学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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安息地はどこにある

 

 

 城守が保留ボタンを押したの見て、如月が小さく溜息を洩らした。これで、とりあえず、城守(目の前の馬鹿)が余計な情報を鷲島に与えるのを防いだのだ。

 

「よし押したな。じゃあ、説明するけど、俺はちゃんと確認してる。分かってて請求額盛ったんだよ! 気付け!」

 

「おいおい! それって嘘、ていうか詐欺じゃねーかよ! 何やってんだよお前!」

 

 当たり前のことを教えるような如月に対して、城守もまた非常識な行いを正すように如月に言い返した。

 

「詐欺じゃねーよ。正当な要求だよ! こっちは肉体だけじゃなくて精神的にも参ってるんだから、それを少しでも回収すんだよ!」

 

「いや、お前、そんなやわな精神してないだろ」

 

 如月が怒り狂う一方で、城守は急に冷静になり、胡乱気に如月を見た。学園に入ってから一か月の付き合いであったが、それでも城守も分かっていたことがあった。如月は図太い人間だということに。

 

「してるっつーの! てかさ、これは重要な交渉プロセスな訳。お前も大町も脳筋だから、分かってないと思うけど、Bランクの維持って簡単な話じゃないからな。俺らのチームは、Cランクに落ちることは十分あるし、その時に備えるためにZPが必要なんだよ。仮に落ちなくても、ZPは金と同じだ。あって損することはない。こういう時にちゃんと回収しなきゃいけないの。分かる?」

 

 如月は、精神性については反論しつつも具体的な説明は避け、一方で利害の話を口にした。

 

「ZPは大事なのは俺も分かるけどよ、だからって鷲島たちから詐欺するのは違うだろ。てか、鷲島たちは払えないだろ。同じBランクなんだから、持ってても精々100万くらいだろ。そんなに回収できないだろ」

 

「それが目的だよ。雲川チームに借金させんだよ。んで、こっちに言うことを聞かせる。定期的に利息って名目でZPを出させてもいいし、厄介な事柄を押し付けてもいい。てか本命はむしろこっちな。谷崎闇討ちもその一つな」

 

 義侠と現実の両方を持ち出す城守に対して、如月は策略で答えた。

 定期的に雲川チームからZPを補給するのも、今後の為に駒を作るのも、どちらも如月にとっては大事な話であった。

 

「いや、だからよ。俺も大町さんも復讐は望んでねーよ。というか、如月、お前だって別に望んでないだろ」

 

 一方で、城守は違った。そういった謀を好まないという気質もあるが、それ以上に復讐を嫌った。不必要なことだと考えていたからだ。

 同時に、城守は、『如月もまた本心では復讐を望んでいない』のではないかと考えた。短い付き合いだが、図太く現実に生きる如月は、復讐などという湿った行為はしないと考えていたのだ。

 そして、その予想は当たっていた。如月も復讐などどうでもいいのだ。ただ、それよりも、もっと大事なことがあった。その為に、さっきの演技が必要だったのだ。

 

――この馬鹿はまったく分かってない!

 

「別に復讐とかそんな浅い話してるんじゃねーんだよ! 安全圏の確保だよ!」

 

 馬鹿なチームメイトへの苛立ちからか、如月は、医療施設内で出すべきではない声を上げた。

 

「安全圏……? え……いや、お前、さっきなんか暗いトーンで復讐みたいな感じのこと言ってただろ……」

 

 突然の如月の声に、城守は若干引きつつも、先程の如月の態度を指摘した。

 

「あれは演技だよ! 鷲島使って、谷崎をボコる。化物には化物ぶつけんだよ!」

 

「いや復讐でも無いなら、何でそんなことすんだよ。もう解決したんだし、別にいいだろ」

 

 きょとんとした風に城守が言葉を口にした。

 城守にとって復讐は望まないことだが、同時に、復讐をする人間の気持ちは理解できなくはなかった。復讐ならば説得して止める必要があるが、そもそも復讐でもないのなら、止める以前に、なぜそんなことをするのか分からなかった。

 チームメイトの顔から何も理解していないことを察した如月は、苛立ちつつ、頭を掻きむしった。

 

「これだから馬鹿は……いいか、今回の件で、俺たちは、谷崎と揉めた。んで、たぶんだけど、谷崎は大して罰則を受けてない。一方でこっちは罰則を受けた。これがどういう意味か分かるか? 俺たちは今、無茶苦茶危ない立場なんだよ。

 匂坂チームはこっちを一方的に攻撃することが学園側から認められてるのに、こっちは防御もできない。しかも最悪なことに、谷崎は性格的にカスだ。今後もこっちを付け狙ってくるだろ。俺たちが学園で平穏無事に暮らすには、あいつに対抗できる駒がいるんだよ。それが鷲島ってわけ。

 まあ、俺としては、鷲島には是非とも谷崎を殺してほしいね。谷崎っていうカスの化物を消せるし、たぶん殺しまでやったら鷲島も学園追放だ。鷲島がいなきゃ雲川チームはただの雑魚。上位ランクの枠を一つ増やせる。まあ、流石に鷲島もそれは分かってるだろうから殺しはしないだろうけど、でも闇討ちぐらいはやるだろ。色々ぐちぐち言ってるけど、アレはむこうの交渉テクニックだよ。最終的には折れるね。そうすれば対谷崎はかなり楽になる」

 

 一つ一つ、子供に教えるように、如月は今後の展開とその対策を口にした。

 説明の最中、城守は黙って聞いていたが、途中段々と表情が強張っていた。

 そして、如月の説明が終わると、すぐに城守は口を開いた。

 

「やっぱ駄目だろ。殺しとか闇討ちとか良くないし、仮に匂坂チームが変な事してきたとしても、それは俺らが解決することで、鷲島にやらせるのは違うだろ。てか、匂坂チームと谷崎が今後もこっちを狙うかどうか何て分からないし、そもそも谷崎が罰則を受けてないってどうして分かんだよ?」

 

 そしてまた、義侠的な視点での態度を示した。

 

「いやいやいや、お前は何を言っているんだ。そもそも、これは鷲島たちの不手際が原因なんだよ。てか、お前のせいでもあるからな。何勝手に谷崎とバトルしてるんだよ」

 

 この如月の主張は、『城守の窮地』の情報を柚木から手に入れてからずっと如月が思っていたことであった。

 城守の行動は、如月からすると下の下の行動であり、あり得ぬ行いであった。

 

「いや、あの状況なら手を出すだろ。てか、俺が手を出さなかったら金崎も雲川もどうなってたか分からないし。普通、やるだろ?」

 

 一方で、城守自身は、自分の行動は問題の無いものだと思っていた。『正しい』とまでは思っていなかったが、『普通のこと』と考えていた。

 なお、当然のことではあるが、見ず知らずの生徒を助けるために、怪物である谷崎に挑むのは『普通のこと』ではなかった。城守も少し一般からはズレた人間であった。

 如月は呆れたように息を吐いた。

 

「普通なら手を出さないね。むしろ俺なら放置する。んで、現場を撮影して、学園と鷲島に後からチクる。Aランクが罰則を受けるか検証できるし、上手くいけば、鷲島と谷崎の共倒れが狙える。まあ、重傷を負った金崎を助けて、鷲島に恩を着せるって形でもいいけどな。どっちにしろ介入しないで、状況の推移を見守って後から利確するのが最適解。介入するのはマジで馬鹿な選択肢。つまり、お前は本当に馬鹿」

 

 チームメイトの言葉を聞いて、城守もまた呆れたように如月を見た。

 

「……なんていうかよ。前から少し思ってたんだけど。お前、ちょっと性格悪くないか? いつもそんな悪い事ばっか考えてたのか?」

 

「性格悪いっていうのは、この学園なら誉め言葉の一種だね。あと俺がやってるのは、悪い事じゃなくて、チームのための戦略、な。うちのチームはただでさえ、お前らみたいな脳筋ばっかりだから、俺が色々やらないといけないの。お前は、俺のやり方が嫌みたいだけど、代案はあるわけ? 言っとくけど、脳死で他人の善意に期待するのは無しな」

 

 表面的には嫌味を込めた言い回しであったが、一方で如月は内心では特に城守のことを悪く思ってはいなかった。如月は如月なりに、気のいい城守に僅かに惹かれている面があったからだ。もちろん、それを態度に出す気はなかったが。

 しかし、その僅かな気配は漏れていて、城守には通じていた。

 ゆえに、城守は如月に対して、誠心誠意自分なりの言葉で伝えることにした。

 

「代案はねーけど、お前のやり方は俺は嫌だし、大町さんも嫌だと思うぞ。てか、皆が皆、お前みたいに考えてるって思わない方がいいぞ。そういう考え方するやつもいるかもしんねーけど、そうじゃないやつだっているだろう。そんで、『そうじゃないやつ』に対して、お前のやり方は『嫌』に映るんじゃねーか? 俺は、そっちの方が危険だと思う」

 

 これは、城守なりに、如月を気遣った言葉だ。如月は危ういと、そのうち、彼の戦略眼が彼自身を危うくすると、城守の直感が告げていた。

 そんな城守の出方に、如月は内心で舌打ちした。

 

(この馬鹿。馬鹿のくせに変なところで頭が回る。論破してやってもいいけど、それはそれで今後の俺の動き方が制限されるな。ていうか、さっさと鷲島から利益を取りたいし、適当に丸め込むか?)

 

「お前が嫌なのは分かったけど、『嫌』って理由だけじゃあ、俺はやり方を変えるつもりはないね。あと、お前は大町のこと尊敬してるみたいだけど、あの人、お前が考えるような人じゃないよ。必要であれば、俺の意見でも受け入れる。てか、そうじゃなかったら、そもそも俺が大町チームにいるはずないだろ」

 

 この如月の言葉――大町の人物像について、は城守にとって触れられたくないところであった。

 城守は、大町を尊敬しているが、一方で、どこか彼女に違和感を覚えていたのは事実であったからだ。

 

「……それは、……いや、まあ俺とお前の中で、大町さんのイメージが違うのは分かった。でもよ、結局、外から見てどう思われるかだって重要だろ? お前の考え方が『嫌』って思うやつが沢山いたら、不味いだろ。だから、鷲島たちを変に嵌めようとかしない方がいいだろ。無意味に敵を作ることになる、だろ?」

 

「はぁ……ちょっとは頭働かせたみたいだけど、まだ頭の中ふわふわだな。お前と同じくらい頭がお花畑で動いてるチームって、上位だと麻倉チームだけだからな。ま、あそこは、そんなんでもBランクトップになれちゃうくらい頭おかしいチームだから例外だし、俺もあそこのチームと関わる時だけは『良い人』のふりするよ。

 だけどな、Bランク以上のチームは基本的に、戦略――お前が言う『悪い事』ばっかり考えてるからな。柚木にしろ、神岡にしろ、鷲島にしろ、舞島にしろ、立花にしろな。お前も好き嫌いじゃなくてそういう立ち回りを少しは覚えろよ」

 

 如月が出した五人の名前。城守にとって神岡以外の四人は知り合いであった。そして、城守は、全員を憎からず、いやむしろ、比較的好意的に捉えていた。

 一方で、如月は、この五人は十分に戦略に通じている人物であり、隙あらば他者を追い落とすことに躊躇いが無い生徒たちだと認識していた。

 

「…………いや、やっぱり納得できねぇわ。舞島も、立花も十分良い奴だし、まあ、鹿子田とかちょっとよく分かんねーけど、それでもあいつらは普通に良い奴だったし、柚木もそんなに悪い奴じゃない。それに、まだ少ししか話をしてないけど鷲島は普通に良い奴な感じがする。大町さんも鷲島のことは『すげー奴』って言ってたしな」

 

 一方的にそう告げると、城守は、保留を解除しようとした。

 

「いや、だからさ、っておい! 保留を解除するな!」

 

「ん、あれ? まあ、いっか……」

 

 保留の解除に違和感を覚えつつも城守は、鷲島へとの通話を再開するのであった。

 

 

 

 

『悪いな、待たせた。ちょっと如月と話し込んじまって』

 

「いや、それは構わないが……」

 

 鷹一は内心で戸惑った。なぜなら、鷹一はずっと、城守と如月の会話を聞いていたからだ。

 これは、城守が、間違って保留を二回押したせいで、ずっと通話が繋がったままになっていたためだ。

 

『ああ、それで、まあ、色々あったけど、補償とかは別にいいから。あんま、気にすんな』

 

 気に良い城守の言葉が、ますます鷹一を気まずくさせた。

 先程までの城守と如月の口論を聞いているが故だった。

 

「いや、それは……そうだな……お前の気持ちはとても嬉しい。だが、そうだな……一旦、如月に代わってくれるか。もしかしたら、少し良い話ができるかもしれない」

 

『それは構わねーけど、こいつ今ちょっと気が立ってるから、あんまり良い話にはならないと思うぞ』

 

「いや、たぶん良い話になる。大町チームにも雲川チームにも多少得になる話だ」

 

 鷹一は正直に考えを打ち明けることにした。

 

『そうか? 分かった、それなら代わる』

 

「ありがとう」

 

 通話先で少し揉めるような会話が聞こえた後、再び如月の声が響いた。

 

『んで、何だよ、話って? 闇討ちの詳細条件の確認か?』

 

 再度交渉のテーブルに着くや否や、如月が先程の続きを始めた。

 鷹一は、如月の苦労を感じつつも、真っ正面から提案を出すことにした。

 

「いや、違う。そうだな……俺は(はかりごと)が苦手だから正直に言おう。お前と城守の会話が聞こえていた。たぶん保留を押し間違えたんだろう。それで、その上で話があるんだが、お前の望みとしてはZPの補填と、谷崎の脅威を排したいんだな? それで、城守としては雲川チームからZPを回収したくない。この三つを同時に満たす考えがあるんだが、説明していいか?」

 

 淡々と告げる鷹一に対して、通話先で如月が混乱した。

 

――城守の失態、どこまでこちらの手が露見したか、交渉の拮抗点の変化、チームの損得、様々な考えが如月の頭の中を巡った。

 

 しかし、すぐに答えなければ不利になると気付き慌てて如月は言葉を作った。

 

『っ! ……っ! ……分かった。とりあえず、言ってみろ』

 

「色々あって、今回の件で匂坂と話し合う場を作れた。恐らくだが、匂坂からある程度はZPを引っ張ってこれると思う。とりあえず、お前たちの罰則分と医療費の40万ZPなら引っ張れるだろう。勿論、それ以上を望む手もあるが……恐らくだが、谷崎の脅威に関しての話もできるんじゃないかと思っている」

 

 再度、淡々とした殺人鬼を思わせる冷たい声が如月の耳に響いた。

 

『それは、つまり、40万で諦めれば、谷崎がこっちを襲わないようにできるってことか?』

 

 探るように如月が言葉を返した。

 

「必ずしも、その条件で、とは言えないが……谷崎が大町チームに攻撃しないように約束することはできると思っている」

 

『……その、『攻撃しないように』っていうのは、試合以外での一切の干渉をできなくするって意味でいいか? あと、谷崎だけか? 言っとくけど、谷崎は封じたけど、今度は匂坂が来るとかなったら意味ないぜ?』

 

 如月は用心深く、大事な見落としをしないように気を付けた。この交渉が大町チームの今後を決めると、感じ取ったからだ。

 

「匂坂も条件に含めよう。それと『攻撃できなくする』の定義は、試合外での暴力行為の禁止という意味だ。それ以上のことは約束するのは難しい。というより、恐らく、俺が感知できない。暴力よりも条件を難しくすると、最悪、大町チームの方が不利な可能性もある」

 

『……、……確かに、それもそうか。そうだな……分かった。その条件で飲もう。匂坂チームから40万、それと谷崎と匂坂の大町チームへの暴力行為の禁止。それができるなら、雲川チームには請求はしない』

 

 僅かに悩んだ後、如月は決断した。

 

「分かった。その条件を通せるように匂坂と交渉しよう」

 

『一応言っておくけど、これはこっちが出せる最大限の譲歩だからな? それを忘れんなよ』

 

 そう言うと、如月は通話を切った。如月にとってギリギリ満足できるラインの交渉ができ、そして、これ以上引き延ばせば、城守が何をするか分からないと感じたからであった。

 

 鷹一は、何とか殺伐とした話を乗り越えることができ、ほっと息を吐いた。

 

 それから、水分を摂取し、気持ちを切り替えてから、再度反町に連絡を入れた。

 彼女に、大町チームとあった出来事について報告し、また如月との契約条件についての確認も行った。

 いくつか反町からアイディアを受け取った鷹一は、最後に彼女から『匂坂の連絡先』という恐ろしいモノを入手した。

 

 反町との通話を終えた鷹一は、匂坂の連絡先を見て、溜息を吐いた。

 再度水分を取り、気持ちを整え、その後トイレに一度行き、さらにトイレを出た後、もう一度水分を取り気持ちを整えてから、端末を握った。

 そして、鷹一は勇気を胸に、匂坂へと通話を入れた。

 なお、非通知発信であった。

 

 

 

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