堕天使王の楽ではない日常   作:dwwyakata@2024

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可能性というのは、世界に泡沫のごとく存在し。

そして誰かの気まぐれで、すぐに失われてしまうものです。

多数の可能性を拾い上げてきた堕天使王は、それを良く知っているのでした。


4、可能性はすぐに失われる

弱々しい泣き声だ。

 

しかも此処はどぶ川である。

 

そこへ躊躇無く降りた、眼鏡を掛けた女子学生。ルシファーが、今度選んだ姿である。なお、百十年前の女子学生なので、既に鬼籍に入っている。

 

結界で周囲の注意を惹かないようにしているから、誰も気にしないが。

 

逆に言えば。

 

赤ん坊の泣き声がどんどん弱くなっているのに。

 

それを誰も気付いていないと言うことだ。

 

周囲にはそれなりに人がいるのに。

 

ルシファーが抱え上げる。

 

強い可能性を感じる子供だ。産まれたばかりの男の子。どうやら、此処に文字通り産み捨てられたらしい。

 

堕ろすために病院に行くのも面倒になったようなクズ女が。

 

産まれた子供を、此処に捨てていったのだろう。

 

度し難い話だが。

 

日本でも、こういうことはある。

 

すぐに部下の一人を呼び出すと、警察に連絡。後は警察側に引き渡して、任せる事とする。

 

この国のキャリアは無能だが、警察の末端は有能だ。

 

まあ県によっては末端も駄目なのだが。

 

この県の警察は、ある程度信頼出来る。

 

生命維持については少し心配だが、多少の回復魔術はサービスしておいた。もう少し遅れたら、死んでいただろう。

 

やがて部下が来て、警察もくる。

 

赤ん坊を引き渡すと、警察の聴取は人間に化けている部下が引き受けた。ルシファーがいたことは、警官は認識していない。

 

すぐに周囲に警官がきて、調べ始める。

 

赤ん坊は病院に。この様子だと、孤児院か何かで育つ事だろう。

 

ある程度手を回しておくか。

 

昔は酷い虐待をする孤児院がこの国にもあったのだが。

 

近年は状況がだいぶ改善していると聞いている。

 

それでも一応、可能性は潰したくないから。

 

相応に手は打ちたかった。

 

さて、と。

 

少しその場を離れて歩きながら、声を掛ける。

 

「いるんでしょう。 出て来たらどうですか?」

 

「……」

 

姿を見せる学生。

 

いや、大正時代の学生。その上腰には刀。肩には猫を乗せている。

 

第十四代目葛葉ライドウ。

 

時々魔界の者が話題にする、最強の対悪魔能力者だ。

 

少し前に、この近所で世界の危機と呼べる大きな事件があった。

 

事件を起こしたのは部下の一人だったのだが。

 

まあ其奴がどうなったのかはお察しである。

 

葛葉の中でも最強の此奴が何かしらの力に呼ばれて、対処した。

 

まだいるだろうとは思っていたのだが。

 

案の定嗅ぎつけて来たか。

 

此奴の力はそこそこ厄介な葛葉の中でも厄介で。歴代でも最強である。少なくとも現代の葛葉の数倍はある。

 

少し見た目が老けたか。

 

まあ実年齢よりも老けるのは仕方が無い。

 

色々な世界の危機に呼ばれて、その度に数ヶ月過ごしているのだから。

 

最初に葛葉ライドウにあったのは彼が十代だった頃か。

 

今は二十代半ばだ。

 

学生服は、まあ制服みたいなものとして使っているのだろう。口には髭を蓄え始めているようだ。

 

「何をしていた、明けの明星」

 

「私が可能性を愛するのは知っているかと思います。 だから、可能性を多く秘めていた命を助けた、それだけです。 今回は流石に幼すぎるから、契約はしませんでしたが」

 

「姿と性格を借りるという奴か」

 

「そうです。 だが、あの子はただ無償で助けました。 これも先行投資というやつですよ」

 

くつくつと笑う。

 

猫が喋る。

 

此奴は葛葉の相棒。何でも罰で猫にされているらしく、実際には元人間のようだ。魂をみれば分かる。

 

「嘘をついている様子は無いな」

 

「天使が産まれてくる命を祝福せずに、悪魔が消えゆく命を救うか。 全く、何とも言葉がない事態だ」

 

「ふふ、私はそういう存在だと知っている筈ですよ」

 

「ああ、知っているさ。 だが貴様が、場合によっては世界を業火に包むこともな」

 

刀に手を掛ける葛葉。

 

ほう、やる気か。

 

面白いから受けて立ってもいいのだが。もしも此処で戦うと、多分この県全域が消し飛ぶだろう。

 

それでは本末転倒。

 

手を拡げて、戦意が無いことを示すと。

 

葛葉は、やがて刀から手を離していた。

 

「あの子供は此方で行方を監視しておく」

 

「一応此方でも、しっかりした孤児院に行くように手配はしておいたのですけど」

 

「それでもだ」

 

「分かりました。 其方でも監視してください。 可能性の芽を潰さないように」

 

背中を向けて歩き出す。

 

葛葉は奇襲を掛けてくるようなことも無く。ただルシファーを見送った。

 

さて、帰るとするか。

 

今回は無償で働いてしまったが、まあそれはそれ、これはこれ。

 

可能性を愛する存在であるから。

 

可能性のためにはなんぼでも投資する。

 

だが同時に、破壊的な変革があればそれはそれで喜ぶ。

 

ルシファーが大魔王であるが所以だ。

 

それにしても、葛葉が言った通り。

 

何とも末世だな。

 

そう思って、苦笑いしてしまう。

 

本来だったら天使が助けるべき命だっただろうに。命が消えるまでに拾い上げたのは、悪魔。

 

それも大魔王だったのだから。

 

あの子供は、大きな可能性を持っていた。

 

今後生じうる巨大な災厄に立ち向かい、世界の破滅的変革を食い止めるかもしれない。

 

ルシファーと敵対するかも知れないが、それは全くかまわない。

 

唯一神が絶対ではないことを証明する。

 

それだけのために。

 

傲慢の権化であるルシファーは存在しているのだから。

 

 

 

(終)




如何だったでしょうか。

閣下の相性でメガテンファンから愛される堕天使王の日常生活を描いた短編です。

近年は女装に凝ったりしている面白い人ですが、堕天使らしい怖いところもあって、そこが色々魅力だったり。

ともかく、神とは違う方向から人間を愛する混沌の首魁の行動。

楽しんでいただけたならば何よりです。
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