メルビンはヘラ・ゼウスが消えてから
オラリオでの過ごし方が変化した。
と言っても、仕事に打ち込む時間が多少増えただけである。
ヘラ・ファミリアが消え、彼女達との交流時間が失われ、
代わりにアストレアとの時間が増えた。
「また、オーバーワークね」
「……あぁ、部下にも休めと言われた」
最強、女帝、聖女、静寂、姫、ヘラ、関わっていた家族。
友人が消えた事で苦しんでいるのをアストレアは理解していた。
「コールレイン先生!来ていたんですね!!」
「あぁ、レイ、アスム、」
「今日こそ1本取ります!」
「まず、一歩でも動かしてからじゃない?」
アストレア・ファミリアの最強2人は今ではメルビンの
弟子のような立ち位置にいる。
極東から流れてきた二人の獲物は刀であり、
メルビンは基本的にロングソード。直剣を使う人間だが、
刀を扱えない訳では無い。
軍事帝国アドラー仕込の腕を2人に教えていた。
「よし!左腕使ってる!良い流れだよ!」
「片腕で刀が使えるのがおかしいけどね!」
「無駄口はよせ、常在戦場を意識しろ。
連携はアイ・コンタクトか無意識で行えるようにするのだ」
「「無茶苦茶だ!」」
「無茶でもやれ、死にたくなければな」
メルビンの教えは無意識下で連携を行えるほどになる事。
個の力だけでなく、1+1=∞理論を行っているのだ。
「また……負けた」
「ぎずぃ………」
「なれるかないな、だが私が勝つまでの時間も延びている。
これも成長だよ」
「1分が1分1秒になるのが?!」
「延びている、そもそも俺は人を殺す仕事だった。
軍人とはそういう物だ。そして、星辰光無き俺はどうやれば、
効率的に殺せるかも研究した。そんな俺に勝つなら、より意表を突くしかない。だが、俺にそんな隙はない」
そう、だからこそ………英雄は正面から潰しに来た。
だからこそ………弟は深淵で飲み込んだ。
ハーヴェス中将も、同じだった。
光ある所で絶対に隙は生まれない。
光がない、深淵など早々作れはしないのだ。
「楽しかった。
今日は帰るよ。お前達はよくやっているさ」
体力を回復させ、感謝と激励を述べる。
アストレアも、メルビンの変わりようには驚いた。
心に隙間ができたようだが、その隙間をどのやうに埋めるのか。
ヘラからは事前にメルビンの英雄になる地盤の話を聞いていた。
だからこそ、『誰かと子を成せば』等を考えてしまう。
「………前途多難、ね」
帰路につくメルビンは不可解な睡魔に襲われていた。
酒に酔っている訳では無い、だがありえない日どの眠け。
それを冷ますため、人目を憚らずナイフを己の左腕に突き刺す。
その狂気に悲鳴が上がるが、メルビンは変わらず前に進む。
血はすぐ治まり、傷口とナイフが融合しようとする。
そのたびにナイフを抜き、肉を貫くを繰り返す。
なんとかベッドまで戻るが、着替える余裕は無かった。
ナイフを抜き、鞘にしまう。血はすぐに止まる。
今はその眠けの方に身体が引っ張られていた。
何時間、寝ていただろう。
警備隊の指揮官とあろうものが惰眠を貪るなど
あってはならない事だ。
腑抜けた自分に喝を入れ、再び目を覚ます。
「なに………」
そこは見覚えのある牢獄だった。
しかし、何故という理由しか無い。
両腕は拘束され、武器は取り上げられている。
「………しかし、酔っぱらいとはね」
「あぁ、まぁ軍服着てるが…どうするよ」
「知らね」
「フラッシュだ」
「残念だな、フルハウスだ」
「ちっ……」
衛兵は私語をしている。それは別に良いが、
巡回などはせず、カードゲームに勤しむばかり。
何をしているかなど、気にもとめていない。
「おい、お前達の上官は誰だ?」
「は?何言ってんだ。これが見えねぇのか」
「第一近衛部隊・
「そうだ、俺達は」
「帝都守護、並びに総統直属の近衛部隊。
その性質上要人と接する機会もあり、
その手の技能を持つ者も擁する。そして、部隊長
アオイ・漣・アマツ。よく知っているとも。
だからこそ、解せんのだよ」
「何?」
「貴様らのような。
ヴァルゼライド閣下を貶すような愚か者は」
あえて煽る口調で話す。
するとどうだろう、牢の鍵を開けたかと思うとメルビンに
暴行を加えてきた。
「巫山戯るな!俺達はエリートだ!近衛白羊だ!
それを貴様なんかに」
「……ふっ…フフ……いやはや。
やはり、アイツは見る目がない。
規則に忠実な軍人が必要なのだ」
創生せよ天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星
例え堕ちようとその光を喪わず、絶えず輝き続けよう。
闇夜を照らし、全てを拾い、掬う英雄の姿を今、刮目せよ。
汝、光を夢見る者なら渇望せよ。
汝、闇を生きる者達ならば救いを求めよ。
汝、悪に生きるものなら断罪を受け入れよ。
群衆よ、神をも降し、悪魔も屠ろう。今、英雄は此処にある。
我は今、正義也!
「そんな……エッ
「ソレに……この星辰光は?!」
超新星 ーー輝ける正義の天秤は今、傾いた
Metalnova shine Libras leaning
極光が牢獄を包む。
光が溢れ、帝都から大空へ昇る1本の光の柱が誕生する。
その光を見た者、その力を感じた感じた者。
誰もが理解する。
「そんな……中…佐」
極光により、意識を失う衛兵。
彼等もそれなりに部隊に対し、
アドラーに対し忠誠があるのだろう。
メルビンは一度は見逃す、だが二度目は絶対にない。
そして、帝都某所の執務室にて一人の女性が窓の外を見ていた。
見覚えのある光の柱、帝都全体に広がる温かな何か。
彼女はそれを知っている。知っているだけではない。
数日前に大問題が起こったばかりのアドラーで、その男が
復活したとなればどうなるか、想像に難くない。
「………アイツは、まさかヴァルゼライドと同じなのか」
自らの眼帯を撫で、その目を奪いし男を思う。
止められるのは一人だけだ、奴は光がある限り……
倒せないのたがから。
近衛白羊の部隊長は受け取った報告書、
そして意識を失っているだろう男の写真を見て天を仰いだ。
死んだと思っていたし、墓参りをしていた。
自分とは犬猿の仲とは行かないが、なかなか反りが合わない男。
だが、ヴァルゼライド総統閣下の忠実な家臣という意味では、
とても良い理解者であった。
「浮浪者を確保したと報告があったが、
やはり…死んでいなかったか」
大気が揺れる。恐らく、目覚めてしまったのだろう。
星辰光を感じ、それらが全てヴァルゼライド総統閣下に
匹敵するかのごとく、強大な存在が今帝都にいる。
だが、ある意味安全だ。
その男が、無垢な市民に手を掛ける事はしない。
「………あの男なら、総統閣下を」
眼鏡の下で鋭い眼光が光った。
「なんで…なんで………」
その男は帝都に居なかった。
家族と変わらず家でまったりとしていたかった。
英雄に対して、呼び戻されるかと思ったがそれを後輩が
なんとかしてくれた矢先だった。殺したはずだった。
遺体は見つからなかったが、確実に出血多量で死んている筈の
男の気配。自分と同一にして正反対。
闇に、深淵に沈めた筈だった。
光のない世界で終わらせた筈だった。
「帰って………来やがったのか」
普段なら絶対に本気は出さない彼である。
だが、その男相手なら別だ。男は、まだ囚われているのだ。
弟だからこそ、理解できた。あの空間で、あの世界で、
姉に伝えられた。
あの男、兄はただ姉の心の支えになりたかっただけだと。
それが叶わず、結局、姉は壊れ、自分たちも壊れたと。
そして、すべてを掬う
「ゼファー?どうしたの」
「……‘ヴェンデッタ’、ミリィを頼む」
ヴェティという愛称ではなく、彼女の本当の名で呼ぶ。
今だけは、この問題だけは男が、
ゼファーが一人で決着をつけたいものだから。
「ゼファー、行くのね」
「……帰って来たんなら、もう1回沈めるさ。
それが、俺が兄貴にできる手向けだからな」
連絡手段なんて必要ない。
英雄譚を潰した逆襲譚をあの男は、メルビン・コールレイン
は許容しない。許さない。
「何処に行けば良いか、わかるの?」
「………少なくとも、帝都には居るさ」
冥王は立ち上がる。
これ以上、問題を起こさないでくれ……兄貴
少なくとも、マシな生活に戻るために。