ。もはや、エレベーターを守れるのは、そして、担がれた雲川を降ろせるのは金崎だけであった。
途中まで、必死に金崎をエレベーターから離そうと必死だった樋口の姿はない。彼は何度も金崎と一緒に離脱を試みたが、金崎がまったく動かないと見ると、一人でエレベーターから離れたのだ。
そして、今は、10メートル以上離れたところから、心配そうに金崎と谷崎の様子を窺っていた。