コレはメルビンとヘラ・ファミリアの日常の一幕。
「邪帝め!」
「好き嫌いするな。お前が私を煽ったツケだと思え」
メルビンの前には女帝が作った夕食が並べられている。
メルビンに料理もできない女達と煽られたヘラ・ファミリア。
その中で少しばかり怒りを覚えた女帝と数名が、
メルビンを夕食に誘ったのだ。
「……目玉焼き、ニラ玉汁、玉子サラダ」
卵づくしの夕食。
メルビンの隣に座るアルフィアはニヤニヤと笑いながら、
出されたものを食べていた。
「姫、俺の分をたべないか?」
「メルビン、出されたものを食べないのは失礼だぞ」
「へ……ヘラ……」
幼年期の子供のように好き嫌いで駄々をこねるメルビン。
女帝等と言ったヘラ・ファミリアの幹部はそれを見て笑っている。
「アレルギー?だっけ、メルビンのはそれじゃないんでしょ?」
「生憎、最低最悪な事に卵アレルギーは無かったぞクソが」
「メルビン!食事中にそんな言葉を使わない!」
「むぐ……ぬぐぐ……」
メルビンはそのままワインを持ち出すと、
ワインと共に卵料理を流し込んでいく。
普段とは違うメルビンの姿、ワインも上品に飲んでいた彼だが、
今のワインは安く味も上品ではない大量生産品。
それを流し込み、一気に終わらせた。
「どうだ………食べ終えたぞ」
ワインの瓶は軽く10本は開かれていた。
整頓して置いてあるのは性格だろうが、頬は真っ赤だ。
「あ………メルビン、悪かった」
「気にするな………うっ……」
立ち上がり片付けようとしたのだろうが、
危うく倒れそうになる。
「……その……煽ってごめんなさい」
「……ふっ……ふふ………ごめんな…さい?」
まるで子供のようにしおらしい姿に、
皆は笑いを堪えるので手一杯だった。
黒龍討伐失敗の知らせはオラリオ中を巡った。
と言っても、オラリオ最強格の一人は片腕。
女帝も大小様々な傷、そして黒龍の右前脚。
これに関してはいつの間に奪ったのか、メルビンは知らない。
ゼウス・ヘラ連合軍が自力で奪い取った物だ。
「…随分とヘラ・ファミリアに対する風明かりが強いな」
「ガネーシャも驚きだ。
正直、誰かが扇動してるとしか思えない」
「アタシもさね、コールレイン隊長。
今のところ、客からも話を聞いてるがね。
オラリオの3分の1はヘラとゼウスの追い出しか、
討伐だとさ」
今この場にいるのはガネーシャ・ファミリアの主神。
ガネーシャとその護衛。
イシュタル・ ファミリア団長フリュネ。
そしてメルビンだ。
3人は密かに同盟を結び、
オラリオの現状をどうにかしようと動いていた。
「ヘラ・ファミリアのメンバーも少なからず傷が多い。
最悪な者だと、戦線復帰が絶望的な娘もいる」
「ゼウスもらしいよ、まぁ隊長には興味ないだろうけど」
「ガネーシャ驚き、なんでそこまでゼウスを」
「悪神とその部下をどうこういうつもりが無いだけだ。
しかし、オラリオの3分の1か。不味いな」
3分の1と言うだけで問題がある。
残りの3分の2の半数以上が日和見しており、
ヘラ・ゼウスを擁護しているファミリアは少数だ。
アストレア、警備隊、ガネーシャ、イシュタル。
他にもいるが、基本的に警備隊以外はメルビンの言葉で
中立を保つようにと言ってある。
理由は矛先を向けたくないからだ。
「……誰がやっているのか、掴んでるのかい?」
「取って代わりたい女神が2人いる。
まぁ、先に動き出したのは眷属だったがな」
そう笑いながら、トリックスターと美の女神の名前をあげる。
「どうするつもりだ、メルビン。いや、英雄」
「……オラリオに居ても、彼奴等に意味はない。
出てもらうさ、姫の子の安全の為にも」
その翌日、オラリオが動いた。
ヘラ、ゼウス、ロキ、フレイヤを除いた神が会議を開き、
オラリオは邪魔者が居ない状況となったのだ。
だが、メルビンが何もしない訳が無い。
「……来たか、悪に与する者共よ」
ヘラ・ロキファミリア連合軍の前に光の壁が立ちはだかった。
オラリオにおいて知る人ぞ知る『英雄』。
神々すは裁き、敵対者をどうするかも理解している。
「邪魔をす」
ロキ・ファミリアの末端が口を開いた瞬間、
顎と頭が2つに分かれ鮮血が辺りに散らばる。
「ふざけ」
「2つ」
口を開いた者から死んでいく。
理系できない力、神の作り出したシステムの外にいる
イレギュラーにして人類の為の英雄。
「下がらなければ、お前達を殲滅する。
俺が何を成したか、知らぬ者ではないだろう」
その一言だけで、力を持っていない戦士は腰を抜かす。
そう、この戦いに価値などありはしない。
ヘラ・ゼウスはもう既にオラリオを出発している。
オラリオの出入り口が正面だけだと思っている方がおかしい。
裏口を作れば、誰でも出られる。
メルビンは元々アドラー地区発足の際、
市民脱出の為に秘密裏にオラリオの外に繋がる出入り口を
新たに作製していた。
馬も通れるそれは軍人としての視点から作り上げた物。
カモフラージュしてあり、外からの一見では判らない。
その出口から既に旅立っている。
「………下がれ、何も成せず、何も得ず、ただ下がれ」
メルビンはじっと瞳を閉じながら目の前にある障害物へ
そう告げる。
「それは無理だ、ヘラ・ゼウスはオラリオを失望させ、」
小人が話す、顔を見たことがないがどうでもいい事だった。
「……もう良い、口を閉じろ。お前達を、断罪する」
メルビンはもう聞きたくなかった。
くだらない言い訳、くだらない言葉。
目の前の小人に対して、そしてその言葉に頷く者達。
自らの欲の為に動く屑ども。
「創生せよ天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星
例え堕ちようとその光を喪わず、絶えず輝き続けよう。
闇夜を照らし、全てを拾い、掬う英雄の姿を今、刮目せよ。
汝、光を夢見る者なら渇望せよ。
汝、闇を生きる者達ならば救いを求めよ。
汝、悪に生きるものなら断罪を受け入れよ。
群衆よ、神をも降し、悪魔も屠ろう。今、英雄は此処にある。
我は今、正義也!
超新星 ーー輝ける正義の天秤は今、傾いた
Metalnova shine Libras leaning」
オラリオ全体に激しく光の矢が降り注ぐ。
今回のはゼウスに放ったものとは違う、目的地を破壊し、
崩れた世界で皆等しく光の矢に貫かれ、苦しみながら死んでいく。
「よせ!」
「………」
叫ぶ声に応えるように光が止む。
数を減らし、血に染まった街並みでロキの眷属が叫ぶ。
オラリオに来て以来、始めて放った『対拠点殲滅攻撃』。
一部のファミリアを除き、かつてメルビンに敵対し、
今、ヘラ・ゼウスに敵対したファミリアの多くが数を減らした。
「お前は……お前はオラリオにとって」
「……」
光の矢で貫かれた身体で話している小人。
メルビンは鞘に入った剣を構え、小人を叩き斬る。
死にはしないが、骨は確実に折れているだろう。
「貴様……よくも」
「お前は………そうか、あの時の侵入者か」
男、オッタルの大剣がメルビンの篭手に阻まれる。
星辰光によって鍛えられた装備、これも愛する武器が
最高傑作としてメルビンに献上した品だ。
「貴様の行い、それは主君の為というものか?
だろうな、後先を考えずただ猪のように。
実に……実に愚かだ」
メルビンはそう言ってオッタルを斬り捨てた。
地面に伏し、血が池を作っている。
「主君に仕えるのなら、リスクも教える事だ。
それが当たり前の事なのだから」
左腕一つで、大の大人を投げ捨てる。
メルビンはろくに動いていない。
オラリオにいる冒険者とメルビンの超えられない壁がそこにある。今のメルビンはゼファーと対峙した時よりも、
力を込めていないが、少なくとも戦争に赴き、
敵を殲滅する程度には本気だ。
「……失せろ、それとも俺と本気でやり合うか?」
メルビンがゼファーに負けたのは、
ゼファーが深淵の闇だからだ。
メルビンは自力で光を生み出せるが、
一番は吸収からの変換そして放出だ。
そして、今ここにメルビンを飲み込める闇などない。
「……理解しろ、お前達は我が母を奪い、
友と、そして宿敵との決着の機会までも奪った。
だが、許そう。その欲望に塗れたくだらない考えも、
好機とみてしまう目の節穴さも。
この、メルビン・コールレインに敵対すると言う愚行も」
「………くっ…………」
小人は苦虫を噛み潰したような顔になる。
当たり前だ、先手を打とうとしたら逆に先手を打たれ、
さらに同調者とそのファミリアは恐らく
壊滅的打撃を受けている。
「……帰れ、お前達のような雑魚に構っていられる程、
我々はアドラーは暇ではない」
そう、既にアドラー地区の警備隊が連合軍を取り囲んでいた。
アドラーの警備隊の最低レベルは5。
どれも実力は折り紙付きの叩き上げだ。
「コールレイン隊長、ギルドの制圧は完了しています」
「殺すな、ギルドの管理はそのままだ。
我々の知った事ではない。」
「……何を」
「お前達の罪を白日に晒すだけだ。
我々アドラーに敗北した事、
ヘラ・ゼウスの功績を踏みにじった事。
そして、オラリオにおいて内紛を起こそうとしたこと」
「まて!我々は内紛等と」
「お前達は悪だ、本来なら私は悪を許せん。
ましてや貴様らのようなクズを、私から奪った貴様らを。
だが、ヘラ・ゼウスが居なくなってしまった以上。
いや……なれないな」
メルビンと警備隊はそのままアドラー地区へと撤退した。
神たちの会議が終わり、メルビンによってファミリアを
壊滅させられた神は怒り狂ったが、
今更神殺しを恐れないメルビンによって残った仲間事、
光によって消滅させられた。
更に、ヘラ・ゼウスの功績がメルビン・コールレインが証明。
無能だと騒ぎ立てるロキ・フレイヤへの同調者は日に日に、
消えていったがヘラとゼウスのファミリアが、
オラリオに戻る事は二度と無かった。
「……」
メルビンはヘラの所在を知らない。
この世界で、家族となったファミリアがどうなったかも。
「別れは……苦しい物だな」
最強だったオラリオが崩壊し、暗黒期と呼ばれた時期が
到来するのはもうまもなくであった。