堕天使王の楽ではない日常   作:dwwyakata@2024

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神の全知、公平性を否定するための行動で、ぶらりと世界を回る堕天使王。

ですがその行動は、本当に神への怒りだけから来る物なのでしょうか。

いつの間にか、彼は人間と接することが楽しくなっていたのかも知れません。

大堕天使という、闇の重鎮であるにも関わらず。


2、また誰かを救う

ぼんやりと駅のホームに立っている女性。

 

見た所制服を着ているから、女子高校生くらいだろうか。

 

そんなに見た目も悪くないのに。

 

遠目でも分かった。

 

何もかも折られてしまっている。特に心のダメージがあまりにも酷い。

 

人心の荒廃がこの日本では凄まじいと思っていたが。

 

実際にはどこの国でも同じだ。

 

また、日本に遊びに来たルシファーは。理不尽の気配を嗅ぎつけて、この駅に来ていたのだった。

 

日本の鉄道は正確だ。

 

他の国では一時間とか平気でダイヤが遅れることもあるのに。この国は人身事故でもない限りまず遅れる事は無い。

 

ただ行きすぎた正確性から大事故を引き起こしたこともある。

 

そして、今日本で一番ポピュラーな自殺の一つが。

 

電車への飛び込みだ。

 

自殺を決意して、苦しみ抜くと分かりきっているのに電車に飛び込む。

 

それがどれだけの悲惨な覚悟と追い詰められた結果だかは、簡単に想像がつくだろうに。

 

今の人間は、電車に飛び込んで迷惑を掛けたと、その自殺者を詰るようになっている。

 

明日は我が身だと言う事を理解出来ていないし。

 

何より悪魔なんか比べものにならない程に心が荒みきっているのだ。

 

それがこの地上の現実。

 

魔界の方が、まだマシかも知れない。

 

電車が来る。

 

飛び込もうとする学生。すっと手を引いて引き戻す。

 

取り乱すだろうと思ったから、同じ女性の姿を使った。

 

とはいっても。

 

途中で姿を変えても、周囲の誰も気付けなかったが。

 

無言で、ホームから連れ出す。

 

どうやら通学の途中で電車に飛び込もうとしたようだが。こんな精神状態では学校どころではないだろう。

 

ともかく、駅からも連れ出す。

 

学生やらサラリーマンやらがわんさかいるが。

 

特に社会人は皆顔が疲弊しきっていた。

 

この国の社会制度は限界を迎えているが。

 

それはこの国だけではない。

 

どこもこんなものだ。

 

本来なら悪魔は大喜びなのだろうが。実際には、神話の悪魔なんて仰々しく書かれているだけで、現実の人間の方が余程邪悪だ。

 

それは神も逆の意味で同じ。

 

設定だけ唯一絶対全知全能の一神教の神があの為体である事を考えれば。

 

まあそれも妥当だとは言える。

 

連れ出してみると分かるが、はっとするほどの美少女である。

 

こんな容姿なら、何でも出来るだろうに。

 

背は中肉中背だが、整った顔に体型。それに長い髪が美しい。

 

だが、さっと見ただけで分かるが。

 

体中に痣を作っている。

 

制服で見えない部分にだ。

 

少し年上の女性の姿を使ったが。彼女は連れ出されている間、何も言わなかった。

 

やがて人気がない公園に出向く。

 

公園には、中で遊ぶなとか騒ぐなとか、無茶苦茶な立て看板がされていた。

 

これで子供が外で遊ばないとかほざいているのだから。

 

行政の劣化も限界を迎えている良い証拠である。

 

「まずは名前を。 私はサイファーと言います」

 

「余所の国の方ですか」

 

「まあそんなものです。 貴方は?」

 

「千葉……あかりと言います……」

 

いや、違うな。

 

名前は最近自分で変えたようだ。この子は十六歳だが、確かこの国では家庭裁判所に申請すれば十五歳になれば名前を変える事が出来る。

 

「最初つけられた名前は違ったんだね」

 

「……はい」

 

最初の名前を聞くが、何だそれはと思わず眉間に皺が寄ってしまった。

 

いわゆるDQNネームと言う奴だ。

 

少し前に。この国の育児雑誌が流行らせた奴で。読めもしない名前を子供につけるブームである。

 

名前というのは、他人に名乗ることが出来るものだ。

 

それを子供を自分のアクセサリ代わりにしか考えていない親が、バカみたいな名前をつけることで。子供の人生を私物化し。更に承認欲求を満たすという、最悪の行為に散々走ったのである。

 

これを煽った育児雑誌にも大きな罪があるが。

 

社会問題にもなっているのに、「キラキラネーム」等と称して自分達の行為を正当化している親にも大きな問題がある。

 

まあ「キラキラネーム」とやらも既に蔑称になっているし。

 

今では改名する人間が後を絶たないそうだ。

 

まあそれは当然だろう。

 

公園でブランコに揺られながら話を聞く。

 

「小学校の頃は、髪の毛を親に無理矢理染められていました。 学校では殆ど無視されて、それでとても悲しかったです。 だんだん親がおかしい事に気づき始めた頃には、もう手遅れでした」

 

堰を切ったようにあかりが話し始める。

 

その名前を尊重するべきだろう。

 

当然だ。

 

自分で決めたのだから。

 

親が決めた名前は本来は尊いものだ。だが馬鹿な育児雑誌が、その尊さを全て粉々にしてしまった。

 

マスコミは既に魔界よりも深い闇の其処に墜ち果てたが。

 

育児雑誌なんて、人の命を左右するような代物にまでそれが波及していることを考えると。

 

可能性を好むルシファーとしても、暗澹たる気持ちになってしまう。

 

「髪を染めるのを止めたいと言った瞬間、両親の顔が鬼のように歪んだのを、今でも覚えています。 気づいたときは病院でした。 隣の家の人が通報してくれたらしくて、それで……そうでなければ死んでいたと思います」

 

「続けてください。 それだけではないんですね」

 

「……里親に引き取られて、それから別の学校にいって。 髪の染めを落として、それでも何か私には後ろ暗い事があるのに周囲は気づいたんだと思います。 すぐに虐めが始まりました。 教師は一切見てみぬふり。 両親が殺人未遂で逮捕されたことも、すぐに広まりました」

 

反吐が出るな。

 

自分より下の存在をほしくて仕方が無い。

 

それが荒廃しきった人間の思想だ。

 

だからスクールカーストでの虐めは激化する。

 

近年ではスクールカーストはあって当然で、虐めはあるべきだなどという暴論を口にする者まで出て来ているそうだ。

 

虐めがおきるのは仕方がないにしても。

 

それを如何に防ぐかが、教師の仕事だろうに。

 

魔界の大地よりも人々の心は渇いてしまっている。

 

こんな心では、神も悪魔も産まれない。

 

産まれるとしても、歪みきったものだけだ。

 

カルトとでもいうのか。

 

いずれにしても、どうしようもない話だった。

 

「それからずっとです。 里親は義務で私を育ててくれているだけで、学校の点数が下がれば容赦なく食事を抜かれました。 それでも私を直接殺そうとした産みの親よりマシですから、我慢してきました。 でも、学校はもう限界です。 中学くらいから、不良グループから目をつけられて、服を脱がされて……」

 

教師は当然無視。

 

不良グループは、あかりの服を脱がして写真を撮り。

 

それをアングラ業者に売って稼いでいるという。

 

性暴力も散々受けて来たそうだ。

 

見た感じ妊娠はしていないようだが。それだけが救いだろうか。

 

不良グループは強姦の様子まで撮影して、それを売りさばいて稼いでいるという。

 

ため息をついた。

 

これは酷い話である。

 

歴史の節目になると、人間の心は荒廃する。

 

昔から人間の心なんてろくでもない代物ではあるのだが。

 

それでも豊かだった時代と、どうしようもなかった時代は確かにある。

 

それは1500年程度だが、人間を見て来たルシファーが断言してもいいものである。

 

いずれにしても。

 

この娘はより弱きものだ。

 

より弱きものに手をさしのべるのが神ではないのか。

 

ふつふつと怒りがわき上がってくる。

 

立ち上がると、連絡を入れる。

 

家の方は問題はないだろう。この子は、学校でのストレスさえなければ、相応の成績を出す事が出来る。

 

そうすれば独立までは何も言われないはずだ。

 

問題は学校の方だ。

 

調べて見ると、そこそこの進学校だが。

 

そこにそこまで凶悪な不良グループが入り込んでいるのはちょっと問題だ。

 

なるほど。

 

生徒の一人がそこそこの資産家で。

 

そいつが半グレなわけか。

 

どうしようもないな。

 

まあ仕置きが必要だろう。

 

混沌を好むルシファーですら、これは救いがたい。というのも、この娘は大きな可能性を持っている。

 

更に学校でそれこそ人間の尊厳を徹底的に陵辱され尽くしても、それでも心が腐っていない。

 

心が折れてしまったが、腐ってはいないのだ。

 

それがどれだけ貴重なことか。

 

連絡を幾つか入れておく。

 

あかりは青ざめた顔のまま、ずっと黙り込んでいた。

 

まあ神が救わないのなら。

 

悪魔らしい方法で救うだけである。

 

「今日はもう帰りなさい。 君なら、一日二日程度休んでも、なんら成績に影響はないだろう」

 

「……」

 

「私があとは対処しておく」

 

分かる。

 

この娘は、恐らくその内歴史に大きく関与することになる。

 

今は本来のスペックの一割も出せていない。

 

だけれども、実際にこの子がフルスペックを開花したら。多分だが、今出回っている悪魔使いが利用している「悪魔召喚プログラム」を改良して。大きく機能改善するくらいは簡単な筈だ。

 

それ以外にも色々と歴史的な事を出来る。

 

そんな可能性を潰させるのは、ルシファーとしては許せない。

 

何が唯一神だ。

 

こんな逸材を見いだすことも出来ない低脳の分際で。

 

本気で頭に来たので、ちょっと手荒くやる。

 

不良グループはもとの半グレの組織ごと潰す。

 

更にあかりの画像などを売りさばいていたアングラの業者も潰しておく。

 

そして行き着いた先が暴力団だったので。

 

それはルシファーが直接つぶしにいくことに決めた。

 

 

 

呆れた顔のベルゼバブが来る。

 

掃除屋らしいのを、何人か連れていた。

 

関東最大の暴力団の、三次団体。半グレどものボスであり、芸能界などにもコネを持っていた組織だ。

 

小ぶりな組織ではあるが、半グレを使って芸能界などでの問題を力尽くで解決していた事に加え。

 

あかりなどの犠牲者から金を搾取することで、様々なシノギに手を出し。

 

短期間で成長していた連中だった。

 

しかも内部に金持ちの馬鹿息子がいて。それが警察のキャリアの息子だったという事もある。

 

警察が手を出さないのは、それが理由だった。

 

まあちょっとばかり許しがたい。

 

普通はこういうことはしないのだが。

 

ルシファーは、今回は本気で頭に来ていたので。

 

組の関係者全員を、アホにした。

 

ちょっと違うか。

 

周囲に転がっているのは、既に人間の形をした生肉だ。

 

思考する事も出来ない。

 

まあそれについては良いだろう。

 

元々脳みそなんてあってないようなものだったのだから。

 

金さえあれば何をしても良い。

 

その思想の結実がこれだ。

 

力があれば何をしても良い。

 

だったらルシファーが此奴らに何をしても良いだろう。此奴らも、さぞや本望の筈だ。

 

まあ分かっている。実際には、そういうのは暴力を振るったり犯罪を犯す連中が自己正当化に使う詭弁だと言う事は。

 

そんな思想が正しいのなら。

 

例えば地球にエイリアンが圧倒的な軍事力で攻めてきたら。

 

人間が皆殺しにされるのは、全て受け入れなければならないだろう。

 

そんなときに限って、どうせ命乞いしたり助かろうとしたりするに決まっているのだこの手の輩は。

 

というわけで、完全に廃人にした。

 

殺さないのは、此奴らの家族に廃人を養うための資金を出させるためである。

 

そして死んだ後は。

 

魂は地獄へご招待である。

 

「また随分と派手にやりましたな……」

 

「お前はどうしてこういうダニを放置しておくのか」

 

「流石に隅々までは目が行き届きませんし、何より今はもう誰も彼もが此奴らと大差ないレベルまで精神が腐っていますので」

 

「はあ。 まあいい。 ともかく仲間内の喧嘩で全員こうなったとでもしておけ。 後、此奴らの後ろ盾になっていたキャリアは潰しておけ」

 

ベルゼバブが無言で頷き。

 

そして掃除屋が痕跡を消していく。

 

魔術の痕跡を消しておかないと、対魔組織が来るからだ。

 

葛葉辺りとぶつかると流石にルシファーでも面倒である。

 

名目上連中も、どんなカスでも人間を守らなければならないから。こう言うときはルシファーと戦わなければならない。

 

此奴らがどれほど守る価値が無い存在でも、だ。

 

此奴らの配下である半グレの方は、既に潰しておいた。

 

リーダー格は全員逮捕。

 

例のキャリアは更迭されるから。まあ十年単位で刑務所行きだろう。

 

近年は司法も腐敗が凄まじく、未成年の殺人を虐めと決めつけた挙げ句に、たった四百万の賠償金で済ませるというとんでもない蛮行を行ったりするが。

 

そういう裁判官にいかないように手を回しておく。

 

腐っているのなら、相応に対応方法はある。

 

手下もこれから順次逮捕である。

 

後は、普通に学校に行く事が出来るだろう。

 

あの美貌だから、後はメンタルケアさえ終われば。問題なくやっていく事が出来る筈だ。

 

そのメンタルケアが問題なのだが。

 

「後始末はやっておけ」

 

「分かりました。 ただあまり派手に動かれると此方も……」

 

「年に何度も動かないだろう」

 

「それは分かっています。 お考えも知っております。 しかし此方の苦労も考えてほしいのです」

 

ぶちぶち言うベルゼバブ。

 

これだけでも、魔界がルシファーの独裁体制などではない事がよく分かるのだが。

 

それについては、あえて周囲にはそう見せないように振る舞っていた。

 

適当に愚痴を聞いてやると、後は戻る。

 

あかりの方を確認。

 

体調が悪いと言う事で、冷え切った家に戻って。そして真面目に今日分の勉強はしている様子だ。

 

体調が悪いなら休ませてやれと思うのだが。

 

両親は一切無視。

 

それなりの資産家のようなのだが。

 

どちらも資産目当てで結婚したような輩だ。

 

まあDQNネームをつけるような親の親族だし、精神性も近いのかも知れない。

 

はっきりいって子供が可哀想でならない。

 

適当にホテルでもとって休む。

 

ベルゼバブが女でも或いは男でも回すかと言ってきたが、断る。

 

ただでさえ色々しがらみが多いのだ。

 

地上に隠し子なんて作る気はないし。

 

性欲の発散なんかわざわざ地上でやる必要もない。

 

適当にパソコンを弄くって、ニュースを確認しておく。

 

そのままネットにダイブすることも可能なのだが。まあそんな事をする必要は別にないだろう。

 

彼方此方で紛争が起きている。

 

一番平和な時期でも、世界の二割で戦争をしているなんて話があったが。

 

どうも悪い時代はどんどん加速しているようだ。

 

ルシファーの予想では、ここを乗り切れば多少人類はマシになる。それは確定事項なのだが。

 

問題は多数に分岐するこの世界の内。

 

大半が、そのマシな世界にはいけないということだ。

 

このまま行くと、あまりにも過剰に膨れあがった欲望が。地球そのものを本気で怒らせる事となる。

 

人間風に言うとシュバルツバースとでもいうべき、地球の免疫機構が目を覚ますのである。

 

それは一瞬……二年程度で人類社会を押し流してしまい、環境をリセットしてしまう。

 

シュバルツバースはもう一つの魔界とでも言うべき精神世界で、人間の精神を模して作りあげられるので。

 

まあその場合は、事の結末を見届けるために、ルシファーも出向かなければならないだろう。

 

シュバルツバースが出無い場合でも、まだまだ人類にとっての大きな転機は続く事になっていく。

 

特にこれから数年が正念場になる。

 

本当は、あかりを助ける事に意味はないのかも知れないが。

 

それでも、助ける事によって。唯一絶対を自称するあの腐れ神を否定出来るのであれば。

 

それはそれで、ルシファーはやるべき事をやっていると言える。

 

だからこれでいい。

 

数日空けてから。

 

あかりに会いに行く。

 

まだ正直な話、表情はそれほど明るくはない。だけれども、虐めがなくなったのは事実らしかった。

 

その辺りは即座に分かる。

 

「周囲にいた悪い人達がみんないなくなって、学校がとても静かになりました」

 

「……そうか。 でも、これからは君の努力次第だ」

 

「はい」

 

「君の心には大きな傷がついてしまっている。 だけれども、それを乗り越えたら、君はきっと偉大な……歴史の変革者になれる筈だ」

 

そういうと、後は契約を持ちかける。

 

あかりは聡明な子だ。

 

ルシファーが全てやった事を、肌で分かっていたのだろう。

 

だから、何も言わずに契約を受けた。

 

それでいいのだと、ルシファーは思った。

 

この子は大きな可能性を作り出す。

 

これから数年が正念場になる世界だが。本来はこう言う子が死んではいけないし。ましてやゴミカスどものエジキになるような事があってもならない。

 

こう言う子こそが、可能性を切り開くのに。

 

本当に唯一絶対を名乗る阿呆は何をしているというのか。

 

まあその辺で昼寝でもしているのだろう。

 

はっきりいって、どうでもいいことだった。

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