「あ、あの〜……ヒ、ヒナ?一体どうしたの?」
と、とりあえず危機は去ったっぽいな……。にしてもヒナもモブちゃんもマジでどうしたんだ?顔合わせるなり険悪な雰囲気になってさぁ。ヒナが病室に入ってきた時、背中に氷入れられたのかと思うほど背筋がゾクっとしたし……。モブちゃんもモブちゃんで最後舌打ちしてなかった?あの素直で可愛い後輩が?……いやいや、流石に勘違いか。あの子が舌打ちとかするはずないもん。
「………ねぇ、リン。金輪際あの子に近付かないでくれる?」
え?……えぇ!?そういうことか!?もしかして、俺みたいな不出来な先輩と関わらせたくないから追い出したってこと!?俺って風紀委員会の中でそういう存在なのかよ!
うおお、モブちゃんマジでごめん……俺の見舞いに来たばっかりにヒナから注意されるなんて……今度お詫びの品でも持っていこうかなぁ。
「う、うん。分かったよ。これから彼女とはできるだけ会わないようにする」
「……そう。なら許してあげる」
あ、俺は許される側なんすね(泣)
「……リンのそばに居るのは私だけでいい」
というわけで戻ってまいりました、もうすっかり慣れ親しんだ我が家にね。
いやー、あの後無事退院してから引き継ぎとか色々あってゆっくりする暇が全然なかったんだよな。ていうか、前線の子たち引き止めてくれるのは嬉しいんだけど、全員鬼気迫ったような雰囲気なのはなんでなん?
「先輩がいなくなるんだったら、私は一体何のためにっ……………」とか、「な、なんで!?私じゃ力不足ですか!?も、もっと頑張りますから……………」とかさ。しかも決まって最後の言葉が聞き取れないし。そこまで大袈裟に言われるほど何かやってあげた記憶もないからなぁ、多分お世辞で言ってくれてるんだろう。本当に俺には勿体無いくらいいい子達だ。
ぐぅ〜
つーか腹減ったな。なんか飯でも買いに行くかぁ。
「はぁ、はぁ……先輩!」
「ん?」
近くのコンビニで飯を買った帰り、俺が歩いていると後ろから声がした。
「モ、モブちゃん?どうしてここに……?」
うーん、気まずい。ヒナからあんなこと言われた以上、モブちゃんに迷惑かけないように避けてたんだよな。結局引き継ぎの時も全然喋れなかったし……
「……先輩、本当にヒナ委員長のものになっちゃうんですね」
……ん?なんか言い方おかしいけど、これってヒナの手伝いに専念するってことだよな?
「え?…あ、うん。これからはヒナ(の風紀委員会の仕事)を(事務作業を通じて)支えていこうと思ってるよ」
「…っ!……そうですか……
………でも私たち、まだ諦めてませんから」
いやドユコト?もしかして俺、前線で肉壁とか囮役として必要とされてる?いくら弱くて頼りない俺でも、流石にその仕打ちは酷くない!?……あ、他の子のアレもこういうことだったのね……。自分の被弾が増えるとなると、そりゃあんなに鬼気迫った表情になりますわ。トホホ(涙)
「は、ははは……ま、まあ俺が居なくなっても大丈夫でしょ。一番近くで君らの努力を見てた俺はそう信じてるから」
「〜〜〜っ!!……先輩、今までありがとうございました…っ……」
「あ、ちょっと待っ……行っちゃった……」
あー、避けてたこと謝ろうと思ったのに……。まあ、また今度会った時に謝ればいいか。同じ学園だしね。
「君が新しく入ってきた1年生?俺は2年生の蒼井リン。分からないことがあったらなんでも聞いてね!」
「なに?また失敗しちゃったって?……大丈夫だよ!俺も1年生の頃は失敗ばかりだったし。それに君、毎日訓練してるだろ?それだけで十分偉いよ!これから頑張っていこう!」
「ア"ァ〜クソイテェ……大丈夫?怪我はない?……そう、ならよかった!……え?なんで庇ったのか?…そんなの大事な後輩だからに決まってるじゃん。それに……女の子を颯爽と庇う男ってなんかカッコよくない?……ちょ、そんなに睨まないで」
「先輩、私もっともーっと強くなりますから……先輩の隣に立てるくらいの女の子になりますから……だから、だから……
また『よく頑張ったな』って褒めてくれますよね?
」
グッドモーニング!諸君。いやー、昨日は久しぶりにぐっすり眠れて気分は最高や。そういえば、今日からヒナの手伝い係になるらしい。フッ、昨日までは前線を離れることに一抹の寂しさを抱いていたこの俺だが、よく考えたら今まで以上にヒナを愛でられるんじゃね?ということに気づいてからはもう未練なんて一切無いわ!二度と行くかあんな場所!もう肉壁はごめんやで!
……でもなぁ、一個だけ不満なところがあるんだよなぁ。
「あぁーーーっ!やっと見つけましたよ!
リン!あなた委員長に手伝いを頼まれたそうですね!?」
この女と一緒に仕事する機会が増えるのがなぁ……
「委員長が許しても私が許しませんからね!?大体、あなたはいつもいつも〜〜……」
俺の目の前で何やら説教しているこの女の名前は天雨アコ。風紀委員のクセに横乳フルオープンのトンデモない服を着てるド変態だ。いや、百歩譲ってそれだけならまだいい。今は多様性の時代だからな、俺はそこらへん寛容なのだ。……だがなぁ
俺のヒナ活を邪魔しようとするのは許せん(怒)
こいつ、俺がヒナを愛でようとするたびにやれ「ヒナを誑かそうとするな」だの、「後輩たちに悪影響が出る」だの、訳のわからん文句を言いやがって!今日という今日こそはとっちめてやる!
「アコ、お前は何も分かっちゃいない!」
「な、なんですか急に」
「そもそも俺がヒナを愛でようが愛でまいが俺の自由だろ!?可愛いものを可愛がって何が悪いんだ!?」
「な、なぁっ!…た、確かに委員長が可愛いのは事実ですが!……よ、よくもそんな聞いてるこっちが恥ずかしくなるような台詞を吐けますね……っ!」
「フッ、それはお前のヒナに対する愛が足りてないだけだ」
「い、今の台詞は聞き捨てなりませんね!委員長への愛なら、私の方がはるかに大きいですよ!」
「なんだとこのっ…」
「ふ、二人とも。それ以上はいいから…っ///」
俺とアコの2人が振り向くと、そこには真っ赤になった顔を両手で隠している天使が……いや、間違えた。ヒナがいた。
「………」
「………」
「フンッ、き、今日はこれくらいにしといてやろう」
「そ、そうですね、委員長も来たことだし」
まあ、コイツも案外悪いやつじゃ無いのかもな。
「リン、今日はここまででいいよ。あとは私とアコでやっておくから」
「え、そう?じゃあお先に失礼しようかな。今日も一日お疲れ様、ヒナ」
「…うん。リンもお疲れ様」
「ちょ、ちょっと!私には何も無いんですか!?」
「ヘッ、誰がお前になんか挨拶するかよ、バーカ。………またな」
そう言うや否や、リンは足早に部屋を出て行く。もっとも、ほんの少し赤くなった耳は隠せていなかったが。
「あっ、ちょっ………もう!本当になんなんですかあの人はっ!」
「………」
アコはそう怒りつつも、リンが出て行ったドアをしばらく見つめた後、呆れたような表情を浮かべた。
「はぁ……でも、やっぱり悪い人じゃないんですよね……好みの子を見つけたら誰彼構わず甘やかす悪癖さえ無くなれば……」
「………」
「……あ、そういえば委員長」
そこでふと、アコは何かを思い出したようにヒナの方を向く。
「どうしてリンを委員長の手伝いにしたんですか?彼、前線の後輩たちにも慕われてますし、わざわざ呼び戻さなくてもよかっ」
「アコ。私が直接言っておくから、もうリンには構わなくていいよ」
「…え?い、いやでも委員長も迷惑なんじゃ」
「私は大丈夫だから。心配しなくていい」
「そ、そうですか。委員長がそこまで言うなら………って、あぁっ!私、後輩に渡さなきゃいけない書類があるの忘れてました!ちょっと今から渡してきますっ」
「………」
アコは立ち上がってそう叫ぶと、慌てて外に出て行く。そんなアコの姿を、ヒナはじっと見つめていた。
モブちゃん…