「決着はつかなんだか」
「ふっ……だが、アチラは落ち着いたようだぞ」
「何がアチラは落ち着いたようだぞ。だ!馬鹿者!」
「そうは言うがな、女帝よ。
俺と宿敵は本気を出していない。その証拠に…
みろ、辺りに被害は無いだろう」
「中々の演技だろ?」
「……団長、二人の言葉は本当です。
二人の星辰光は20%も出していません。
あれは、ただの演出でした」
「……いや、ふざけるなよ。メルビン。
私を、母を騙そうとは悪い息子だ!」
「む……」
「ヘラ様?何故ですか!あれは」
「…メルビン、お前。あのまま本気で戦おうとしたな。
私がお前の背後に入ってから弱めたな?」
「……誰しも、基本的に親を失いたくはないものだ。
特に、救いようのない毒親ではなく。弱気を導き、
子に救いを与える聖母の様な女神はな」
メルビンの境遇を知っているからこそ、ヘラは喜びを感じる。
公衆の面前で母親などと、あのメルビンが言ったのだ。
「おいおい、お前はマザコ」
「…マキシムさん、この件でメルビンをおちょくるのは禁止です。もし、再びやるなら、私が相手になります」
「…地雷か。その…………悪い」
マキシムは素直にメルビンに謝罪する。
「気にするな、俺は過去の闇を忘れない。
忘れては、人を掬い上げ、導く事など出来やしない。
何れ、お前にも話そう。俺の闇を。俺の光を」
「遠慮します」
マキシムがそう言えば、何処か不満そうなメルビン。
しかし、直ぐ様切り替えヘラ達の方へと向かう。
「俺も俺だが、お前達も本当に大概だな。
まぁ、性犯罪者を生かす意味はない……が、
知っているか。監獄へ送られた者達の中で性犯罪がどういう
対応をされ、どのように扱われるか」
「え?いきなり」
「犯罪者達は殺人、強盗と大罪を犯す屑だが……
それでも性犯罪には手を出さない。
その様な奴を見つけた瞬間、奴等の怒りの捌け口にされる。
簡単だ、性犯罪を救おうとする看守は居ない。
性犯罪は軽い罪だが、被害者にとっては殺人より重い。
そして、それを行っていた存在も変わらず『悪』である」
「……それは」
「メルビン、それでも私はクラネルと本気で愛し合って」
「………メーテリア。それなら俺は何も言わん。
特に子供が居るのなら……尚の事だ。
おい、クラネル」
「え…あっ、はい!」
「……メーテリアを裏切るな。
子供の顔を一度も見れない親など……価値はない」
メルビンはそれだけ告げると去ろうとする。
「あと、被害責任はゼウス・ファミリアが全額負担しろ」
「は?!まて、メルビンお前」
「さもなくば、ここで悪神ゼウスを殺す」
メルビンはゼウスの周りに光の槍を下ろし、殺せる事を示す。
「………わぁったよ!全額ゼウス・ファミリア負担だ!
くそ……とんだ貧乏くじだ!」
「……そうだ、ヘラ。お前を探していた本題に入るぞ。
隻眼の黒龍だったか、その討伐に俺を」
「お前の参加は許さない」
「へ?おい、女帝!俺は聞いてないぞ!」
マキシムは叫ぶが、ヘラ・ファミリアのメンバーは
皆等しくメルビンを見つめる。
「お前が居なくとも、我々は勝てるからだ」
「……アルフィア、まさかお前までもか!
戦場は常に死と隣り合わせだ。判らないのか!
ならば、戦力の出し渋りなど」
「……メーテリアと彼奴の事がある。
私達には敵が多い。護れるのは、お前しかいない。
頼む、私の妹とその子を……私達の居ない間、守ってくれ」
それはアルフィアの心からの言葉。
それだけではない、皆頷きメルビンは言葉をなくす。
「良いだろう、お前達の吉報を待っている。
凶報なぞ、絶対に許さん。マキシム、俺の宿敵よ」
「あん、どうしたよ」
「生きて帰れ、俺との決着はついていないだろう」
「……わかってるよ」
「クリス、君にもだ。生きて帰れ」
メルビンは軍人として、仲間として敬礼を行う。
それに、辿々しいながらも敬礼が返される。
「……戦略的撤退という言葉がある。
それは敗北ではない、勝つ為の礎を築く意味がある。
忘れるな、生きる事が最も大切なのだから」
1週間後、アドラー地区におけるメルビンの家に
メーテリア、クラネル、ヘラ、ゼウスの4名が招待されていた。
アドラー地区で犯罪を犯すほどの馬鹿者は居ない。
更に、屋内には警備隊の先鋭が待機している。
「あの……メルビンさん、俺とメーテリアに」
「……お前、メーテリア、ヘラ、そして生まれくる子供。
俺は約束した。必ずや護ることを」
「ワシは」
「…ついでだ、貴様が死ねば我が宿敵が死ぬ」
メーテリアとヘラに対しては微笑みを。
クラネルに対しては微妙な笑顔を。
ゼウスに対しては嫌悪感を隠さない顔を向ける。
「…心配なの?」
「心配などしていない!」
「何処がじゃよ」
ソファに座り、常にブーツの底で床を鳴らす。
コツコツコツコツ、正直五月蝿いのだ。
「そんなに心配なら行けばよいじゃろ」
「……参加するなと命令だ。軍人ならば、上からの命令には」
「それは、己の意思よりも必要ですか?」
「メーテリア、メルビンに何を」
メーテリアはヘラの言葉を無視しメルビンを見つめる。
「英雄とは、常に誰かが危機に陥る時現れる者では?
メルビンさんの感覚なのでしょう?胸騒ぎがするのでしょう?
なんでそれを押し込めて居るんですか?
英雄なら、自ずと結果がついてきます。
英雄メルビン・コールレイン。
貴方は此処で立ち止まるんですか?」
「……」
「隊長、我々が居ます。彼等は必ず護ります。
ですから……ですから……己の意思に順してください」
警備隊の1人がそう話す。
メルビンはその言葉に頷くと、仲間が作り上げた最高の逸品を
携え、ヘラの前に立つ。
「……行ってくる……―母さん」
「………行ってらっしゃい」
それはメルビンが絶対に言わないであろう言葉。
だが、理解したのだ。ヘラの愛を。
幼き日に求めても、手に入らなかった親からの愛を。
メルビンにとって短い期間ながらヘラは親だった。
ならば、戦場に向かう前に別れを言うのは筋だろう。
「生きて…帰ってきなさい」
「ハッ!」
今度は軍人として、兵士として、主君に対して敬礼をする。
慈悲深い女性、英雄ではないが英雄を生み出す女性。
黒龍討伐へ向かったのは前日だ。
馬を休ませずに走らせればなんとか追いつくだろう。
メルビンの星辰光があれば疲労など感じることがないのだ。
さらにメルビンは光があればエネルギーを得られる為、
意識すれば食事も必要なくなる。
光を吸収しエネルギーにする『光合成』擬きをする事も可能だ。
「……邪魔だ」
剣で一刀にして、道に出る雑魚を排除する。
休憩もなく、誰かに出会おうと知った事ではない。
邪魔するものは全て斬る、今のメルビンには時間がない。
「……女帝、宿敵よ、今行くぞ」
それは星辰体感応奏者だから出来ること。
もっと言えば、メルビン・コールレインというイレギュラー。
規格外が行うあり得ない行動。
「創生せよ天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星
例え堕ちようとその光を喪わず、絶えず輝き続けよう。
闇夜を照らし、全てを拾い、掬う英雄の姿を今、刮目せよ。
汝、光を夢見る者なら渇望せよ。
汝、闇を生きる者達ならば救いを求めよ。
汝、悪に生きるものなら断罪を受け入れよ。
群衆よ、神をも降し、悪魔も屠ろう。今、英雄は此処にある。
我は今、正義也!
超新星 ーー輝ける正義の天秤は今、傾いた
Metalnova shine Libras leaning 」
それは自身と、跨っている馬に向けて放たれる光の祝福。
完全無欠なエネルギー。
光一つない深淵など、地上に普通はない。
「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」
圧倒的な極光が激しい熱と光を放ちながら金色に輝く馬。
「ハイヤー!」
誰よりも仲間を救いたい、そして光足らんとする英雄。
それに応えるように馬もより脚を速めていく。
「……間に合……いはしなかったか」
ボロボロの野営地に傷だらけの戦士たち。
それなのに、メルビンをみるなり駆け寄ってくる。
「お前………馬鹿野郎」
「…メルビン」
「メルビン……貴様……メーテリアは!」
「アルフィア、姫は部下が守っている。
しかし…我が宿敵よ。無様だな、片腕を失うか」
「へ……笑えよ。でもな、俺はまだまだやれるぜ?」
マキシムは蠢く存在に剣を向けた。
『竜の王』『黒き終末』『生ける厄災』とも呼ばれ、英雄譚では古代最強の英雄アルバートが己の命と引き替えに片目を潰し、退けられたとされる伝説的な存在。
「……私も、まだ負けてない」
メルビンの隣にマキシムが立つ。
「クリス、女帝、アルフィア、他のメンバーを連れて帰れ」
「メルビン…決着つけようぜ?このでかい蜥蜴。
俺とお前、どっちが倒せるかをな」
「マキシム、馬鹿言わないで。メルビンも」
クリスは聖女は共に行こうと言葉を続けようとするが、
返答は行動によって返された。
創生せよ天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星
例え堕ちようとその光を喪わず、絶えず輝き続けよう。
闇夜を照らし、全てを拾い、掬う英雄の姿を今、刮目せよ。
汝、光を夢見る者なら渇望せよ。
汝、闇を生きる者達ならば救いを求めよ。
汝、悪に生きるものなら断罪を受け入れよ。
群衆よ、神をも降し、悪魔も屠ろう。今、英雄は此処にある。
我は今、正義也!
超新星 ーー輝ける正義の天秤は今、傾いた
Metalnova shine Libras leaning
創生せよ、天に描いた星辰を───我らは煌めく流れ星
巨神が担う覇者の王冠。太古の秩序が暴虐ならば、その圧制を我らは認めず是正しよう。勝利の光で天地を照らせ。清浄たる王位と共に、新たな希望が訪れる。
百の腕持つ番人よ、汝の鎖を解き放とう。鍛冶司る独眼ひとつめよ、我が手に炎を宿すがいい。
大地を、宇宙を、混沌を───偉大な雷火で焼き尽くさん
聖戦は此処に在り。さあ人々よ、この足跡そくせきへと続くのだ。約束された繁栄を、新世界にて齎もたらそう
超新星ーー天霆の轟く地平に、闇はなく
Metalnova Gamma-ray Keraunos
2つの星辰光が黒龍を襲う。
そう、今黒龍が相手にしているのは時代の英雄。
人が求めた英雄ではない。
メルビン・コールレインは折れ、砕け、絶望し、それでも尚、
あがき続け、絶滅光に魅了されし光の奴隷。
マキシム・ブリンガーは神に認められ英雄になりし存在。
光の奴隷と出会い、メルビンが望んでやまない力を手にした。
一人の戦士。破綻者と戦士、両者は正反対だ。
だが、本質は共に類稀なる『善』である。
黒龍は猛る。目の前に原子爆発と光による消滅現象が
起きていても、それを理解する知能はない。
マキシムの星辰光の光を吸収し、メルビンは放出する。
その放出にはマキシムの強化回復も含まれる。
マキシムが起爆剤となり、
メルビンはそれを受けてより強くなる。
メルビンがマキシムの痛み、傷、エネルギーを回復し、
星辰光を放たせる。
「無論、コレはマキシム。お前だから出来ること」
「は?」
「ヴァルゼライド閣下の星辰光ならば、
俺は一瞬にしてオーバーフローし、爆発しただろう」
「今話すことか?」
軽口を言い合う2人だが、その身体からは血が噴き出している。
マキシムの肉体は神によって強化されてはいる。
しかし、本質的には改造されていない。
そのためメルビンの光による強化回復がオーバーフローし、
さらに自身の星辰光による自傷が変なふうに噛み合い、
体中から血を噴き出してオーバーフローを改善させるという
方法をとっている。
対してメルビンはいくらヴァルゼライド本人では無いといえど、
この階層に来るまでにエネルギーをほぼ使い果している状態だった。そこにいきなり満タンになるガソリンを入れられ、
フルスロットルで走っているが、
同時にフルスロットルで走っている分を追加されている状態。
逃げた筈の仲間にもエネルギーを分け与えているが、
そもそものメルビン自身のガソリンタンクとしての容量を越え、
それを自傷ダメージを回復することでなんとかしている。
「……メルビン、一気にやるぞ!」
「あぁ………この蜥蜴も此処で」
だからこそ、本気の一撃を2人ともぶっ放そうとした。
だが、『戦略兵器として核弾頭に匹敵する存在』が大暴れしているとすれば、その土地はとうなる?
もっと言えば地盤を破壊する下地をとっくに作り出されている。
「メルビン!マキシム!地面が崩れてく!早く出て!」
「………まさか……いや」
メルビンには此処で倒される存在ではないという感覚があった。
今のメルビンとマキシムならこの程度の蜥蜴。簡単に討伐できる。だが、何故だろうか。
生かしておいた方が良いという感覚が不思議と出てきてしまう。
「………まぁ良い。今だけだ。
次、お前が俺の前に現れでもしてみろ」
俺と我が宿敵が貴様を殺す。
それは生命なら本能的に従わんとする殺気。
黒龍はそれに一瞬、怯えたようにするが直ぐ様憎しみの炎を
宿した瞳でメルビンとマキシムを一睨みし、奥へと逃げた。
「……ちっ、やっぱ疲れるぜ」
「撤退だ」
血だらけながら、両者共に致命傷ではない。
失った血液も再生しているためだ。
端から見れば血まみれの2人しかし、既に傷一つない。
「腕は……生えてこないか」
「馬鹿者め、兎に角行くぞ」
仲間のために戦うのは常日頃から行ってきた事だ。
誰かの為に戦うのは、教えられたことだ。
「………俺は…俺は……ヴァルゼライド閣下にはなれない」
やっと、やっと理解した。
ヴァルゼライドならば、今の戦いも感じた物を切り捨て、
今を生きる者達の為にこの黒龍を倒したろう。
それだけでなく、常に理性的であっただろう。
だが、自分は駄目だった。感情的になってしまった。
「……あ~〜、メルビン。そのな、助けてくれてありがとう」
「……我が宿…いや、友人だからだ」
英雄に、ヴァルゼライド閣下になれないのなら、
メルビンは自分なりの英雄になろう。という、
小さな気持ちが、この日に生まれた。