この正しい世界を歪ませたい 作:全部武力で解決
彼女は弾けるような笑顔が素敵だった。理想に真っ直ぐで、現実と戦い続けた。この世界に狂った俺と違う彼女の輝きに俺は……確かに救われてたんだ。
『ありがとう、イディア』
(俺も死期が近いのかもな)
古く懐かしいモノを軽く思い出せるくらいには、輸送ヘリの中は意外と快適だった。機内には俺と操縦士と、予備隊の医療オペレーターが数人。
俺は目頭を解して気を引き締める。短く息を吐き、得物を確認する。
移動都市『チェルノボーグ』にて、我々『ロドス・アイランド製薬会社』は重要人物『ドクター』の救出作戦を行っている。
俺の役割は撤退時に発生した予想外の脅威の排除。源石による『天災』がこの地に迫ってる為、もし巻き込まれる様なら俺が出る手筈となっている。
出番が来ないことを祈っていたが、喑天へ昇る光にそっと鞘を撫でる。
「信号弾を確認した。医療オペレーターは治療の準備を。操縦士、ポイントへは少し早めに到着しろ」
「了解!」
同行するオペレーターへ指示を飛ばし、操縦士に短く伝えてハッチから輸送ヘリの外へ飛び立った。
――――――
作戦は順調だった。レユニオンとの交戦はあれど、こちらの損傷は軽微で済み、後は脱出ポイントに向かうだけだった。
しかし、彼女がそれを許してはくれなかった。
レユニオンの暴君、タルラ。
彼女の炎のアーツは資料で見たよりも凄まじく、広場は一瞬にして廃墟へ変わり。私たちにはっきりとした絶望を錯覚させました。
「ドクター、指揮を!」
「わかった。崩れた建物の―」
ドクターの指揮は空から響く轟音に掻き消され。暗い雲に覆われた空には、赤熱した何かが尾を引いていた。
飛来する隕石はチェルノボーグに降り注ぎ、悲鳴と絶叫が木霊する。
襲い来る隕石の天災にアーツを使おうとした時、降り注ぐ源石の隕石と眼下で燃え盛る炎が
その光景は見たことがありました。彼は父のような兄のような存在で。その背中は私が最も頼もしいと思うものでした。
「無事か? アーミヤ」
「アリストパネスさん!」
「アリストパネス、これよりアーミヤ隊の支援を行います」
アリストパネスさんのアーツはロドスだけでなくレユニオンをも天災から守りました。
タルラの炎と天災を防ぐ彼の姿に皆は安堵する。オペレーターは、ロドス最古のエリートオペレーターである彼の背中を見てきた。決して屈さず、決して揺るがず、必ず守り抜いてきたその頼れる背中を見てきた。彼が来たなら安心だ、そう誰もが思った。
「第一波は終わった。今のうちに退避を」
「ドクター!」
「急げ、退避だ!」
タルラの炎をアーツで防ぎながらアリストパネスさんは微笑んだ。それにとてつもなく嫌な予感がして、必死に手を伸ばす。
「殿は俺が務める。総員、ドクターを連れて脱出ポイントへ急げ! ドーベルマン、錯乱した者を落ち着かせろ」
「ダメ……ダメです、いくらアリストパネスさんでもたった1人で残るだなんて!」
「Ace、連れて行け」
「……本当にやるのか?」
「アリストパネスっ!」
「なんだなんだ? みんなやけに心配してくれるじゃないか。仮にも俺はエリートオペレーター。ケルシーに相応の実力を買われている……多分、きっと……」
笑いながら彼は脱いだ外套をドクターに放り投げた。ロドスの紋章が刻まれたそれを彼はドクターに託した。
全てを悟ったような顔で彼はドクターを見る。
「ドクター。俺は君の過去だ。石棺から目覚めた君がどのような状態かは知らないが、これで君は過去との決別となる。君のこれまでは俺が持っていこう。ドクターには不要なものだからな」
「君は……」
「……なるほど、こりゃまた
「待って! 待ってください!」
Aceさんに抱えられながら必死に呼びかける。でもAceさんは止まってくれません。
「Ace、お前が導け。出来るだろ?」
「それはお前の仕事だ。俺は今の分で手一杯だ。自分でやるんだな」
「俺は十分やったさ」
「Aceさん! お願いです! 待ってください!」
離れていく彼の背中に、この手が届くことはなかった。
「行け、アーミヤ。世界はお前を必要としている。君の往く先に幸多からんことを」
崩壊した建物の穴から脱出した瞬間、建物が歪んで穴は完全に塞がれる。アリストパネスさんを除いた全員はレユニオンの包囲から抜け出すことに成功した。
「アリストパネスさん!」
「アーミヤ、彼はそう簡単には死なない。大丈夫だ」
ニアールさんが大丈夫と言ってくれる。でも、ダメなんです。彼から伝わってしまった
「ドクター。君は疲れてしまったんだと思う。でも十分寝ただろ? これから作られる君の未来に、俺は賭ける。……アーミヤを頼む」
最後に聞いた彼の声は、いつになく真剣な声でした。
――――――
途中、Wと名乗ったサルカズの女性に会ったこと以外は順調に私達はチェルノボーグから脱出できました。怪我人は出てしまいましたが、アリストパネスさんのお陰で全員が輸送ヘリに乗っています。
嫌な予感は段々と強まって、アリストパネスさんがくれた御守りを胸に抱えて祈ることしかできませんでした。ドーベルマンさんとニアールさんは大丈夫だと言ってくれますが、Aceさんはずっと険しい表情で腕を組んでます。
「あっ」
パキリ、と何かが割れる音がして、恐る恐る御守りを見ました。そっと中のものを掌に取り出せばそれは、割れた源石で……。
「っぅあ……」
頭より先に感覚で理解してしまう。これは彼の一部なのだと。これは不吉な報せなのだと。
「ぁあ……」
「アーミヤ?」
「アリストパネスさんの……御守りが……」
掌の源石を見て、二アールさんとドーベルマンさんは目を見開いて、Aceさんは袖を強く握った。
目の前の、手の届いたかもしれない距離で、私は家族を失いました。父のような……兄のような……大切な人を。正直、信じられない。あの強くて優しいアリストパネスさんが死ぬなんてとてもじゃないけど考えられなかった。
心が痛い
胸が張り裂けそうなほど膨れ上がった痛みに嗚咽が漏れる。
あの大きな手はもう撫でてくれない。あの優しい笑みを向けてはくれない。あの頼もしい背中で守ってくれない。あの声で労ってくれない。
私の中にある何かが大きく欠けたような、喪失感。危険な作戦だと理解していたはずだ。覚悟もしていたはずだ。……それでも、今は……
「必ず、また立ち上がりますから……今だけは……」
失ったことを後悔させてほしかった。