学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
飛山龍華という、チームランキング2位のリーダーとの高級スパ巡り。
これは、鷹一にとっては、様々な意味で不安と期待が入り混じったイベントであった。
優秀なリーダーと共に過ごす不安、優秀なリーダーと関係を深めることで得られるメリットへの期待、高級スパという自身には経験の無い施設への不安、同時に伝聞から大浴場以上のリラックス施設である高級スパへの期待。
複雑な感情に悩まされつつも、飛山から招待券を受け取り、彼女に従い、高級スパの扉を潜った。
結論から言えば、鷹一の不安は杞憂であり、そして、期待は裏切られた。
まず一番の課題であった、飛山との友好関係に関しては、無事維持することに成功した。
しかし、これはある意味で当然であった。飛山も鷹一も、双方共に、相手を高く評価し、相手の人格面もある程度理解し、そして共感する面があり、そして何より、争いを望んでいなかった。
今後も定期的な交流と情報交換、可能な範囲での協力関係を取り付けた。また、両者ともに、口では「友人である」と互いに示し、今後も定期的に「友情」を表し、確認することを約束した。最後の部分は主に、飛山からの提案であり、鷹一はやや難色を示したものの、匂坂と谷崎という迫る猛威が、鷹一に決断させた。
このように飛山に関する不安は杞憂であったが、一方で、高級スパという施設は、鷹一の予想を大きく裏切った。
鷹一の想像していたよりも、遥かに豪華で贅を尽くした空間だったのだ。鷹一は、施設に入って一歩目から、気後れするものの、飛山の助けもあり、何とか、高級スパへと突撃した。
人生初の体験に、鷹一は始終、驚愕しつつも、飛山の配慮もあったため、中盤以降はリラックスすることができた。
疲労を落としつつも、鷹一は、『紫苑が寝落ちするのも仕方がないか』と考えたり、『金崎だけ未経験なのは少し悪いな。今度、反町から融通してもらって、招待券を渡そう』などと、チームメイトのことを考えた。
飛山との友好関係、高級スパでの疲労回復。
目的を十分に達成した鷹一であったが、彼は少しだけ気になることがあった。
高級スパの設備やサービスを見て、少し不審に感じたことがあったのだ。直感的なモノであり、具体的に何が『不審』かは、まだ完全には言語化できなかった。しかし、鷹一は、何かがおかしいような気がした。
無事、高級スパでの交流をこなした鷹一は、チームメイトたちの分の夕食を買って、Bランクマンションへと戻った。マンションのエントランスの修復は殆ど終わっており、鷹一は学園の素早い対応に舌を巻いた。
最上階の雲川チームのフロアにつき、三人で夕食となった。普段は別個に食べることも多かったが、今回は、三人で作戦室に集まり夕食を共にした。途中、ウニのストラップが破壊されたことを知った雲川が咽び泣くというハプニングがあったものの、鷹一がそれを適度に慰めたりしたため、大事になることはなかった。
鷹一は、昼の殺伐を忘れるように努め、チームメイトとの団欒を楽しんだ。
※
しかし、翌日、再び、雲川チームに災いが降りかかることとなる。
『Bランクマンションエントランス乱闘事件』の翌日――この日は、昼に、梶田チームとの懇談会、その後、梶田チームとの合同訓練が予定されていた。
まず、雲川は朝から遊びに出かけようとした。鷹一は素早くこれをキャプチャーし、事情を聞き出した。幸い、『天沢チームと遊ぶ』という平和的な内容であったため、鷹一は雲川と交渉し、結果、雲川の部屋に天沢チームを招待することになった。また、これに伴い、鷹一が源内用に用意していた茶菓子の一部を雲川に譲渡した。
そんなほんわかとしたやり取りをしている間に、学園から雲川チーム宛に通知が届いたのだ。
それは、罰則通知であった。
内容は――『学園での破壊行為に関与および、リーダー端末の喪失により、10万ZPを没収する』というものであった。
鷹一は素早く学園に問い合わせを行った。
その結果、次の情報を得た。
――曰く、Bランクマンションのエントランスで起きた暴力事件および学園所有物の破壊を招く切っ掛けとなったことと、リーダー端末を失うというリーダーにあるまじき行為に対する罰則であるとのことであった。
また、リーダー端末は今日中に再発行されるため、安心されたし、とも伝えられた。
これに対して、鷹一は反発するが、学園側は聞く耳を持たなかった。
通話を切る直前、鷹一は学園側に次の質問をした。
『もし、雲川チームが罰則に値するならば、他のチームはどのような罰則の対象となったのか聞きたい』
そして、この答えは、『他チームの罰則状況は機密事項につき教えることはできない。しかし、自チームの罰則状況を開示する自由はある』というものであった。
鷹一は察した。
(不味いな……これは他のチームも罰則を受けている。匂坂チームは罰則を受けて当然だが……大町チームが罰則を受けている可能性がある。それは彼らとの関係を悪くする可能性がある……いや、大町だけではないか……? 場合によっては、柚木チームや、樋口が所属している神岡チームも罰則の対象となっている可能性もある。勿論、単純に考えて、これらのチームが匂坂チームや学園運営部を敵視するという流れも十分にあるが……切っ掛けの一部は金崎と紫苑にあると言えなくもない。そこを重く取っていたり、そこを敢えて指摘してくる生徒もいるだろう……柚木・如月・神岡は十分にあり得るな……)
少し悩みつつも、鷹一は反町と相談することにした。
通話をかけると、反町は僅か1コールで出た。
「反町か? 今、少しいいか? 昨日の事件で話したいことがある」
『ええ、勿論よ。学園から罰則通知でも来たのかしら?』
あまりにも自然な反町の返答を聞き、鷹一は一瞬言葉に詰まった。
「……ああ。10万ZPほど没収となった。……無いとは思うが、お前のチームにも罰則があったか……?」
『いえ、今回の件では、特に罰則は受けてないわね。ただ、このことで、相談というと……他のチーム、大町や柚木が罰則を受けているか、また受けているとすると、今後の貴方と彼女たちの関係についてどうするか悩んでいる、といったところかしら?』
反町の穏やかな声を聞き、鷹一は眉をひそめた。
「ああ、まさに、その通りだ。……まるで心を読まれているみたいだな」
『……、……ごめんなさい。つい、物事の先を読みたくなる性なの。不快だったら止めるように努力するけど、そうした方がいいかしら?』
「いや、そんなことはない。お前のそういった優秀さは助かる……だが、まあ正直に言うと、少し怖さがあるが……不快とは思っていない。ただ、すまない。俺もリーダーに似て臆病なところがあるからな。今後も、お前の言葉に驚いてしまうこともあるかもしれない。だが、それはお前が問題というわけではない」
鷹一の淡々とした言葉。そこに、鷹一は言葉通りの意味しか込めなかった。
しかし、反町はそうは思わなかった。
『……、…………、そうね、色々と気を付けるわ。一応、念のため、誤解が無いように言っておくけど、貴方のチームを盗聴していたり、貴方の端末にハッキングを仕掛けたりしているわけではないわ。これは誓って本当よ。同盟相手とは基本的に仲良くすべきだと思っているし、特に貴方を有する雲川チームなら猶更ね。勿論、貴方個人とは、より良い、さらなる友好関係を期待しているというのもあるわ。
証明になるかは分からないけど、私は、貴方の人格についてある程度理解しているつもりだし、それは貴方も認めてくれているはず。『そんな私が、貴方が嫌う方法で、貴方や貴方のチームにアプローチをするはずがない』というのが、私が貴方たちに不純なことをしない理由となると思うわ』
穏やかな声で、それでいてどこか言葉を選ぶように、反町が言葉を紡いだ。
「大丈夫だ。別にお前のこと疑っているわけではない。ただ純粋にあまりにも話が早くて驚いただけだ。さっき俺が言った言葉に他意はない。純粋にお前の能力の高さに驚いただけだ。他の意味に聞こえたのなら、すまない。恐らく、俺の話し方が悪いのだろう。それとすまない、話をもう少し進めてもいいか? まあ、お前のことだから、俺が話す間もなく、俺の欲する答えを教えてくれそうではあるが」
反町の言い訳のような言葉を聞いて、鷹一はどこか怪しさを感じつつもそれを意識しないようにした。
『許してもらえたようなら良かったわ。私は、本当に貴方とは仲良くしたいと思っているの。貴方はまだ疑っているかもしれないけど……いえ、ごめんなさい、質問に答えましょう。
とはいっても、ある程度推測になるけれど……とりあえず、私も今回の一件に関しては、昨日から情報を集めたわ。雲川チームも関わることだから、情報の量と精度には、ある程度の自信がある。それを踏まえてだけど……恐らく、貴方は大町・柚木・神岡とは現状敵対する予定はないし、むしろ、ある程度の感謝をしている。故に、それらのチームが罰則の対象になることに不快感と恐れがある。恐れの理由の中には、それらのチームが雲川チームを敵視するのではないか、または『敵視したふり』をするのではないかというものがある。この恐れの解決をしたい、というのが今回の相談内容でいいかしら?』
少し試すような質問に対して、反町は推測といいつつも、鷹一の心を読み、相談内容を予想してみせた。
そして、それは正解であった。
「……そうだ。たぶんお前は……ああ、いや、すまない続けてくれ」
内心で『俺よりも俺の心に詳しいな』と鷹一は思ったが、それを口にすると、先程の話を掘り返すこととなるため、途中で言葉を切り、反町の答えを催促した。
『相談内容に間違いはないのね。それなら……そうね。恐らく、貴方の懸念は問題にならないわ。貴方は認識してないでしょうけど、貴方の影響力は一年生ではかなりのものよ。貴方が他の生徒と敵対することを恐れる以上に、皆、貴方と敵対することを恐れているわ。『最強』というのは、それほど影響力があるの。
一応言っておくけど、匂坂の話はしなくていいわ。実情はどうであれ、順位では貴方が上だし、雲川チームを単身でBランクにできるのも貴方くらいよ。そして、それは皆も理解しているわ。特に、神岡・柚木・如月あたりは、より繊細に理解しているはずよ。
まあ、大町チームはもっと単純に、大町・四本・城守の三人は、性格的に考えて、貴方に敬意を払っているという理由の方が大きいかしら。あのチームはリーダーの大町が元々チームの手綱を握っているし、如月と豊里がどれだけ利益を引き出そうとしても、問題にはならないわ』
流れるように並べられる言葉の数々。これは反町としては、彼女なりに真剣に答えたつもりであった。しかし、鷹一には頷きがたい点もあった。
「そうか……正直、匂坂には、いや、これは言うべきではないのだな。だが、俺が書面上の『最強』だったとしても、それがそこまでの影響力を持つか? この学園は質もある程度重視するが、数も要求するところがある。俺のチームは数で劣るが……ああ、いや、すまない、これも本筋からは外れるな」
『いえ、構わないわ。その辺りを貴方と議論してもいいけど……ただ、貴方の心理的な安定を考えるならば、まず最初に大町チームと話をするのがいいと思う。大町チームは恐らく重い罰則を受けているはずよ。とりあえず、貴方から大町に連絡して。交渉過程で、おそらく大町チームから謝罪や賠償の話が出ると思うから、結果次第でまた相談してほしいわ』
「そうだな。確かに今は大町から、だな。一応、聞いておきたいが、柚木や神岡チームの認識はどうなると思う?」
念のため、鷹一は今回の騒動に関係した二つのチームの名を出した。
『その二人はむしろ楽な部類ね。さっきも言った通り、あの二人は貴方を脅威に感じているわ。逆に色々な意味で、大町とは最初に交渉をした方が良いわ。正直に言うと、私も大町は少し読めない。貴方に敬意を払っていることは予想できるけれど、行動が少し常人と違うところがあるわ。だから貴方からアプローチをかけて様子を探ってほしい。
大町が謝罪を求めるならば、貴方が認められる範囲ですればいいわ。貴方がしたくない謝罪なら別にしなくていいと思うわ。勿論、それは大町チームとの関係悪化に繋がるけど、そういった結論になったとしても私は今まで通り貴方と貴方のチームを支援する。賠償の方は上限なしで考えていいわ。ZPを得るアテはあるし、最悪、私か梶田チームから出すから』
人間観察が得意な反町から見ても、大町は少し読みにくい存在であった。大町百合の言動は、どこかちぐはぐなのだ。異常者とまでは言えないが、一方で、一般人とも言い難い。それが現時点で、反町が大町に下した評価だった。
「……正直、かなり心強い話だが……賠償の方はお前や梶田チームには頼れないな。いや、まあ、正直に言うと、俺も、お前が言う『アテ』には心当たりがあるが……」
鷹一の言葉に反町はすぐに察した。二人とも考えていることが同じであることに。
『その『アテ』は絶対使った方がいいわ。貴方の心情的にも思考的にも、そこからZPを引っ張って来て大町に渡すのが正しいと思うはずよ。まあ、貴方は匂坂と話をしたくないでしょうけど、どうせ、一度、匂坂と谷崎とは会う予定を入れたのだし、その時に賠償額を匂坂に請求すればいいわ。匂坂のことだから喜んで支払うし、谷崎も匂坂の決定には逆らえないわ』
反町に口から出た苦手な名前が、鷹一を嫌な気分にさせた。
「やはり、匂坂か……、………………、…………、分かった。そうだな、匂坂に請求しよう」
鷹一は苦しみつつも、答えを出した。彼の苦しみを察した反町は、そのことに関して思考を回しつつも、それを態度には出さなかった。
『そこまで嫌がるなら、私が出した方が早そうだけど……ただ、とりあえず、大町と話をして、それで賠償額を決める方が良さそうね。額が小さいなら、貴方も匂坂に頼まないという選択ができるでしょうし』
「ああ、そうだな、お前の言う通りだ。すまない、助かった。大町と話をしてくる」
『いえ、気にしないで。むしろ、相談相手に私を選んでもらえて嬉しいわ。前にも言ったかもしれないけど、貴方には何でも相談してほしいと思っているの。どんな些細なことでもね。私は、純粋に、貴方の一助になりたいと思っているの。これからも、どんなことでも相談してほしいわ』
反町の穏やかな声が、優しく鷹一の耳を撫でた。
難しい、と鷹一は感じた。
「……、……ありがとう。その言葉はとても心強いし、助かる。だが、俺も、お前をあまり煩わせないようにしたいな」
『貴方相手に、煩わしいと思うことはないわ』
「……そうか。それは……感謝する。それじゃあ、大町に連絡してみる。結果が出次第また連絡する」
そう言って、鷹一は通話を切った。そして、少しだけ頭の中で考えをまとめる時間を取った後、大町へと連絡することにした。