この正しい世界を歪ませたい   作:全部武力で解決

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第8話

 

 

 黒蛇が俺の対策を何もしてないとは思ってなかった。対策ごと上から潰せばいいと慢心していた。ウルサスがどれだけ俺を殺したいのかを、漸く実感した。

 

「『皇帝の利刃』……8人とは大所帯だな」

 

「ウルサスに悪夢は必要ない。死んでもらうぞ……『戦争の悪夢』」

 

「悪いが遊んでやれる時間は無いんだ。死にたい奴からかかってこい」

 

 たった5人でボジョカスティを足止めできそうな精鋭が俺の前に8人。ボジョカスティと遊撃隊ならこの人数でも勝てそうだが、俺は一人だ。ボジョカスティより弱い俺がどこまでいけるか……。

 

「いや、全員殺して先に進む」

 

「ここで確実に悪夢を終わらせてっ──!」

 

 先制で一人の首をアーツで捻じ切る。動揺した奴に源石の剣を投擲しながら近付き、油断した隣の奴の胴体をアーツを纏わせた源石剣で切断する。

 

「動揺するなっ! こいつは俺たちを恐れない!」

 

「そうだ。俺はお前たちを恐れない。悪魔の力は半分も引き出せないだろう。その重厚な装備も俺のアーツを防げない。相性が悪いな」

 

 虚勢を張って精一杯強がってみせる。でも皇帝の利刃が俺と相性最悪なのは事実だ。

 俺のアーツは防げるものじゃない。アーツの作用に強度の概念は干渉しないから、捉えられた時点で俺は奴らの首を捩じ切れる。

 

「だが数は此方が有利だ!」

 

 本領発揮できなくとも、こいつらは精鋭部隊。俺が不利なのは変わらない。連携を取る時間を与えてはいけない。

 

「『眼前の不条理は正誤の狭間へ、我が歪形を映せ』」

 

「アーツの詠唱?!」

 

「クソっ!」

 

 詠唱で強化したアーツで二人殺せた。残り4人、あと半分だ。

 斬りかかって来る二人の剣を両手の源石剣で防ぐ。二人の後ろに隠れていた一人の剣は源石を纏わせた肩で受ける。

 

「この悪夢め!」

 

「そう簡単にはいかないよな。……っ!」

 

「ここで死ね化け物!」

 

 背後に回られた一人に剣で刺し貫かれる。内臓は……駄目だ抉られた! 

 

Mi1gram(ミルグラム)!」

 

 俺に纏わり付いていた源石が俺の肉体を内側からこじ開けて人型の生命体が飛び出す。Mi1gramは奇怪な雄叫びを上げながら背後の一人の頭を叩き潰した。

 

「貴様っ!」

 

 これだけ近けりゃアーツを当てるのは容易い。アーツで千切れた三つの頭がボトリと落ちた。

 

 

「っ……ごほっ」

 

 傷付いた内臓の血が食道からも吐き出てくる。まだ倒れる訳にはいかない。Mi1gramに剣を抜かせて傷口を源石で覆い隠す。出血は止まったが、内臓の機能は回復しない。

 

「これで全員か……?」

 

 死体の数を数えて、それが8体いるのを確認した。ボヤける視界を覚醒させる為に手にナイフを刺そうとした時、右胸に矢が刺さった。

 

「生き、残りか」

 

 幸いにも痛みで目が覚めたお陰で狙撃手の位置は把握出来た。続く二射目は弾いて、Mi1gramに先行させアーツで殺す。更に二人の皇帝の利刃、計10人が俺を殺そうとして失敗した訳だ。

 

「クロスボウを使う皇帝の利刃なんか知らなかったな」

 

 右胸……心臓は避けたな。皇帝の利刃相手に良くやった方だ。一度に8人を相手にしたのはさすがに初めてだ。

 体力は節約したかったが、四肢が無事なら上出来だろう。

 

 Mi1gramを戻すと、身体中を源石が覆う。イディアという人間の輪郭が源石によって変形していく。

 

「行かないと。随分と道草を食ってしまった」

 

 俺は再び司令塔を目指す。俺の足跡が血黒く染まっていても、誰も俺を止められない。

 

 

――

 

 

 

 

俺の前世の記憶は何処へ行ったのだろう?

 

 

 ふとそんなことを思った。源石の研究が行き詰まり、寝ることもできない俺は憶えている最古の記憶を思い出そうとした。

 

「……???」

 

 そして、俺の記憶が随分と穴だらけなことに気付く。虫が食ったように脈絡なく消えている記憶に違和感を覚えた俺は、なんとなく黒いナマクラの刃を触ってみた。

 

「っ?!」

 

 俺は突発的な頭痛に襲われ手から落としてしまった。一つ気付いたのは、これには俺の記憶が内包されていることだった。

 

 

 源石の研究で、こんな諸説がある。

 

『源石はあらゆる物を情報として内包していく性質を持つ』

 

 源石は増殖する。置き換わったと表現してもいい。そして源石が保有する莫大なエネルギーとは、即ち内包された情報なのではないかという説だ。

 

 確証がある訳ではないが、現にこのナマクラには俺の前世を含む記憶が内包されている。昔、俺が戦場なんかで強いストレスを感じた時に吐いた源石も同様だった。しかし、他の事例がない為、俺の妄想に過ぎない部分もある。

 

 俺は自身について調べた。源石に内包された情報を確認できた原因が俺にあると思ったからだ。

 

 

 

 結果は上出来だった。ナマクラは転生直後の俺が化け物に抗う為に無理矢理記憶を源石に閉じ込めた物で、俺は源石の情報にある程度干渉出来ることが発覚した。

 

 

 

「ケルシー、俺のアーツで鉱石病を治せるかもしれないぞ!」

 

 アーツを使った鉱石病の治療。源石に干渉できる俺なら可能だと考えた。重症化した鉱石病患者に許可を貰い実践してみると、鉱石病による症状が緩和された。

 源石で足が不自由になっていた患者は、少しだが歩くことが出来るようになった。

 

 俺は歓喜した。これで鉱石病の問題を解決できる。やっと次の問題に立ち向かえるって。

 

「今はまだ緩和するのが精一杯だが……いつかは」

 

「イディア」

 

「どうした? ケルシー」

 

「アーツを使った後、君はどうなった?」

 

「………………」

 

「……七日だ。七日間目覚めなかったんだぞ! 君のアーツのお陰でその患者は歩けるようになった。それは評価すべき行為だ。症状の悪化を抑えるのが限界の現状においてとても革命的とも言える偉業だ。だが、これから鉱石病の治療を君に任せれば、どれだけの負担になると思っている? 二度と目が覚めないかと思ったんだぞ! もうこんな真似はしないでくれ」

 

 

 ケルシーにアーツ治療を禁止されてからは、アーツの使用を控え、研究に時間を割いた。そして俺は、源石を擬似封印することに成功した。

 

 俺の記憶か体の情報を入れた源石が増殖を止めたんだ。推測としては、源石の許容量を超えた情報が入り込んだ事による機能停止だと思われる。俺の記憶と体は想像以上に源石でいう情報を秘めていた。

 

 その理論を活用すれば、理論上俺を生贄に膨大な源石の増殖を止めることが出来る。ロドスが鉱石病の治療法を確立させ、世界が源石に対する対抗手段を得る時間が稼げる。そうすればきっと、源石の問題はケルシーが解決してくれる。

 

 

 

 この案をケルシーに提案しても却下されるのは目に見えていた。でも、文明を源石から守るには時間が無い。未だに感染者を迫害しているようでは大陸全土を源石が覆うのは避けられないだろう。

 俺はどうにかして、この大地の生贄になるしかなかった。

 

「クソっ! 駄目だ。自分でやろうとすると拒絶反応が出る」

 

 この黒いナマクラを自分に刺し、全ての記憶を俺が持った状態でなければ理論上の増殖停止は行えない。

 本能が危険だと身体を制御しているのか、俺が自分の胸にナマクラを刺そうとしても腕が微動だにしない。

 

 

 こうなれば他人に俺を殺してもらう必要ができた。しかし、大地の行く末を照らすロドスにはまだ幼いアーミヤと、意外と寂しがり屋なケルシーが居た。自身を犠牲にする選択を取るには、彼女達の存在が俺を躊躇させた。

 ドクターが居ない3年間、俺はドクターを待ち望んでいた。彼ならロドスを、アーミヤとケルシーを任せられると。

 

 

 

 

 俺は石棺から出たドクターが以前より優しくなっていて嬉しかった。きっとアーミヤとケルシーも喜んでいる。他のオペレーター達だって、彼を認めていく。ドクターは優しくて頼れる皆のドクターだ。もう……俺が居なくても大丈夫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後に守れたんだ。エレーナも、タルラも、もう……十分だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――

 

―司令塔最上階。

 

 

 パトリオットは最期にタルラが洗脳されており、真の敵が居ると通告して息を引き取った。レユニオンは事実上の崩壊、アーミヤはタルラの暴走を止める為司令塔へ、ケルシーとドクターはチェルノボーグを止める為動力制御エリアへ向かった。

 

 錯乱状態のレユニオンを制圧しながら辿り着いた最上階。タルラのアーツに他のオペレーターが耐えられないと判断したアーミヤは単独で乗り込む。そこには、肉親同士で殺し合うチェンとタルラが居た。

 

 

 アーミヤは二人の記憶を読み取り、そして理解する。この悲劇がどうして悲劇足るのか。人の悪意と感染者の救いの無さを。それでも、アーミヤは戦うことを決める。

 

 魔王の力を解放し、二人の記憶、感情を得たアーミヤはチェンの持つ源石を鍛造した剣『赤霄』と瓜二つの剣を引き抜く。

 

 アーミヤとチェンは『不死の黒蛇』に人格を乗っ取られたタルラを救うべく剣を構える。この大地の怒りを、彼女たちの思いを知らしめるために。

 

「あなたをここで止めます!」

 

「タルラから出ていけ!」

 

 

 

 

 

「見つけたぞ」

 

 不意に聞こえたその声に背筋が凍てついた。タルラのアーツでここ最上階はとてつもない熱が渦巻いている。しかし、その声の持つ気迫は、滾る炎の熱が奪われたと錯覚させた。

 

 その男は悠々と歩いて来た。黒く、源石に呪われているかのような風貌をした男は、人というより巨獣―この世界に存在する神のような存在―の一種のように見える。

 

「ご苦労だった、『不死の黒蛇』。愚かな小物よ。お前はもう用済みだ」

 

「お前は誰だ? ……まさか、仕留め損なったのか。無傷だと? ここまで底知れないとは……」

 

「黒蛇、お前とこれ以上話す気は無い。見てきただけで大地の代弁者にでもなったつもりか? 身の程を知れ。速やかに消してやろう」

 

「なに────?」

 

 男が手をかざすと、タルラの体は源石に取り込まれた。突然の出来事に困惑する二人を他所に源石は軋んで小さくなっていく。タルラの姿が再び見えるようになれば、彼女の足元に拳大の源石がゴトリと落ちた。

 

 男が地に落ちたそれを拾い上げると、源石は白く輝いた。光が収まれば、タルラが生み出した炎と熱は綺麗に無くなっていた。破壊された箇所は直らなかったが、タルラがアーツを使用した形跡は忽然と消えている。

 

「これで蛇は消えた。洗脳されていたこの愚かな女も用済みだ」

 

「タルラ!」

 

 眠っているタルラを放り投げてチェンが受け止める。男の粗暴な扱いに怒りを覚えるも、冷静にタルラが生きていることを確認する。男が何をしたのかチェンには理解出来なかった。

 

「貴様、何をした!」

 

「言った通りだ。蛇は消え、その女は用済みとなった」

 

 男は息を整え、源石の剣を着く。足元から源石が増殖していき、滲出性の源石が漂い、男を構成する源石は脈動を始める。

 

「あなたの目的は何ですか?」

 

「……感染者も非感染者も関係ない、一度全ての政府を崩壊させ、新たな制度を作り出す」

 

 目の前の佇む正体不明の男にアーミヤは困惑していた。彼から伝わってくる期待、憤怒、哀泣、絶望、長年に渡り堆積してきたそれらの感情がアーミヤに記憶を読ませるのを妨げている。

 

 男は呻き声を抑えながら最上階を源石で覆い尽くしていく。それが意識しての現象なのか判別はつかないが、決して野放しにしていい存在ではないことを二人は本能で理解した。

 

「この世界は正しい。文明は源石に頼り、鉱石病患者の人権を剥奪する。政府の統治は怠慢とした腐敗に希釈された。脅威が世界中に満ちているというのに、未だ既存の利益と形に甘えようとする国ばかりだ。人類の存続は既に危機に陥っている」

 

 

 その者は、舞台演者のような身振りで手を広げ、高々に声を上げた。

 

 

「人類が団結しないならば、私が全てを壊し、全てを再建させよう。この正しい世界を、より良い誤った形へ歪めてやろう!」

 

 狂っている。アーミヤとチェンはそう思った。奴はつまり、戦争を起こして全ての国を滅ぼすと言っている。そんなことできるわけが無い。

 

「だから、各国の主要都市全てに天災を降らせる」

 

「なにっ!」

 

「都市から非感染者が居なくなれば、保身に走る政府は感染者を擁護するだろう。ウルサス帝国と炎国が戦争を始めて戦場を作れば、そこに天災を降らせれば軍も感染者になる。そして国が弱れば他国が攻めてまた戦場ができる。いずれ全ての国が体制を保てなくなり崩壊していくだろう」

 

「天災を、降らせる?」

 

「こういうことだ」

 

 男が手を空へ上げると周囲の源石が立ち上っていく。源石は空中で集束していき、吊られた糸が切れたように落下する。最上階に落ちたそれはドクター救出作戦時に見たものと同じもので、規模は小さくとも天災であることは疑いようがなかった。

 

「私は、天災を……降らせる。遅かれ早かれ、源石は全てを呑み込む。私は源石の化身だ。私がこの世界に源石をもたらしたのだ。ロドスよ! 俺を殺せばこの大地から源石が消えるぞ!」

 

 

 男は剣先をアーミヤへ向ける。仮面から垂れる赤が源石に染み込んで脈打つ。

 

「戦え、ロドス。これは《平和》を嘯く者の抵抗だ」

 

 茶番劇の幕が上がった。

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