学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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ちょっと苦手な人たち

 

 鷹一から匂坂への非通知発信(臆病な通話)は、僅か1コールで繋がった。

 

『匂坂です。鷲島君ですか?』

 

 淀みなく匂坂が問いかけた。非通知発信から1コール、そして、返答の時間。合計して、10秒と満たない間であった。

 

(なぜ分かる……)

 

 鷹一は、非通知発信したにも関わらず、僅かな時間でこちらが誰かを言い当てた匂坂に恐怖を感じた。

 

「あ、ああ……そうだ。よく分かったな……」

 

 少し引きつった鷹一の言葉が漏れた。

 

『フフッ、鷲島君のことなら何でも知っていますよ?』

 

 粘着質のある声が耳を撫で、そこから、匂坂の笑みを想像してしまい、鷹一は嫌な気分になった。

 

「そ、そうか……もしかしてだが、俺が連絡した理由も分かっているのか……?」

 

『フフッ………もちろん、と言いたいところですが……その前に……』

 

 そこまで言うと、匂坂は一度言葉を切った。そして一拍置いて、再び言葉を紡ぐ。

 

『昨日は、私の部屋に来ていただけるというお話でしたが……あの時は、谷崎さん止めることを優先するということで、話を先送りにしました。しかし、どうして、その後、連絡がなかったのでしょうか? 必ず、と約束して下さったと思うのですが……』

 

 じわじわと何か黒いモノがしみ込んでくるような光景を鷹一は幻視した。

 

「それは……すまない、事件後で色々と立て込んでいてな……」

 

『立て込んで、ですか?』

 

「あ、ああ……」

 

 聞き返す匂坂の声に当てられ、鷹一は恐る恐る頷いた。

 

『フフッ……フフフ……、興味深いですね。鷲島君にとっては、飛山さんと一緒に遊ぶことも立て込んだ内容なのでしょうか?』

 

 粘着質な声が鷹一に絡みついた。鷹一は嫌な気分になった。

 

「……なぜ、飛山の名前が出る……?」

 

『惚けてはいけませんよ? 私は鷲島君のことなら何でも知っていますから。昨日、高級スパで仲良くしていたのも知っています。残念です。できれば、私が一番に鷲島君をお誘いしたかったのですが……飛山さんに先を越されてしまうとは。やはりスピードでは彼女に敵いませんね』

 

 匂坂の声音は蠱惑的で絡みつくようなものであったが、飛山の名が出た時だけは、少しだけ違う調子であった。そこには僅かな感心と自嘲の色があった。

 

「……それは、そうかもしれないな。お前は生徒としてもリーダーとしても優秀だが、機動力の面では飛山が勝るな」

 

『鷲島君、話をそらしてはいけませんよ? 昨日飛山さんと一緒に遊ぶ暇はあったのに、私との約束は守って下さらなかったのですね……』

 

 少し恨めしそうな匂坂の声――いつもより粘性が少なく、いじけているような声であった。もしかしたら、見方によっては可愛らしい嫉妬のようなものであったかもしれない。しかし、鷹一はそうは感じられなかった。純粋に、恐怖を感じた。

 

「それは……そうだな……まず、認識が違うと俺は思っている。飛山の件は以前から約束していたものだ。飛山はお前と同じでAランクのリーダーだ。つまり忙しい。そう何度も予定を変えることはできないだろう。だから、昨日は飛山を優先した面はある。だが、お前も知っての通り、俺はBランクの一選手に過ぎない。Aランクのリーダー相手に強気に出れないというのもあるな。

 それと、お前との約束に関してだが、それは『今』果たしている。といより、この通話も、そのためのものだ。お前と、あと……谷崎、いや、まあこの辺りは谷崎の考えもあるから勝手に詰めるべきではないかもしれないが、お前と俺と、あと場合によっては谷崎を含めた三人で会う予定を決めようと思ってな。それで、『今』通話している。昨日は俺も冷静ではない面があった。大事な予定はそういう状態で決めるべきではない。そう、大事な予定。俺はそう思っている。

 だが、お前が俺の態度を不快に感じ、一緒に会うべきでないと今考えているならば、それで構わない。俺としては、お前に強要するつもりはないし、実際強要できる立場にないからな。それで、どうする、お前の部屋で会うという約束だったが、その予定を詰めるか? それともこのまま通話を切るか……? 俺はお前に合わせるぞ」

 

 鷹一は、恐怖からか、やや早口にまくし立てた。飛山との件や、昨日の匂坂との連絡の続報を行わなかった点に関しては押し流したかったのだ。

 

『フフッ、そのように言われてしまっては、私は鷲島君の言うことを聞くしかありませんね。交渉――いえ、『強要』がお上手です。そういうところも尊敬しています。鷲島君』

 

 どこか嬉しそうに、匂坂が答えた。

 

「……そうか。それじゃあ、話を進めていいか?」

 

『ええ、鷲島君の尊敬できる面をまた一つ知ることができたので、飛山さんの表情をぐちゃぐちゃにするのは、しばらくは保留にしますね?』

 

 問いかける鷹一に対して、匂坂は意味深な言葉を残した。

 これは効果があった。

 

「……ぐちゃぐちゃ、というのはどういう意味だ……?」

 

 通話先で匂坂が笑みを作った。

 

『どういう意味でしょう? 恐怖か、絶望か、解放か、はたまた悦楽か、どれかは分かりませんが、偽りの顔ばかり向ける飛山さんの表情はいつか壊してみたいと思っています』

 

「あ、ああ、そうかそっちか。それなら構わない。あ、いや、違うな――できれば、あまり争って欲しくはないが……お前と飛山の問題だ。大事にならなければ、俺は干渉しない」

 

 鷹一は、これ以上誘い込まれないように、一度話題を切り、本題に戻そうとした。

 しかし、匂坂は許さなかった。

 

『フフッ……鷲島君は、いったい、ぐちゃぐちゃという言葉をどういう風に解釈したのか興味がありますね』

 

「いや、誤解というか、ただの勘違いだ。気にするな。それより話を進めて良いか?」

 

 追撃してくる匂坂を防ぎつつ、鷹一は必死に脇道から本筋に戻ろうとした。

 しかし、匂坂は回り込んだ。

 

『話を進めたい気持ちはとてもあります。ですが、『ぐちゃぐちゃ』の話をしたい気持ちもあります。鷲島君は一体、私が飛山さんをどうすると誤解したのでしょうか? それと、もしその誤解が成り立てば、鷲島君は『大事になった』と判断して私と飛山さんの関係に干渉するのでしょうか? 興味があります。答えて頂けますか?』

 

 うきうきとした匂坂の声音に、鷹一は嫌な気分になった。

 

「いや、本当に済まない、匂坂。本当に俺のただの勘違いだ。下衆の勘繰りと言ってもいいかもしれない。やはり、俺は所詮リーダーに選ばれなかった程度の器の持ち主だ。お前や飛山のように大局を見ることはできないのだろう。そう言う意味では、本当にお前たち二人の事は尊敬している。ああ、そうだな。済まない話が逸れた。それで、今度、お前と谷崎と会うという話を進めて良いか?」

 

『鷲島君のお考えを聞きたかったのですが……どうやら、だいぶお話したくない内容なのですね。それでしたら構いません。私は鷲島君に無理強いしたいとは思っていません。私は鷲島君に敬意を払っていますから。飛山さんや反町さんとは違います』

 

 匂坂の口から出た名前――飛山・反町に関して、鷹一は気になったが、これを指摘するのは厄介なことになりそうだと考え、触れずに話を進めることにした。

 

「そうか。それなら話を進めるが、何時会う? できるだけ時間は合わせるようにはするが……ただ、すまない。今日は少し忙しい。できれば明日以降で頼む」

 

 梶田チームとの懇談会と行動訓練、安重と乾との交流、やるべきことで詰まっていた。

 

『本当は今すぐがいいのですが、あまり我儘を言うと鷲島君を困らせてしまいますね……では明日の午後はどうでしょうか? 谷崎さんも交えて、のんびりと過ごしませんか?』

 

(匂坂と谷崎、まったく『のんびり』できないメンバーだが……流石に、殺されたりしないよな……?)

 

 内心で警戒しつつも、鷹一は勇気をもって、提案を受け入れることにした。

 

「明日の夕方だな。分かった。出席者は俺とお前と谷崎だけか? あと、場所はどうする? 以前、お前の部屋と言っていたが、それはそのままか?」

 

『ええ、私の部屋に。ぜひ鷲島君をお招きしたかったですから。こちらの参加者は私と谷崎さんだけですが……もしお望みなら、山見さんや石河さん、あと星川チームの皆さんを呼ぶこともできますよ。どうしますか?』

 

 続く匂坂の言葉が、再び鷹一を悩ませた。

 

(匂坂の部屋に、匂坂と谷崎と三人というのは危険だが……かといってあちらの息がかかった人間を追加で用意するのも……以前、寿司屋での事を考えると、山見は少し信用できそうではあるが……安全のために呼ぶか……? いや、それはそれで、少し山見に悪いな……俺の不始末と言えなくはないし、巻き込むのは止めておくか。星川チームは……交流が無いし、出方が読めないな。こちらも止めておこう)

 

 寿司屋での出来事――匂坂が金崎に魔力を当てる嫌がらせをした際、山見がそれを庇ったことや、山見が金崎に射撃のコツに関して丁寧に教えていたことを、鷹一は思い出したのだ。

 

「いや、特に呼ぶ必要はない。お前と谷崎と明日話そう。実りある……いや、違うな。互いに平和的に、相互理解ができることを願っている」

 

『フフッ……私も同じ気持ちです、鷲島君。明日の話し合いで、私や谷崎さんに向ける誤解が解けることを願っています』

 

 鷹一は匂坂の言葉に『平和的』という単語が抜けていることが気になった。

 

「ああ、明日は平和的に話そう。それじゃあな」

 

『ええ、明日を楽しみにしていますね?』

 

 そうして、鷹一と匂坂、新入生きっての怪物二人の通話は終了した。

 鷹一は、一度大きく息を吐き、それから飲料を口にした。

 何度かその行為を繰り返し、ようやく気分が落ち着いたのを確認した後、次の相手へと通話をかけた。

 Bランク20位のリーダー、柚木であった。

 鷹一は、以前、柚木にも勧誘されていたため、その縁で、連絡先は所持していた。

 数コールしてから、柚木は通話に出た。

 

『あ~、もしもし、天才リーダーの柚木さんです。鷲島君ですか~?』

 

 どこか人をおちょくっているような声が端末から聞こえた。

 

「ああ。そうだ。柚木。昨日ぶりだな。再度になるが、昨日は助かった。それと少し話したことがあって通話を入れた。今、大丈夫か?」

 

『いえいえ。昨日のことは構いませんよ。同じBランクの仲間です。あ、ついでに敬意を払って、柚木さんのことは、柚木さんと呼んでくれても構いませんよ』

 

 どこかうきうきとしながら、柚木が答えた。

 

 鷹一は、柚木の要望には答えずに話を進めることにした。

 

「そうか助かる。話だが、昨日の罰則の件だ。俺のチームは昨日の暴行事件に関わったということで学園側からZPを一部没収された。それで、お前のチームがどうなっているか聞きたくてな。元の原因は谷崎にあるが、俺のチームにも問題はあったと思う。もし、罰則があったら、それをこちらで補填できるかも聞きたい」

 

『お~、中々気が回りますね。やっぱり鷲島君は結構頭使うタイプですね。いいですね、柚木さんそういうの好きですよ。力押しだけじゃない生徒は好きです。で、そうですね。まあ正直に言うと、こちらも罰則を受けました。なんかアホみたいな文言で5万ZP没収とか言ってました。文言にツッコミどころ抜群だったので、学園に凸したんですけど、残念ながら門前払いでした。いや~、あの連絡対応の人、煽り耐性高いですね』

 

 どこか不完全燃焼気味に柚木が答えた。もっと学園側を煽って出方を窺いたかったのだ。

 なお、鷹一は、学園側に僅かに同情した。

 

「そうか。5万か……こちらが補填した方がいいか? その額なら、俺の手持ちでも十分出せるが……」

 

『んー、そうですねー。というか、これちょうど良いんで、ちょっと別の話してもいいですか? あ、先に言っておくと、5万の補填は良いです。柚木さんも谷崎さんを煽れて満足したので、5万くらいなら全然です。むしろ色々やっても5万で済んだって情報が得られたのは良かったです。ただですねー、ちょっと乾さんからレンタル彼女代20万が請求されちゃってるんですけど、こっち補填して貰っていいですか?』

 

「レンタル彼女代……? いや、というより乾か……安重チームの参謀役だったな。なぜ、乾の名前が出る?」

 

 鷹一は疑問を抱きつつも、脳内に、安重チームの選手を思い浮かべた。

 

『お! 鋭いですね! 乾さんは参謀役ですけど、あの人、凡人オーラが凄いので全然参謀に見えないと思うんですけど、何で参謀って分かったんですか?』

 

 一方で、柚木は、感心したように声を上げた。柚木は同盟相手である安重チームと交流を持っており、特に参謀役である乾とはよく言葉を交わしていたのだ。しかし、外部の人間である鷹一が、安重チームでの乾の役割を言い当てたことは、柚木にとって興味深い点だった。

 

「今までの試合の動きだ。盤上や視点を整理すると、乾が通信担当と作戦担当を担っている可能性が高い。あと……少し言い方が悪いが、安重の性格と安重チームの構成を考えると、乾が戦闘力以外で貢献していると考えるのが自然だ」

 

『あ~、分かります! 分かります! あの人、あんまり動けないですもんね。頭脳派(笑)って感じでっ……! いや~、この学園だと参謀キャラでもちゃんと戦えないといけませんからね! 胸にばっか栄養行ってるヤツはやっぱりダメですね……!』

 

 鷹一の濁した表現から、言いたい事を読み取った柚木は、堪えきれぬと笑い出した。

 

「そうか。それで、乾の話がどう絡むのか聞いていいか?」

 

『いや~、昨日は言わなかったんですけど、実は谷崎さんを止めるのに乾さんの力を借りたんですよね。まあ、正確に言うと、水原さんと竹中さん、あとうちのチームの七夜さんにお願いしました。それで、乾さんからは水原さんと竹中さんに報酬を支払いたいので10万ずつ寄越せって言われたんですよ。これ払ってもらえませんか? あ、うちのチームの七夜さんの分はいいです。ツケにしておきますよ』

 

「20万ZPか……確かに昨日の件で必要だったならば正当か……分かった、用意できないか交渉してみる」

 

 鷹一は、少しだけ悩むが、すぐに必要だったのならば仕方がないと受け入れた。勿論、内心では、匂坂相手の交渉内容が増えることに、気の進まなさを感じていた。

 

『あ、ちなみに、ですけど、乾さんから割引条件も聞いています。てか、割引って言うより全額免除の条件です。聞きますか?』

 

「それは、乾がお前に出した条件か? それとも俺に出した条件か?」

 

 柚木の問いかけに対して、素早く鷹一が反応した。

 

『お! 鋭いですね。答えは、柚木さんを経由して鷲島君に出した条件ですね。乾さんは、柚木さんにした請求を鷲島君が肩代わりするだろう、と読んでいたみたいですね。いやー、あの人凡人ですけど、『読み』結構あたるんですよね~』

 

「そうか……ちなみに乾が俺に出した条件は何だ?」

 

『今日の夜、直接会うことらしいですよ。つまり逢引ですね。いやー! モテる男は辛いですね~!』

 

 煽り言葉を無視しつつ、鷹一は思考を回し、結論を出した。

 

「会えなくはないが……、……そうだな、確かに会うことは問題は無い。分かった会おう」

 

 乾に対して警戒心もあったが、しかし一方で、鷹一は安重とは現在もパイプを持っていた。それ故に、そこまで乾を危険視していなかった。

 

(念のため、あとで安重に『乾と会ってよいか』連絡しておこう。安重に止められたら、話を無かったことにしよう)

 

『お! 流石! 女性リーダーと会いまくってる人は違いますね! 今度は女性リーダーだけじゃなくて、参謀もやっちゃいますか? 頭脳派も食っちゃいますか……!?』

 

 鷹一の答えを聞くと、柚木の煽り精神が発揮し始めた。

 

「柚木。再度言うが、昨日はありがとう。それと、乾の件も伝えてくれた助かった。今後、お前とお前のチームの健闘を祈る」

 

 急に締めの言葉を言い始めた鷹一に対して、柚木は素早く追撃に出る。

 

『おおっとー? 無理やり切る流れに持って行きますね。プレイボーイなことは秘密でしたか? 安心して下さい、柚木さんは秘密を守ります。それに英雄色を好むと言いま――』

「――柚木、今日はありがとう。試合ではマッチングしたらよろしく頼む。それじゃあな」

 

 柚木の言葉を全て聞く前に、鷹一は必要な事項を口にし、通話を切った。煽り合戦では柚木に勝てないと悟っていたからだ。

 それから、柚木が何度もメッセージを飛ばして来るのを適当にいなしながら、鷹一は次の通話の内容を組み立てるのであった。

 

 

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