この正しい世界を歪ませたい   作:全部武力で解決

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第4話

 

―龍門にて。

 

 

 龍門の執政者、ウェイ長官との契約を終えたロドス最高幹部の三人、アーミヤ、ケルシー、ドクターはエレベーター内にて一息ついていた。

 

 契約内容はレユニオンに対する協定、共に龍門をレユニオンから守るといった内容のもの。

 ウェイ長官は手練の政治家であり、難航した交渉であったが無事に締結を得られた。

 

「ふー、緊張しました」

 

「お疲れ、アーミヤ」

 

「まだ安心は出来ない。あの抜け目のないウェイのことだ、何を企んでいるか分からない」

 

 緊張を解いた二人と違い、ケルシーは気を緩める様子はない。淡々といつものように話す彼女だが、アーミヤを見て柔らかな表情を作った。

 

「だが、そんな男を相手に契約を結ばせたのは大きな成果だ。今回の交渉、悪くなかったぞ、アーミヤ」

 

 そう言ってケルシーはアーミヤの頭を撫でた。普段からアーミヤに気をかけていたケルシーだが、スキンシップは好まなかった。ましてや褒めながら頭を撫でることなんてその時まで一度たりとも無かった。

 

「ケルシー先生……」

 

 驚いて固まるアーミヤをケルシーは撫で続ける。優しくゆっくりと丁寧に……、その手つきはアリストパネスのものそっくりだった。

 アーミヤは少し彼のことを思い出してしまい、嬉しさと悲しさで心がグチャグチャになった。涙が出そうになるのを、もう立ち直ったからと無理矢理押さえつける。

 

 

「……着いたようだ」

 

 ケルシーはアーミヤの頭から手を退けてまた無表情に戻る。そしてドクターの横で止まり、鋭い目つきで睨む。

 

「初対面で挨拶も無しか」

 

「あっ、えっと……」

 

「……アーミヤから話は聞いている。せめて君は、チェルノボーグで犠牲となったアリストパネス以外のオペレーターのことをよく調べてくれ」

 

「ケルシー先生……」

 

 

「君の帰還を歓迎しよう、ドクター」

 

 ケルシーは無表情でそう言った。

 

 

――

 

 

「龍門に……ロドス?」

 

 俺はフロストノヴァにタルラがレユニオンを龍門に送ったことを聞いて、一人で龍門に潜入している。

 

 

 フロストノヴァに何故、タルラの暴走を止められなかったかを聞いた。タルラに傾倒しているパトリオットと違い、フロストノヴァなら止められたと俺は話すと、彼女は微笑んで俺を抱き締めた。

 

『タルラも私も、この大地が憎くなってしまったんだ。お前が居た感染者の居場所を作るレユニオンは、大地の怒りを振り撒く暴徒へ変わった。今、お前は生きているが、またお前が死ぬんじゃないかと不安になってしまうんだ』

 

『……でも、それで大勢死ぬ。お前達が相手にするのは非感染者じゃない、国の政府だ。それもウルサスだけじゃない、炎国もカジミエーシュもだ。その全てに勝利する以外にお前達の掲げてしまった怒りは証明されない。その怒りの先には正当防衛を名乗った惨殺しかないぞ!』

 

『……タルラは変わった。私以上に何かに取り憑かれたように残忍になった。でも、まだ理解出来てしまったんだ。お前を失った怒りは……痛いほどに』

 

 俺はその時、レユニオン全員を制圧する計画を変更した。俺にしか出来ない、彼女達が明日を生きられる策に。

 

 フロストノヴァは俺のことを拘束するでも、誰かに報告するでもなくただ黙って見送ってくれた。それを見てやっぱり()()()()()()()()()と再確認した。

 

 

 

 源石で作った仮面を着けて龍門を見下ろす。ロドスの装備はもう必要ないから全て棄てた。レユニオンの外套を借りて、仮面を被る。傍から見れば俺もレユニオンに見えるのかもな。

 

「ミーシャという少女の争奪戦……?」

 

 レユニオンの奴に聞いた話を要約すると、そんなふざけた状況だった。

 

もう悲劇の気配がしてきて胃酸を舐めた。

 

 

――

 

 

 龍門の治安維持機関『近衛局』とスラムにて勢力を拡大させたレユニオンの衝突は既に始まっていた。暴徒を制圧する。それは言葉より難しい。

 

 人が沢山死ぬ、俺が今息をしてる間にも。

 

 この大地が膿んだ怒りは濃い。感化され、共感し、実感して殺意を向ける。

 この連鎖を終わらせることが出来るのは戦場でもスラムでもない。こんな巫山戯た茶番劇を終わらせられるのは、整えられ、絢爛な飾りが施された政府の壇上だけだ。そこで誰かがこの現状を嘆き、哀れみ、変えるべきだと主張しないことには何も変わらない。

 

 ……それで変わるかも怪しいがな。やっぱり俺は……

 

 

「嫌なこと思い出した」

 

 レユニオンと近衛局・ロドスの戦場は採掘場になっていた。戦況は近衛局・ロドスの優勢。ドクターの指揮能力は健在らしい。……これが良いのか悪いのか。学者らしく紙にペンを走らせておけばいいのに。

 

 

 

「……W?」

 

「ドクター!」

 

 戦場にWの姿が見えたかと思うと、ドクターが爆撃された。レユニオンの幹部、スカルシュレッダーが特攻を仕掛けて、自身諸共ドクターを吹き飛ばす算段だろう。アーミヤが必死に走るもアーツの射程圏外だ。

 

「ドクターに死なれるのは、駄目だ」

 

 高みの見物を決め込んでいた俺だが、誰も間に合わないと判断してスカルシュレッダーを止めに入る。

 さっきまで見殺しをしてた奴が人を選り好みするとか、どうしようもないな。

 

 爆発寸前の爆弾をアーツで無力化し、まだ小さな体躯を受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 黒いアーツが俺の体を穿いていた。いや、俺だけじゃない。スカルシュレッダーにも一筋刺さってる。多分これはアーミヤのアーツだ。ドクターの危機に反応して暴発したんだろう。

 

「お前……は、誰だ?」

 

「……話すな、撤退するぞ」

 

 アーツでスカルシュレッダーの傷をできるだけ癒して抱える。近衛局もロドスも、俺がスカルシュレッダーを庇ったように見えただろう。ならば、それでいい。

 

「レユニオンの同胞達よ! スカルシュレッダーが負傷した。撤退するぞ!」

 

「させるか!」

 

 近衛局のリーダーに何かさせる前に投げナイフで牽制する。正体を明かす訳にもいかず、アーツ無しで砂煙の中に飛び込む。

 

 

「スカルシュレッダーは……気絶してるな。こんな子供が暴徒を扇動するなんてなあ」

 

 姿を完全に消してからアーツを使って溝を作る。これで奴らは追ってこれまい。

 

「これは庇ったってことでいいのか?」

 

 

――

 

 

 スカルシュレッダーを救った者として、レユニオンの拠点に迎え入れられた俺は彼らの話を聞いた。

 

「スカルシュレッダーは俺たちの希望だ!」

 

「アイツはいつもミーシャのことを話してたよ」

 

 ミーシャはスカルシュレッダー―アレックスの姉で、スカルシュレッダーは彼らにとても慕われていること。

 

「感染者の怒りを近衛局の奴らにわからせるんだ」

 

「殺される? 舐めないで、私たちは死を恐れない!」

 

 もう彼らに止まる気は無いこと。

 

 

 話を聞いて残念だと思った。だって彼らはもう、立派なテロリストだったから。

 

 

「これはまた……懐かしい奴が居るわねぇ」

 

「Wか。元気だったか?」

 

「……そんな目で私を見るのはあんたくらいよ」

 

「え、仮面着けてるんだが。怖」

 

 赤い角のサルカズ傭兵W。ケルシーの次に俺と付き合いがある女だ。彼女は如何にもな傭兵、多分俺の知り合いで一番正気な奴だ。この世界に対する正気度という意味で。

 

「それで、そんな格好して何のつもり?」

 

「強いて言えば自分探しの旅?」

 

「……あっそ。言いたくないなら別に聞かないわ」

 

 Wって賢いからこの状況は良くないんだよなあ。最悪俺の計画を台無しにしかねない。そんなことになっては()()()()()()()()()()()

 

「じゃあ、俺はもう行くよ」

 

「あら? スカルシュレッダーとミーシャは置いてくの? あんたのことだから、簀巻きにしてでも連れて逃げると思ったのに」

 

「……俺はそんな聖人じゃない。俺の知り合いはなんで俺がそんな良い奴に見えるんだ? アーツか?」

 

「ふふ。殺されたいなら正直に言いなさいよ」

 

「あ、ばk」

 

 ノータイムで投げられた爆弾を避けて窓から外へ逃げる。それを完全に読まれて、俺に続いてWも落ちてきた。

 

「さあ、ちゃんと受け止めて頂戴よ」

 

「何がしたいんだよ……」

 

 地面に着地して自分で着地する気のないWを抱き留める。これの何が嬉しいのか、上機嫌に鼻を鳴らすWに困惑する。

 

 まあでも、ここで会ったのも何かの縁。一応彼女はレユニオンの雇われらしいし、正気なWならタルラに叛逆するかもしれない。

 俺は懐から御守りを出してWに渡す。

 

「何よこれ?」

 

「御守り。何かあれば守ってくれるかもしれないぞ?」

 

「…………へえー。あんたにしては冴えてるじゃない。どう? 似合う?」

 

 どうやらお気に召してくれたようだ。上機嫌なままそれをネックレスのように身に付けたWはこれ見よがしに見せつけて俺に聞く。

 御守りといっても俺の源石を布で包んだ簡素なもの。ファッション性は皆無なそれも、Wという美女のビジュアルアドバンテージによってブランド物のような気品さがあるように錯覚する。

 

「Wは美人だから何しても美しいよ」

 

「……変わんないわねえ。そういうとこ、ほんっとムカつくわー」

 

 Wとの会話は心地良い。お互い狂ってるからか。それとも俺を正気に戻してくれるからか。

 

「じゃあ俺はもう行く。此処のレユニオンは俺にはどうすることも出来ない。アレックスとミーシャにもだ」

 

 背を向けて歩く俺を、彼女は止めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、スカルシュレッダーが死んだと聞いた。

 

 俺は血反吐を吐いた。

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