この正しい世界を歪ませたい   作:全部武力で解決

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第5話

 

 

 死を与える死神はこんな近くに居るのに、救いを与える神は見当たらない。宗教の意義が少し理解出来た気がする。

 

 俺は神様じゃない。

 俺は聖人じゃない。

 俺は……人だ。

 

救えたかもしれない「いや、俺じゃどうにもならない」

なんで見捨てた「どうしろってんだ」

まだ小さかった「子供の死に様なんざ見飽きたさ」

あの子は軽かった「子供だからな」

仲の良い姉弟だった「それがどうした」

 

お前が殺したんだ(俺が見殺したんだ)

 

 

――

 

 

 龍門郊外にある放棄された移動都市にレユニオン幹部が集まっていると聞いて、俺は理性を回復させて乗り込んだ。

 

 この移動都市はチェルノボーグの一部が離脱したものの、天災の被害で動けなくなったものだ。天災の影響で出現した巨大な源石がそこかしこにある。此処はもう人が長く居ていい場所じゃない。

 

 この都市が活発だった光景を知らないが、自分の足音以外響かない街はかなり寂しいものだった。

 

 

「パトリオット」

 

 偶然見つけたレユニオンの幹部に挨拶すると、相手部隊に緊張が走った。俺は剣を抜かない。俺の知る大陸最強の戦士、パトリオットに話があったから。

 

 パトリオット―ボジョカスティ、戦いに手を染めてしまった不器用な男。強大な種族、ウェンディゴの最後の純血。俺は彼が死ぬ前に話をする必要があると思って此処に来た。

 

 

「生きて、いたのか、イディア」

 

「相変わらずお前の一撃は重すぎる。お前とフロストノヴァの加勢が無きゃ、あの場で俺はタルラを倒せた」

 

「お前は、同胞に、剣を抜いた。お前相手では、手加減、できぬ」

 

 やはり、パトリオットは俺を見た途端殺しにくることはなかった。ここで語らうのも悪くないかもしれないが、俺には時間が無い。

 

「パトリオット、いやボジョカスティ。お前はタルラを止められなかった。彼女がかの【黒蛇】に呑まれるのを見逃してしまった」

 

「……やはり、そうなのだな。お前が、言うのなら、そうなのだろう」

 

「止められなかった時点でレユニオンは破滅した。それに従いパトリオットはレユニオンと共に沈むだろう。お前が裏切る気がないのは知っている。だが俺はお前を殺してやれない。パトリオット、国を愛した戦士よ、お前から戦いを取り上げるのは俺であってはならないんだ」

 

「……」

 

 彼は真剣に俺の話を聞いてくれた。彼の部隊も、俺の話に割って入ることはない。

 

「お前は間もなく死ぬだろう。だから……エレーナとタルラ、少なくとも二人の未来は保証しよう。お前が戦士として死ねるように」

 

 パトリオットは沈黙した。こいつは頭も体も岩山のように硬い男だ。その癖感傷的で、一度絆されれば甘い。だから、俺の計画に組み込むことにした。

 

「お前の言う未来に、お前は、いるのか?」

 

「…………お前に頼むのはたった一言、それをある人に伝えてくれ」

 

 

 本当に……どこまでも甘く硬い男よ。

 

 

――

 

 

 俺はパトリオットと別れ、再び龍門に潜入していた。龍門のテロリズムは実害を伴って拡大している。これはもう立派な戦争と言って差し支えない。

 

「っ!」

 

 胃から混み上がった塊を吐き出す。ドス黒いそれは固まった血と源石だった。内臓が一つ潰れてそうな血の量に苦笑いし、口元を拭って源石だけを拾う。

 

「………………未来、か」

 

 小石サイズのそれをポケットにしまう。

 

 

 

 俺がこれからするのは龍門から敗走するレユニオンの保護だ。怒りに命を燃やしきれない者はここで掬いとる。逆に、このタイミング以外にテロリストを助ける方法を俺は知らない。

 

 レユニオンは暴徒だ。近衛局は軍だ。つまり近衛局が、龍門が、炎国が、世界が正しくてレユニオンは悪だ。簡単な説明だな。実にシンプルだ。

 

 正義に敗れた敗北者ならまだ説得する余地がある。こんなはずじゃなかったと後悔して、無為に生き長らえさせることが出来る。それ以外は死ぬだけだ。

 

 

「全部……正しい」

 

 正しい、こうあるべき姿。欲望を棄却してこの世界に正解を求めるなら、この目に映るものが真実だ。

 

「っ」

 

 また吐いた。優しいロドスやレユニオンに居て忘れていた。そうだ、俺はこうやって生きてきたんだ。

 

 

「今の俺を見たら君はどんな顔するかな、ケルシー」

 

 

――

 

 

 龍門の暗部であろう黒装束の集団とゾンビみたいな異常感染者がスラムの人間を蹂躙していく。その喪失に意味は無い。レユニオンは援軍が来ないことを自覚し無事に敗走を始める。

 

 

 正体がバレないように素手で黒装束を殺して、異常感染者をアーツで鎮静化していく。

 

「メフィスト……」

 

 異常感染者の原因は知っている。レユニオンの幹部、メフィスト。鉱石病で歌声を失ったあの子は俺と歌の練習をした。ブレーキの効かない子だったけど彼と一緒に居るファウストのお陰で笑顔を取り戻していた。

 

 メフィストとファウストは二人で支え合って生きてきた。タルラに保護された後、俺がアーツの使い方を教えた。二人には、戦いを知られたくなかった。

 

 放棄された移動都市で……あの子の趣味の悪い所業を見た。チェルノボーグの上層部をオブジェクトに変えたあの子は笑っていたそうだ。……生かしてはおけない、そう思ってしまった。

 

「……お前が死ぬのか」

 

 大通りにファウストの死体を見かけて足を止める。大方、メフィストを逃がす囮にでもなったか。

 

「*スラング*」

 

 メフィストは殺す、その過程でファウストも殺すことを考えていた頭はすっかり冷めきった。

 

「*スラング*」

 

 アーツで隠れているメフィストの部隊を見つけて、気付かれる間もなくアーツで全身を源石に変えた。彼らに発言の隙を与えなかった。何かを喋る前に死体になってほしかった。

 ファウストを失って悲しんでるメフィストなんて見てない。ファウストを慕い託された狙撃部隊のことなんか知らない。俺はただ、獣以下に堕ちた小さな子供を殺しただけだ。

 

 

 

「*スラング*!!!」

 

 知り合いを殺す時が、一番狂気に満ちている(何かを失う)

 

 

――

 

 

「まさか、戦争の悪夢……」

 

「君達が都市のバランスを保ってるのは分かるが。俺の個人的な理由で死んでくれ」

 

 黒装束を殺しても法律は俺を見つけられない。殺した奴の上に屍を重ねられるのはどんな気分なんだろう。寝心地が多少悪くても眠れるかな?

 

「ああ、駄目だ。理性が働かない」

 

 次は誰だ? 誰を殺そうか? 違う、忘れるな、()()()()()()

 

「戻るな! 嗚呼、そう、いや違う! 救え! エレーナとタルラを救ってから死ね!」

 

 ……そうだ、フロストノヴァだ。彼女を助けないと。

 

 

――

 

 

 意識が混濁とする中、フロストノヴァの部隊、スノーデビル小隊を見つけた。

 

「久しぶりだな、兄弟。……フロストノヴァは何処だ?」

 

「お前は……」

 

「そうだ、仮面を着けていたんだったか。……俺だ」

 

「まさか……イディア! 生きてたんだな! 姐さんはアーツを使いすぎたんで、他の奴に預けて逃げてもらった」

 

「そうか。だからこの氷壁か。スノーデビル小隊、お前たちも龍門から離れろ。時間稼ぎは俺がやる。邪魔はするなよ兄弟」

 

「おい待……」

 

 アーツでスノーデビル小隊がフロストノヴァに渡された源石を壊し、彼方へ吹き飛ばす。これで、このスラムに人は俺だけだ。

 

「世界は廻る

明日へと回る

今日は昨日へ

いつかの未来へ

世界は回る」

 

 アーツを詠唱で強化して周囲を更地に変える。建物は塵になって、何人たりとも隠れることは許されない。

 

「簡単な詠唱でこの程度か」

 

 黒剣は使えない。ポケットから源石を取り出し、剣に変える。不出来な剣だが、ナマクラよりは斬れ味がありそうだ。

 

「戦場は嫌いだ。弔いの時間が長くなる」

 

 仮面を着けて、剣を地面に突き立てる。どうか俺以外の優しい人間の祈りが、彼らに届きますように。

 

 

 

 複数の黒装束が更地に足をつける。手に持つ刃物には払いきれなかった血が付着していた。どうせ混ざりに混ざって誰の血とも言えない汚れだろう。

 戦場は楽だ。殺さないように気を遣う必要もない。強いて言えば彼らみたいに汚れるのを気にするべきか。

 

「お前も感染者か」

 

「探してるのは感染者か? それとも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死に場所か?」

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