学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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★登場人物紹介

金崎飛燕(かねざきひえん)
 雲川チームの偵察・支援要員。
 男性にしてはやや小柄。穏やかで人に気を遣う優しい人物。
 休み期間は訓練をしたり、交流をしたりと充実した日々。
 最近は訓練後、大浴場に行ってリラックスするのがマイブーム。


雲川紫苑(くもかわしおん)
 Bランク12位、雲川チームのリーダー。
 小柄で弱そう。戦闘適性順位238位。かよわき生き物。お寿司が好き。なぜか高級ネタばかり食べる。
 休み期間は絶賛リフレッシュ中。匂坂に呼ばれて、ほいほい高級スパへと行った。
 現在は、どなどな米俵。


樋口広介(ひぐちこうすけ)
 Bランク14位神岡チーム所属の狙撃手。
 話好きで特に喋るのが好き。頭の回転が早く、知識も豊富。穏やかだが、抜け目ない面もある。
 最近は、チーム外でお話相手を求めて活動中。特に気のいい金崎と話をするのがマイブーム。
 金崎と一緒に脅威から逃げようとしたが、金崎が留まるみたいなので、泣く泣く一人で距離を取った。抜け目ない。


谷崎(たにざき)ミホ】
 Aランク1位匂坂チームの蹂躙担当。自他ともに認める匂坂の側近。高魔力かつ、非常に高い戦闘技能の持ち主。戦闘適性順位5位。
 鷹一からは「試合で、対等な状況で戦って、1対1でも鷹一が負ける可能性がある生徒」と評された。水渕からは究極のゴリラかつ危険人物と評された。
 威圧感がある人物であり、身長以上に背が高く見えるが、そこまで背は高くない。
 匂坂を崇拝しており、彼女に奉仕したいという強い想いゆえか、メイド服を着ている。メイド服を着ると、本来の可愛らしい容貌が露見してしまうが、本人は気づいていない。





谷崎ミホの生き方

 

 

 谷崎ミホにとって、人間は概ね二種類に分類される。

 自分よりも『上』か、それとも『下』か。

 

 勿論、例外はある。

 チームメイトである石河と山見だけは、自らの意志で『友人』として認めている。それは谷崎の中でも特別なカテゴリーだ。上下ではなく、横に並ぶ存在。極めて希少で、極めて限定的な枠。

 他にも、判断がつかず、扱いを保留している相手もいる。

 

 しかし、それらを除けば基本的に、『上』か『下』に分けられる。

 

 この学園で『上』と定義したのは僅か二名。一人は、谷崎が奉仕すべき相手であり、崇拝する主。もう一人はその主が執着する鬼神のごとき強さの男。

 現在、判断がつかず、未だ保留となっている者が二名。

 さらに、谷崎の中で前例のない存在――『分類不能』な例外が、もう一人だけいる。

 

 『上』二人、『友人』二名、『保留』『例外』を除けば、残りはとても単純だ。

 『下』だ。

 

 『上』は谷崎にとって敬意を払うべき対象であり、従うべき相手だ。

 同様に、『下』は谷崎を崇拝し服従しなければならない。

 谷崎にとって、これは信念であり、同時に、この世のあるべき姿であり、ルールであり、掟であり、秩序であった。

 

 『下』の者が『上』に逆らうこと――それは即ち、秩序への反逆である。

 これは絶対に許されないことだ。

 

 故に、谷崎ミホは、反逆者には懲罰を与える。

 必ず。

 

 

 

 

 エレベーターの前で向かい合う二人、金崎と、雲川を担いだ谷崎。

 ピリピリとしたエントランスの沈黙を最初に破ったのは谷崎だった。

 

「そこをどきなさい、羊」

 

 可愛らしくも、鋭く冷たい声が金崎に突き刺さった。

 谷崎は、メイド服が似合う、とても可愛い容姿の少女であったが、金崎に向ける目線と声は冷たく、顔つきも険しかった。

 高圧的な言葉に慌てそうになりつつも、金崎は必死に言葉を作った。

 

「え、ひ、ひつじ? あ、いや、そうじゃなくて、その、雲川さん――」

「――黙って道を開けなさい、羊。次は懲罰を実行します」

 

 しかし、全てを言い切るより前に、谷崎は遮るように言葉を重ねた。そして、鋭く睨んだ。

 金崎は気圧されそうになりつつも、必死で自分を奮い立たせた。これは尊い気持ちの下の行動であった。

 

――これまでの訓練と試合を通して成長した自分への自信。チームで培った記憶。純粋に雲川を助けたいという気持ち、そして、何よりチームと鷹一に対する恩義。

 

 尊い気持ちが、勇気となり、金崎を一歩前へと踏み出させた。

 

「……その、雲川さん、担いでる女の子、俺のチームのリーダーで……ええっと、降ろしてもらっていいかな。ああ、その、もし、雲川さんが寝て――」

 

 言葉の途中で、ふと金崎の頭の中に、様々な映像が流れた。鷹一にチームに誘われ、雲川と出会い、共に訓練をする日々、試合での出来事、活躍、失敗、それらが素早く一瞬で金崎の脳内を駆けた。

 

(今のは……? 学園に入ってからの記憶? 雲川チームに入ってからの……? あれ、これって、走馬灯?)

 

 金崎の踏み出した一歩、それは匹夫の勇であった。Dランク相当の実力しかない金崎にとってBランクの生徒でさえ、本来であれば格上なのだ。そして、このメイド服の少女、谷崎ミホは文字通り次元が違う存在であった。

 

 既に金崎の体は、空中を弾丸のように飛んでいた。

 

 谷崎が無理やり金崎を片手で掴み、後ろへ投げたからだ。尋常ならざる谷崎の身体能力と技術により、射出された金崎は凄まじい加速とともに地面と平行に一直線に飛んだ。この速度は、もし何かに衝突すれば、金崎とその何かを傷つけるに十分な速度であり――

 

(え!? あ!? え!?)

 

 突然、自分が凄まじい速度で弾丸にように飛ばされていることに理解が及ばない金崎は、受け身を取ることができなかった。

 ゆえに、金崎の未来は、明るくなく、その体は衝突とともに大きなダメージを負うかと思われた。

 

 しかし、そうはならなかった。

 エントランスのベンチで横になっていた男子生徒が素早い動きで、弾丸のように飛翔する金崎の前に躍り出て、金崎を見事に受け止めたのだ。

 男子生徒――Bランク18位大町チームに所属する城守誠一は、上手く衝撃を殺し、自身と金崎へのダメージを最小限にした。

 そして、金崎をそのまま近くのベンチへと置くと、城守は、ふうと息をつき、両手を軽く二度、パンパンと打ち合わせた。

 

「大丈夫か? 目回しただろ。そこで休んでてくれ。ちょっと俺は取り返してくるから」

 

 金崎にそう告げると、城守は谷崎に向かって歩き出した。

 背後で自分が投げた羊が受け止められたことに気付いた谷崎は、雲川を担いだまま、反対側に首をめぐらせて一瞬だけ振り返り、城守を一瞥した。しかしすぐに興味を無くすと、そのままエレベーターに雲川の端末を近づけた。雲川チームのエリアに乗り込む気満々であった。

 そんな谷崎の背に向けて城守が声を投げつけた。

 

「おい、待てよ」

 

 谷崎は無視し、雲川の端末を使い、エレベーターを操作しようとした。しかし、それは妨げられた。

 今度は城守が持っていた本を投げつけたからだ。彼の投げた本は真っすぐに飛び、高速で谷崎の手元へと飛来した。谷崎は振り向きもせずにそれを避けた後、振り返った。既に本を投げる前から駆けだしていた城守の手が、谷崎の担ぐ雲川へと伸びていた。

 谷崎はその手を払いつつも掴もうとしたが、それは空を切った。危険を感じた城守が素早く手を引いたからだ。同時に城守が僅かに距離を取った。谷崎がじっと城守を見て、二人の視線が交錯した。

 

「やっと、こっちを見たな。あんた、ちょっと暴れすぎだ。いくら何でも、掟破りがすぎるぜ」

 

 城守の言葉に、谷崎は疑問符を浮かべた。

 なぜなら、谷崎にとって、掟――ルールや理といったものは絶対的に遵守しなければならないことであり、そして、谷崎はこの学園に入る前も後も、ずっとそれを守ってきたのだから。掟破り、などといった言葉は、自分には最も遠いものだと谷崎は考えていた。

 

「掟? 何を言っているのですか? 狼ごときが。立場を弁えなさい」

 

「……狼? あんたこそ、何言ってるか分からねーよ。それより、その担いでる子を降ろせよ。ついで、端末も返しな。それあんたのじゃないだろ」

 

 比較的、常識的な感覚を持っている城守は、自身の良心に従って、行動した。暴力的な方法で金崎を投げ飛ばし、また状況から見て不当に女子生徒を拉致し、そして、Aランクでありながら、Bランクエレベーターを不正に使用する谷崎に対して、対抗することを選んだのだ。

 

「どうやら、自分の立場を理解していないようですね。いえ、所詮は野良の狼。人間のルールを知る機会がなかったのでしょう。ですが、人が支配する範囲に狼はいりません。本来なら害獣は駆除するところですが……匂坂様の言葉もあります。特別に私があなたを人の世で生きられるようにしてあげましょう」

 

 そう言いながら、谷崎は担いでいた雲川の体勢を変え、利き手側の脇に抱えるように持ち替えた。なお、そんなことをされてもなお、雲川はネックピローを着けたまま気持ちよさそうに寝息を立てていた。

 

「は……? 何言ってるんだ、あんた?」

 

 想定外の言葉が返って来たことに城守は困惑した。

 

「これからあなたを調教すると言っているのです。この世のルールを教え込み、あなたを狼から犬に躾けてあげます。理解したのならば、匂坂様の慈悲に感謝しながら、跪きなさい」

 

 とても可愛らしい容貌に、同じように可愛らしい声音、そして可愛らしいメイド服。それらから放たれる言葉は、常人には理解しがたいものであった。

 

「やっぱり、あんた、話が通じないタイプか」

 

 一瞬、城守は残念そうに谷崎を見たが、すぐに気を取り直して、状況に集中した。

 人並に正義感があり、そして過度な暴力を嫌悪する城守であったが、一方で、彼の戦闘技術は高いモノであった。そして、この学園では珍しく、試合という仮想戦闘では弱いが、現実の戦いでは非常に強いという極端なタイプであった。

 

 じっと、両者が睨み合った。戦い慣れた二人の雰囲気が、エントランスの空気を重くした。未だに谷崎に抱えられたまま、すやすやと寝息を立てる雲川の存在がどこか場違いであった。

 男子生徒の中でも背の高い城守と、一般的な女子生徒程度しかない谷崎では、20cm以上身長に差があった。

 しかし、それが両者の現実での戦闘技量の差を意味するものではなかった。

 

 最初に動いたのは、城守だった。

 

 狙いは明白。谷崎の右手に握られた小型端末――奪い返すか、破壊するか。

 この戦いの主目的は、雲川の救出と小型端末の無力化。

 

 谷崎を打ち倒すことが目的ではない。だが、可能ならば倒しておくに越したことはなかった。

 なぜなら、谷崎は危険すぎる存在だったからだ。

 ただ、それはあくまで副次目標。

 谷崎がどれほどの存在か、城守は理解していた。見た目は可愛らしい少女、だが力は人外。

 その戦いぶりを肌で感じ取った彼にとって、油断はあり得なかった。

 

 踏み込みと同時に繰り出した城守の一撃は、鋭く、正確だった。

 ――だが、谷崎は、それを軽々と避けた。

 

 160cm程度の小柄な体。フリルのついたメイド服。そして何より右腕でお荷物(雲川)を抱えていた。

 そんな姿のまま、谷崎はわずかに体を傾け、攻撃を滑らかに躱したのだ。

 

 続けざまに、谷崎の左手が閃く。

 谷崎の手刀が、二連撃。

 

 一撃目は、空を裂いた。城守は見事に反応し、紙一重で退いたからだ。

 そして、二撃目。

 谷崎の手刀が、空気を裂きながら突き出された。

 

 その一閃は、城守の制服を、まるで本当の刀で撫でたかのように正確に裂いた。

 

 斜めに走る一条の傷跡。

 制服の肩口から胸元にかけて、きれいに布地が裂け、裂け目から鍛えられた城守の胸筋の一部が覗いた。

 

 通常の格闘技ではあり得ない。拳も刃も持たぬ手刀で、布を切断するなど常識外。

 それが可能であるという一点だけでも、谷崎の技術が人間の領域を逸脱していることが明らかだった。

 

 異常な技量を見て、城守は咄嗟に後退を選択した。

 その動きを読むように、谷崎が一歩踏み出した。

 

 ――その一歩が、空気を変えた。

 

 床が爆ぜた。

 メイド服の少女が踏み抜いた一歩が、石張りの床を砕く。

 下地のコンクリートが陥没し、細かな亀裂が周囲に放射状に走った。

 

 そして、その踏み込みとほぼ同時。

 谷崎の左の拳が、地鳴りのような風圧とともに放たれた。

 

 城守は回避を試み、それは九割方成功した。

 けれど、完全には躱しきれなかった。谷崎の拳がわずかに城守を掠めたのだ。

 拳が僅かに掠めただけ――それだけのはずだった。

 

 しかし、その衝撃は常軌を逸していた。

 

 長身の鍛え抜かれた城守の体が、弾かれたように宙を舞う。

 石片と共に身体が空を切り、十数メートル先まで吹き飛ばされた。

 

 城守は何とか受け身には成功した。だが、明らかにダメージは深かった。

 

 谷崎の理外の拳が掠ったのは、城守の右上腕部だった。皮膚が裂け、筋繊維が断ち切られた。衝撃は骨を叩き割るように広がり、上腕骨に亀裂が走っていた。

 そして、それだけではなかった。

 拳の衝撃波は、上腕から肩を通じて胴体内部にまで伝わり、肋骨を介して臓器を震わせたのだ。

 まるで内側から殴られたかのような衝撃が城守を襲っていた。

 胃が収縮し、肺が一瞬息を止めた。城守は嘔吐感を覚えたが、それを押し殺し、血の混じった唾を床に吐き捨てた。

 

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