学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
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主人公。
雲川チーム最強のエース。『学園』における高等部新入生の中でも随一の魔力使いであり、入学時の戦闘適性順位は1位。
長身で、危険な目つきをしている。優しい面もあるが、ややロジハラ気質。用心深く、細かい事を気にする。
収容区出身。雲川とは古なじみであり、その縁で雲川のチームへ入る。
現在は、Bランクの生活をほのぼの楽しむ……つもりであったが、思った以上に周りが慌ただしく、ちょと大変に思っている。久々の登場だが、今日も苦労が絶えない。
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Aランク3位、梶田チームの破壊担当。梶田チーム高魔力三人組の一人。参謀的なポジションを担っている。
知的で穏やかそうに見える。鷹一からは魔力と作戦能力を期待されている。
鷹一の能力を高く評価しており、また同時に、彼に対して非常に強い興味を抱いている。
毀誉褒貶の激しい人であり、『優しい』『穏やか』といった評価をされる一方で、『ド屑』『ドS』『危険人物』『盗聴するやばいヤツ』などのほか挙句の果てには『殺人鬼』などの評価も下されている。
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Aランク1位、匂坂チームのリーダー。圧倒的な魔力と戦闘技術の暴力でチームバトルを蹂躙中。
優し気な面影の銀髪美少女。
尋常ではない程の魔力と戦闘技術を併せ持つ。圧倒的な魔力をよく周囲に放出するので、迷惑がられることもしばしば。
趣味は試合での蹂躙行為と、観戦会場の徘徊。鷲島・雲川と一緒に第一試合を観戦し、その縁により、雲川とは友達関係になった。なお鷲島には避けられているため中々会えていない。
谷崎と雲川と一緒に高級スパを過ごした後、谷崎に眠っちゃった雲川を送り届けるように頼んだ。今回の件の全ての元凶。
でも、鷲島君が悪いんですよ?
五月五日。
この日、鷹一は、打ち合わせのため、反町の部屋を訪れていた。
主な内容としては、明日に迫った合同訓練の内容、特に参加者の相性や、想定される事態への対処法などを話し合っていた。
合同訓練以外においても、今後の梶田・雲川同盟の安定化についてや、同盟で取り組みたい課題、また、これからの学園側の試練内容の予想など、打ち合わせの内容は、多岐にわたっていた。
反町の思考力・分析力・発想力・情報量の高さから、鷹一は頼もしさと恐ろしさの両方を感じつつも、彼女に遅れをとらないように必死に立ち回った。
鷹一の懸命さが通じたのか、反町から鷹一に対する戦略面における評価は、十分以上であった。
そうして、情報交換・調整全般・戦略検討などが、一段落したところで、ふと、反町が自然を装って声をかけた。
「そういえば、この前の話だけど、どうかしら? 何か心境の変化はある?」
穏やかそうな声色と共に放たれた言葉は、一瞬だけ、鷹一を硬直させた。
「それは、以前言っていた、俺の体についての話か?」
「ええ、そうよ。あの時は断られてしまったけれど、今はどうかしら? もし、やる気があるなら、すぐにでも準備するわ」
そう言って、反町は、懐から注射器とアンプルを取り出した。
(数日前にしたばかりの話だが……なぜ、反町は俺の考えが変わると思ったんだ……? いや、何か理由があるのか? この質問は何かを試しているのか? ……駄目だ、分からない)
必死に悩む鷹一であったが、反町の質問の理由は単純であった。
――ただの知的探求心。
いや、正確には『ただの』ではない。非常に大きく、身を焦がしそうなほどの知的探求心。それを満たしたかったのだ。鷲島鷹一という怪物をもっと知りたかったのだ。我慢できないのだ。数日前に、はっきりと断られたばかりなのに、再度声をかけてしまうほどに。
――もっと、もっと、もっと。深い底まで。
反町が雲川チームとの同盟を望んだ理由の半分は鷲島を知りたかったからなのだ。ちなみにもう半分は、純粋に戦略的な理由――鷲島の圧倒的な強さへの警戒とそれを扱う雲川チームを敵に回したくないというものだった。
「悪いが、あの時と答えは変わらない。今は、その注射器を打つ気にはなれないな」
「そう……わかったわ。ただ、必要になったらいつでも言って。準備は常にしておくわ」
反町は残念そうに視線を僅かに落とした。しかし、すぐに、考えを改めた。
(……流石に、少し急ぎ過ぎたわね。鷲島に不要な警戒をさせてしまった。『慌てる乞食は貰いが少ない』とでも言うべきかしら。もっと慎重に行くべきね。慎重に、ゆっくり鷲島と関係を築きましょう。それが最善。逸る気持ちを抑えないと…………難しいわね。今だって、十分抑えてるのに、これ以上抑えるのは耐えられそうにないわ。ああ、早く、鷲島をもっと研究したい……隅々まで調べたいわ)
湧き上がる衝動を反町は必死に抑えた。幸いにして、その衝動は、鷹一に読み取られることは無かった。
「それは分かったが……すまないが、正直な話、直近では、お前の提案に乗るというビジョンが見えない。だから、あまり俺を待つために時間や労力を浪費させたくはないが……」
「いえ。それは構わないわ。私が勝手にやっていることだし、そのことを理由に、同盟に関することで手を抜く気もないから、安心して。
むしろ、私としては、鷲島に納得してほしいわね。前にも言った通り、私の予想が正しければ、貴方に重大な危機が訪れるはずよ。そして、このことは、その危機への対策にもなるわ。
勿論、不安な気持ちも分かるわ。突然、あまり知らない相手に、こういった話を持ちかけられるのは不審に思うのも当然ね。ただ、誤解はしないでほしくて、私としては、貴方とより上手くやっていきたいわ。そのために必要な情報の提供や解説は惜しまないつもりよ。恐らく貴方が一番気にしている安全性についても、貴方が納得するまで説明するわ」
そう言って、反町は穏やかに微笑んだ。
その笑みに対して、鷹一が考察している間に、新たな事態が訪れた。
反町の端末が鳴り響いたのだ。怪訝な表情で、反町は端末を見た。
「ごめんなさい。少し待ってもらえるかしら。緊急事態みたい」
「別に構わない」
「ありがとう」
そう言うと反町は少し離れたところで、端末を操作した。そして、そこから得られた情報が、彼女を悩ませた。
少しすると、反町が鷹一のところへ戻った。その表情はいつもと同じ、作ったような穏やかな笑みであった。
「急ぎの用だったみたいだが、大丈夫か? 今日は一度帰った方がいいか?」
これは純粋に善意からの言葉であった。
「いえ、それには及ばないわ。というより……そうね。少し説明が難しいのだけど……今あったことを説明するわ。今、谷崎がBランクのマンションで暴れているという情報が入ったわ。大町チームと戦闘行為をしているそうよ。ただ、その発端は、どうやら金崎と雲川らしいわ。まだ詳しい情報は分からないし、誤情報の可能性もあるけど、谷崎が雲川を拉致しようとして、それを金崎が止めようとして戦端が開かれたそうよ」
その言葉を聞いてからの鷹一の動きは早かった。即座に端末を取り出し、電源ボタンに指を乗せたのだ。しかし、同時に、反町がそれを制した。
「待って。金崎に通話をかける前に、話を聞いて」
反町の短く鋭い言葉――いつもの穏やかな声音とは違う言葉に、鷹一は止まった。
「分かったが、緊急を要する内容に思える」
言葉と共に、鋭い視線が反町へと注がれた。雲川であれば、びっくりして動けなくなってしまうほどの鋭い視線。勿論、常人であっても気圧されるほどの視線。反町はそれを受けても、特に普段とは変わらず、穏やかな微笑みを鷹一へと向けた。
「安心して。金崎と雲川は無事よ。柚木が保護して、離脱したそうよ。安心して、チームメイトは無事よ。ただ、現在も谷崎と大町チームで戦闘中。そして、これを最も簡単に収める方法は一つよ」
反町の穏やかな態度に、鷹一の焦燥感は僅かに紛れた。そして、同時に鷹一は思考した。
(誤情報などと口にしていたが、やけに確定的な言い回しだ。それに普段の穏やかさを装った声音とは違う鋭く断定的な言葉――恐らく確度が高い情報を握っているが、情報源を話したくない、または話せないといったところか。反町を無視して、金崎に確認するという手もあるが……今後の関係や、今までの反町の言動を考えると少しリスクがあるな)
思考を表情には出さないようにしつつも、鷹一は口を開く。
「……それは、俺が、大町チームに加勢する、ということか? 恐らくだが、純粋な殴り合いだと、谷崎は俺よりも強いぞ」
偽らず正直に鷹一は答えた。現実世界において、谷崎ミホという怪物は、鷲島鷹一という怪物であっても正面から戦いたくはない相手であった。
「いえ、もっと簡単で安全な方法よ。貴方は嫌がるかもしれないけど、これ以上誰も傷付かずに解決する方法があるわ」
鷹一は、内心で、ある方法に気付くが、しかしすぐに『嫌だ』と思った。
「……、……それは……どういう方法だ……?」
『嫌だ、嫌だ』と思いながらも鷹一は、確認の質問をした。
「鷲島が匂坂に頼む。それだけよ。それで全てが丸く収まるわ。安心して、私は匂坂の連絡先を知っているから、今からでも私の端末で連絡可能よ」
『匂坂の番号を知らない』という安直な回避法を即座に潰す反町に対して、鷹一は容赦がないなと感じた。
「そうか……用意がいいのは助かるが…………だが、それで話が収まるか? 匂坂の言葉一つで谷崎が止まる、というのは流石に偏った考えにも思えるが……」
「谷崎は止まるわ。谷崎はそういう人間だし、それに、匂坂は貴方の言葉を無下にできない。どちらも貴方なら分かり切ったことだと思うけど。そんなに匂坂と会話をしたくないのかしら?」
穏やかな笑みを浮かべつつも、じっと反町の瞳が鷹一を捉えた。
「正直に言うと、そうなるな」
鷹一は、内心を見透かすような視線を浴び、偽らないことを選んだ。
「この学園で平穏無事に過ごしたいのなら、匂坂との関係はある程度保った方がいいと思うけど……いえ、むしろ、そんな言葉より、貴方が好む言葉を使いましょう。今、現在、擦り潰されている大町チーム、彼らは結果的に金崎たちを助けているわ。その彼らを即座に助ける手段を貴方が持っているのに、使わないのは、大町チームに対する不義理になるし、それは公正と調和を重視する貴方らしからぬ選択になるわね」
反町は一般的な考えを口にしつつも、鷹一の嫌そうな表情を見て、途中で言葉を改めた。鷹一に効く方法を選んだのだ。
「……そうだな。少しだけ飛山の気持ちが分かった。自分の心を暴かれるのは、あまり心地よいものではないな。だが、お前の言う通りだ。確かに、大町たちのことを考えるならば、今すぐ匂坂に連絡すべきだろう。通話を繋げてくれるか? その後は、俺から匂坂に頼んでみよう……気は進まないがな」
「安心して。匂坂のことだから、きっと大喜びで貴方の頼みを受けれ入れるわ」
そう言うと、反町は自身の端末を使い、匂坂へと連絡をかけた。数コールとしないうちに、匂坂が出た。
「こんにちは、匂坂。久しぶりね。反町よ」
『こんにちは、反町さん。今日はいい天気ですね』
匂坂の声が僅かに弾んでいることに、反町は気付いた。いくつかの閃きが反町の頭の中で走った。
「そうね。このまま天気の話でもしたいけれど、本題があるの。いいかしら?」
『ええ、構いませんよ。なんでしょう?』
「今、鷲島が私の部屋にいるわ。それで、彼から貴方に話したいことがあるみたい。代わってもいいかしら」
通話先で、匂坂が深く笑みを浮かべた。その粘着質なオーラは空間を飛び越え、鷹一に寒気を感じさせるのに十分な威力があった。
(寒気が……っ! いや、それより、反町は何てことを言うんだ。そんな言い方をすれば……!)
『勿論です』
「鷲島、代わるわね」
端末を渡してくる反町が、鷹一には無情な殺人鬼のように見えた。
「あ、ああ…………匂坂か? 鷲島だ。突然すまない。お前に伝えたい事があってな……」
進まぬ気持ちからか、鷹一の口はいつもより重かった。
『フフッ、鷲島君がわざわざ連絡をしてくるなんて、一体どんな御用でしょうか?』
「谷崎の件だ。噂は耳にしているか?」
鷹一は早速本題に入った。
『噂、と言いますと?』
「谷崎が、今、Bランクマンションで暴れているらしい。これはお前の指示か? それとも谷崎の独断か?」
『私は、特にマンションを破壊するように指示は出してはいませんが……ですが……フフッ、鷲島君は今日は午前中からずっと反町さんと一緒にいたのですか? 朝、話をしていた先約の相手は梶田さんではなく反町さんですか?』
粘ついた声が鷹一に絡みついた。鷹一は嫌な気分になった。
「すまない。質問に答えてはくれないか?」
『質問には答えましたよ? 私は指示をしていませんし、恐らく谷崎さんの判断でしょう。それで、今日は、鷲島君はずっと反町さんと一緒にいたのですか?』
再度、鷹一の願いを無視して、匂坂が問いかけた。
「…………そうだな。知っての通り雲川チームは梶田チームと同盟を結んだ。色々と調整などもある。それで今日は反町と話をしていた。
いや、それは本題ではない。俺が伝えたいのは、谷崎の破壊行為を止めてほしいという事だ。現在、谷崎は大町チームと戦っているらしい。学園で、暴力行為が白昼堂々と行われているのは問題だ。お前の方から谷崎に止めるように言ってくれないか?」
『鷲島君の言いたい事は分かります。ですが、色々と問題があります。まず、第一に、どうして鷲島君が干渉するのでしょうか? これは谷崎さんと大町チームの問題ではないでしょうか?』
「それは、お前も知っていると思うが、谷崎が紫苑を連れていたらしい。恐らく、状況を察するにお前たちと紫苑が遊んだ後、紫苑が寝てしまってそれを谷崎が送り届けてくれたんだろう。それに関しては感謝するし、金崎と揉める結果になったのは残念だと思うし、必要なら谷崎には謝罪しよう。
だが、それは谷崎が金崎や大町チームの面々に暴力を振るって良い理由にはならない。そして、チームメイトが発端に関わった以上、俺の問題とも言える。そして、再度言うが、匂坂、お前には、今すぐ、谷崎を止めて欲しい。お前はそれができる人間だと思っている」
鷹一は、できるだけ真剣な気持ちで匂坂に語りかけた。通話先で匂坂の口元が弧を描いた。
『鷲島君の優しい気持ちは痛いほどに伝わってきます。私としても、その思いは汲みたいです。しかし、いくつか問題があります。
まず、大町チーム側に問題は無いのでしょうか? まるで、谷崎さんだけが悪者のように言われるのは、リーダーとしても、谷崎さんの友人としても納得できません。谷崎さんは、とても情が深い方です。理由なく人に暴力を振るったりはしません。
他にも鷲島君なら分かって下さると思いますが、私は鷲島君と同じでチームの和を大事にしたいと持っています。谷崎さんに無理やり『私の命令に服従しなさい』などと言うことはできません。私は、チームの皆さんの自由意志を尊重したいのです。こういう気持ちは、鷲島君と一緒なのですよ?
それと、最後に重大な問題があります。もし谷崎さんが戦うことを止めたとしても、大町チームはどうでしょうか? 谷崎さんが止めても大町チームが戦いを続けるならば意味がありません。特に先程言った通り、大町チーム側に問題がある可能性もあります。そうであれば、谷崎さんだけ戦わないように指示を出すのは危険です。構えを解いた瞬間、大町チームに
匂坂の紡ぐ言葉。それはどこか場違いで、鷹一には、わざと時間を引き延ばしているように思えた。
「……悪いが、匂坂。俺にはそれは問題になっていないように思える。
まず、大町チーム側の問題はここでは重要ではない。今は両者の安全のために、匂坂の言葉が必要だ。大町チームの事情や背景は関係ない。それは、戦いが終わった後に調べればいい事だ。
そして、大町たちと谷崎の戦いに関しては心配はいらない。いや、俺としては心配しかないが、匂坂が谷崎の身以外を案じていないならば、心配はいらない。大町チームがいくら優れた生徒の集まりだとしても、谷崎には勝てない。五対一だろうが、谷崎が勝つ。谷崎はそれほどまでに優れた生徒だ。仮に戦いを止めても
再度、鷹一は匂坂に願った。通話先で、再度匂坂が深い笑みを浮かべた。
『鷲島君の深いお考えは分かりました。ですが、フフッ、まだ大事な問題に答え切れていませんね? 私は、チームの皆さんの自由意志を尊重したいのです。谷崎さんに無理やり何かを強要したくないのです。谷崎さんの思うがまま生きて欲しいのです。鷲島君が紫苑さんに向ける感情と同じですね。谷崎さんが正しいと思った道を支えるのがリーダーとしての役目です。鷲島君が紫苑さんに甘いのと同じです。やっぱり、私と鷲島君はどこか似ていますね』
どこか嬉しそうな声音で語る匂坂に対して、鷹一は不快感を覚えた。
「いや、待て、それはおかしい。お前の今の言葉を信じるならだが、谷崎の独断を常に許しているということか? それは、お前では谷崎をコントロールできないという意味になるが……お前ほど優れたリーダーが谷崎を御しきれないとは到底思えないな。いや、違うか、何か望みがあるのか? 谷崎を止めるための条件があるのか? それなら、話して欲しい。できる限り叶えよう。ただ、それは谷崎をお前が止めた後だ」
『いえいえ、望みなどありません……私としては、谷崎さんに強要したくないだけです。ただ、そうですね。どうも、だいぶ鷲島君を心配させてしまっているようですし、分かりました。私が折れます。なんとか、谷崎さんに心を鎮めていただけないか、精一杯お願いしています。勿論、あくまで、私ができるのは『お願い』までですから、全て上手くいくなどとは言えませんが、最大限のことはします。ですが……』
そこで、匂坂は一度言葉を切った。
鷹一は、とても嫌な予感がした。
『もし、許していただけるなら、今度、私の部屋に来ていただけますか? 谷崎さんも交えて三人でお話ししましょう。どうやら、鷲島君は私や谷崎さんについて誤解しているご様子。それを改める機会を頂けないでしょうか?』
匂坂の言葉に対して、最初に鷹一が思ったことは『嫌だ』だった。
(嫌だ。嫌だ……絶対に嫌だ。だが……恐らく、これが谷崎を止める条件。ならば頷く他ない。しかし……匂坂に谷崎、選択を間違えれば、死を覚悟しなければならない組み合わせだな……流石に、学園内で殺人をするようなことは無いだろうが……)
そこまで考えて、ふと鷹一は以前水渕が言っていたことを思い出し、一瞬だけ反町を見た。反町はいつものように穏やかに微笑んでいた。
「分かった。今度行こう。それで、谷崎を止めてもらえるか?」
『フフッ、まるで、私が大町チームを人質に取ったかのような言葉ですね。鷹一君に誤解されてしまって悲しいですが、しかし、部屋に来ていただけるのはとても嬉しいです』
「匂坂、すまないが、俺は名前で呼ばれるのは慣れていない、今まで通り鷲島と呼んでくれ。それと、谷崎に連絡をしてもらっていいか?」
どさくさに紛れて名前を口にした匂坂に鷹一は釘を刺した。これは鷹一にとっては重要なことであった。
『すみません。鷲島君を部屋にお招きできると思うと、つい嬉しくなって呼び方を間違えてしまいました。それで、今度と言いましたが、何時来ていただけますか? 時間を空けておくので教えてください』
「……先に谷崎に通話してくれないか? 俺の想像が正しければ、一秒伸びる度に、大町たちが傷付いていく。今は、匂坂から谷崎への言葉が何よりも重要だ。頼む」
『……、…………、わかりました。そこまで鷲島君が言うならば、そういたします。ただ、約束は守って下さいね? 必ずですよ? それでは、一度切りますね。谷崎さんに連絡します。また後で、お話しましょうね?』
通話を切り、鷹一は大きく溜息を吐くと、端末を微笑む少女へと返した。
「随分疲れた様子ね。そんなに匂坂が苦手なの? 正直、そこまで貴方が苦手に思う理由が分からないわ。飛山も匂坂も大差ないでしょう。飛山にあんなに好感を持っているのに、匂坂を厭う理由が分からないわ」
飛山について言及する反町の言葉に、鷹一は僅かに警戒心を上げつつも、それを表には出さなかった。
「単純に苦手なんだ。生理的嫌悪に近いが……あえて理由を付けるなら…………」
そこまで言って、鷹一はじっと反町を見た。
(何となく、俺が匂坂を苦手としている理由はあるが……それを反町に言うのは、あまり良い結果になるとは思えないな)
今だ微妙に信じきれぬ同盟相手を見て、鷹一はすべてを言うことは避けることにした。
「……いや、やはりしっかりとした理由はないな。ただ、あの強さに常識外の魔力だ。どうしても落ち着かないんだ」
嘘ではなかった。だが、思った事を全て言ったわけではなかった。
「面白い理由ね。でも、そんな理由が通るなら、皆、貴方を苦手になると思うわ。貴方ほど規格外の強さを持つ存在を私は知らないもの。匂坂でも貴方に勝てるとは思えないわ」
「匂坂が、か……? 俺はむしろ、俺が匂坂に勝てる自信が無いが……いや、どちらも勝てないと言うのなら理解できる。あまり確証はないが、俺と匂坂が戦うと千日手になる気がする」
今度は偽らず、鷹一が思った全てを口にした。鷹一は、自身と匂坂では決着が付かないと考えたのだ。
「そういった面もあるわ。ただ、私の予想だと、どちらも勝てない引き分けか、または貴方が匂坂に勝利するかの二択ね。匂坂が勝つパターンを引くのは難しいわ」
一方で、反町は鷹一とは違う考えを持っていた。
「それは俺を買い被り過ぎだな。前にも言ったが、俺の実力は青井相当だ。匂坂相手に勝つのは難しい」
「貴方は、少し、いえ、かなり自己評価が低いわ。まず――」
反町がそこまで言ったところで、鷹一が手で言葉を制した。
「すまない。お前の話を聞きたい気持ちは強いが、金崎と紫苑、それと大町たちが気になる。一度金崎たちと合流していいか?」
「ええ、それは構わないわ。私はあくまで貴方とは対等な協力者という立場のつもり。貴方の行動を妨害する気はないわ」
「そうか。ありがとう。それとすまない。色々と世話になった」
そう言って、鷹一は反町の部屋を後にした。そして、Aランクマンションを出るや否や、金崎に連絡をし、彼らが休憩している喫茶店へと駆けるのであった。