この正しい世界を歪ませたい   作:全部武力で解決

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第3話

 

 

 俺は、何かと戦争に巻き込まれた。根を張る隙もなく続く戦禍に俺は自身の安寧の為に敵を殺し、屍を振り返ることなく歩き続けた。いつの日か安らかに眠れることを祈って歩いた。

 

 仲間は不要だった。だって全員俺より早く死ぬから。寿命は俺を解放してくれなかった。彷徨う俺は戦場を転々とした……安寧と死を求めていた。俺はとっくに狂っていた。

 

 長年、前世では考えられない位の時を生きた。

 沢山の人の死と生と、悲劇を観てきた。前世の倫理観を持つ俺が今日まで生きていられたのは狂えたからだ。

 そうだ、前世はまだマシだったんだ。俺は平和モドキを知っている。安らかな眠りを知っている。俺の生きる原動力はそんな微かな希望にしがみついてることだ。

 

 

 そんな俺の手を取ったケルシーには感謝している。彼女は俺の同志であり、俺の孤独を埋めてくれる人だった。

 彼女が差し出してくれたスープの味を今でも覚えてる。育ちの悪い野菜と少量の塩のスープだった。それでも……俺は本当に嬉しかったんだ。

 

 

 彼女のお陰で思い出したこの思いを、俺は世界に向けることにした。源石の脅威を防ぎ、鉱石病に犯される人々を救おうと。

 

 

 

 

 

 だから、俺は彼女を信じてる。

 

 

 

――

 

 

 

「ロドス……」

 

「久しぶりだな、タルラ」

 

 天災は過ぎた。この場に()()()()()()()()()()()()()。暴君へ変り果てた者と、嘗ての残虐の化身は対峙する。

 

「私を知っているのか」

 

「……よく知ってるよ」

 

 男はゴーグルを投げ捨てる。タルラと同じ白髪が風に揺れ、黒い眼が女を見据える。タルラは驚愕を隠せなかった。

 

「お前は、何故……生きている?」

 

「お前を止める為だ」

 

 黒い直剣が鞘から抜かれる。しかし、それは剣と呼ぶにはあまりにも杜撰な物だった。刃は鋭さを欠き、表面には凹凸がある。紛うことなきナマクラの黒剣は光を反射しない。

 

「なあタルラ、()()()()()?」

 

「私は……私、は……」

 

 タルラの様子は男の素顔を見てから明らかにおかしかった。酷い頭痛に耐えるように頭を抑え、目尻には雫が溢れかけていた。

 

「お前はタルラだ。理想を諦めない強い女だ。誰かを傷付けるより誰かを助けようとするリーダーだ。お前は……俺を助けてくれたレユニオンのタルラだろ?」

 

「…………違う」

 

「え?」

 

 瞬間、炎の斬撃が肉体を斬り裂いた。血が蒸発して、肉が焼ける臭いがした。油断していたとはいえ警戒はしていた。アリストパネスの想定より遥かにタルラは強く、悍ましい何かに変わっていた。

 

「イディアは死んだ。私はお前を知らない。―滅びよ」

 

 

 両者の間で衝突するアーツの余波は周囲のレユニオンの雑兵を吹き飛ばす。

 

 ロドスがチェルノボーグから脱出しても戦い続けた男の最後は、全身に火傷を負って氷塊に閉じ込められた姿だった。

 

 

――

 

 

「おい、起きろ」

 

 澄んだ空のように美しい声に起こされた俺は、まず痛みに悶えた。聞き覚えのある声に一先ず安堵して呼吸を整える。

 辺りを見渡すと、此処は比較的被害の少ない屋内だ。床は硬いが布が敷かれていて、どうやら俺は親切な誰かさんに運ばれたようだった。

 俺の傍には雪兎のように美麗な美女が居た。タルラと違い伸ばされた白髪は降り積る雪みたいに淡く輝いてる。

 

「……どれだけ寝てた?」

 

「それほど時間は経っていない。応急手当はしたが……痛むか?」

 

「大丈夫だ。ありがとう、エレーナ」

 

「……本当にイディアなんだな?」

 

 俺を助けてくれたのはレユニオンの幹部であるフロストノヴァ。俺の体は包帯だらけになっている。彼女が手当してくれたようだ。

 

「感動の再会だな。元気だったか?」

 

「ああ……お前が無事なら、それでいいんだ」

 

 フロストノヴァが俺に触れようとしてたじろぐ。哀しい顔した彼女の手を取って俺の頬に当てる。

 

「ま、待て! 凍傷になる!」

 

「前より体温が下がったか? アーツの使い過ぎだ」

 

 離れようとする彼女を強引に抱き寄せる。誰よりも人の温もりを欲する彼女は鉱石病に体温を奪われた。低下した体温は他者を近付けることを許さず、更に彼女は凍えた。

 

 勿論、何もしない選択肢は存在しなかった。

 

 俺は寒さに震える彼女を強く抱き締めてアーツを使う。アーツが体内を蝕む源石に作用してフロストノヴァの体温が気持ち上がった気がする。

 

「暖かいか?」

 

「…………ああ。本当に、無事でよかった」

 

 俯く彼女を胸の中に隠して背中を擦る。凍傷は気にならなかった。

 暫くして、落ち着いた彼女は俺の前に座った。

 

「経緯を聞こう」

 

「どこから話せばいい?」

 

「お前が私達の前から消えたあの日のことから……」

 

 

――

 

 

 その日は、ウルサスでも特に寒い日だった。俺はアリーナに頼まれてある村へ一緒に行くことになったんだ。

 

「用事は済んだか? 終わったなら早く帰ろう。タルラが待ってる」

 

「ええ。でもそんなに焦る必要はありませんよ。頼もしい護衛の方が居るんですもの」

 

「はぁ、お前らは俺を頼りになると思ってるようだが、俺はそんな大した奴じゃないぞ。タルラもエレーナも、男を見る目が無い」

 

「またそんなこと言って。貴方は私達を助けてくれたじゃない」

 

「俺が居なくともタルラが助けてたさ」

 

「それでも、貴方には感謝してる」

 

 村からの帰り道は他愛ない話をしていた。アリーナは安全性を軽視するきらいがある。俺がたまたま彼女に声をかけなかったら、きっと彼女は一人で村を訪れただろう。

 

「……止まれ」

 

「どうかしましたか?」

 

「監視隊だ」

 

 監視隊のことはよく知ってるだろう? 人は無意識下で弱者を作りたがる。感染者を監視するというお題目で政府の威を借りた奴らは民を甚振ることを覚えてしまった。

 

「気付かれないように移動しよう。はぐれないように気をつけて」

 

「行先はあの村……。イディアさん」

 

「あそこに感染者は居なかったはずだ。……多少の蓄えを失うことになるが危害は加えないだろう」

 

「でも……」

 

 アリーナは善良な人だ。タルラと同じで苦しむ人を放っておけないタチで、俺に何とかならないかと聞いてきた。監視隊に下手に手出しは出来ない。相手は政府、対立するには俺自身じゃ力不足だった。だが……

 

「……様子を見るだけだ。何かあれば仲裁に入る。それでいいか?」

 

「やっぱり貴方は優しい人よ。ええ、お願い」

 

 俺はアリーナを連れて奴らの後を追った。アリーナ一人なら守れる、そう思ったからだ。……それが奴らの罠とも知らずに。

 

 

 幸い、監視隊は村の資源をある程度奪って終わろうとした。それで終わるはずだったんだ。

 

「おい、お前感染者だな?」

 

 ふと一人の隊員が言ったんだ、お前は感染者だと。その人は表面に源石が露出していた訳でもなかった。一目で感染者と判断する材料なんか何も無かった。元々、その村は焼かれる予定だったんだ。

 その一言を皮切りに監視隊は剣を抜いた。一人、二人と斬られては倒れる。俺が飛び出して剣とアーツで監視隊を皆殺しにした時には、そこは人が住める場所じゃなくなっていた。

 

「イディアさん、大丈夫ですか?」

 

「怪我はない。それより……」

 

「お前……お前ら感染者だな! お前らのせいで、この村が襲われたんだ! この悪魔め!」

 

 俺とアリーナへの村人の糾弾が始まった。何か言いたげのアリーナを黙らせて、さっさと帰ろうとした時に奴らは現れた。

 

「やっと見つけたぞ、戦争の悪夢」

 

 ウルサス帝国が抱える精鋭、『皇帝の利刃』。それが四人も出てきた。久々に肝を冷やしたよ。アリーナと村人を守りながら戦うなんて器用な真似俺には出来ないからね。

 それでも、俺は奴らを始末した。アリーナを傷付ける訳にはいかなかったから全員アーツで捻り殺したよ。

 

 

 でも……事は終わらなかった。

 

「なあ、もうどうすりゃいいか分からねえんだよ」

 

「俺たちが何したって言うんだ!」

 

「返してよ! 私たちの生活を返して!」

 

 村人たちはまずアリーナに縋った。追い詰められた村人は極限状態に陥って、人間の罪の本性とも呼べるものが露顕していた。

 

「この化け物め! 俺達のことも殺すんだろ!?」

 

「や、やられる前に殺さなきゃ……」

 

「そうだ! これは制裁だ!」

 

 アリーナは欲望の吐き口へ、俺は恐怖の身代わり人形になった。ああ誤解するなよ。アリーナには指一本触れさせなかったさ。でも、皇帝の利刃との戦闘で消耗していた俺は長いこと抵抗出来なかった。

 

「アリーナ、走れ!」

 

「でもっ!」

 

「誰かがこの場を治める必要がある。俺じゃ駄目だ。タルラを呼んでくれ」

 

「……わかった」

 

 

 

 その後は痛かったなー。素人の拷問は酷いもんだったよ。言葉、暴力、どれも拙いものだったけれど、あれだけの狂気に晒されるのは慣れないもんだよ。

 

 

 で、お前達が来る前にケルシーが俺を回収したのさ。今日までレユニオンに接触出来なかったのは忙殺されてたから。一応俺はロドス所属だからね。連絡一つ寄越さなかったのは申し訳ない、何の弁解も無いよ。

 

 

――

 

 

「ロドスでのことは敢えて省いたけど、こんな感じかな」

 

「アリーナから大体のことは聞いていたが……それでも聞くに耐えんな。私達が村に着いた時には、残っていたのは大量の血痕と破損したお前の装備だけだった」

 

「悲しくて泣いちゃったか?」

 

「私もタルラもあの時は酷いものだったな。毎日のようにお前の名前を呼んで泣き叫んでいた」

 

「…………え?」

 

 冗談のつもりだったのに、俺が死んだと思って泣いたのか? こんな俺の死で? とても信じ難い。もし本当だとしたら、ケルシーも本当に泣いてたりするのだろうか。

 

「それと、聞かなくてはならないことがある」

 

「ハイ」

 

 さっきは躊躇っていたのに俺の胸に手を当てて、冷気を出しながらフロストノヴァはにっこりと笑った。

 

「ケルシーとはどこのどいつだ?」

 

 なお、目は笑ってなくてハイライトは消失していた。怖い。

 

 

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