学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
鷹一が通話をかけると、数コールしてから、野太い声が出た。
『大町だ。鷲島か?』
「ああ、鷲島だ。昨日は色々とすまなかった。今は通話をしても大丈夫か?」
『問題ない。いや、むしろ最高のタイミングだ。ちょうど見張りの看護師たちがいない。私も、ちょうどお前と話をしたかったんだ』
どこか期待を含んでいる大町の声音を聞いて、鷹一は気が重くなった。大町の期待に心当たりがあったからだ。
「そうか、それは……良かった。それじゃあ、話をするが、罰則は……いや、まず怪我の方はどうだ? 数日の怪我と聞いたが……」
『問題ない。もう大体治った。少し右手が動きにくいが問題ない』
端的に事実を伝えるように大町が答えた。
「そうか……それなら良かったが……罰則は大丈夫だったか? 俺のチームは学園側から10万ZPを没収されてな。もしかしたら、お前のチームも没収されたんじゃないかと思ってな……もし、そうだとしたら、正直、かなり申し訳ないと思っている。元は俺のチームと匂坂のチームの揉め事だしな。もし良ければ、罰則分の補償と正式な感謝と謝罪を示したいと思っている」
鷹一は、できるだけ誠意をもって言葉を紡いだ。しかし、それは大町には上手く伝わらなかった。
『? そのことは昨日話したとおりだが。ん? 昨日話したよな? 私は謝罪も補償も必要ないし、むしろ金崎たちには私が感謝しているが……ああ、いや、もしかしたら、麻酔を打っていたから惚けていたかもな。すまない、鷲島。昨日、私と話をしたか? 私の記憶では、お前と話をしたと思っているが、強い麻酔が見せた幻かもしれん』
大町は困惑しつつも自身の記憶違いを疑った。
「いや、合っている。俺は昨日お前と話をしたし、お前からは補償はいらないと言われた。だが、如月の件もあるし、もし大町チームが学園からZPを没収されているならば、その補填はしたいと思っている。それで今回通話した」
『そうか。律儀だな。だが、不要だ。特にZPには困ってはいない。むしろあの程度で谷崎と手合わせできたのなら、安い代償だ。そんなことより、鷲島。昨日も言ったが、お前に頼みがある。聞いてくれるな?』
野太く、それいてずっしりとした重みのある声が鷹一を抑えつけた。鷹一は内心で困った。大町の頼みに心当たりがあったからだ。
「それは……どういう頼みだ……?」
緊張しつつも、鷹一は先を促した。
『前と同じだ。鷲島、お前と勝負がしたい。真剣に、な』
「それは…………演習室を使って模擬戦をしたい、ということでいいか……?」
鷹一はできるだけ大町を刺激しないように言葉に気を付けた。
しかし、それは無意味だった。
『そんなわけがあるか。真剣と言っただろう。遊びじゃない。現実で、正々堂々、殺し合おう』
今回の出来事に関して、初めて大町が怒りを声音に込めた。
一方で、今後は鷹一が困惑した。想像した以上に危険な要求だったからだ。
「殺し合う……? 待て、以前、お前は殴り合いがしたいと言っていたと思うが……『殺し合い』というのは言葉の綾であって、以前と同じように『殴り合い』がしたい、という意味でいいか?』
鷹一は、四月に大町に勧誘された。そしてその時、なぜか『殴り合い』をしないかと頼まれたのだ。
当然、現実での不必要な暴力を嫌う鷹一はこれを断った。ゆえに、鷹一は、以前断った『殴り合い』を大町が再び提案してくると思っていたのだ。
これまでの警戒はそれであった。しかし、大町は、鷹一の警戒の斜め上を行った。
『いや違う。殺し合いがしたい。前は殴り合いでもいいと思った。だが、谷崎とやり合って分かった。私は、やはり殺し合いがしたいんだ。特に鷲島、お前のような優れた戦士とな』
「悪いがそれはできない。前にも言ったが、俺は現実では不必要に人を傷つけたくない。特に、お前は金崎を助けてくれた。猶更できない。これは『殴り合い』でもだ。そして、『殺し合い』など以ての外だ。そもそも殺人は重大な犯罪行為だ。有り得ない」
大町の頼みを、鷹一は即座に断った。あり得ぬ頼みだったからだ。
しかし、大町は折れなかった。
『……鷲島、私はあまりこういう言い方は好きではないが……お前は、今回の一件で私に感謝していたよな? それならば、その誠意を見せて欲しい。殺し合おう、鷲島』
大町の重厚で真剣な声に、鷹一は押し込まれそうになった。しかし、必死で耐えた。
「待て、待て……それはできない。お前には感謝しているし、必要なら補填はするが、だが、殺し合いは無理だ。殴り合いもだ。俺はお前とは戦えない。試合形式では駄目か? 訓練室を使う安全なものなら、いくらでも構わない。訓練室の戦いは痛みこそないが、現実世界と近い戦いは十分にできる。そこででも、お前は満足できるはずだ」
少し慌てたように、鷹一は妥協案を探し始めた。
『満足できるわけないだろう。痛みもなければ、緊張感も、喪失感もない。遊びじゃ何も満たされない。……負けたら障害を負う、負けたら死ぬ、そういう戦いでしか得られないモノがある。まあ、医療技術が進んだ今では、そうそう死ねないが……だが、死ぬ可能性はある。それだけでもゲームよりは遥かにいい。それに何より……鷲島、お前は私や谷崎と同じだ。お前は遊びよりも現実の戦いの方が強いし……何より、殺し合いが上手い。お前ほど、『殺し』に慣れてる相手は見た事がない。谷崎でもお前には敵わないだろう。私は、そんなお前と戦いたいんだ。たとえ、それで死ぬとしても、な』
大町の声には重圧があり、そこには深い覚悟があった。
鷹一は、そんな大町の覚悟を読み取りつつも、彼女の信念を理解することはできなかった。
「いや、無理だ。俺は人を殺したくはないし、それ以前に暴力も可能なら使いたくはない。第一、お前は勘違いしている。俺は人を殺したことがない。殺したことがないのに、慣れているわけがないだろう。大町、お前は誤解している。俺の試合での……お前が言う『遊び』での異常な強さが、現実でも強いのだとお前に誤解させているんだ。現実では、俺は谷崎に劣るし、お前とそう変わらない実力だろう。お前はきっと俺と戦っても、がっかりするだけだぞ」
『何を恐れている? 私を殺す罪を恐れているのか? なら気にするな。私のような異常者が死んでも誰も悲しまない。もし罪に問われることを気にしているのなら、誓約書を書こう。立会人も用意しよう。私を殺しても罪にならないようにする』
「違う。違う、そうじゃない、いや、確かにそういった面もあるが、そこじゃないんだ……俺はそもそも人を殺したくない。相手がどんな人間であってもだ。罪に問われるとか、そんな話じゃないんだ。大町、悪いが、お前の話は到底受け入れられない。ZPで解決させてくれ。もしくは、他の、平和的な願い事で解決させてほしい」
『鷲島……頼む、そんなことを言わないでくれ。お前ほどの戦士が、そんな軟弱なことを……』
鷹一の争いを厭う気持ちの高まりと同じように、大町の軟弱さを嫌う感情が高まった。そして、同時に、ここまでの会話で大町も理解してしまった。誰よりも強く尊敬する優れた戦士が、まったく自分と違う考えを持っている。自分とは正反対の位置にいる。それが、大町を深く苦悩させ、絶望させた。
「大町。お前は俺を誤解している。おれは軟弱な生徒の一人にすぎない。お前ほどの覚悟も気合もない。普通の生徒なんだ。すまないが、お前の願いは受け入れられない」
『……、……どうしても、どうしても、駄目か? 私は、本気でお前と殺し合いがしたいんだ。谷崎が私に火をつけてしまったんだ。もう遊びじゃ満足できそうにないんだ』
圧倒的な力を持つ怪物との戦い。死と喪失と隣り合わせの攻防戦。それが自分をおかしくしてしまった、いや、正しくは、隠していた自分の面をこじ開けられてしまった、そんな風に大町は感じていた。そして、さらなる高みに至りたい、と。
勿論、大町も理解している。四人がかりで谷崎を傷一つつけられなかった事、そして、自分の勘が鷹一は谷崎を超える猛者であることも。
――恐らく、本当に殺し合いをすれば、数分と持たず自身は死ぬだろう。
ただ、それでも良かった。それでも、鷹一と本気の殺し合いをしたかった。たとえ、僅かな時間の舞踏だとしても。その僅かを、最高の戦士と舞いたかった。
だが、大町の想いは――
「すまないが、俺にはできない。すまない」
――無情にも切り捨てられた。
大町が殺し合いを求めるのと同じように、鷹一は暴力というものをできるだけ使いたくはなかった。
勿論、最悪の事態であれば、手段として用いる可能性はある。ただ、それでも最悪の事態でもないのに、言葉や金品で解決できる状況なのに、その状況で自分から暴力を振るうという選択を鷹一は選びたくなかった。
これもまた信念であった。大町とは全く交わらない信念。大町と会い、初めて言葉を交わしてから、鷹一は何となく理解していた。自分と大町は交わらない面があり、それゆえ関係を深めるのは難しいだろうと。故に、大町を避けていた。
鷹一の言葉に大町も深い絶望を感じつつも、それを受け入れた。
涙を噛み締め、鷹一の意志を尊重することにした。
ただ、それでも最後にせめてもの望みを口にすることにした。
『…………そうか、……分かった。殺し合いは止める。だが! 殴り合いならどうだ!? お互い、ルールを決めて、正々堂々、加減をして、相手にできるだけ傷をつけない! これなら、どうだ!? 鷲島、殴り合いをしよう! 頼む、鷲島、頷いてくれ!』
悲痛な叫び声が鷹一に耳に響いた。あまりにも心の籠った魂の叫びであった。鷹一には到底理解できないが、それでも大町にとってそれが何よりも重要なことが鷹一には分かってしまった。
「……それも無理だ。大町、お前は、チームメイトを助けてくれた。それに、俺は、お前の気高い精神性を尊敬している。『殺し合い』を愛して止まないが、それでも卑怯な手を使わずに、俺に強要もしない、そんなお前の高潔な精神を尊敬している。だからこそ、無理だ。そんな尊敬すべき相手を傷つけるなど、俺にはできない。すまない。大町、諦めてくれ。試合でならいつでも相手をしよう。演習室でパラメータを調整すれば、現実に近い形での殴り合いはできるかもしれない。痛みはないが、上手く調整すれば、ある程度、衝撃などは再現できるはずだ」
『そんなものじゃ――おい! やめろ! 今、大事な話をして――』
大町の声が途中で途切れ、何かバタバタと騒ぐような音が続く。少しの間、そういった音が続いた後、通話相手が変わった。
『おい、アンタ誰だ? 鷲島か?』
その男の声は、鷹一には聞き覚えが無い相手であった。
「そうだ。お前は……大町チームの誰かか?」
『如月だよ、如月輝明。まあ、アンタみたいなバケモンが俺の事を覚えてるとは思えないけど。一応、大町チーム所属だ』
どこか訝し気で、それでいて試すような声音であった。
「いや、お前のことは知っている。大町チームで機動力を活かした戦闘を得意としていたな。第三試合で、あの青井を倒した連携は見事だった」
鷹一は純粋に自身の記憶と考えを口にした。Aランク四位蓮チームに所属する怪物――戦闘適性順位3位の青井舞美、その撃破の立役者となったのが、この如月であった。
『へぇ、ちゃんと知ってるじゃん。アンタ、格下の試合も見るんだな』
少しだけ感心したように如月が答えた。戦闘適性順位1位の怪物からの賞賛の言葉は、如月に嬉しさを感じさせるものだった。
「お前も、大町チームも格下とは思っていない。同じBランクだしな。ところで、大町はどうした? 今、話していたんだが、どういう状況だ?」
声音から如月の機嫌の良さを感じ取った鷹一は、内心で良好な交渉になることを期待し始めた。
『リップサービスありがとよ。大町は今、看護婦と医療用機械に取り押さえられてる。あ、麻酔効いてきたな。流石に眠ったか。てか、何でアンタと通話してるんだよ。あの人、今、絶対安静だぞ』
「そうだったのか……? いや、すまない。連絡をしたのはこちらだが、大町が問題ないと言ってたから通話を続けていた」
『ああ、そういうこと。やっぱり見張ってないとダメだったか。オーケー、分かった。今度は俺か豊里で見張っておくわ。情報提供ありがと。んで、お前は、うちのリーダーに何の用だよ? てか、リーダーに連絡する前に出すもん出せよ』
如月の言葉が指すものが何か、鷹一はすぐに理解した。
「……大町には、今回の件で、謝罪と賠償について話し合っていた。お前が今言う『出すもの』というのは金崎に言っていたZPのことでいいか? それなら、ちょうど大町と話していたところだ。俺も払う用意がある」
『なんだ、意外と話が分かるじゃん。謝罪はまあいいよ。てか言葉だけ並べても価値は無いからな。それよりもZPだ。とりあえず、雲川救出費用が100万ZP、あとうちが罰則を食らった事で40万ZPの補填、あと治療費もだ。俺たち四人分、特に大町と城守の分が
当然と言った風に額を提示する如月であったが、一方で、それは鷹一の想像よりも大きなものであった。
勿論、匂坂に全額投げつけるならば、いくらでも問題は無い。
ただ、投げつけられない可能性もあるし、そうなると、支払いは雲川チーム単独で行うか、または梶田チームに泣きつく必要がある。それは避けたかった。
また仮に投げつけられたとしても回収できない可能性もあった。なぜなら、匂坂チームが現状持っているZPがせいぜい200万前後だと鷹一は予想していたからだ。つまり、匂坂が全財産を支払うとは、到底思えなかったのだ。
「200万か……悪いが、その額を一度に用意するのは難しいな……いや、今、お前は『200万から』と口にしたが、条件次第で割引も可能ということか? それと、分割払いは可能か?」
言葉を紡ぎつつも、如月の言い回しと語調から、交渉の余地を感じた鷹一は、少し踏み込むことにした。
『分割なら利息取るぞ。年利20パーセントで複利な。割引は、考えてやってもいいけど、お前、ZPより高価なモン出せんのか?』
「それは受け手の認識によるな。俺の価値をどこまで評価するかによって、俺の差し出せる価値も変わる。如月、お前なら、俺が出すものにいくらつけれる?」
反町の情報もあってか、鷹一は少しだけ強気に出た。
しかし、鷹一はすぐにこの質問を後悔することになる。
『…………谷崎の闇討ち。これができるなら100万値引きしてもいい』
声を潜めた如月の言葉。それは鷹一の想像の斜め上をいった。
「……いや、それは。気持ちは……いや、闇討ちとは、どういった意味だ……? 怪我をさせる、という意味か……?」
恐る恐る、最悪のケースを想定しつつも鷹一は、さらに問いかけた。
『怪我をさせるって意味でもいい。谷崎には、俺たちと同じくらいのダメージは負ってもらう。最低でも全治10日の傷。それが達成条件だ。でも殺すんでもいいぜ。それなら200万チャラだ』
「いや、待て、それはおかしい。なぜ、そんなことを頼む? 殺人や暴行はそもそも……いや、そうじゃないな。そんなことをしてもお前にメリットは無いだろ。なぜそんな頼みを口にする」
過激な如月の要求に、鷹一は困った。そして困った心を悟らせないように、話を切り替えた。
『メリット、デメリットの話じゃないね。チームメイトの殆どがあいつに殺されかけたし、大町と城守なんて大怪我だ。同じくらいやり返さないと、気が済まない。てか、言っとくけど、そもそも、今回の件は、お前のチームと谷崎の問題だからな? それを俺らが助けたって形だ。俺たち大町チームが、金崎や雲川の傷を引き受けたんだ。別に感謝しろとか、謝罪しろとかは言わない。ただ、その分の報酬を払えよ。んで、報酬がすぐ出せないなら、俺たちの代わりに報復しろ。お前は、谷崎より強いんだろ?』
「確かに、お前の言葉には一理ある。今回の件では、大町チームには恩があるし、ある意味で、お前たちの負った傷は金崎たちが負ったかもしれない。ZPの補填は当然する。ただ、200万を即用意するのは無理だ」
如月の心情に一定の理解をしつつも、鷹一はその願いを拒絶した。理由は三つ。
一つは鷹一はまだ谷崎とは話し合いの余地があると考えている点――あの雲川紫苑が谷崎と交流し、のほほんと帰って来た。これは鷹一からすると交渉可能であるように思えたのだ。
二つ目は、実現可能性。鷹一から見ても、現実での戦闘で谷崎に勝てるとは言い切れない面があった。もし戦うのであれば、特に現実で戦うのであれば、可能な限り勝率を上げてから挑みたかったのだ。
三つ目は、匂坂という脅威。匂坂は谷崎を気に入っている。その谷崎に、こちらから手を出すことは匂坂に対する明確な敵対行為であり、それが暴力であれば、全面戦争が始まる可能性がある。匂坂キッカという怪物は、鷹一にとって最大の脅威であり、最凶の怪物である。できれば触れたくなかった。
(そういう意味では、谷崎の性格と匂坂の能力の組み合わせは最悪に近いな。谷崎は一方的に他者を殴れるが、誰も谷崎を止められない。少なくとも匂坂を超越する人物が現れない限り、この状況は続く可能性が高い……なんとか、安全の確保のために動きたいが……学園全体は無理でも雲川チームだけなら……? いや、紫苑も金崎も治安が悪い学園で生きていくのは大変か……匂坂たちとの交渉で、少しは良い方向に持って行きたいが……望み薄か?)
『じゃあ、体で返せって言ってるじゃん? お前、耳付いてる? それとも頭付いてないの? とりあえず、今から谷崎殴ってこい。んで、全治10日以上に傷を負わせて来い。お前なら簡単だろ?』
鷹一が思い悩む一方で、知ってから知らずか、如月は追撃の言葉を放った。
「まず、前提として、俺が谷崎に勝てるというのは眉唾だが……大町がそう言っていたのか? 言っておくが、それは大町の誤解があると思うぞ」
『おい。話を脱線させるな。谷崎を殺すか、殺さないか、殴るか、殴らないかって話だろ。それか200万。どっちか決めろ』
「不可能だ。谷崎は超人だ。大町でさえ勝てなかったんだ。俺も同じだろう」
鷹一は倫理の話ではなく、実現可能性の話を口にした。しかし、この言葉は真実とは言い難い言葉であった。
『なら、ZPを――は……? おい、何やってんだよ、お前、なんで、ここにいるんだよ……? おい、馬鹿やめろ脳筋野郎! 端末を奪おうとするな! てか、お前も絶対安静だろ! 何、ベッド抜け出してるんだよ!』
またしても、通話先でトラブルが発生した。しばらくの間、もみ合うような音が聞こえ、そして、通話の相手が変わった。
『――今の話、ちょっと聞こえてたけど、受けないよな? てか、受けるなよ、闇討ちとか。別に、俺も大町さんも復讐したいとか思ってないし、あんたたちにZPを補填してもらおうとか思ってないからな』
新しい通話相手は、明瞭で、それでいて勇敢さと寛大さを兼ね揃えたような声をしていた。
「……すまない。声に聞き覚えがないが……お前は……城守で、いいか?」
鷹一は、これまでの情報から、もっとも『らしい』人物の名を挙げた。
そしてそれは正解であった。
『ああ、そっか、悪いな、名乗ってなかったな。大町チームの城守だ。アンタは、たぶん雲川チームの人だよな。てか、声の感じが前のやつじゃないな……てことは、あんたが鷲島ってやつか』
城守もまた、状況から――如月から端末を奪う前後のやり取りから、通話相手が雲川チームの誰かだと当たりをつけた。男子生徒の声で、かつ聞いたことが無い声と言う条件から、噂の人物だと当たりをつけたのだ。
「そうだ。鷲島だ。城守、お前の事は色々と聞いている。チームメイトを助けてくれて、ありがとう。お前がいなければ、大怪我をしただろう。感謝する。それと、お前と大町が怪我をした件に関しては、すまない。申し訳ないと思っている。できる限りの補填をと思っていたが……」
『昨日の事なら別にいいよ。当然のことをしただけだからな。怪我も俺は大したことねーから、気にすんな! まあ、大町さんはちょっと重傷だけど、まあ、あの人、俺より頑丈だと思うし、たぶん二・三日もすれば元通りになんだろ。というか、そんなことより、気になってたことがあるんだけどよ。あいつは大丈夫か?』
感謝と謝罪を口にする鷹一に対して、城守はこの件に関しては、まったく気にしてないことを言葉と態度で示した。そして、逆に、ずっと気になっていたことを鷹一に尋ねた。
「あいつ……? 誰の事だ?」
『あんたのチームメイトだよ。えっと、名前なんだっけ? か、かね、金田……?』
「金崎か?」
『ああ! そうだ、それだ。金崎、金崎、あいつは大丈夫か? 怪我しないように受け止めたつもりだったけど、あの時は俺も咄嗟だったからな。どこか体とか打ってたりしないか?』
少し心配しているような城守の語調に、鷹一は内心で唸った。
(これは恐らく素で言っている……こんなに分かりやすい善人というのも珍しいな)
「いや、大丈夫だ。金崎は無傷だ。お前が助けてくれたからな」
『そうか! なら良かった。いやー、俺も結構怪我したから、あいつは大丈夫かなーって思ってたんだよ。でも怪我がないなら良かった。よし! じゃあ、聞きたいこと聞けたから切るぞ! あ、あと! 最後に大事な事だから、もう一回言うけど、闇討ちとかはするなよ! 如月の言葉は全部無視していいからな!』
唐突に通話を打ち切ろうとする城守に、思わず鷹一は慌てた。まだ交渉中であったからだ。
(中々、読めない相手だ……)
「ちょ、ちょっと待ってくれ……! 補填の話は、とりあえず、大町が目覚めてから、ということでいいか? 如月とお前は対立しているのか?」
『いや、別にこいつとは対立してねーけど。まあ、今は対立してるか。さっきから、俺の端末、奪おうとしてるし』
その言葉と同時に、通話先から『それお前の端末じゃねーだろ! 大町の端末だろ!』という如月の怒声が、鷹一の耳に届いた。
「そうか……仲が良いのか?」
『おう。ほどほどにな。で、さっきの話だけど、補填とかは別にいい。俺が勝手にやったことだし、特に後悔はしてねーし、大町さんもそういうの気にしないからな。あ、いや? それとも大町さんが補填するように言ってたか? 如月の言葉は無視していいけど、大町さんが言うんだったら、悪いんだけど、払ってくれ。あの人、うちのチームのリーダーだし、まあ、あの人の言葉が、うちのチームの総意ってことになるからな』
「いや、大町からは補填の件は断られたが……ただ、如月の言葉を聞くと、大町チームは学園側から40万ZPを没収されたと聞いている。それにお前たちの治療費が高額であるとも聞いた。雲川の救出費用はとりあえず、棚に上げたとしても、学園の没収額と治療費は流石に払いたい」
これまでの大町・如月・城守、そして自身や反町の考え、匂坂との交渉など踏まえた上で、十分に通りそうである没収額と医療費に、鷹一は焦点を当てた。
『没収の件も知ってたか。確かに、それは俺たちもちょっと痛いとこだけど、でも実際、俺も大町さんも建物壊しまくったから、しょうがないことだと思ってる。治療費は……ん? あれ、如月、話が違くないか? 確か、治療費込みで40万だよな?』
城守は、鷹一の言葉に答えつつも、途中で何かに気付き、近くにいた如月に問いかけた。
すぐに『あー! もう! 馬鹿が! とりあえず黙って端末を返せ!』という如月の声が、鷹一の耳に響いた。鷹一は内心で苦笑した。
(如月も苦労してそうだな……)
『いや、治療費込みだったよな? ちゃんと確認しないとダメだろ』
もはや鷹一とではなく如月と会話している城守に対して、何とも言えない気分になっていると、さらに通話先から低い声が響いた。『おい、脳筋馬鹿、とりあえず、まず保留押せ』という怒りを堪えた如月の声が鷹一まで届き、それと同時に、城守の手により保留ボタンが二度押された。
※
★おまけ? まとめ?
『殺し』について作中で出た情報まとめ
水渕⇒反町を数十人以上殺した殺人鬼だと思っている。一方で鷲島は殺しの経験はゼロだと思っている。※殺人鬼とは思っていないが『危険人物』として、谷崎・青井・西山の三人を挙げている。
大町⇒今まで出会った誰よりも鷲島は『殺し』に慣れていると思っている。
鷲島⇒「殺人経験はない」と発言している。また水渕に対して「殺人鬼が学園にいるとは思えない」と発言している。
谷崎⇒暴力を振るうことで有名。殺人に関しては作中で言及はない。
匂坂⇒殺人に関しては作中で言及はない。また水渕は彼女を『危険人物』と定義していない。
★ちょっとネタバレ(次の試合までのスケジュールについて)
いつも読んで下さってありがとうございます。
更新ですが、たぶんあと2話で乱闘事件関係は全部終わりで、その次の話で合同訓練と休み期間にあったその他のイベントを1話でまとめて、それが終わったら五月第一試合の話に入っていく予定です。
つまりあと4話くらいで第一試合の話に入っていく予定です。
(たぶん準備編1話+対戦チームの作戦会議×3話分やったら試合開始です)
試合をお待たせしてしまってすみません。
今、こっそり雲川チームの試合ダイスをいっぱい振ってます。