それは偽善と言えるのかも知れませんが。
その行動によって救われる存在は確かにいるのも事実なのです。
一月もすると、青年はすっかりすっきりした顔になっていた。小太りなのは代わらないし。相変わらず世間的には「不細工」とされる顔なのだろうが。
環境が激変したからである。
まず両親は青年をきちんと人間扱いするようになった。
まあこれは当然だろう。
父親は詰められたのだ。
あの子が文章を書いていることを知っているか。
あの子の文章は、組長が大好きでな。
お前みたいなクズが、あの子を傷つけていると知って。組長はお前を沈めろと本気で怒っていた。
だけれども、俺が何とか取りなしてやった。
今後は心を入れ替えてあの子に優しくしろ。
監視カメラとか色々つけてあるし、あの子には話を何時でも聞けるようにしてある。
もしも何かしたら、秒で分かるし。次は庇いきれない。
覚悟しておけ。
そう、二次団体の組長が告げるだけで。
青年の父親は震え上がって、以降は青年に対して引きつった笑みを浮かべながら、機嫌を伺うようになった。
母親も妹も似たような状況だ。
家族が自分を虐げなくなった。
そう、本当に泣きながら言う青年。この青年が、文章をネットに上げているのは事実だ。
ルシファーも見たが、小説では無くて一種のコラムである。
とにかくよく勉強して、丁寧に文章を公正に書くように心がけている。
題材そのものはそれほど重大なテーマではないが。今ではすっかり絶滅してしまった本物の記者の魂を感じる立派な文章だ。
信用が地獄まで墜ち果てた現状のマスコミとはレベルが違う。
感心したほどである。
泣きながら喜ぶ青年に、同じようなコラムを書いて楽しませてほしいと告げると。大喜びでコラムに取りかかる。
その間に、ルシファーは学校の状況を改善した。
まず虐めに積極的に荷担していた数人の生徒をピックアップ。
全員を排除した。
別に殺す必要はない。
近年日本にも輸入されているスクールカーストという概念は、ルシファーでも鼻をつまむレベルの邪悪な代物だが。
これを壊すのは、実の所簡単なのだ。
虐めを主導していた何人かの生徒に、他の学校の不良生徒をけしかけるように誘導。大乱闘事件を起こさせて、そのまんま少年院送りにした。
そもそも影で大麻をやっていたような連中である。
一度警察の世話になれば、後は出るわ出るわ。
一人は警察のキャリアが親にいたが。ついでなので。そのキャリアも首にしてやった。まあ叩けば埃なんて幾らでも出るので。
後ろ盾がいなくなれば脆いものだ。
虐めを主導していたカースト上位の連中がいなくなれば、一瞬でスクールカーストなんて瓦解する。
次はクズ教師だ。
これについては、学校に抜き打ちの監査を入れた。
近年は学校関連の不祥事が相次いでいることもある。
実績を上げたいと考えている教育委員会の一人をそれとなくたき付け。
後は抜き打ちの検査で、ボロボロと同例の事件が出た。
小太りの青年を痛めつけていた教師では無いが、気弱な女子生徒を強姦していた奴までいたほどで。
何人か逮捕され。
校長は首になり。
何故か全国紙は一切報道しなかったが。
ともかく教師が何人か入れ替わって。それで青年の周囲を取り巻く環境がどんどん変わっていった。
そして決定的なのは、青年の書いたコラムが有名になった事だ。
あるαネットユーザーが取りあげて、それで爆発的にアクセスを受けたのだが。
元々記事の内容が素晴らしく良い、という事もある。
あっというまに支持を受けて。青年は自信を取り戻した。
一月で、別人のように雰囲気が穏やかになった青年を見て。ルシファーは安堵した。
彼を何重にも縛り付けていた理不尽は。
全て粉砕したのである。
そして舐められないようにする結界は今後も展開しておく。
それだけで充分だろう。
この青年は、それだけのスペックを隠し持っている。
腕力は弱いかも知れないが。
そんなもの。
ルシファーから見れば、人間なんてどれも似たようなものだ。たまに例外がいるが、そんなのは億人単位に一人もいない。
青年に何度も頭を下げられる。
「ルイさんには本当にお世話になりました。 僕、なんとお礼を言えばいいのか……」
「まず、君はそのコラムを書ける能力を生かして、早めに独立しなさい。 独立の支援は、僕の友人からさせよう。 でも、独立後は君一人でやっていくんだよ」
「はい、分かっています」
「では、契約を一つだけしたい」
契約。
悪魔にとって絶対のものだ。
羊皮紙なんて今時使わない。
手元に出現させたのは、電子データ。要はスマホである。
そして直接思念に契約内容を送り込む。
嘘をつくつもりはないし。
魂とかを取りあげるつもりだってない。
ただ、今後。
必要な時に、青年の姿と人格を使う許可をほしい。それだけのことだ。
それ以外のペナルティは一切無い。
しかも青年が生きている間は使わない。
なんでそれだけのためにこんなことをするのか。
それは、神の理不尽と無能を知らしめるためだ。
このような姿は、既に2000を超える数持っている。老若男女様々だ。
その全てが理不尽に虐げられ。放っておけば殺される者達ばかりだった。
たった1500年、気まぐれにその辺りをうろつくだけで。2000を越える理不尽に泣く魂を見かけたのだ。
どれだけ唯一絶対を自称する神が無能なのかは明らかだ。
それを証明するためだけの儀式である。
「ルイさんにはお世話になりました。 僕の姿なんかで良ければ、いつでも好きなように使ってください」
「ありがとう。 君のコラムが本当に良いのは確かだよ。 それについては、この私が保証する。 君の最初のファンかどうかまではわからないがね」
「本当に、その言葉にどれだけ救われるか……」
「ああ。 それでは失礼するよ」
あの青年は、神が言う本当に善良な魂の持ち主だ。
それが試練と称して此処までの理不尽を味合わされ。そして死ぬ寸前まで追いやられた。
本来だったら、あの青年を救うのは神か、もしくはその手先たる天使達の仕事だっただろうに。
連中は人間の信仰心をかき集めることに夢中で、それ以外には興味が無い。
特に弱者がどれだけのたれ死のうと、どうでも良い様子だ。
それが、可能性を模索するルシファーには気にくわない。
もっと世界に丁寧に干渉して。善良な人間が救われるようにしてやれば。少しはこの世は代わるだろうに。
青年の背中には、敬意の視線を送る。
あれだけの環境でも。小太りで醜いかも知れないが。あの青年は歪まずに。今後腐る事無くやっていける。
それは魂がそうだと証明している。
だが、あの青年の周囲の環境は徹底的に軽蔑する。
あの青年が独立し次第、両親は何処かに埋めてしまうとするか。後妹の方も、なんか強烈な性病かなんかにして。一生苦しむようにしてやろう。
クソ教師はもう社会的に死んだ。
同級生のアホ共は、何かの抗争か何かに巻き込まれた体で全員あの世行きにしておこう。それくらいはしても良い筈だ。
何故か。罰するべき存在を。神が罰しないからである。
小太りの青年を救った後は。
また別の姿になって、街を歩く。
今度は小柄なメイドの姿だ。
メイドカフェとかにいるのでは無くて、実際にメイド。要するに家庭用の奴隷として働いていた者だ。
善良な心の持ち主で。近眼で小柄でドジだったけれど。心はとても美しかった。
それなのに酷く虐げられていたので救った。
結果として大恋愛の結果夫と結ばれ、たくさんの子宝にも恵まれて、幸せな人生を送った。
神が興味すら見せなかった、美しい魂の物語である。
そんなメイドの姿のまま、その辺りを歩く。
なお、このメイドは滑舌もちょっと良くなかったので。名を「さいふぁー」と呼ぶようにしている。
ちょっと頭が悪そうだが。
別に気に入っているのでそれでいい。
そして小柄であることが逆に戦闘力を圧縮できるため。
実はこの姿を戦闘形態にすることは、ルシファーは多かった。
まあ今日は誰かと戦うつもりでこの姿をとっているのではない。二千以上ある姿の何かを、いつも適当に使っている。
それだけである。
側に降り立つ気配。
魔界の重鎮。ハエの魔王こと、ベルゼバブだ。
此方は最古の神であるバアルを一神教が貶める事で誕生した悪魔であり。その実力は文字通り激甚。
もっとも高名な悪魔の一柱だろう。
なお、普段は太ったおっさんの姿をしている。
世界的に展開しているマフィアのボスを任せている事もあって。ナマズ髭のこの姿がむしろ似合っているのかも知れない。
このマフィアは手駒の一つだが。
基本的に善良な魂が虐げられているとき、搦め手から救うときに使う事が多い。
先にも使用した。
このため、「時々何故か凄く良いことをするらしい」という変な噂が立っているそうである。
まあどうでもいいことだが。
「此処におられましたか閣下」
「いつもの散歩だ。 それでどうした」
「はあ。 幾つかの報告を受けまして。 また例の戯れですか」
ぽんとベルゼバブのおなかを小突く。
それだけで、ベルゼバブの腹は大砲でも直撃したように凹み。大量に吐血するハエの魔王。
勿論ルシファーは笑顔を崩さない。
「私がどういう目的で動いているかは何度か話したはずだ」
「し、失礼しました。 確かに無能な神に対する冒涜になっているかと思います」
「分かればよろしい」
すっと手をかざすと。
ベルゼバブの体は回復していた。
まあこのくらいはじゃれ合いである。
「神の理不尽を知らしめるために、あえて人を救うですか。 大魔王としては、なんとも奇妙な行為だと、側近の皆が不思議がっているのは事実でして」
「だが事実、私が適当にふらついているだけで既に本人同意で取る事が出来る様になった姿は二千を超えている。 この姿の中には、歴史的な偉人だって珍しくは無い」
「確かにそれはそうですが……」
「神がもう少しやる気を出してきちんと世の中を公正にしようとすれば、私の姿はこうも増えなかっただろうよ」
なお、先からベルゼバブにはかなり硬い口調で話しているが。
これはあくまでルシファーとしての会話だ。
ルイ・サイファーとしての言葉では無い。
部下と上司のけじめくらいはつけている、ということである。
「この国には、かなり手練れの悪魔使いがおります」
「ああ、何度か顔を合わせたことも手合わせをした事もある。 私を負かした奴すらいるから、なかなか侮れないな」
「分かっているのであれば、別の国で似たような事をしてみては如何でしょう」
「考えておく。 それよりも、お前もきちんと自分の仕事は果たすようにな」
礼をすると、ベルゼバブはその場から消えた。
小さくあくびをすると、小柄なメイドさんらしく、ひょこひょこと可愛らしくルシファーは歩く。
このもとの姿の人は、こんな風に歩いていたっけ。
ただ小柄だったから、子供が出来てからは背負うのとかに苦労していたようだったけれども。
ただその時には、周囲が色々補助をしていた。
だからそれでよかったのだろう。
さて、周囲に理不尽の気配はないか。
ルシファーが探すのは、あくまで理不尽に虐げられる者。理不尽に虐げられる美しい魂。
1500年探して二千ちょっと。
だから、一年に一つちょっと見つかれば良い方。
そんなにぽんぽん見つかる訳では無い。
それに、ルシファーとしても仕事は他にもあるのだ。
別に此処だけを見て回るわけにもいかない。
アイス屋に入ると、適当に頼んだアイスを楽しむ事にする。
出て来たアイスは、明らかに小さくなっていて。不況の影響が露骨過ぎる程に分かる程だった。
でもおいしいから良いとする。
しばらくアイスを堪能すると。
きっちり会計を済ませて、ルシファーは日本を後にしていた。
魔界に戻ると。
六枚の翼を持つ大堕天使の姿にルシファーは戻る。
それを見て、悪魔達はルシファーを讃える。
おお、我等が金星。
我等が明けの明星。
我等が希望、と。
地の底に貶められた神々の中には。本来の信仰が既に失われてしまい。悪魔としての姿しか残っていない者もいる。
ただ、古代の信仰は基本的に生け贄を要求する物が多かったし。
何よりも、より人間の根源的な欲求に忠実だった。
人間社会が成熟した場合。
たとえあの唯一神が最大影響力を持っていたとしてもそうでなかったとしても。
いずれは形を変えていっただろう。
それに、一神教とは関係無く、信仰を失った神も存在している。
そういった神々は、魔界でまた独自の勢力を構築していて。
ルシファーはそれらとは、また一勢力の長を相手にする形で。話をしに時々出向くのだった。
ただ。こうやって時々魔界を飛んでやると。
悪魔達はそれだけで勇気づけられるようなので。ルシファーはたまにこうして飛んでやる。
悪魔はそれで随分と本分を越えた悪事をしないようになる。
簡単に言うと、混沌ではあっても統制はしやすくなる。
完全な混沌なんてものがあったら。それはそもそも魔界という単位すら成立しないだろう。
だから混沌には混沌の英雄が必要なのである。
ただ、それは下衆である事を意味しない。
混沌の英雄は、混沌の英雄らしく。誇り高くあってほしいものだとルシファーは思うのだった。
最下層の地獄であるコキュートスに戻ると。
魔界の重鎮であるルキフグス。宰相であり通貨の管理をしている悪魔が、書類をわんさか持ってくる。
今更羊皮紙にハンコでもないが。
それでも決済はたくさんしなければならない。
今は魔界でも電子データが普通だ。
そこで、ルキフグスは大量の電子データをルシファーの手元にある大型スパコンに送り込んでくるので。
ルシファーはそのスパコンに霊的に接続してデータの全てを確認。
決済をして、ルキフグスに返すのだ。
決済をしている間、流石にデータの処理量がとんでもないこともあって、冷や汗をかく。せっかくさっき美味しいアイスを食ってきたのに台無しである。
だがこうやってしっかり仕事をしておけば、外にまた新しい姿を探しに行く余裕が出来る。
ひょっとしたら、混沌の英雄たり得る人間が見つかるかも知れない。
そうなったら嬉しいが。なかなか上手く行かない。
例えば何十年だか前に、アルカポネとか言う人間が話題になった。
興味が出たので見に行った。
だが、実際はただのカスだった。
頭に来たので、以降はあらゆる理不尽を叩き込んでやった。
奴は裁判に負け。
刑務所から出た後は、部下にシノギを全て奪われ。
以降は糖尿病で苦しみ抜いて死んだ。
死んだ後は、地獄の最下層で最大級の苦しみを与え続けている。奴は叫んでいる。俺は善人なのに。地獄にどうして落ちるんだと。
まあ、そんな性根の内は。地獄から解放するつもりはない。
何かの可能性で、混沌の英雄は生じるかも知れないけれども。
いずれにしてもアルカポネは違った。
それだけの話である。
そういえば、今でもアルカポネを聖人だと信じ込んでいる阿呆どもが米国にはいて。奴の裁判は不当だとわめき散らしているらしいが。
大魔王から見てすらどうしようもない。
まあ地獄へ大歓迎なので、さっさと死ねという感じだ。
仕事が終わる。
しばらくなにもしたくないくらい疲れた。アイスが食いたいと言うと、ガロン単位で持ってくる悪魔達。しかも魔界製の大味なやつだ。
風情が無いなあ。
そう思いながら、アイスをばくばく食べる。
小柄なメイドの姿で食べたときに比べて、やっぱりとても大味に感じる。なんというか、悪魔の体の構造は。快楽などについては相応に得られるのだが。
一方で大味なのである。
まあ糖分は糖分だ。
多少うんざりしながらも、アイスを下げさせる。
やっぱり人間の姿で地上にアイスを食いに行くのが良いか。そう思ってしまうけれども。
まあこればかりはどうにもならない。
ルキフグスがまた来た。
決済にミスでもあったかと一瞬不安になったが、違った。
「閣下。 以前お話にあった、可能性を生じうる一つについてですが……」
「ああ、全面核戦争の話か」
「はい。 どうも米国の大使館に巣くっていた雷神トールの分霊体が、倒されたようでして……」
「なんだ、始まる前に終わってしまったか」
米国の東京にある日本大使館のボスは、少し前から雷神トール。北欧神話における最強の雷神に替わっていた。まあ分霊体に過ぎないのだが。
このトールが日本をはじめとする世界中に核ミサイルをぶち込む計画を立案していたので。
見ていてどうなるかは観察していた。
大魔王なのだ。
こういう超級規模の混沌は大歓迎である。
多数の人間が不幸になるのは分かるし、可能性だってうばわれる。
だが同時に、可能性がまた新しく、多数生じる切っ掛けにもなる。
救ったばかりのあの小太りの青年には気の毒だが。これはこれ、それはそれである。
で、計画が台無しになってしまったと。
「分霊体とはいえ最強の雷神だぞ。 倒したのは誰だ」
「それが恐らくは葛葉の……」
「そうか、相手が悪かったな」
「米国側も事態を既に把握しているようで、慌てて軍部の引き締めを行っているようですね」
まあ、計画が駄目になったのならそれはそれだ。
あの計画が実行に移された場合、世界で神と悪魔の最終戦争が始まっていただろう。
その時はルシファーは、それこそ闇のカリスマとして地上に出ていただろう。
また、計画が駄目になった場合でも。
幾つもの世界へ分岐する基点になりえた。
この辺りは、大魔王である。
未来を正確に見据えることはできないが。それでもある程度の分析をすることは可能なのだ。
まあ雷神トールの分霊体が倒されたことは別に良い。
もう少ししたら、また大きな基点になる出来事が起きる。
その時はその時で、また動けば良い。
「で、葛葉は当代のか。 それとも例の……」
「例の方です」
「そうなるとまた抑止力が働いたか」
「困ったものですな」
葛葉というのは、日本にいる凄腕の悪魔使いの一族だ。その中でも最強と言われる存在がいて。
その葛葉は、時々時空を越えて世界の危機に呼び出されているようなのだ。
それは一神教の神がやっているわけではないらしい。
まあそれはそうだろう。
彼奴は自分の言葉と裏腹に。
実際には世界を創造したる者ではないのだから。
まあいい。
今奴がいる場所を奪い取る好機はいくらでもある。そして別に奴を殺したところで、地上の人間を皆殺しにするとか、そんなことは考えていない。
勿論大きな混沌と破壊はおきるだろうが。
それはやむを得ぬ事だと、ルシファーは割切っていた。
「葛葉には注意するように部下に徹底しろ。 あれは私が戦うレベルの相手だ。 まず現れたら、被害を最小限に抑えるように、そして撤退をするようにとな」
「分かりました。 そのようにいたします」
「……」
ルキフグスが下がった後は、謁見の間に行く。
そして、何体かの大物悪魔の謁見を受けて、軽く話をした。
神に戻りたいとぐちぐち言う奴もいるし。
もっと人間を食いたいとか抜かす奴もいる。
適当に応じていたが。
やがて面倒なのが来た。
アレイスター・クロウリー。
英国にて性魔術をベースにしたカルト教団を作った自称黙示録の獣。サバトと称してエロ祭を開こうとするので、何度も説教をしている相手である。
魔界では新参ではあるのだが。その問題児ぶりも有名で。
性欲を司る悪魔ですら真顔になるドスケベぶりには、ルシファーも呆れていた。
まあ神話の悪魔なんかよりも、人間の方が余程業が深いと言うことだ。
クロウリーもいずれしっかり魔界に馴染んだら、多少は落ち着くのだろうが。
「大魔王様! このクロウリーめが、またサバトを計画しておりまして……」
「却下」
「極上の美女も用意いたします! 大魔王様のお好みを口にしていただければ、すぐにお好みに完璧にあった……」
「却下」
二度繰り返した事で、部下達が動く。
二度ルシファーが繰り返すと言う事は。つまりそういうことだからだ。
クロウリーの両腕をがっしりと、ベリアルとアザゼル(どちらも名だたる大悪魔である)が掴むと。半泣きのクロウリーを謁見の間から連れ出していった。
「この間説教したのに、まだ懲りていないのかあ奴は……」
流石に呆れるルシファー。
戻って来たベリアルが、地上から取り寄せたらしい消毒が出来るウェットティッシュで手や腕を拭き拭きしていた。顔中に嫌悪感がこびりついている。
そしてぶちぶち言った。
「閣下。 魔力はそれなりにあるとはいえ、どうしてあのようなものを放り出さないのですか」
「あれでも魔界への適性は高いからな。 それに来てから時間もそれほど経っていないし、いずれ慣れるだろう。 そうすれば落ち着く筈だ」
「いや、あの脳みそまっピンクぷりでは流石に……」
「気持ちは分かるがまあもう少しは様子を見てやれ。 この間きつめに説教してから、あまりしつこくはなくなったしな」
さて、これくらいでいいだろう。
とりあえず一度寝る事にする。
その後は、また地上に出ることにする。これが一番、気晴らしに良いのだ。